「HAHAHA!come on!come on!来いよ博衣こよりぃ!」
「はっはー!こよは戦えるコヨーテなのです!アイムコヨーテなのです!」
クロスといろはが殺りあっていたその更に奥の一角ではこよりとホラーが戦っていた。
こよりは、身体強化剤と身体硬化薬などの強化薬を服用したため、ホラーと近距離での打ち合いが可能なのだ。
だが、いかんせん、科学者と戦闘狂では力の練度が違う。
確かにドーピングした為こよりも力や強度では劣ってはいないのだが、やはりそれでも埋められない歴然とした経験の差がある。
明らかな戦闘力の違いに、焦りを感じたこよりは隙をついてホラーの足元にフラスコを放った。
割れたフラスコの中身が空気に触れた途端、急冷され、ホラーの足元が氷に覆われる。
「ふっふっふ…!これなら流石の貴方でも動け…ッ?!」
だが、ホラーが足を一歩踏み込めば、足を覆っていた氷が嘘の様に砕け散る。
「heh!こんなもんで止められてちゃ恐怖の象徴だなんて言えねえよなあ!?」
ホラーがギラギラとした、まるで捕食者の様な目でこよりを視認する。
「うっ嘘でしょう?!あれがあんな一瞬でっ?!」
「HAHAHA!蜂蜜のように甘くマシュマロのように軟弱なアイデアだな?!」
例えがちょっぴり可愛い…のだが、攻撃は可愛くなんてない。
ホラーは水平に斧を構え、空気の膜を引き連れながら振り抜く。
こよりは左腕で以て斧を弾き返す。
まあ衝撃を殺し切ることなんてできず、背後までズズズッと地面を滑るのがオチなのだが。
だが、今回はホラーが違う動きをした。
地面を滑り切ったこよりの足元から青骨を生やし体を貫通させた。
それがズドドドドドドドドッ!と大量に生やされて行く。
「こんなのっ!」
こよりが抵抗しようとするが、ホラーの声が割り込んだ。
「heh。動か無え方がいいぞ?その骨は動くとダメージを受ける骨だからな。まあお前が死にてえってんなら俺は止めねえけどな」
ホラーが笑いながら言うと、こよりは動かそうとしていた腕を止めた。
「……はあ…このまま殺り合い続けたいんだが…お前に聞かなきゃならん事がある」
ホラーは斧を地面に突き刺すと、ポケットに手を入れた。
「…降伏する気はあるか?無いんならまた殺り合うが………お前に戦意が無いんなら戦うなって言われてんだ。で?どうだ?」
ホラーは視力の失われた片目を閉じてこよりを見た。
ホラーの鋭い紅い眼光がこよりの目を射抜く。
「ふんっ、そんな言葉従ってやるもんですか。どうせ無いなんて言っても攻撃されるのがオチでしょう」
こよりは言う。やはりホラー達を微塵も信用なんかしていないようだ。
だが、ホラーの眼差しは先程までの狂気に塗れた物とは違い、冷静そのものだ。
「final answer?それでいいのか?」
ホラーが問う。
だがこよりの意思に変わる兆しは無いようだ。
それを悟ったホラーは、再び口を三日月に裂いて笑う。
「じゃあやろうじゃねえか」
言いながら青骨を全て地面に引っ込める。
「ええ、存分に」
こよりが青骨があったところから出てくる。
ホラーはそれを見ると、ケラケラと笑いながら言う。
「HAHA、来ねえのか?今ならチャンスだぜ?」
ホラーは笑って言いながら地面に突き刺さっていた斧を引っこ抜くと、肩に担ぐ。
「やろうじゃねえか。ここからが本当のmad timeだぜ?死ぬんじゃねえぞ!」
言うとホラーは爆速でこよりに駆け出した。
「ふんっ!それはこっちのセリフなのです!言いました!こよは戦えるコヨーテなのです!」
ホラーはこよりに到達する少し前に跳躍し、そのまま空中で大振りに斧を振りかぶって落ちてきた。
だが、こよりはホラーの落下予測地点の地面に一本のフラスコを投げつけ、その場から離脱した。
「heh heh!そんなもんで足止めしたつもりか?!」
ホラーは空中で上段に振りかぶった斧を一回転させて担ぎ直すと、割れたフラスコが転がる地面に着地した。
そしてホラーはその地面の異様さに気づく。
次の瞬間、ホラーが着地した地面がカッと眩く光ったかと思うと、爆発を引き起こした。
バゴォォォン!と腹の底に響く轟音が響き渡る。
「ふぅ…これで終わりましたかね」
こよりが未だ燃え上がり続ける地面を見ながら言った。
だが、そんな物で死んでいたら恐怖の象徴は名乗れ無い。
「heh、誰が死んだって?」
少し離れた地面にホラーが居た。
だが、ところどころに傷が見える。
本当にギリギリで回避に成功したようだ。
ホラーは、スンスン。と鼻を鳴らしながら、注意深く周囲の匂いを嗅ぎ分けた。
すると、ホラーの鼻に強烈な刺激臭が届いた。
ホラーはそれを嗅いで声を上げる。
「……heh、今の爆発を見てなんとなく分かってはいたが……トリニトロトルエンか?」
「なぬっ!分かるんですか?!」
ホラーは顔に薄く汗を浮かべ、こよりは驚きの表情を浮かべる。
トリニトロトルエン。安全かつ安価で製造できる爆薬として世界的に有名な爆薬だ。
別名…TNT。採掘と作成をテーマにした世界的人気な某四角いゲームでも登場する爆薬だ。
ホラーもサンズである。いつも空腹で死にかけている戦闘狂だとしても、偉大な科学者であるW.D.ガスターの助手をして学んでいた知識は全くもって衰えてなどいない。
「heh、なかなかえげつないもん持ってんじゃねえか」
ホラーは言いながら着地の瞬間、トリニトロトルエンが少し染みついてしまったスリッパを見る。
トリニトロトルエンは、摩擦や加熱などで発火する性質を持つ。
ホラーが全力で走ったりしたら、地面が陥没してしまうのだ。それはつまり、摩擦が発生すると言うこと。このままこのスリッパを履いたまま戦闘をしていたら、スリッパ諸共爆発してしまう。故にこのスリッパは脱がなくてはならない。
ホラーはスリッパをポイっと放りながら言う。
「こんなのばっかもってんじゃ……俺も昔を思い出しながら戦わねえとな」
ホラーは言いながら、地面に落ちていたフラスコの破片をこよりに投げつけた。
こよりは相変わらず腕で弾きながら言う。
「どうやら匂いだけで薬品名が分かってしまうくらいには科学も齧ってるみたいですね?」
こよりの言葉にホラーは返す。
「heh、まあそれも7年くらい前のことだがな」
ホラーは斧を構えながら言った。
「それならこれはどうでしょう?!」
言いながらこよりがビシュッと音を立てながらフラスコを投げる。
ホラーは体を逸らして避けながら中に溜まった液体を視認する。
「heh、水酸化ナトリウムだな?水に易溶することを見越してその分煮詰めて超高濃度にしたのを易溶してあるから…heh、俺を溶かすには十分だな」
言い終わると同時にホラーに背後でフラスコが割れる。
「凄いですね!助手に欲しいレベルですよ!」
「heh、助手だと?もう二度と助手は勘弁だな。それも、あのマッドサイエンティストみたいな奴のはな」
ホラーは言うと、鎖の取り付けられた斧をこよりに向かって投げる。
こよりは、それを見ると今度は弾かず避けた。
斧がこよりの背後にドスっと鈍い音を立てながら突き刺さる。
「hmm。避けたな?ってことは硬化薬の効果が切れたって訳だ」
ホラーは言うが早いが、駆け出すと、先程背後の地面に突き刺さった斧を鎖を引いて手元に戻す。
「そんなの見切られてますよ!」
こよりは言うと、自らの脇腹のあたりを通る鎖に試験管に貯められた液体をぶちまけた。
「heh!金属腐食液か!」
それは金属腐食液。だが、こよりの手によって魔改造され、分厚い鉄板だろうと5分で完全に朽ちさせる程の腐食液へと生まれ変わっている。
ホラーが使用する鎖一つ溶かすなんてわけない。
「ええ!そうですよ!全く貴方は頭がキレますね!」
こよりは言いながら空になった試験管を捨てた。
次の瞬間、ホラーと斧を結ぶ鎖が瞬時に腐り果てた。
だがホラーは相変わらず笑みを浮かべていた。
その様子にこよりは違和感を覚えた。
「(どうして?なんでそんな表情をしているの?!)」
こよりは、いや!と首を振る。
「(まだ隠し玉を?!いや、だとしても…)」
次の瞬間、そんなことを考えていたこよりを衝撃が襲った。
「…へ?」
「HAH HAH!気づかなかったか?!もっとよく後ろも見ようぜ!」
ホラーはゲラゲラと腹を抱えて笑う。
そうこよりの背中にはホラーの斧が深くグッサリと突き刺さっているのだ。
先程ホラーが鎖を引いていたのは斧を引き戻すためでは無い。
斧を引くことで、背後からこよりを攻撃する算段だったのだ。
ホラーの目論見通り、斧は鎖が千切れても空を切って飛び、こよりの背中に突き刺さったわけだ。
「heh!HEHEHEHEHEHEHEHEHEHEHEHEHEHEHEHEHEHEHE!確かholoXの頭脳…だったか?HAHAHA!脳筋野郎にこうも簡単に頭脳戦に負けてやがるじゃねえか!こりゃあ笑えるな!HAHAHAHAHA!深読みしすぎだぜ!もっと単純に考えるんだったな!」
ホラーは心底楽しそうに笑いながら、こよりに近づき、背中から斧を引き抜く。
まあこれはこよりの不手際というよりもホラーの怪力と、その戦闘技術に軍配が上がった感じだ。
「あッ…ぐぅぅぅ…!」
斧を引き抜かれたことで、こよりの口から苦悶の声が漏れ、背中から大量の血液が溢れ出る。
「heh、存外深くいったっぽいな」
ホラーはダラダラなどでは無く、滝の様に。壊れた蛇口から水が溢れ出る様に血が流すこよりを見つつ、言いながら斧を持ち直した。
「まだ終わりじゃ無いだろ?立てよ。まさかこんなんで終わりなのか?ええ?」
ホラーは一日月の様な笑みを浮かべる。
その時、こよりは理解した。
自分達が決して手を出してはならない組織に手を出してしまったことを。
自らの目の前にいるのが正真正銘。恐怖の象徴であり、horrorの名を語るに満ち足りた人物…いや、骨であると。
瞬間、ガタガタと体が震え、汗が止まることを知らず溢れ出し続ける。
目の端には思わず涙が浮かび、ただ生命を乞う様にホラーを見つめる事しかできない。
「HAHAHA!!!まだ行けるだろ?!なあ博衣こよりぃ!」
ホラーははち切れんばかりの笑みを浮かべた。
表情筋が裂けているのでは無いかと思わせるほどに裂けた口からは楽しそうな声が漏れ出る。
耳のあるあたりまで裂けた口は、実に楽しそうに。実に嬉しそうに。とても愉悦な笑みが浮かべられていた。
彼が闇AUを代表する恐怖の代名詞。
ホラーサンズだ。
「ぁ……ぐ……………かひゅっ…」
こよりは、ホラーから発せられる力強い殺気と恐怖により強制的に意識を堕とさせられた。