バースセイバーになると決意した日からそこそこの月日が経った。
あれよあれよでド腐れのごった煮のような部隊にブチ込まれたものの、なんやかんやで可愛がられつつも何度か歯応えのある任務にも参加したりと順調に経験を積んでいる。
当初の予定では既に俺は″世界″の危機とかをちょちょいっと解決したりしてハルさんを始めとしたダーザインガールズから「素敵!!!アタイと男女のファイナルなファンタジーの関係になって!!」的な熱烈アピールを受けて「おいおい俺の体は一つしか無いんだぜ困った子猫ちゃん達だ」みたいな感じになるはずだったがそんな事は全く無かった。マジでびっくりする程無かった。
とは言え右も左もわからなかった初期に比べれば部隊の役に立っているという実感を噛み締める機会も増えたように思う。訳のわからん自称魔神に憑かれたからこそと思えば、この体質も案外悪くないのかもしれないと思える程度に心に余裕が出来てきた。
そんな感じでそれなりにやりがいを感じ始めた俺、中学生バースセイバーこと葉沼櫂はですね。
今、猛烈な量の書類作成に押しつぶされそうになっております。
「ダーザインって要求してくる資料の量、エグすぎないすかこれ…」
キーボードを叩く音が響くいつものハルさんの便利屋兼鼻セレブ隊事務所。
人が黙々と資料作成をしているというのにテツさんとアザラシさんは暇そうにソファでだらけている。
「複数の″世界″を股にかけて活動する組織だしな。任務の活動報告はパッと読んだら内容わかるレベルのもん要求されるんじゃねぇの」
「ワイが報告書出しとった時はそこまでしっかりした奴出しとらんかったけどな」
鼻セレブ隊は俺が入るまで隊長であるアザラシさんが報告書の類を出していた。
畜生に事務仕事がまともに出来るはずもなく、長らく鼻セレブ隊からの報告書はカノニカルの美味いラーメン屋のレビューと怪文書めいた絵日記が長々と提出されていたらしい。
驚く事に鼻セレブ隊はまともな資料を出すことなくAランクまで上がったのだ。ダーザイン本部に確実に病的なラーメン好きがいるとしか思えない。多分狂ってる。
「フリーランスのバースセイバーかまともな報告出してなかったら界賊認定喰らってもおかしくないっつって事務処理の立候補したのはおめぇだしな。ハハァ…」
「こんなに面倒な作業だったとは…テツさん暇そうだし手伝ってくださいよ。2人で一緒にこの苦労を分かち合いましょうよ」
「人は生まれてから死ぬまでずっと1人だよ」
「そのスケールで断る?」
アザラシさんはペット同伴不可という理由で入店を断られたメシ屋を炎上させようと必死にネットで悪い評価をつける作業をしている。とても忙しそうに見えたので放っておく事にした。
「と言うかですね、ずっと思ってたんですけど鼻セレブ隊って人手不足が極まってないすか?」
「大体他の部隊って少なくとも前衛だけで5人はいますよね。多いとこだと後衛にも5人スタンバってるの見るに10人くらいの部隊が多いじゃないすか」
やり場のない苛立ちを部隊の人手不足にぶつける事にした。もっと部隊員が多ければこの仕事も手分けして出来るのではないか。あと巨乳の美女が応援してくれたりするのではないか。俺がモテないのは部隊の男女比のせいなのではないか。
「うち、4人ですよ?毎回任務のたびによそからヘルプで来てもらってるじゃないですか」
「特にもう夏なんか終わってんのに毎回夏衣装の水着で来るララサさん見てると嬉しいよりそろそろ心配が勝るんですけど」
「この仕事続けたいならその疑問は捨てろ。一部の奴らは何故か衣装が変わると著しくパワーアップしてんだよ。特に水着とクリスマスと正月衣装してる時は」
そういうもんなのか、と無理やり自分を納得させてパソコンに向かい合った瞬間、強烈な異物感を覚えた。
体に魔神を宿したこの体は知覚面も強化されている。この建物の近くに何かがいる。明らかに人の気配ではない。強い怪異の気配だ。
「…テツさん」
「揉め事の匂いがすんなぁ…ましら、出せる様にしとけよ」
テツさんも動物的な勘で何かを感じ取っているらしい。嬉しそうに事務所入り口のドアを血走った目で見ている。
「クソッ!!ワイの渾身のネガキャンが削除されとる!!許せんでホンマ!!!」
ガチの動物のアザラシさんはタブレットを握りしめてわなわなと震えている。何も感じていないようだ。
「ハァ…この俺に向かってブッサイクな殺気ばら撒きやがって。イキった奴がいんじゃねぇか」
「この事務所が襲撃される事なんてあるんすかね」
「俺もハルも恨み買う事は多いしな。無くは無いんじゃねぇの」
「自身の生き方を見直す良い機会じゃないすか?」
瞬間、蹴破る勢いで荒々しくドアを開ける大きな音が響いた。
耳鳴りがする程の轟音の中、気配の主が堂々と入ってくるなりよく通る声で叫ぶ。
「全員!!!整列してパンツを脱げい!!!!!」
変態だ。
変態の襲撃だ。
見るとキャスケット帽を被った金髪の女の子が立っている。帽子と合わせて黒で統一された服にロングスカート。
よく見ると頭から立派なツノが生えていて、華奢な細腕で振れるとは思えない長い金棒を片手で持っている。やはり人間ではない。
人間じゃないし変態だけど可愛い女の子がパンツを脱げと言っている。
「テツさん!可愛い女の子がパンツ脱げって言ってますよ!遂にR18ルート入りましたよこれ!」
「お前見えてる地雷踏みに行くタイプなんかよ。あとパンツ脱ぐ段階にゃまだ早ぇだろ」
「櫂!お前も書き込め!ワイを拒絶したこの店を一緒に炎上させるんや!一つ一つの正義の灯火は小さくともそれはいずれ業火へと連なるんや!!」
明らかに人間ではないその女の子はズカズカと事務所に足を踏み入れて怪訝そうな顔で呟いた。
「なんじゃい。なんぞ小汚いパンツ履いてそうな2人と畜生が1匹か。これじゃまともな戦利品は期待できそうに無いの」
いきなり言いにくいタイプの指摘から入ってきた。人のプライベートにズカズカと介入してくるタイプなのかもしれない。俺の小汚いパンツがなんだというのか。
「人んちのドアは静かに開けるもんでしょうが」
同時に怒りをたたえた表情で事務所の主ことハルさんが入ってきた。何故か右手で女物の下着を血管が浮き出る程に強く握り込んでいる。
「ツァァー!!!!」
万力の如く強い力で握りしめられたパンツを見て急に変態が苦しみ始めた。
「何!?何すかこの状況!?」
「ギブギブ!!!すまんかった!!」
まるでゾルディック家の三男坊が解体屋ジョネスの心臓を握り潰した時の様に苦しみ始めた。伝わるんかなこの例え。
「え!?変態さんパンツに痛覚あるんすか!?」
「無い!無いけどメンタル的なやつ!アレはワシの大事な物なんじゃ!なんていうか心が軋む!!」
遠巻きにこの惨状を無表情で眺めるテツさんがアザラシさんに語りかけている。
「ツッコミ所多くて舌回んねぇ。こういう時なんて言やいいんだっけ」
「ふーん、おもしれー女」
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落ち着きを取り戻した所でハルさんが俺たち3人に向けて変態を連れてきた経緯を説明し始めた。
「あー…まず何から話したらなんだけど…」
ものすごく面倒くさそうなのを隠そうとしない雰囲気を醸し出している。
「最近どこぞの【T=/M +】の世界で夜な夜な通りがかった人の下着を奪い取ってくる変態が現れるって事件あったでしょ」
「あったな。本部から調査依頼出されたけど『変態の相手なら現地の司法に任せろや』って誰も調査してなかった奴」
「最もっすね。確かテラスフィアの偉人にちなんで『汚い武蔵坊弁慶』なんて言われてましたね」
「ワイはパンツ履いとらんしどうでもええ」
散々な言われようである。
「誰も依頼受けないし、ちょっと小遣い稼ぎの感覚でね。1人でいっちょ噛みしようかなと行ってきたわけ」
「1人でそんなとこ行ったら危ないやろ。お前のパンツに何かあったらどうすんねん」
「なんであたしじゃなくてパンツの心配してんのよ」
「なんで俺に声かけてくれないんすか。もうハルさんだけの、1人のパンツじゃないんすよ」
「なんであたしのパンツにあたし以外の人間が所有権主張してんのよ」
最近1人で出かける事が多かったのはそういうことだったらしい。危うく俺の大事なパンツが奪われるところだったのだ。
「で、その事件の犯人がコイツ。言われた場所に行ったら襲いかかってきたんでノして連れてきた」
「如何にもワシじゃ」
パンツ強奪犯が悪びれもせず得意げな表情でドヤっている。なかなか見られない光景だ。
「サシでやり合ったん?お前そんな武闘派だったっけか」
「交戦中に大事そうにしてるもんが見えたからパクったら急に戦意喪失してね。大人しくなった」
「さっき握りしめてたパンツがそれなんですね」
流石本業は泥棒といったところか。
戦闘時にもその手癖が如何なく発揮されたらしい。好きだッ!!
クソデカため息をつきながら当の変態が口を開いた。
「まずはヌシらに言っておかんとな。ワシは変態などではない」
「大体の変態は自分の事を変態じゃないって言いますよ。ねぇテツさん?」
「おう、俺ぁ変態じゃねぇ」
「ほんまや… !」(迫真)
変態(仮)は腕を組み、一息つくとポツリポツリと話し始めた。
「まず、ワシはこの世で最も優れた高等民族こと鬼の血族じゃ。本来ヌシら人間共が気安く口を聞ける存在では無い事を念頭に置いておけ」
「いきなり差別発言かよ。変態らしいな」
怪異の中でもメジャーな鬼の一族だと言う。
鬼は力が強く、気位が高い。力の信奉者であり強くある事にこだわる性質があると言う。
「鬼のぱんつという童謡を知っておるじゃろう」
「鬼のパンツは良いパンツ。世界で最も優れたワシら鬼族が履くのは最も優れた強い鬼のパンツじゃ」
「よう覚えとらんがあれそんな歌やったか?」
「小汚いパンツを履いてそうなヌシらにはわからんじゃろうが、これはワシらの誇りじゃ」
「取れるならパンツでもマウント取りにくるんすね」
変態が軽快にパンツを絡めたエピソードトークを始めた。
「じゃがいつの日だったか…ワシの中に疑念が生まれたんじゃ。虎の毛皮で作った鬼のパンツは強度はあるがゴワゴワして肌触りが良く無い」
「これが本当に良いパンツなのか。本当に至強のパンツなのかと
「至強のパンツてなんやねん」
「そんな時にワシはこれに出会ったんじゃ。偶然にもその辺に落ちていたこの人間のパンツにの」
ある日偶然落ちていたパンツを拾ったらしい。
そしてそのパンツこそが先ほどハルさんが握りしめていたモノだったと。
「ヌシら人間のパンツは虎の毛皮に比べて強度は低いが…伸縮性があり、肌触りも良く、デザイン性も高い」
「このパンツはワシに大事な事を教えてくれた。パンツには強度以外にも重視するべき点があるんじゃないか」
「そしてこのパンツの様に…ワシが思っておる物だけでなく強さにも色々な種類があるんじゃないかと」
「少年マンガの強キャラが長い経験の果てに至りがちな結論にパンツから辿り着く奴初めて見たわね」
「誇れ…ヌシら人間はことパンツを作る技術という点に於いてのみワシら鬼をも上回っておる」(ニッコス
「なんだこいつうるせえな」
言っている事はよくわからないが異次元の角度から強さと言うものを深掘りする姿勢は鬼という種族が故なのか。
急に目の前にいる変態が高潔な求道者のような存在に見えん事もないなぁと思えてきた。
「そして衝動に任せてこれを頭から被ったらいい匂いがして精神が加速したんじゃ」
「正体表したね」
「おいやっぱり変態じゃねぇか」
気のせいだった。
要約すると偶然手にした人間のパンツが思ったより良いモノだったので、それ以来より良いパンツを求めて夜な夜な目にする人間に襲いかかってはパンツを奪っていたらしい。
こんな迷惑な変態が存在しても良いのかと眩暈がする。一枚のパンツが化け物を生んでしまったのだ。
「というか、普通に人間のパンツ買うとかじゃダメなんすか?人から取る必要ある?」
至極真っ当な疑問を投げかけると変態はクソデカため息をかましながら憐れむような視線を向けてきた。
「可哀想に…アホ面しとると思うたが…本当に見た目通りのアホみたいじゃの」
「うわ暴言の海〜…これもう次に会うのは法廷でいいだろ」
「ワシら鬼の価値観は強いが偉い、じゃ」
「この世は弱肉強パン。弱い者は絶え、強い者がパンツを得る。ヌシの様にわざわざ買うのは雑魚の思考じゃな。クソ雑魚ナメクジじゃ」
よくわからん造語で世の真理を解いているがその論調でいくと強者が皆変態になってしまう。変態特有の強固な思想が強い。
「強ぇのが偉いのは概ね同意だな…ハハァ」
「欲しけりゃ奪えもそうねぇ」
「2人は価値観が鬼寄りなのちょっと自省しましょうよ…」
アザラシさんはパンツの話題に興味が無さすぎてまたメシ屋のレビューを荒らす作業に戻っていた。
「で、なんでこの変態を事務所に連れてきたんすか?俺さっきからやんわり格下認定喰らってて若干辛いんですけど」
「それがね、調べてびっくり。この子VS能力があるみたい。変態の手も借りたい人手不足が深刻なウチの部隊に入る事になったわけ」
「怪異だし人間の通貨とか必要無いんで人件費不要。アツいよねー」
「マジすか…」(絶句)
「そんな素直に言う事聞くタイプじゃねぇだろ」
「パンツ返して欲しけりゃ仲間になれって」
「どっかの界賊漫画の船大工みたいなくだりっすね」
「ワシは約束は守るでな。はよパンツ返せや」
既にダーザインで登録を済ませて来たらしい。鼻セレブ隊5人目の隊員にゴリゴリの社不の人外が入隊してしまった。
「って事で紹介しとくわ。あたしはハル」
「そこのヤニくせぇカスがテツ、乳くせぇガキが櫂、シンプルにくせぇ畜生が隊長のアザラシね」
「銭ゲバにタレ目にアホ面に畜生じゃな。把握した」
「え、なんすかこの理不尽な感じ。夢?」
「お前らの言う所の怪異は真名は明かさんでな、ワシの事は鬼子でええぞ」
「「「「よろしく変態」」」」
変態が仲間になった。
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「しかしよぉ、パンツ欲しさにウチの大将狙ったのは人選ミスなんじゃねーの」
「どうせこいつ狙ったとこでくまさんがプリントされたお子様パンツみたいなのしか履いてねぇだろ」
「履いとらんわ!!」
「ワイが言うのもアレやけど人としてパンツは履いた方がええんとちゃうか」
「ちゃんとしたの履いとるわ!!!!」
「ちゃんとしたのってどんな奴なんですか。色とかちゃんと答えてくださいよ」
「流れるようにセクハラすんな!!!!」
「そのちゃんとしたのをワシにくれと言うておる」
「るっせー!!!!!!!」