「って感じで俺とアザラシさんでユニオンの皆さんと人狼ゲームに興じて来ました」
「最終的に皆でラーメンとパンケーキ食うてきたった」
「どういう着地したらそんな結末になる?食い合わせ悪くない?」
ユニオンハウスでパンケーキを賭けて行われた人狼ゲーム。それそのものはよくあるパーティゲームに過ぎないはずだったが、常日頃から多種多様な任務を遂行するメンバーを集めて行われたそれは大きな熱狂を呼び起こす名勝負となった。
「話聞いた感じ、あっちもこっちも曲者揃いねぇ。あんた達じゃちょっと荷が重かったんじゃない?」
「実際人狼側で一番最初に吊られちゃいましたね。ちょっとは役に立てたんじゃないかなーとは思うんすけど」
「まずこれワイの提案で始まったゲームなんで。言うなればワイが1番のMVPと言っても過言やないで」
「アザラシさんは無実なのに爆速で吊られてました」
「めちゃくちゃに過言ね」
奇妙な熱に浮かされたのか、鼻セレブ隊事務所ではその日行われた人狼ゲームについて熱く語る櫂とアザラシの姿がそこにあった。二人の話に上機嫌で耳を傾けていたハルが笑みを浮かべながら口を開いた。
「にひひ…ゲームとは言え海千山千のメンツで化かし合いしたんでしょ。ちょっとは成果、あるんじゃない?」
「パンケーキ美味かったで」
「もうちょっとなんかあるでしょ」
「ラーヒーのラーメンも美味かったで。自家製のチャーシューとかめちゃくちゃ手が込んどったわ。アイツは一体何を目指しとるん?」
「知らねぇよ」
溜め息を一つついてハルが面倒臭そうに説明し始めた。
「あんた達が今日やったのはね、遊びとはいえ情報戦のシミュレーションみたいなもんよ」
「あー、確かに…一局やっただけでめちゃくちゃ疲れましたね」
「ブラフも含めた情報をタイミング良く小出しに見せたり、その場の雰囲気や流れを上手くコントロールして自分が望む展開に持っていくの。特に人狼側はその傾向が強いんじゃない?」
「上手い人は人の裏をかいて息をするように嘘ついてましたね」
「言っちゃえば『心が汚い奴選手権』ね」
「何すかその暴力的な四捨五入」
「ワイが勝てん訳やな」
「アザラシさんめちゃくちゃ口汚く喋ってましたけどね。黄ばんでますよ。心が。確実に」
伸びをしながら心が汚い選手権の上澄み代表が続ける。
「アタシが盗むモノって別に金銭とか値打ちのある品だけじゃなしに、依頼の内容によっちゃ情報だったりする事もあんのよ」
「情報を盗む…やっぱ色仕掛け的な展開あるんすか!?」
「うちの部隊はなんか戦闘狂のカラーが強いっていうか…そういう腹芸が出来る人材は貴重でさ」
「腹芸…えっちなことするんすか!?」
「うるせぇ〜〜話進まねぇ〜〜〜」
「そもそもハルにそんなもん期待するのがおかしいやろ、こいつのどこにそんな色気があr」
痙攣した後に動かなくなったアザラシに腰掛けて本題と言わんばかりに身を乗り出す。
「櫂君はさ、アトリエの人達と騙し合いの場に立ち合ってどう思った?どんな所が印象に残ってる?」
「印象すか…」
「なんでもいいよ。強烈に記憶に残った部分」
「あかすみさんは最初から自分の立場や役割みたいなものが見えてて、それに徹していた様に見えましたね。紫季さんもそれに殉じてました」
「ラーヒーさんもスズさんも表情や仕草から本心が漏れ出ないし、嘘をつく時も淀みなく一定の口調で話してたのが印象的かなぁ。今回味方だったのが凄い心強かったっすね」
「最終的に明暗を分ける事になったジェラルドパイセンの観察眼はすごかった。人狼ゲームに詳しくないって言ってたんであれは天然っすかね」
「デカい部隊の隊長って良くも悪くも圧ってか、貫禄みたいなのがあってちょっと緊張するんすよ。あの人は気さくでとっつき易くて、良い意味で隊長っぽさは薄いと思ってたんすよね」
「でも人を良く見てる。目視出来ない繋がりや関係まで見えてたんすよ。普段から気を回してるんでしょうね。隊長の器も人それぞれだなと思いました」
ぽつりぽつりと話し始めた櫂の言葉に満足そうにハルが頷いた。
「良いね。期待した通り、見る目が養われてるじゃん。総括は?」
「これはどの参加者にも言える事なんですが…言葉に力がありました」
「話す内容の真贋に関係なく、力強かった。そういうゲームだという点を差し引いても、無視できない存在感みたいなもんっす」
「初の機会でそこまで気付けたなら上等じゃんね」
「良い?櫂君。言葉の力って言うn
「ええか?櫂。言葉の力っていうんはな、話す人間がしてきた決意の数で決まるんとちゃうんかと、ワイは思うわけや」
ハルの話を遮って蘇生したアザラシが偉そうに講釈を始めた。
「あの場におった大多数の奴らはな、お前と違って踏んどるキャリアや場数が圧倒的に多いんや。その過程で沢山の悩みや選択肢にぶつかって都度都度逃げずに答えを出しとる」
「良い悪いじゃなしに自分ならこうする!って決意やな。これを幾度も経験しとる人間の言葉には力が宿r…ツァー!!ハル!!何故ワイを足蹴にするんや!!!」
「あたしが!!言いたかったの!!!!」
目の前で繰り広げられるドメスティックバイオレンスを眺めながら、櫂はその言葉を咀嚼していた。良い蹴りだ。しっかり体重が乗せられている。
「ただのゲームでもメンツ次第で得るモノが段違いって話っすねぇ」
「ましら様を使った感知能力もあるし、櫂は今後は情報収集とかそっちの技能増やすんもええんとちゃうか」
「そういうこと。っつーかもし次があるなら舌戦でも負けんじゃないわよ。ウチの部隊は常勝がモットーなんだから」
「なんやそのスローガン。初めて聞いたで」
「あたしが今考えたのよ」
「テツさん鬼子さんに隠れてるんでちょっとわかりにくいけど、ハルさんも何気に好戦的なとこありますよね」
人狼側がそれだけ粒揃いならやりようによっちゃ全然勝てたでしょ、と嘯いている。人狼側の俺に感情移入してくれているのか…クソッ!好きだ!!
「ワイも今日重く残酷な選択肢を突きつけられたわー。ラーメンとパンケーキ、どっちから食べるか問題な!!」
「そもそもパンケーキを食べる為に始まった話やろ?完全にパンケーキの口になっとるところにラーメンという選択肢が急浮上してくるやんけ」
「ラーメンが伸びるより前にパンケーキを食べるのは難しい…必然的にまずラーメンを食う事になるのにそこに塩、味噌、豚骨の選択肢まであるんで?」
「そんな中でワイはこう!っていう絶対的な自我を持って断腸の思いで味噌を選んだら今度は無限にトッピングの選択肢が迫ってきて…」
「クッソどうでもいいすね」
「別に何かを選べば良いとかそういう話じゃないのよね」
そういう話じゃなかった。