ダーザインへ正式に所属し、鼻セレブ隊に入隊することになって数ヶ月ほど経った。
今の自分は「義務教育は受けた方が良い」というダーザインからの計らいでカノニカルの学校へ通いつつ鼻セレブ隊の事務所見習いという扱いになっている。
驚くなかれ、POSという形で支払われる給料はペリカという謎の通貨に切り替えられ、俺は驚愕のレートの賃金で働いている。
今目の前にいる女性、名前はハルさん。本業はゴリゴリの裏稼業人。某賭博漫画でしか聞かないレートの賃金で俺をこき使う、このエコノミックアニマルこそが俺の雇い主でありボスなのだ。
時代の寵児とまで言われた俺が何故そのような立場に甘んじているのか。理由はひとつ。彼女の胸が大きいのだ。
「見て!ヒゲ!」
だるそうな目でピンクブロンドの髪の枝毛を探していると思ったら急に髪の毛をヒゲに見立てた一発芸をかましてきた。クソッ…好きだ!
「今日呼んだのはね、そろそろ櫂くんも次のステップに進んでもらおうかなって」
ヒゲが生えた人タイプなんですよという無理のある俺のフォローを軽くいなして本題に入った。
「この数ヶ月でいくつか軽い任務もこなしたし、櫂くんの能力も把握出来たしね」
「ましら様だっけ?この業界、色んな人がいるからね。式神を使役する人は見たことあるけど、憑かれてる人は初めて見た。ガッツあんじゃん」
頭の中でましら様がドヤる声が聞こえてきたが意図的にシャットアウトしながら次のステップとは何かと尋ねる。
「櫂くん自身が戦闘に関しては素人だしね。ここらでいっちょ鍛えよ 「やります」
脳が意味を理解する前に言葉がついて出た。めちゃめちゃ食い気味に出た。ハルさんとの特訓。愛し合う2人がマンツーマンで2人っきりでの訓練。それはもう実質デートと言っても過言ではない。ドゥエートゥ。
「俺、前から寝技とかに興味あって。寝技を主に練習したいっていうか。寝技のエキスパートになりたいっす」
「うんうん、寝技もやっちゃおう」
勝ち確である。好き合う男女の会話でここまで言質を取ったのなら。それはもう婚姻届にサインをしたと言っても過言ではない。葉沼ハーレム、奇跡の開幕。
「じゃあテツ、アタシ用事あるから。あとよろしく」
「たまに時間ある時後ろでベガ立ちしとくわ」
そういって振り向いたハルさんの後ろ、奥のドアから死んだ目をしたヤニカスが出てきた。
「なんでぇガキ。おめぇグラップラー希望かよ」
「俺ァ立ち技専門なんだがな。そもそも実戦で寝技に持ち込む時間ねェだろ」
呼ばれて咥えタバコで出てきた、人生において直面する問題の6割は暴力で解決していそうなこの男は鼻セレブ隊戦闘員担当。名前はテツさん。
死んだ魚のような目と退廃的な空気が特徴のヤニカスでバウンサーやトラブルシューティングを生業とするケンカ狂い。歩く暴力装置である。
「考え直せ櫂!お前がどうしてもと言うならワイの奥義を教えたる!」
「見ぃ!!この握りっ屁の威力!」
「お前は選ばれし者なんや!屁で戦え!世界を舞台に屁で戦うと言え杏◯郎!」ブリィッ‼︎
さらに奥から上弦の参を思わせるセリフを吐きながら出てきたこの汚い畜生は鼻セレブ隊の隊長、アザラシ。もう説明する気にもなれないがこの珍獣が隊長。ちなみに俺は炎柱ではない。
「アタシが教えれるの盗みと武器の扱いでね。櫂くんはましら様を宿した身体を武器にした方が良さそうかなって」
じゃあね、と手を振ってハルさんが事務所を出て行った。
「ガキ、とりあえずサンドバッグここにあるから適当に鍛えんぞ。とりあえずタックルしてみ。アザラシそこ立って。」
「来い!櫂!寝技の後にワイのギャリック砲を伝授したる!まずはワイとくんずほぐれつの特訓からや!!」
世界が音を立てて崩れていく。こんな事が許されても良いのか。
「いやあの、たった今寝技に興味無くなりました」
夏が来る。地獄のような夏が。