葉沼櫂 ダーザイン入隊前夜   作:バッセの鼻セレブ

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アフロさんが書いたオルレアンでのお話の前日譚です


オルレアン騒動 幕間

伝統と格式を重んじ、貴族社会を是とする世界、オルレアン。

この世の栄華を集めたような美しい都市部には絢爛豪華な建築物と煌びやかで美しく、深い教養と高い文化のレベルを思わせる貴族達。

 

「食えもせんモンにガチって何がおもろいんや」ブリィッ

 

都市部を見渡せる大きな展望台の上で涅槃を思わせるポーズで寝そべって屁をブリィッする不届きな存在がいる。

 

「はーつっかえ。ワイはこんな見た目が綺麗なとこよりその辺のコンビニとかでサクッと美味いモン食える世界のがよっぽど好きやわ。なんやファミ◯キとか売れや」

 

アザラシだ。

 

アザラシのような何かが産業革命初期の技術レベルの世界でコンビニでファミ◯キが買えない事に不平不満を漏らしている。理不尽極まりない。謝って欲しい。この世界を創造したアフロさんとかに。

 

「この手合いの《世界》なんかはよぉ見てきたけど、まぁーどこも大概似たような構造やな」チラッ

 

そう言ってアザラシは煌びやかな都会の向こう、明かりの灯っていない集落に向けて視線をチラッしてみせる。

 

チラッした先にあるのは貧民街。

栄華を誇る貴族社会が生むのは分断。必然的に生じる貧富の差。強い光を発すれば必ずそこには影が生まれる物で、都会の歪みから発生するスラムもまた大きくなるものだ。

 

この世界もまた例外では無い。

燦然と光る貴族達の住む街を隔てるような大きな壁の先にあるのは巨大なスラム街。

 

粗野で暴力的、混沌とした住人と都市部の法律などは全く通用しない世界。

 

その一角に明らかに似つかわしくない大きな屋敷がある。屋敷はこの閉じた世界の王の居城。

 

「別にな、この貧民街じゃ何をしようが大した問題にゃならねぇよ」

 

「ノす、ギる、ヤるが日常の犬畜生にも劣る奴がわんさかいる」

 

「だがな、一見無軌道に見えるこの場所にもルールがあるんだ。お前らはそれを破った。わかるか?」

 

別に珍しい話では無い。

スラム街の中で大きな勢力が独自のルールを作り、法の及ばぬ狭い世界の中で権力者となる。

 

ネーロファミリー。

都市部の娼館を運営するゴリゴリの経済マフィアであり、貧民街の顔である。

 

「ヴィットーリオさんが喋ってんだぞお前ら!真面目に聞いてんのかオッルァーン!!」

 

黒いスーツ姿に身を包んだ男。

ネーロファミリーのボス、ヴィットーリオ・ネーロは血気盛んで声のデカい部下の恫喝にやれやれといった表情を見せながら眼前に座っている二人組を注意深く眺める。

 

「名前は?」

 

この辺りの人間では無さそうだ。

桜色の髪をした若い女と濁った目をした無気力そうな男。女の方は目にしたことない衣装を身に纏っている。海外から来たのだろうか。怪しさしかない。

 

「ハルでーす。反省してまーす」

 

「テツ。今めっちゃ反省中」シュボッ

 

「反省してる人間の態度かそれがァーッ!!タバコに火付けるな!シュボッすんなオッルァーン!!」

 

「へいへい」

 

「へいは一回!!!!」

 

「こーわ。パワハラかよ。次会う時法廷な」

 

大した話ではない。

外からやってきた人間が挨拶も許可もなくこの辺りで商売を始めようとしたのだ。

 

貴族達の住む都会部に来れば甘い汁が吸えると思ったか。どうせこの2人も商売人とは口ばかりの金が欲しい小悪党なのだろう。

 

「絶対売れるよこれ。頭悪そうn…じゃねぇやオーガニック健康志向の貴族が欲しがるんじゃない?」

 

「なんか適当な野菜のオイル固めて一口サイズにしてな…名付けてミ◯プルーンってんだ。ハハァ」

 

「許可してよ。ほら。今。ほら早く。ねぇ。今」

 

少しばかり脅して今後の商売からアガリを取るつもりで呼びつけたが、この二人は妙に場慣れしている。まるでどこぞのスノボプレイヤーの様に不遜な態度を取っている。チッうっせーな…反省してまーす。

 

この状況、マフィアのボスとその部下数人に囲まれた状況で反省していると口では言っているが緊張感が感じられない。今も意味がわからん勢いで妙な薬剤を売ろうとしてくる。大物なのか、馬鹿なのか。あるいは両方なのか。多分馬鹿だ。

 

「じゃあ一回試してよこれ。健康に良いんで」

 

「これな…なんだと思う?◯キプルーンの苗木。春にはこの苗木から…メニーメニー…あれなんだっけハル」

 

「覚えときなさいよ。アタシあのCM見てないから」

 

「いいからやめろ!ボスはミキプ◯ーンはいらないと仰せだオッルァーン!!」

 

ヴィットーリオが右手を挙げて制止すると場に沈黙が訪れる。もういい。ミキプルー◯の話はもういいのだ。

 

「下手な芝居は打たなくて良い。お前ら、こちら側の人間だろう。世間のルールとは別の場所に軸足を置いている人間だ」

 

ボスが表情の無い顔にガラス玉のような目を貼り付けて口を開く。まるでペッパー君を擬人化したようだ。

 

「答えろ。お前らは何が出来る。使えるならウチの子飼いにしてやる」

 

「あら、話が早い。そうねー、何が出来るって聞かれたら…ねぇ?」

 

「おう。答えは何だって出来る。俺は俺と言う可能性が怖い」

 

この日の交渉の為に用意したのか、尊大な態度を見せつけるべくテツは謎にビッグマウスなキャラでいくと決めているようだ。

その姿はまるでかつての押◯学。

 

「俺か、俺以外か」

 

違うR◯LANDだこれ。

 

「俺達にはな、都市部の娼館とは別に大きな収入源がある」

 

大きく溜息を付くとボスがぽつりぽつりと話し始めた。

 

「壁の向こうのあちら側ではな、求心力を得る為に貴族サマが日夜、骨肉の権力争いをしてんだよ」

 

窪んだ目を上に向けながらボスが続ける。

 

「実際のところ俺達みてぇなのはな、貴族サマの権力闘争の為の道具だ。口に出せねぇ汚れ仕事なんかもある…だが金になる」

 

「依頼元は言わねぇ。近いうちに有力な家系の貴族がパーティを開く。どんな手を使ってもいいからパーティを台無しにしてそいつらの品位を落とせ、とよ」

 

ボスはこの依頼に頭を悩ませていた。

依頼を受けねば今後の支援が減る。だが自分達の息がかかった人間が厳重に警護されたパーティでヘマをすれば、組織の存続に関わる。

 

「なるほど、もしアタシ達が捕まったところで知らぬ存ぜぬで通せると」

 

「ここまで話した。身のためにも依頼を受ける事を勧めるぜ。俺としてもこの依頼は悩みの種だ。出来たなら報酬は金貨100枚やろう」

 

大金だ。

だが依頼を達成したとして払う気があるのかは読めない。この依頼には担保に出来るものが無いのだ。

 

「太っ腹ね。今後ともご贔屓に」

 

枝毛を探しながらハルが続ける。

 

「前金で更に100枚でお受けしますよ?」

 

一瞬で空気が変わった。

感情の読めないボスの声に怒気が含まれる。

 

「オイ…」

 

「大きく出たな三下。この俺に気の利いた口を利くじゃねぇか」

 

「なぁ、お前から見て俺は勝てそうに見えるか。ナメてんのか」

 

「答えろ。どう見える」

 

とろけるような笑顔でボスが警告を出してくる。恐らく最初で最後の警告。

界隈でのヴィットーリオの別名は『ニヤケ面』。

頭に血が昇ると猛獣が牙を剥くように笑顔で歯を見せるのだ。ちょうどアザラシがロキソニ◯をばら撒く時のように。

 

釣られてクスクスと笑顔を浮かべながらハルが答える。

 

「女衒如きが偉そうに。お試しになります?」

 

一瞬だった。

ボスの合図を待たずに部下が懐からナイフを取り出して笑顔のハルに突き出す。

 

「死ねや!オッルァーン!!!!」

 

が、白刃は届かなかった。

最も血の気の多い部下は天井に突き刺さって頭がおかしい芸術家が作ったオブジェの様にぶら下がっている。格式が高いが少しリラックスしづらいお部屋に抜け感を提供するかのように、プラプラしているのだ。

 

「ハハ…俺抜きで話進めてんじゃねぇよ…」

 

趣味の悪いシャンデリアの作者がポケットに手を入れたまま同じ様に蹴り上げた脚をプラプラさせて話し始めた。

 

「おいお前、おめぇだ。そこのトッポいの」

 

「目が合ったな…ハハァ…そうだおめぇだよ」

 

「立ち方、歩き方でわかる。お前がこいつの護衛ん中で一番強ェんだろ」

 

「腰にぶら下げた剣は…ブラフだな。室内じゃ使いにくいだろ。本命は袖の中ってとこか?」

 

「ハハァ…遅れてんなぁオルレアンの喧嘩は」

 

ポケットの中の指をバキバキ鳴らし、濁った目を埋ながら楽しそうに話しかけていく。

 

「ドアの向こうにも何人か立たせてんな…ハハ…まぁ別に何使ってもいいし、この館の部下全員で俺ら二人にかかったとしてだ」

 

「お前、俺に勝てそうか?」

 

「答えろよ。お前から見て俺ァ何に見える」

 

にやけた顔を見せながらテツがジリジリと間合いを詰める。

 

「俺はよ、なんだか行けそうな気がするぜ。多分◯キプルーンのお陰だ。お前にもたらふく食わせてやるよ」

 

物々しい、濁った空気の中でハルがぴしゃりと口を開く。

 

「前金で金貨100枚、いけそ?」

 

 

―――――――――――――――――――

 

「ちゅーちゅーたこないな、ちゅーちゅーたこかいな…っと」

 

「金貨100枚確かに!お近づきの印にミキプ◯ーン置いとくね!」

 

「苗木も置いといてやるよ。春にはメニーメニー…おいなんだっけハル」

 

「るっさいな!!知らんわ!!!」

 

去っていく二人に向けてヴィットーリオが声をかける。

 

「オイ若いの、お前が足蹴にした俺の部下はな…オルレアンでは別れた彼女にも毎年メッセージ付きで誕生日プレゼントを送りつける程の執念深さを誇ると恐れられている男だ」

 

「今トドメを刺さなきゃお前の今後の人生に平穏な時間は来ねえ。どうする」

 

テツが心底興味無さそうに答える。

 

「すげぇなお前。踏み潰したアリンコのこといちいち覚えてんのか」

 

「ミキプルー◯の苗木、ちゃんと世話しろよ。枯らしたら殺すぞ。じゃあな」

 

 

嵐が去った後のような屋敷の中、ボスは部下の一人に声をかける。

 

「お前から見てあいつらはどう見えた」

 

「恐れながら申し上げます」

 

「なんかこう…黒い…ブワーッと大きい感じで、いやフワーッと?そういう…なんていうかヤバい系の良くない感じのアレな奴です」

 

「そうか…なんか…無理に聞いてすまん」

 

 

 

オルレアンでアルデンヌ家がパーティを開く2週間前の出来事だった。

 

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