記録 XXXX年X月(日付はimagineで)
文責 葉沼櫂
カノニカル郊外 森林地帯(通称:森)にて不審者が発見される件に関する報告書。
鼻セレブ隊4名にて調査。報告にあった人影を確認。
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「ガキ、なんかわかったか?見渡す限り木しかねぇぞここ」
「感知系能力持っとるのお前だけやぞ。ワイは今回役に立たんと思え」
「アンタ毎回役立たずじゃん」
カノニカルの郊外に鬱蒼と木々が生い茂る謎の地域がある。通称″森″。
命名した人間を引っ叩きたくなるくらいに何の捻りもない名前のこの場所で、最近不審者が出るという報告が上がってきたので俺達が駆り出されるに至った。
「いやなんというか…変な感じがするんすよ、ここ。まるでデカいブロッコリーに囲まれているような感覚がするというか」
「感知能力がめちゃめちゃ視覚に引っ張られてんじゃねーか」
「ブロッコリーみたいな見た目してからホンマ」
「おっかしいな、ここら一帯はあいつらの縄張りみたいなもんだし変な事は起きないはずなのよね」
何故かハルさんはこの森にたまに散歩に出かけている。パワースポットとかスピリチュアルに関心があるタイプなのだろうか。
しかも毎回スピリタスの瓶を片手に行っていくのはスピリチュアルにかけた高度なギャグなのか。クソッ…好きだ!!
「ようこそ…ここは…森」
唐突に抑揚のない声で喋りかける男が眼前に現れた。
こんな鬱蒼とした森の中で、浮世離れした雰囲気の美しい男がいる。白くて長い髪、異国情緒を思わせる着物の様な姿。この大自然の中、まるでコピーアンドペーストでもしたような、そんな異物感がある。
「汝らは…18452番目の迷いし鶏肉」
しかも鶏肉扱いしてくる。まごう事なき不審者だ。
「18452番目ってマジすか?」
「ごめんなさい…数字は今適当に考えました」
「にしても振りかぶり過ぎだろ」
「ちょっと見栄を張りたくなって…」
「またややこしいのが来たで」
見栄を張っているがどうやら悪意は無いらしい。全員が警戒を解いたと同時にハルさんが後ろから声を上げた。
「やっぱツルハリじゃん。おっすおっす」
「ハルさんの部隊でしたか。ご無沙汰しております」
驚いた事に眼前のブロッコリーの親玉とも形容出来る不審者はハルさんの知り合いだった。
「ラーヒーは?てか今日なんでアンタしかいないの?」
「うちの部隊は本部へ招集されたので」
「じゃあなんでここにいんのよ」
「私はこの森のヌシでありたい。些末な用事でこの森を出たくはないのです」
「隊長がそれじゃアイツは苦労人ね」
「いえ、その枠は別でいます」
ハルさんのお仲間でしたらこちらへ、と案内された場所は森の中で少し開けた場所だった。
「ここは鶴一声の拠点でございます。youは何しにここへ?」
柔らかな笑みを讃えながらツルハリと呼ばれた人物が話しかけてきた。聞けば彼もまたバースセイバーらしい。この場所を拠点としてるのは単なる趣味とのこと。毎回思うがこの組織はバラエティが豊か過ぎる。
「どうぞ」
すっ、と伸ばしてきた手の先には唐揚げを盛った皿があった。何故こんな場所でいきなり唐揚げが出てくるのか。
いや、それよりも全く反応出来なかった。香ばしい匂いがしたと思うと既に唐揚げが眼前にあった。洗練された無駄のない無駄な動き。剛の者特有のなんかこう、それだった。
「なんやこれは…なんちゅう…なんちゅうもんを食わせてくれたんや…」
「これに比べたら山◯さんの鮎はカスや…」
そしてそれをさらに超える速度でアザラシが既に唐揚げを頬張っていた。◯岡さんに謝るべきではないのか。
「俺、唐揚げにはマヨネーズ派なんだわ。マヨネーズねぇの?」
「アタシ柚子胡椒がいい」
「お前らアカンて。人が作ってくれたもんはまずは生(き)でいけや。失礼やろ」
この異様な空気の中、それぞれが思い思いの唐揚げの食べ方を提案し始めた。山◯さんの鮎をボロカスに言ったアザラシが急に礼儀を説くのはダブスタが極まっている。
「唐揚げは懐の深い料理です。誰もが胸の中にその人にとっての一番美味しい食べ方があるのですよ」
「唐揚げ、俺も好きっすよ。レモン汁かけて食べる派です」
「唐揚げレモン…申し訳ないがその派閥だけは許容しかねます」
「いやなんでだよ」
どうやら俺は地雷を踏み抜いたらしい。
「唐揚げをサッパリと食べたいという気持ちは理解出来るのですが。それは衣の歯応えとのトレードオフの関係にある。唐揚げとレモンは不可逆の関係にあるのです」
「一度カリカリ感を失った唐揚げがその輝きを取り戻す事は不可能。そうまでしてサッパリさせたいという意思を通すというのは我々のエゴではないのでしょうか」
「唐揚げサイドからすれば万全の最も美味な状態で食べて欲しいと願うのが自然なはず。声無き鶏肉の言葉に、耳を傾けて下さい」
ツルハリさんの目の奥には炎の様な強い意思が揺らめいていた。
もう完全に思想犯とかのそれだった。唐揚げテロリストだった。
「えぇ…なんか…すんません…」
それから俺達は振る舞ってもらった唐揚げを肴に例の如く飲んで騒いでいた。
疲れた俺は少し離れた場所で楽しそうに飲酒するハルさんを眺める。
聞けばこの森にはツルハリさんのような美形の人達が沢山出入りしているらしい。
ふと何故ハルさんがこの場所を出入りしているかがわかってしまった。†イケメンパラダイス†だ。
この†イケメンパラダイス†でチヤホヤされて承認欲求を満たしているのだ。間違いない。そうでないとこんなとこに足を運ぶ理由がない。俺というものがありながら…
「クソッ…ジェラル子の古傷が疼くな…」
完全に彼女がホストクラブにハマってしまった彼氏の気持ちだ。確かにツルハリさんはイケメンだ。どうしようもない画力の差を感じる。ダイヤモンドと尿路結石くらいの差だ。尿路結石は酷くない?
「お隣、失礼しても?」
項垂れる俺の隣にツルハリさんがやってきた。どうも、と丁寧にお辞儀してイケメンが俺の隣に座った。
「あなたが葉沼櫂くんでしたか」
「俺の事、知ってたんすか?」
「ハルさんと私はなんといいますか、茶飲み友達のようなものでして」
「ここで一緒にお茶を?」
「彼女は毎回度のキツい酒を1人で飲んでますが」
「おいやっぱホストクラブじゃねぇか」
聞けば彼女はここへ来ては毎回同じような話を一方的に話すらしい。金が欲しい、アザラシが鬱陶しい、仕事がめんどくせぇ、金が欲しい、テツがアホ過ぎる、ほぼ愚痴のようなものだった。
「そして最後には毎回同じ頼み事をしてくるんです。魔力の操作を教えてくれないか、と」
「え…?」
「彼女にはそれらしきモノは無いし、《世界》が違えば《法則》も違う。教えられるようなものでは無いのですが」
「一目見てわかりましたよ。あなた、身体に荒神を宿してますね」
「…分かるんすか?」
「感覚が鋭い人なら分かると思います。あなたの魂はごく普通のスケベな少年のそれでありながら、まとう雰囲気は強面のオッさんのそれです」
「凄い…失礼の大洪水だ…」
ツルハリさんが言うに、俺は少年の身体に似つかわしくないオーラがダダ漏れているらしい。何度か経験があったが、やはり感覚が鋭い人にはバレている。
「今日あなたを見てピンと来ました。あなたは完全なる強面のオッさんになりたい、違いますか?」
「違います…」
「違うんですか…」
「そこまで察しが良いなら最後まで当てて欲しかったです…」
「申し訳ない…」
ましら様の力をコントロールしたいという話をツルハリさんは興味深そうに聞いていた。感覚的な話なのですぐにどうこうアドバイス出来るものではないが、約束をした。
たまにここで一緒にお茶を飲もうと。
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″森″で散見されたと思われる不審者は鶴一声の部隊の隊長と思われる。
緊急性は無いものと判断し、本件の報告を終える。
″っつーかバリバリの身内じゃねぇか。クソ忙しいのにしょうもねぇ指示出すなや殺すぞ″