どうも、鼻セレブ隊所属の葉沼櫂です。
今日も今日とて俺は空いた時間を見つけては訓練と称したドメスティックバイオレンスをその身で受けております。
「ジェラル子を返せやこのヤニカスがァァーッ!!」
「誰だよジェラル子」ボコー
「ヒヒィン!!」
ずっと続けている訓練はより実戦を想定した物になりつつあり、テツさんの反撃は全力では無いものの普通に打撃が解禁されるに至っております。親父にもぶたれたことない天然パーマがチャーミングなパイロットが白目剥いて卒倒するレベル。殴って何故悪い!?とか開き直ってくる奴だ。
「未来ある10代の頭を殴って、これ以上馬鹿になったら責任取れるんすか?」
「俺の聖書に頭空っぽの方が夢詰め込めるって書いてあんだよ。夢詰めれるぞ良かったな」
この様に優しさも配慮の欠片も無い訓練をこなす我が部隊には貴重なヒーラーがいるにはいるのですが、その治療というのも大変お粗末なものでした。
「怪我しても安心せぇ、ワイが治したる」
と自信満々に言うのでヒールを依頼したら剥き出しの◯キソニンを渡してくる始末。仙豆みたいなノリで。
いやそれ痛み止め。しかも外傷にあんま関係ないタイプの奴。免許持ってないヤブ医者でももうちょっと頑張るわ。もっとなんかあるだろ。それっぽい詠唱したら光とかに包まれて都合よく怪我が治る奴が。よその部隊のヒーラー大体は皆これだからね?見た事無いんか?
「スイッチ、作れたみてぇだな。気迫は悪くねぇ」
「テツさんの預かり知らぬところで俺もレベルアップしてますからね。聞きます?俺とジェラル子の出会いと別れのメモリー」
「悪かねぇが、特別良くもねぇ。加えて興味もねぇ」
そしてこのメンタル面でのフォローの無さこれ。見てこれ。ゴリラに部下のモチベーションの管理を期待する俺も悪いんですけども。もしかしてあの時辞めた方が良かったのではないかと。問答する日々なのであります。
「お前な、心のどっかで俺にはやられても仕方ないって気持ちで向かってきてねぇか」
「何はともあれまずは脳筋ゴリラに立ち向かう勇気を讃えて欲しいです」
「どういう意味だ」
「すんません、ギリ悪口です」
来ると分かっていた頭頂部への拳骨を紙一重で避けながら続ける。
「誰しもがテツさんみたいな生まれついての暴力以外にコミュニケーションの手段を知らない哀しい戦士じゃないんすよ」
「そんなめんどくせぇ事考えてんのか。そこ座れ。休憩挟むぞ」
「その前に一回6秒数えましょ」
「なんでだよ」
「アンガーマネジメントです」
「怒らせたお前が言うんかよ」
その場に座り込み、テツさんがタバコに火をつけながら面倒臭そうにポツリポツリと話し始める。俺はこの時間がちょっとだけ好きだ。
「生まれついての強者なんてもんは存在しねぇよ。いるのは強くあろうとする奴だけだ」
「テツさんはどうやって強くあろうとしてるんすか」
「直感の肯定」
また訳のわからん事を言い始めた。スイッチを作れだの。クソバイスがポンポン飛び出してくる。語彙がユニーク過ぎるのだ。
「いいかガキ。ラッキーパンチを1000回キメるすげぇ自分を想像したとしてだな」
「そのラッキーパンチを1000回キメるすげぇ自分の直感を、ありえねぇと否定せずに1000回肯定出来る奴が強ぇんだ」
「場当たり的な直感だろうが閃きだろうが神業を実現するすげぇ俺、それが強者」
「俺すげぇの瞬間を肯定し続けるんだよ。技はそのオマケ。代謝の過程で出るうんこみてぇなもん」
言葉が出なかった。
こと戦闘に於いては、この人はきっと天賦の才があるのだろう。技の開発をうんこと吐き捨てる姿はある種の神々しさすら感じる。こんなにうんこという発言が様になる人もなかなかいない。事実、うんこみたいな性格をしている。
「とは言え、これはあくまで俺のやり方の話な」
「お前はセンスねぇからうんこ捻り出す時みたいに気張って自分のやり方模索するしかねぇな」
すごい。またうんこって言った。
「俺には…俺のスタイルがあるって事すかね…」
「ハハァ…急に自分らしさって何?みてぇなしゃらくせぇ事言いながら自分探しの旅とか始めるOLみたいなノリで探してみろ」
何故この人は各方面に喧嘩を売る様な物言いを好むのか。これを書いている人間もヒヤヒヤする。もう存在がコンプライアンス違反。レギュレーションの見直しが必要なのでは。
「テツさんの言う事、よくわかりました」
「でも今日のところはお開きにしましょう」
「限界すよこれ。見てこれ。脚なんかもうプルプルして生まれたてのバンビ」
「おいハル、これに関しちゃお前のが説明に向いてるだろ。見てやれよ」
「クソッ!!急に力が湧いてきた!よろしくお願いします!!!!」
ムチしか無い訓練にアメが来た。
これだからこの部隊は辞められない。