葉沼櫂 ダーザイン入隊前夜   作:バッセの鼻セレブ

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頑張って書いた!


葉沼櫂 ダーザイン入隊前夜

自分の人生を特別不幸だと思った事は無い。

 

幼い頃に顔も覚えていない親に捨てられて施設で暮らしている事も。

 

普通の人には見えないモノが見える、聞こえる、トドメに触れる事が出来る奇妙な体質を持って生まれた事も、その体質のせいでトラブルに巻き込まれがちな事も。

 

その体質を好んでなのか、異国の神を名乗る毛量の多い猿みたいな怪異に憑かれている事も。

 

脳内で囁き女将みたいなテンションでその猿の怪異に話しかけられてバチクソにストレスが溜まる事も。

 

どれもクローズアップで見れば悲劇の一因のようにも見えるが、ロングショットで俯瞰すれば喜劇に見えてくる。

 

幸い自分は健康な体を持って生まれてきたし、ややこしい事はあれど普通に学校に通う事も出来ている。

 

きっと上に上げた悲劇だか喜劇だか分からない要因も大人になれば「まぁそんな事もあったね」程度に自分の中で消化出来るモノなのだと思っていた。

 

だが、俺の前に現れたダーザインからの使者を名乗る人間はそれを得難い才能であり、世界のために使役するべき物なのだと強く説いていた。

 

いつだったか。

自分が住む施設にダーザインと名乗る厨二臭い組織からの使いを名乗るおっさんが来た。

 

瞬間、面倒ごとの気配を感じたのでその日は「今日はバイオリンの習い事があるので日を改めて欲しい」と咄嗟に応えた。バイオリンなど触った事もないのに。

 

その次の週も、その次の週も使いのおっさんが飽きもせずにやってきた。

 

俺はその度に「所属しているセパタクロー部の合宿がある」、「今日は向かい風なので勘弁して欲しい」、「俺より強い奴に会いに行く」、「宗教上の理由で今日は断食の日」などと巧妙な嘘を重ねて断ってきた。

 

しかし今日、「10万人のファンがドームで俺を待っている」という断り文句を用意していた俺の前に現れたダーザインからの使いは、あろうことかおっぱいの大きい綺麗な女性だった。

 

ドームの予定を聞いて踵を返す女性に対し、俺は「あ、ちょうど今10万人帰ったっぽいです」と壮大すぎる嘘に嘘を重ねてしまったのだ。

 

問題の女性の話はそのわんぱくな胸と同じくらいに大きな話だった。あまりはっきりと聞いていないが世界、可能性、自分に特別な才能があるという事。あとどうやら俺の事が好きだと、そういう内容だった気がする。

 

ついていけば今までのような平凡な生活は一部捨て去る事になるが出来る限りのバックアップは行うし、所属する部隊はしっかり選別するという説明に対して少し考えさせて欲しいと答えた。

 

俺からの「式はいつ行うか」、「将来的に子供は何人欲しいか」という話に対して怪訝な表情を見せていた。異国の人なのだろう。この辺りの文化の違い2人で頑張って乗り越えていきたいと思った。

 

「なぁましら様、俺どうしたらいいと思う」

 

「俺さぁ、色々あったけどなんだかんだでこのまま大人になってさ」

 

「割と普通の会社員になって、そつなく仕事をこなして」

 

「偶然知り合った女性が重要な仕事のカギを握る人だったりして、何故か女の人を口説いてるだけでアホみたいなスピードで出世する島◯作みたいなコースに乗って」

 

「庭付き一戸建て、美人な奥さんと子供、犬と猫とクリオネとか飼ってる。そんな大人になると思ってた」

 

頭の奥からしゃがれた低い声が聞こえてくる。

 

「人生ナメんな」

 

ましら様と呼んでいるこの迷惑な怪異との脳内会話も大分慣れてきた。今では脳内で会話しつつ現実で他の誰かと会話する事すらできる。

 

「わしがお前の体を依代にしているのは、その類稀なる力あってなわけよ」

 

「お前の体を通して、異界におるワシがお前の人生を観測する」

 

「そのお前がそんなクソおもんねぇカビの生えた古い漫画みたいな人生送るようなら、こんな契約ハナからしとらんわ」

 

このアンチ島耕◯が言う契約の内容は俺の心からの願いを叶える代わりに自分の体を貸せ、というものだった。

おかげで俺はこんなヘンテコな体になったのに、肝心の「爆裂モテたい」という願いはまだ叶えられていない。

 

いつか叶える、だが″いつか″がいつなのかはこちらで決める、というカ◯ジで見た事あるような詭弁で丸め込まれている。

 

俺は齢14にして大人は嘘つきなのだということを思い知らされた。

 

「いたいけな未成年の進路相談ぞ?全身全霊で相談に乗っかれよ。こういうとこで好感度稼げよ」

 

怒気を孕んだ口調に対して宥めるように声が響く。

 

「まぁ聞け櫂」

 

「わしの千里眼によればお前は数奇な運命を辿る事が決まっとる」

 

「わしはな、お前の辿るその稀有な人生を特等席で眺めていたいのよ」

 

「お前がどんな選択をしようと、きっと似たような道を歩む事になる」

 

ものすごく身勝手な言い分に聞こえるがもうそういうもんらしい。世界が俺の優れた才覚を看過出来ないのだと、生まれ持ってのスターで一番星の生まれ変わりでBIGな存在なのだと。そう言う事らしい。

 

「わしから言えるのはひとつだけよ」

 

「笑って歩め、生くるを楽しめ」

 

「どんな道を歩もうと、楽しむことを忘れるな」

 

普段アホみたいな事しか言わないのに急に芯を食ったような事を言う。

 

「あとなんかこう」

 

「心を燃やせ」

 

恐らくどこかで聞き齧った言葉でそれっぽい空気をプロデュースしたいのだろう。

 

「ましら様」

 

「あんたが特等席で映画みてぇに俺の人生を眺めるとして」

 

「俺がダーザインに行った時の展開、レーティングはいくつになる?」

 

少しだけ間を置いて魔神が応える。

 

「R-18」

 

 

翌日、俺は約束通り例のダーザインの職員にバースセイバーになる決心が付いた旨を伝えていた。

 

「一つだけ、一つだけ約束してください」

 

「必ずおっぱいの大きい美人がいる部隊に俺を入れてください」

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