カノニカル郊外の鼻セレブ隊事務所からそう遠くない空き地。
この空き地では毎日近所の鼻垂れキッズがガビガビになった袖を振り回して謎に高いテンションで半狂乱で駆け回り、
世界に自分達しかいないと錯覚しているのではないかと思わせる若いカップルが胸焼けする三流恋愛ドラマをなぞるように愛を語り合い
その横にいる近所の老人はうっかり近くに座ろうもんなら「ワシが若い頃は3posで銀シャリが腹一杯食えた」という結構どうでもいい情報を脳に捩じ込んでくる。
この空き地は、平和で混沌とした、この地域に住む人達の様相そのものを映し出す。なんて事ない日常が流れている。
そして俺はそんな空き地で地獄を見ていた。
「ハズレだなぁ…受け身取れよ」
「オァァーッ!!!!」
その日戦闘訓練としてテツさんが出したルールはシンプルなものだった。1発でも自分に攻撃を当てられたら終了という決まりの掛かり稽古。
ただし攻撃に対して反撃は行うらしい。安い攻撃は受けるか避けるかの後に、おもっくそぶん投げられるのである。受け身の練習にもなると言っていた。
これがなかなかキツい。ことごとく自分の攻撃が避けられるかガードされる。
ましら様の力を借りた打撃は速度も威力も一般人のそれを軽く凌駕するはずなのに当てられる気がしないのだ。
「ヒヒィン!!」ベシャア
「受け身取れよ…」
そのうち物陰に隠れたり、タバコ休憩を取るヤニカスの習性を狙ったりと正面からの戦闘を避けて当てに行き始めたが全く通らない。
どういう人生を送ってきたのか。この人は「不意打ちされる事」自体に慣れている。あまり話そうとしないが、大概な過去があるのだろう。
「まずはスイッチを作れ」
いたいけな中学生をポンポンぶん投げた後にふとヤニカスが抽象的で意味がわからないクソバイスを投げかけてきた。
「行くと決めて、構えて、お前のいう魔神とやらの力を借りて殴りかかる」
「スポーツじゃねぇんだ。あくびが出るぜ…ハハハァ…」
「テツさんは違うんですか」
「頭ん中に自分の闘争心を駆り立てるスイッチを作れよ。瞬時に臨戦態勢になれるように気持ちを切り替えろ」
スイッチとはそういう意味のものらしい。何その常在戦場的な思考。簡単に言うが最近まで一般中学生だった自分に振る難易度のミッションとは思えない。武士?
「平和の使者といえば俺かハトかってくらいにピースフルな性格の俺に作れるんですかそれ」
「前から思ってたけどお前ちょいちょい自己評価高いな」
「テツさんはどうやって作ったんですか」
「俺ぁ最初っからついてた」
次までの宿題な、そう言い残してテツさんは去って行った。パチンコでひと財産築いて飲み行ってくるわ、とうそぶきながら。飲む打つ買う、カスのグランドスラムが擬人化したような男の背中はいつもよりも大きく見えた。
「で、俺らに相談…ってコト!?」
ち◯かわみたいなセリフと共に少し大袈裟に驚いているこの男はジェラルドさん。ダーザインの本部でよく顔を合わせる機会があり、年齢も近いのでよく話すようになった。
「後輩の相談じゃねーか。かっこいいとこ見せてやれよ」
快活に笑う褐色で金髪の、もし出会った場所が学校ならカツアゲされないようにやり過ごしたであろうこの男は葛城烈斗さん。ジェラルドさんの兄貴分らしい。兄貴と言っても血は繋がってないらしい。らしい。
「後輩…そうだよな。俺の事はジェラルド先輩と呼んでくれよな!」
「オナシャス。ジェラルドパイセン」
「うん…まぁ、いいけどさぁ」
少し複雑そうな表情と反応が返ってきた。元気出せよジェラルド。
「俺の事も…葛城先輩って呼んでいいからよ」
「ウッス。葛城パイセン」
「なんか…ちょっと違うんだよな」
なんとも微妙な表情で返事してきた。気落ちすんなよ葛城。
オチがついたところでバースセイバーとしては自分よりも古株の先輩にこれまでの経緯を話した。
「スイッチ…なぁ。テツも難しいこと教えてんな。でも言わんとしてる事はわかるぜ」
「葛城パイセンはどうやってるんですか」
「俺カッとなると手が出るタイプ」
「見たまんまじゃないスか」
「櫂、烈斗のアニキのスイッチ入れようとしてる?」
葛城さんはテツさんと同じ、先天的にスイッチを持っているタイプらしい。こればかりは言語化しづらいと回答されてしまった。紛争地帯で拳だけで生きてそうな見た目をしているので「さもありなん」と思った。
「これに関しちゃあ、相談乗るならジェラ公がうってつけかもな。お前ら似てるもん。悪い意味で」
「「悪い意味」」
ジェラルドさんも俺も、モテたいという一心でバースセイバーとしてハードな生活を送っている。邪な目的の為に人生をBET出来る2人だからこそ活路が見出せる。なかなか失礼な事を葛城さんは熱弁していた。
「俺が戦う時はその《世界》の女の子達の事を思いながら剣を抜いてるよ」
驚いた事にジェラルドさんは自分とかなり似た思考をしていた。悪い意味で。
俺も同じだ。この手で救う事が出来る美女がいるなら全て救いたい。溢れ落とすような事があれば将来のハーレムに欠員が出るかもしれない。クッソモテたい。膝枕とかしてヨシヨシしてほしい。
「かと言って簡単に出来るもんでも無さそうなんすよね。瞬間的に感情を爆発させる訓練…なんか無いっすかね」
「良い考えが浮かんだ。乗ってみるか?」
葛城さんが膝を叩いて身を乗り出してきた。
自分の人生でこう言う流れのやつは大体ろくでもないパターンだったので何とも嫌な予感がした。