いろはが落下した森の中に、クロスといろはの姿があった。
「よう、手荒な真似して悪かったな」
クロスは地面に落下したいろはに言う。
「全くでござる。おかげさまで汚れたじゃないでござるか」
羽織を見ながらいろはが言う。
それを見ながらクロスはいろはに問う。ナイトメアも様な気怠さは感じない。
望むならこのまま降伏してくれ…と言いたげだ。
「…依頼主からの頼みだ。今すぐ降伏するなら……命だけは助けてやると。………どうしたい?」
クロスはナイトメアと同じ質問をした。
だがいろはの回答はやはり一つだった。
「降伏なんてするわけないでござる。これはholoXの夢の為。その為なら命だって捨てる覚悟でござる」
その言葉にクロスは頭を抱えた。
「……そうか。夢…ね。分かった。降伏しないなら、お前は俺達の敵だ。はは、すまんな……少し…いや、かなり手荒くなるだろうな。まあ…精々死なない様に頑張ってくれ」
言うとクロスは双剣を持った両腕をだらんと垂らした。
すると、クロスの持つ双剣がいきなり伸び始め、紅く染まって行く。
「はは、ボクは使わないって言ってたのに全く……人遣いの荒い骨だ。面倒になってしまったのかな?それとも…ああいや、なんでもない」
言いながらクロス…否。Xキャラは顔を上げる。
「あいつら風に言うなら……bad timeを過ごそうか…かな?」
言うとXキャラは左手に握られていた紅い大剣を左側の腰に取り付けると、大剣を一本。片手で構えた。
その動きにいろはが首を傾げる。
Xキャラも、ん?と一瞬首を傾げたが、すぐに、ああ。とでも言いたげな顔を作ると言った。
「おいで?私の方が年長者なんだ。若者の一種の若気など受け止めてあげようじゃないか」
Xキャラは、スッと細められた目に不釣り合いな笑みを浮かべた。
「そうでござるか。なら存分にッ!」
言うといろはは駆け出し、左足でキャラの足に足払いをかけて転ばせると、そのまま右足で落下するキャラの頭を蹴り上げ、刀を振り上げた。
「はは、流石って言うべきかな?やっぱり凄いね」
だがキャラは焦った様子も見せずに虚空に文字を浮かばせる。
OVER WRITE
その文字を撫でると、キャラの体は掻き消え、元々立っていた位置に現れた。
「なっ!」
いろはは驚いた表情でキャラを見た。
「…あいつの力を使うことは癪だけどしょうがないよね。私達は二人で一つ。Xeventなんだから」
キャラは言うと、ショートカットを使い、いろはの背後に回ると、左足で回し蹴りを放った。
キャラの足はいろはの脇腹に突き刺さると、そのまま左方向に向かってふっ飛んでいく。
それを見ると、キャラは背後にトトッとバックステップを踏み、その場を離脱する。
そして、垂直にふっ飛んでいくいろはの体を並行移動して追いかけ、落下予測地点に青骨を連ねる。
だがいろはは刀を地面に突き刺して動きを止めると、自らの体についていた枝を木々の中に投げた。
枝は空気の膜を伴って飛んでいき、キャラの右頬を掠った。
「あっはは。分かってるのかい?それともまぐれかな?」
キャラは言いながら気取られない様にいろはの頭上約50mほど上にブラスターを配置する。
「行くよ?」
設置を終えたキャラは言いながら木々の間から姿を見せ、大剣を下から上に向けて振るう。
ズァァッ!と空気の切る音がいろはの耳を揺らす。
気付けはした。だが、体がキャラの動きについて来られない。
Xキャラの、Xガスターの魔の手から逃れるために活かしていた身のこなしが今ここで活きているのだ。
キャラの大剣はいろはの腹から首にかけてを滑った。
すると、というよりも、必然。というべきか。
大剣が滑った位置にあった服や肌が一直線に裂け、服にはジワッと血が滲む。
「ふふ、本家では最高攻撃力の武器。ほんもののナイフを特別加工した大剣だよ?これの刃で切れないものなんてないのさ」
キャラは言いながらいろはの体を蹴り上げた。
キャラはいろはが空中で舞っているのを見ながらパチンとフィンガースナップをした。
すると、ゴォォォォン!という轟音がして、一本の光線がいろはの目に映った。先程キャラは上空に設置したブラスターが放ったビームだ。
「これで終わらないでおくれよ?まだ楽しみたいんだ。私はね」
キャラはニコッと嗤う。
だがいろはは空中でなんとか大勢を立て直すと、光線に刀を打ちつけた。
「…なんでブラスターに触ってるのに灼け無いんだろ?」
キャラの疑問はもっともだ。
ガスターブラスターの超高温の光線を照射された筈の刀が多少の刃こぼれだけで、全くの無傷なのだから。
「………ああ。あのコヨーテ娘か」
キャラは納得した様に手を打った。
まあその推測は当たっている。それはもう完膚なきまでに。
こよりは、インクサンズの能力を確認した時、インクの記憶を漁り、サンズ達が骨やガスターブラスターというビーム兵器を扱う事を知っていた。
故にこよりは、メンバーの銃や刀、弾丸、暗器などを新調したのだ。ビームが当たったとしても砕けず弾く素材に。
「まあやることは変わらないけど」
言っている最中に地面に着地したいろはをキャラは見つめる。
「ふふ、流石だね。これで死んでしまう奴が意外に多いんだ。私はいっつも退屈していてねぇ……まあいいよ。お遊びこれくらいにして……さ っ さ と や ろ う か ? 風 真 い ろ は ち ゃ ん ?」
キャラはニコッと嗤いながら無機質で冷たい冷徹な声を発する。
瞬間。キャラの姿が再び掻き消えた。
「…!?」
直後。いろははビクッ!と震え、反撃など考えず前方に思い切り転がった。
ドッッッガァァン!!!
瞬間。つい先程までいろはの体があった所から地面にかけて大剣が振るわれた。
「……」
キャラが無機質な目でいろはを見た。先程までとは違い、濃密で濃厚な殺意が乗りまくっている。
先程いろはが回避の成功した理由はこれだ。
キャラから溢れ出る殺気が、ギリギリの回避を可能にしたのだ。
もっとも、キャラから殺気など微塵も出ていなければ、今の一撃で終わっていただろう。
キャラの無機質なその目には今の自らの攻撃に落胆でもしたかのような目だった。
「次だ」
キャラは底冷えするほど冷たく、かつ明確な殺意の籠った声で発音した。
いろはは自らの頬に冷や汗が伝うのを感じた。
本能がガンガンと警鐘をならし、今すぐ逃げろと叫んでいるが、いろはは姿勢を整え、キャラを睨んだ。
即座に抜刀の構えに移行し、一瞬にして間合いを詰めると、キャラを真っ二つのせんとばかりに刀を振るった。
だが、キャラはスッと体を逸らし、呆気なく避けて見せる。
直後にキャラはバックステップで木々の中に消えていった。
それを見たいろはは刀を納刀し、その場に留まることは危険と判断し、走り出した。
だが、走り出した直後、ドスっ!と背後から鈍い音がしていろはは後ろを振り返る。
するとさっきまで自分がいた所に半径40センチ程のクレーターができていた。
いろはは自らの背筋がゾワッと粟立つのを感じた。
視線を戻す……と、いろはは自らの顔の真横に縮小された紅い瞳孔を見た……気がした。
目を見開き、横を見る。そこには誰もいなかった。
視線を前に戻す…と赫く光る大剣の刃が胸の辺りに迫っていた。
「!?」
いろはは驚きつつも、背中の鞘から刀を抜き、両手で握り、大剣に打ち付けた。
「ぐうっ!」
そのまま刀を大剣の柄に刃を滑り込ませ、自らの体を浮かし、一回転し大剣を飛び越えた。
「!?」
飛び越えた直後、いろはは後ろを振り向き、大剣を確認しようとした…が
無かった。
飛び越えた筈の大剣が。そこには無かった。
瞬間、真上から大瀑布の如く殺意がゲリラ豪雨のように降り注ぐ。
いろはは刀を持ち直し、バッ!と上を見た。
上からは、白と黒の衣服に身を包んだ骨が両手に一本ずつ握られた大剣を上段に構え、落ちてきていた。キャラの纏う白黒のスカーフがバサバサと音を立てながら風に煽られている。
先程ホラーが空中で見せた様に、上段に大きく振りかぶられた両大剣がいろはに振るわれる。
いろはは真剣な目つきでその攻撃を見切ると、後方にバックステップを踏み、回避を試みる。
ドゴッ!
と鈍い音が響き、いろはに回避された両大剣が地面に深々と突き刺さる。
地面にはかなりの深さのクレーターが出来上がり、周辺の地面に亀裂が走る。
見たところ、かなり深く刺さっていたであろう両大剣を、キャラは微塵の力も込めていないかのような素振りで即座に抜き、構え直した。
そのとき、いろはが滑り込んでくるのがキャラはの目に映った。
両大剣を抜いている隙に勝敗を決しようという判断なのだろう。
いろははキャラの体の前で地面に手をつくと、足を上げ、ラッシュでもするかのように鋭い蹴りを何発も放った。
だが、キャラの判断は……一瞬にして明確だった。
体を横に少しずらし、いろはの足を半身になって回避すると、上部に左大剣を投げ、空いた左手でいろはの足を掴み、前方にぶん投げてしまった。投げたのと完全に入れ違う形で落ちて来た左大剣を再び左手の中に収め、吹き飛んでいくいろはを見つめる。
先程の投げによって、いろはの体は簡単に前方に吹き飛ばされてしまった。
左大剣を掴み取ったのと同時にキャラはショートカットでいろはの背後を取り、自らが居る位置にふっ飛んでくるいろはの背中に狙いを定め、右大剣を上段から振るう。
だが、いろはは空中で体をグルンっと180度回すと、刀を振り上げ、右大剣の刃と刀の刃を打ち付ける。
ガギャンッ!と一瞬の衝突音と火花が散る。
いろはは弾いた勢いで吹き飛ばされ、キャラから訳2m程は難れたところに着地し、いろはに弾かれた勢いで、キャラの右大剣は再び地面に突き刺さった。
いろははそれを見ずに音だけで全てを察し、即座に駆け出し、キャラの背後に回ると、キャラに向けて、背後から真っ直ぐ強烈な突きを放った。
ズアアアアッ!と空気を切る音と、空気の膜を引き連れながらいろはの刀がキャラの背中を捉え…
キィィン…
……たと思ったが、キャラという全AUに恐れられる厄災がその動きを見過ごし、その上ダメージを負うなどあるはずがない。
刃同士がぶつかり合う無機質で鋭い衝突音が辺りを包んだ。
見ればキャラは地面に突き刺さってはいない左大剣を上段に振りかぶり、背中側に左大剣の刃を回し、刃と刃を接触させ、いろはの突きを防いだ。
刃と刃でだ。極小の面積の同士を打ち合わせることで、キャラは完全にいろはの突きを相殺した。
そのままキャラはいろはの視界から姿を眩ませた。
いろはは体ごと視界を前に戻す…とそこには左大剣を上段に振りかぶったキャラがいた。
「ッ!」
いろはは咄嗟に刀を自らの前に掲げ、防御の姿勢をとり、攻撃に備える。
ガァァァァァァン!!
そこにキャラの大剣は突っ込んできた。
左大剣と刀が火花を散らし、衝突した。
キャラのまるで隕石でもぶつかって来たのかと錯覚するほどの威力のある左大剣をいろははなんとか受け止める。
キャラはそれを見ると、問答無用で右大剣も追加し、刀に更なる負荷を掛けた。
しかし、流石はいろはといったところか。キャラの両大剣を前にしても一歩も引かず耐え続けている。
それを見ていたキャラは、スッと右足を上げた。
そのまま、躊躇う様子も無くいろはの腹に蹴りを入れる。
「カフっ!?」
刀の打ち合いで意識を削がれていたいろはは血を吐きながら、後方に吹っ飛んだ。
そのままいろはは吹っ飛び……20メートル程飛んだところで、大木にぶつかった。
その威力で、握っていた愛刀。チャキ丸を地面に取り落とす。
再び刀を手に取り立ち上がろうとした瞬間、全身にビリッと痺れる様な感覚が広がった。
木にぶつかった時に当たりどころが悪かったのだろう。全身が麻痺していた。
だが、体が麻痺して思う様に動かない中、いろははすぐに首だけ上に上げ、前を視認する。
瞬間、白黒の影が目に映った。
キャラの姿だ。左大剣を背中に収め、右大剣を通り魔の様に構えて走って来ている。
だが、そのスピードが段違いだ。
スポーツカーもかくやという様なスピードで突っ込んでくる。
いろはは、弾かれた様に動こうとしたが声もおろか、体だって動こうとはしない。
「(動け!動け!動け!動け!)」
脳が必死に特大の警鐘を上げ、脳内にアドレナリンが満ちる。
そして、キャラの右大剣が文字通り眼前に迫った瞬間。
神はいろはにもう一度刀を振うことを許した。
いろはは、全身から麻痺が抜けるのを感じつつ、瞬時に刀を持つと両手で握り、鎬筋で大剣を受け止めて見せた。
「へ〜、纏う気迫が変わったね。ここからが本気ってことかな?」
キャラがふふっと小さく笑いながら言う。
「でもまあ。今の攻撃を防げたんなら2個くらいギアあげても良いってことだよね?」
言うとキャラは姿をかき消した。
いろはは、刀を自らの足に沿わせる様に構え、攻撃の時を待った。
だが、キャラの攻撃はいろはの想像を絶するものだった。
直後に、周りの木が一斉に落下を開始した。
「?!」
いろはは焦りつつも、木の根元の方を見る。
すると、全ていろはのいる方向に向かって深々と切れ込みが入れられていた。
キャラが姿を消した後、爆走しながらつけたもだと思われる。
いろはは、木に包囲されつつも、急いでその場からの離脱を図った。
「ふふ、ほぅら。まだまだいけるでしょ?」
キャラはふふふ…と笑いながら、いろはの背後に忍び寄り、蒼い骨を腹に突き刺した。
「あっはは!動いたら内臓がグッチャグチャのミンチになっちゃけどどうする?!」
キャラはガンギマッた目をかっ開きながら大声でいろはに問いかけた。
「……」
いろはは動きを止めて腹を見てから、足を動かした。
「ぐっ…カフッ…」
だがキャラの言った通り、やはり内臓への損傷が激しいようだ。
口から血を吐きながらも、いろはは背後に居るキャラに向かって走り出した。
「……へえ、そう来るとは…。私も少し予想外かな」
キャラは目を見開いていろはを見ると、両大剣を地面に放り捨てた。
そしてキャラもいろはに走り出した。
「?!」
キャラの動きに、いろはは目を見開くが、足を止めることはなかった。
そして、キャラといろはの間が1m程になった時、キャラはふっと笑い、地面から骨を生やしていろはの刀を叩き落とした。
「あっ…」
という小さいいろはの声が響く。
キャラは生やした骨を引っ込めると、刀を失い足を止めたいろはに歩み寄った。
「ッ…!」
いろはは、口を血に濡らし、地面にポタポタと滴らせながらも、必死にファイティングポーズを取った。
だが、キャラの次の行動にいろはは驚愕した。
キャラは、いろはに抱きついたのだ。
いや、正確には抱き締めたが正しいのかもしれない。
いろはを労うように、キャラはいろはの背中をポンポンと叩きながら、腹に刺さった蒼骨を抜いた。
「ふふ、気に入ったよ。心の底からね。頑張ったね。休んでいいよ?私は手を出さないと誓おう」
キャラはフレンドリーに笑いながら言った。
いろはは、驚愕のあまり身を硬直させるも、キャラの言葉に嘘偽りがないことを悟ると、硬直していた体を弛緩させ、そのまま瞼を閉じた。
キャラは、眠ってしまいグッタリとしたいろはを簡単に抱き上げてから、自らの膝の上に頭を乗せた。
膝枕である。しかも、破壊者と恐れられるキャラの。…まあXの方のキャラは破壊者でもなんでも無いのだが。
驚くほどぐっすりのいろはの頭を撫でながら、キャラは眉を顰める。
「いやだな…。この子をアイツ等に引き渡すの」
そう言ってから、キャラはクロスに意識を譲渡する。
するとクロスは、
「ふぅ…」
と息を吐いた。
それと同時に持っている武器が双大剣から双剣へと変化する。
クロスは視線を巡らせ、傍に落ちていたいろはの刀を背中にあった鞘に仕舞い込み、上書きでいろはの傷を治す。
勿論傷は治すが、意識までは戻さない。
というより、寝てしまった故上書きでは意識を引き戻すことができなかった。
そしてクロスは、ゴツゴツした骨の膝の上で眠るいろはを見てからキャラに声をかけた。
「ったくどんだけやったんだ?キャラ」
クロスは汗ばんで骨にくっつくシャツをパタパタと扇ぎながらキャラに問いかける。
『ふふ、少し汗をかく程度に遊んだだけだよ』
キャラの上擦った声が響く。
クロスの目の前にはキャラの幻影がふわふわと浮かんでいた。
クロスはいろはを眺めながら言う。
「はぁ…まあいい。さっさと…………ッ…………拷問隊のとこまで連れて行こう…」
クロスは言うと立ち上がる。だが、”拷問隊“という言葉を発する前に少し息を呑んでから顔を顰める。
キャラも、眉を顰めながら声を出した。
『ねえ、ホントに言ってるの?ちゃんと覚えてる?あの見るも悍ましい拷問隊の実態を。この子を本当にあいつらに預けるの?正気?私は反対だね。絶対に』
キャラの言葉にクロスは渋い顔をしながら答える。
「俺も反対さ。大反対だよ。だけど、従わなくて後でキツイ落とし前喰らう方が俺はもっと嫌だ」
クロスが言うとキャラは唇を噛み締めた。
確かに、いろはが拷問に遭うのも嫌だが、それを遥かに上回る拷問とも言えない拷問を自らが受けるのも嫌なようだ。
そして苦虫を1万匹以上噛み潰したかのようなほんっっっっとうに苦い顔で言う。
『……後で。その子の拷問終わったら私に意識変えて。いや、変えろ』
キャラにしては珍しく心配そうな声を出した。最後の方は高圧的な言葉だったが。
「お?お前がそんなに言うなんて珍しいな。そんなによかったか?こいつ」
クロスは煽るようにキャラに言う。
『…ふふ…そうだね。本当にいい子だよ。あの組織には勿体無いくらいね』
キャラは本当に珍しく満面の笑みを浮かべながら言った。