葉沼櫂 ダーザイン入隊前夜   作:バッセの鼻セレブ

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白翼の守護者 決戦直前に鼻セレブ隊が参入するお話。


オラクルネスト決戦直前

鼻セレブ隊はカノニカルの郊外に事務所を構えて本業とダーザインからの両方の依頼を受けている。

 

受けた仕事の規模に応じて、必要であれば用心棒としてテツに声をかけ、アザラシが呼んでないのについてくる。大体そんな感じの奴。呼んでないのに。

 

元々ハルが前にいた《世界》で便利屋と泥棒稼業を同じ形で請け負っていた流れで、カノニカルでバースセイバーになっても慣れた業態は変わらない。このやり方が合っているのだろう。

 

本業もバースセイバーとしての依頼も、窓口はこの事務所ひとつとなっているのだ。

 

その事務所の前に2人の女性が立っている。

 

「もう一度、状況を整理しますねスズ様」

 

「はい」

 

「鼻セレブ隊はダーザインの依頼で任務を受ける、いわゆる外注部隊です。私もダーザインを経由して正規のルートで援護の依頼をしているんですが…」

 

「回答は保留、と」

 

クリムゾンストーム所属″海賊巫女″ユカリ

感染対策課 fizz所属″幾星霜の祈り″スズ

 

2人は建物の前で立ち尽くしていた。

 

「申し訳ありません。本当なら私1人で話をまとめたかったんですが…」

 

「そんな、謝らないでください。元々は感染対策課でやる仕事をユカリさんが買って出てくれたんですから!」

 

「かえるのー小隊さんの交渉で思ったより難航してしまって…こちらの鼻セレブ隊も噂ではその…」

 

「癖が強い…ですよね」

 

噂で伝え聞くこの鼻セレブ隊、クソ程に外聞が悪いのである。

 

曰く、近代国家のガン細胞

曰く、銭ゲバ悪魔超人王位争奪編

曰く、熱出した時の夢とかで見る奴

 

普通にストレートな悪口にも聞こえてくるこの風評は又聞きではあるものの、ユカリを多いに悩ませる物となっていた。

 

「うちの愚弟が鼻セレブ隊の1人と懇意にしているようで、伝え聞く限りは気の良い方のようなのですが…」

 

「個人的な付き合いと組織の意向は一致しないものですよね。任せてください!」

 

「基本的な交渉は私が致します。スズ様は大船に乗ったつもりでいてください!」

 

「大船…海賊巫女だけに、ですか?」

 

「いきます!!!」

 

ユカリが意を決して事務所のドアを開けると、こざっぱりとした部屋が2人を出迎えた。これといって特に何も無い様に見られる部屋の中央にテーブルを挟んでソファーが2つ。手前が来客用のものと思われる。奥にドアがあるが人の気配は感じられない。

 

「誰もいませんね…スズ様、どうかされましたか?」

 

「ユカリさん…あれ…!」

 

スズが震える手で指した方向に目をやると、そこには″アザラシわからせ棒″と乱雑に書かれたバットが視界に飛び込んできた。

 

「これは……!」

 

「ユカリさん…!」

 

「おぉ…もう…!」

 

アザラシというのはこの部隊の隊長の名前。つまり起きているのだ。ドメスティックなバイオレンス的なアレが。この場所で。

 

「あれ!?お客さん?こんな時間に珍しいね」

 

2人が事件性を感じるバットに目を奪われていたところで事務所の主と思われる人物が出てきた。桜色の髪を肩上で切り落とした出立ちの女性。きょとんとした顔でこちらを見ている。

 

「ごめんね、ちょっと奥で作業してて」

 

「そこ座ってよ。来客用のお茶受けあったかな?こないだアイツが食べちゃったのよね…」

 

首を傾げながらまた奥の部屋へと去って行くのを見届けた。綺麗な人だな、というのが率直な感想だった。

 

「ユカリさん、確か鼻セレブ隊の隊長の名前はアザラシさんでしたよね。どう見ても人間でした」

 

「これは以前聞いたお話なのですが、我々のような仕事をする方の中には、自身の名前を明かさずに秘匿性のある暗号名で活動する方が一定数いるそうです」

 

「なるほど。事前情報だと白くて手足が生えている、でしたね。確かに服は白いし手足も生えてました」

 

とても噂通りの人物には見えないが、人は見かけによらない。かの哲学者も『人間の中には獣がいる』とはよく言ったものだ。

 

「今日ツルハリに貰った奴あるわ。これでいいか」

 

そう言いながら事務所の主は山盛りの唐揚げを皿に乗せてやってきた。

 

「お茶受けどうぞ」

 

「お構いなく…」

 

テーブルにドンと唐揚げの皿を置いて、黒烏龍茶をペットボトルでよこしてきた。かなりテクニカルな歓迎の仕方をされている。

初めて来た定食屋で何となしに頼んだ日替わり定食が想定よりガッツリ系のメシが出てきた時みたいな気分にさせられる。午後に支障が出る奴だ。

 

「突然の訪問で申し訳ありません。私達はダーザイn

 

「あ!もしかしてアレ?うちに救援依頼が来てた話?」

 

名乗るより先に話を遮られてしまった。話を聞かないタイプの人間とみた。

 

「待たせてごめんね。あの話なら受けるよ。うちは調査とかそういう任務に向いてる人間が少ないからね」

 

「ドンパチやる方があいつらの性に合ってんのよ。1人実践経験積ませたいのもいるしさ。その内正式に受諾の連絡行くから待ってて」

 

思ったよりも話が早く進む。交渉の必要すら無いように思われるが、何故本部からの回答が保留で止まっているのか。

 

「でしたら…」

 

「あ、ごめん電話来た」

 

懐からけたたましく鳴る携帯電話を取り出しながらまた話を遮られてしまった。

 

「おっすハゲ元気?」

 

「うん、うちからの要求はその金額。体張って任務受けるんだからビタ一文まけないよ」

 

「予算?稟議書でもなんでも描いてもぎ取ってきなよ。とにかくその金額でお願い。電波悪いんで聞こえなーい」

 

電話口から声は聞こえていたが電波のせいにして電話を切っているように見えた。報酬の交渉にしてはかなり一方的ではないか。

 

「こんな感じで今向こうの担当者にギャラの交渉してんのよ。アタシの見立てじゃもうちょい上げれるんじゃないかな」

 

「ありがとうございます!依頼、受けて下さるんですね!」

 

「結構ヤバい状況なんでしょ。こういう時こそ本部に恩売っとかないと。こっちこそ声かけてくれてありがとね…にひひ」

 

これで恩を売ったつもりでいるのだから紛れもなく銭ゲバソフトサイコパスである。噂の一部は本当だったと言う他無い。

 

「改めて自己紹介を。感染対策課、fizz所属のスズです」

 

「今回の作戦に協力するクリムゾンストーム所属のユカリと申します。アザラシ様の参戦に感謝します」

 

ふと、アザラシと呼ばれた瞬間ピタリと対面の女性の動きが止まった。

 

「え…」

 

明らかに動揺しているようだ。真っ白な顔をしながら震える指で自分を指差しながらか細い声で呟いた。

 

「me…?」

 

こくこくと2人で頷くと浅い呼吸でパクパクと何かを言いかけてソファにもたれかかって動かなくなってしまった。

 

「ア、アザラシさん!!!!」

 

「大変!きっと唐揚げを喉に詰まらせてしまったのですね!!」

 

「幾星霜紡ぐ、聖なる慈しみよ!ここに!」

 

「唐揚げを喉に詰まらせた相手に効くのですかそれ!?」

 

「やってみる価値はあります!アザラシさん!しっかり!!」

 

スズの呼びかけに応じる様に事務所の入り口が勢いよく開かれた。

 

「フゥンッ!誰かがワイを呼ぶ声がするで!皆大好きアザラシさんの登場や!」

 

同時に訛りの強い言語を操る白い毛玉が入室してきた。見た目はアザラシの様だがヒレの代わりに手足が生えている。

 

「ファーwwwwツルハリの唐揚げやないか!ワイこれ好きなんや!失敬!ウッッマ!!からあげグランプリ金賞受賞待ったなしやな!!」

 

「それ全国の唐揚げ屋が受賞してる奴じゃ無いですか…」

 

なんとも形容し難い、高熱でうなされている時に見る悪夢がそのまんま出てきたような生物が唐揚げをモリモリといっている。この状況でも打ち返しにいくのはクリムゾンストームツッコミ担当の矜持なのか。

 

「ユカリさん…!先ほどから回復スキルをかけてるのですが…身体的な異常が見られません!」

 

「ハルお前なんで寝とるんや!お客さん来とるで!気付けにいっとくしかないか…!ワイのギャリック砲を!」ブリィ

 

「「ワァ…ァ…!!!」」

 

後から聞いた話、対応していた女性隊員の名はハルというらしい。隊長の雑務をこの悪夢の様な白い毛玉に押しつけて、交渉などの実務の要所のみ請け負っているそうだ。

 

アザラシと間違えられた事がショック過ぎて意識を失い、目覚めた時には部分的な記憶が抜け落ちていた。

支援要請に関しては概ね分かっていた様なので本部へのタカリも程々にするようお願いして少数ではあるが貴重な戦力を獲得するに至った。

 

 

 

「あの2人のどっちかがさ、櫂の元カノらしいよ。ジェラル子って言うらしいの」

 

「はえー、あいつやるやん」

 

「あの子の手に負える様には見えなかったけどねぇ」

 

「人は見かけによらんもんやな」

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