若干スランプ気味なのと色んな理由でモチベが低下した事で書くのが遅くなってしまいました。
今回はいつもの主人公視点ではなく、鬼殺隊の視点から書いていこうと思います。原作のセリフなどは原作の大幅コピーは利用規約の禁止事項にひっかかってしまうので出来るだけぼかしますが、話の流れ自体は原作準拠になりそうです。
──時は那田蜘蛛山の戦いまで遡る
「……ここは……そうか、夢だったんだな。……本当だったらどれだけっ! ぐぅっ」
先ほどまでの死闘の熱は夜の冷気に溶け、後には血と土の匂いだけが残されている。
そしてその場の人間で最初に意識の糸を手繰り寄せたのは、竈門炭治郎だった。
「う……っ」
全身を軋ませる激痛に顔を顰めながら、炭治郎はゆっくりと体を起こす。
起きたばかりのせいか思考が霧散しており、上手くまとまらない。禰豆子を取り戻す為に挑んだ下弦の伍との死闘、そして、父から受け継いだ神楽の記憶──そうだ、冨岡さんが俺を助けに来てくれて……。
それで……そうだ。あの時、俺が助けようとした人が禰豆子を襲った下弦の鬼を庇ったんだ。
……一体どうして。鬼といいながら人を喰った鬼特有の刺激臭がなく、泣きたくなるような悲しみと共に優しい匂いを纏う不思議な人だった。
でも、あの人は、本当は鬼で、俺達を騙して……。
『騙してごめん……でも俺は……』
……でも、分からない。
「生き残りたい」という想いが、なぜ鬼を庇うことに繋がるのか。そして、あの時あの人から感じた、辛く悲しい気持ちの匂い。何も分からない。
……あの時、あの人が冨岡さんと対峙したところまでは覚えている。けどそこからの記憶が曖昧だった。分かっていることは、いつの間にか眠ってしまい、家族が今も生きているという夢を見続けていたことだけだ……。
「はっ! そうだ禰豆子!」
家族の夢を思い、そして思い出す。慌てて咄嗟に禰豆子が倒れていた場所に視線を向ける。
しかし、その必要はなかったようで俺のすぐそばで、どこか案ずるように見つめる禰豆子の姿があった。
鋭い糸によって縛られていた時についた傷はほとんど直ったようで、苦痛の表情はない。どうやら俺が眠ってしまった間、守ってくれていたらしい。
「禰豆子……無事だったんだな、よかった……」
安堵が涙となって滲む。禰豆子はこくんと頷き、兄の体にそっと寄り添った。鬼特有の匂いはしても、人を喰らったおぞましい血の匂いはしない。自分の大切な、たったひとりの妹のままだ。
だが、その束の間の安堵は、ふわりと舞い降りた声によって打ち破られる。
「あら?」
蝶が舞うかのように軽やかな声。……知らない女性だ。
俺が目を覚ました時に、俺の周りにいたような気もするが、いつの間にか立ち上がり、俺達の前に立っていた。女性の表情はとてもにこやかだが、瞳の奥底はどこか、氷のように冷え切っており、怒ったような匂いもする。
「どうやら冨岡さんはまだお眠りのようですねー。それにしても……下弦の鬼も、他の鬼も綺麗に消えてしまい、今いるのはそこにいる鬼と坊やだけ、と。これは一体どういうことでしょう? ……坊や」
「は、はい! っ!?」
しのぶの視線が、真っ直ぐに禰豆子を射抜く。
その視線に込められた純粋な殺意に、炭治郎は咄嗟に妹を背中に庇った。
「……坊やが庇っているのは鬼ですよ〜。危ないので離れてくださいね」
そう言って蟲柱は日輪刀を抜き、禰豆子に刀を向ける。
俺はそれを止めるように、更に身を盾にして言った。
「ち、違います! いや、違わないけどっ……この子は、禰豆子は俺の妹で……鬼ではありますが、絶対に人を喰ったりはしません!」
「まあ、そうなのですか? ……お可哀想に」
しのぶは心から同情するように眉を下げた。
「では苦しまないよう、優しい毒で殺してあげましょうね。大丈夫! 痛みは全くありませんから♪」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、しのぶの姿が掻き消えた。──速い。俺の目も、鼻も彼女の姿を追うことすらできない。
俺は自分の体が盾になるよう禰豆子を強く抱きしめ、死を覚悟する。
──しかし、いつまで経っても衝撃は来なかった。
代わりに、背後で金属同士が激しくぶつかる甲高い音が響き渡る──。
顔を上げて振り返ると、眠っていたはずの冨岡さんが、細い刃を刀で受け止めていた。
「……一体どういうことなのでしょう? 冨岡さん。鬼を庇うなんて……隊律違反も甚だしいですよ? 普段鬼とは仲良くできないって自分から言ってるくせに……そんなだから、みんなに嫌われてしまうのですよ?」
「……俺は嫌われていない」
「(ええ……)」
「あー、それ。すみません、嫌われている自覚がなかったんですね」
「…………」
胡蝶にそんな心外な言葉を投げかけられながらも、しかし冨岡義勇は別の事を考えていた。……どうも記憶の断片が繋がらない。自分が鬼に振るったはずの刃の感触は覚えているはずなのに、だがしかしそれは夢だった……。
そして既にあの鬼達はこの場におらず、幻のように消え失せている。
──それは記憶のない、あの二年前のように。
(──俺はまた、逃してしまったのか……)
その空白が、彼の水面のような不動の心に、初めてさざ波を立てていた。だが、それとは別の二年前の夜に下した己の判断を、今ここで覆すつもりは微塵もなかった。
──
「……妹を連れて早く行け」
義勇が低い声で炭治郎に告げる。
「え……」
「痛みで動けないのか! 妹を連れて早く逃げろ!」
「っ! はい!」
義勇の叱咤にはっと我に返った炭治郎は、禰豆子を抱え、もつれる足で必死に駆け出した。
「……正気ですか? 柱が鬼を庇うだなんて」
しのぶは小さくため息をつくと、近くの木の上で静観していた継子の少女に命じた。
「行って、カナヲ」
──
栗花落カナヲは、その命令で初めて動いた。
蝶のように軽やかに枝から舞い降りると、凄まじい速度で炭治郎の後を追う。炭治郎がどれだけ必死に走ろうと、その差は残酷なほどに縮まっていく。
(速い! 追いつかれる!)
カナヲのしなやかな蹴りが炭治郎の背中を捉え、彼は禰豆子もろとも地面に倒れ伏した。抵抗する間もなく禰豆子が襲われそうになり、咄嗟に羽織を引っ張って逃がそうとするが、カナヲが止まることはなく、炭治郎を気絶させ、禰豆子の首に凶刃が迫る──
──その瞬間、上から鎹鴉の伝令が響いた。
その後、鬼を連れた隊士である竈門炭治郎と妹の竈門禰豆子を共に拘束するという伝令により、
鬼殺隊本部へと連行されることとなるのだった。
──
「! ……ここは?」
炭治郎が次に目を覚ました時、最後の那田蜘蛛山の景色ではなく、日射しのある広い広い庭先だった。禰豆子の姿がどこにも見えず、両腕は背後で固く縄で縛られている。
そして炭治郎の目の前には、凡そ尋常とは思えぬ威圧感を放つ剣士たちが、まるで裁定者のようにずらりと並んでいた。
横にいた
炭治郎が隊律違反を犯したとして裁判を始める前に、炎柱や音柱、風柱により即刻処刑という話になりかけ一悶着はあったものの、胡蝶しのぶの鶴の一声によって裁判は始められることになる。
炭治郎の話に入る前に、まずは那田蜘蛛山での一件を見ていた鎹鴉からの報告という、混乱を極めた情報共有から始まった。まずは討伐対象であった下弦の伍が謎の鬼の介入によって取り逃してしまったこと。
現場にいた二人の柱が鬼の血鬼術によって無力化されてしまったという深刻な事態。
そして気づけば、介入してきた鬼たちは忽然と姿を消し、鬼の少女だけが残されていたこと。断片的で矛盾した情報が、柱たちの間に疑念と焦りを生んでいた。
「冨岡、胡蝶。お前たちは血鬼術で眠らされたというが、どんな術だった」
蛇柱・伊黒小芭内が、木の枝の上からネチネチとした声で問い詰める。
「……記憶が定かではない……。だが奴は自身の血を霧状にして撒き、あるいは剣のような銃で血を撃ち出していた。恐らく奴の血によって発動する血鬼術なのだろう。……幽鬼も同じく血を使って戦う鬼のはずだ。今回も奴の首を切る瞬間……術をかけたか……」
「おや? 私が来た時には冨岡さんは既に眠っていましたが、別の鬼が1匹増えていましたよ? それに瞳に十二鬼月である『下壱』の文字が入っていましたし、その方の力なのではないでしょうか?」
「うむ! 一度ならず、二度までも鬼を逃すとは、柱として実に不甲斐ないな! もし俺なら恥ずかしすぎて穴があれば入っているところだ!」
「はっ、いつも俺はお前達とは違うとほざいておきながらこのザマかよ! もう柱を名乗るなんて辞めたらどうだ? 冨岡さんよぉ……」
「…………」
「(黙っている冨岡さんも素敵!)」
「まあまあ、煉獄さん、不死川さんも。私もその鬼の血鬼術にかかってしまったので、冨岡さんを悪くは言えませんよ。話からして今回遭遇した鬼は、やはり以前冨岡さんが狩り損ねた幽鬼である可能性が高いですね。
そして、その鬼が下弦の伍に『あの方の命令』と言っていた事が私は気になります」
「「「「!」」」」
その言葉に、柱たちと炭治郎の間に緊張が走る。幽鬼は鬼舞辻無惨直属の可能性が高いと。
「ちっ、なら尚更その鬼を逃がしてんじゃねぇよ! ……まあいい、正直まだ納得しきれてねぇ部分はあるが、那田蜘蛛山での件は分かった。……だが俺はまだ納得してねぇことがある!」
不死川実弥が苛立たしげに話を遮り、禰豆子の入った木箱に躊躇なく刀を突き立てた。
「っ!? やめろおおおおおおおおおおお!!」
炭治郎が絶叫する。
風柱の蛮行を止めようと炭治郎は駆け出すが、蛇柱により取り押さえられてしまう。
呼吸をして抜け出そうとするも、体の血管が破裂すると蟲柱に言われるが、そんな事を構うことなく呼吸を続け、抜け出そうともがく。それを横目に風柱が笑みを浮かべ、自らの腕を切りつけ、血の滴る腕を木箱の前に晒した。
「鬼なんてものは皆同じだ! 今ここで証明してやる!」
「さあ出てこい鬼ィ! お前にとって一番のご馳走、稀血だぞ!」
全ての柱が固唾を飲んで見守る中、しかし陽が差し込む日向では鬼は出てこないと伊黒によって指摘され、実弥が木箱を部屋奥まで投げ入れる。すると木箱の扉がゆっくりと開き、中から現れた禰豆子は、荒い息をつき、飢餓に耐えるように拳を握りしめていた。
(ダメだ、耐えろ禰豆子!)
炭治郎が心の中で叫ぶ。絶望的な状況下で、ただ妹への信頼だけが彼の支えだった。
そして、禰豆子はふいっと顔を背けた。実弥の血を、明確な意志をもって拒絶したのだ。
その事実に、柱たちは驚きを隠せない。
「……どういうことだ」
──その時だった。
「「お館様の御成です」」
凛とした声と共に、先程までの殺気が嘘のように霧散し、風柱含む柱たちが一斉にその場にひざまずいた。炭治郎が顔を上げると、そこには顔の上半分が病に爛れた痛々しい姿の男が、二人の娘に支えられて静かに立っていた。
鬼殺隊当主、産屋敷耀哉。その人であった。
「おはよう、私の可愛い子供達。今日はとてもいい天気なのかな」
その声は、聞く者の心を穏やかにする不思議な響きを持っていた。
「炭治郎と禰豆子のことは、私が容認していた。そして、皆にも認めてほしいと思っている」
先程までの会話が聞こえていたのか、炭治郎と禰豆子を認めるという耀哉の言葉に、柱たちは一斉に反対の声を上げる。しかし、耀哉はそのまま静かに続ける。さらに、先代水柱である鱗滝左近次からの手紙が読み上げられる。もし禰豆子が人を襲った場合は、竈門炭治郎、鱗滝左近次、そして冨岡義勇が腹を切って詫びる、という内容だった。
恩人二人の命を懸けたその覚悟に、炭治郎は涙を抑えきれなかった。
しかし、それでも納得のいかない柱達に、人を襲わないという保証はないが、逆に人を襲うということもまた、証明ができないという事を告げる。
「禰豆子は、鬼となってから二年以上、一度も人を喰っていない。これは紛れもない事実だ。そして禰豆子のために三人の者の命がかけられている。これを否定するなら否定する側もそれ以上のものを差し出さないといけない。」
その意志があるかと耀哉は柱達に問い、柱達は言い淀む。
更に耀哉は炭治郎が鬼舞辻無惨と既に遭遇している事を伝えた。
「な、そんなまさか…柱ですら接触した事がないのに!?」
それを聞いて困惑を抑えきれず、炭治郎に問い詰める柱達。
お館様として混乱を鎮める為、産屋敷耀哉は口に手を当てた。
静かになった場に耀哉は続ける。
鬼舞辻は
「……くっ!!」
それでも納得のいかない実弥は、再び禰豆子に近づき、己の血で誘うが、禰豆子はやはり、頑として顔を背けた。
「では、これで禰豆子は人を襲わないという事が証明されたね」
耀哉の言葉に、もはや誰も正面から反論はできなかった。
「炭治郎。十二鬼月を倒しなさい。そうすれば、君の言葉の重みは変わり、皆に認められるよ」
「!……はい!」
「それから、那田蜘蛛山に現れたという『幽鬼』、そしてもう一体の鬼……彼らのことも気がかりだ。無惨は確実に何かを企んでいる。炭治郎、君は彼らにも会っているんだね?」
「はい。俺が下弦の鬼と会う前に皆さんのいう『幽鬼』という方と会いました。でも、その鬼からは禰豆子のように人を喰った特有の匂いが全くしませんでした。そして……ただ、自分が生き残るために必要なことをしているだけだ、と……何か事情があるような気がして…」
炭治郎の言葉に、耀哉はふっと空を見上げた。その穏やかな表情の奥で、数多の情報が瞬時に照合されていくかのような、深い静寂が瞳をよぎった。
「……そうか」
耀哉は何かを理解したように小さく頷くと、炭治郎に優しく告げた。
「分かったよ。炭治郎、まずは蝶屋敷で傷を癒しなさい。そして皆も、炭治郎達と『幽鬼』という鬼舞辻無惨が見せた尻尾を逃がさないように」
こうして炭治郎と禰豆子にはひとまずの猶予が与えられる事になった。
しかし、炭治郎の肩には、ただ妹を守るという純粋な願いに加え、柱たちの訝しむ視線、そして『幽鬼』が残した謎の言葉の重みが、ずしりと圧し掛かる。そして、鬼殺隊の運命が、そして自らの運命が、既に知らぬ場所で大きく軋み始めていることなど、今の彼には知る由もなかった。
──そして、時は過ぎ、無限列車編へと続く
おまけ、カナヲ視点
「うーん……」「ん!」
「……(何あれ?)」
狂酔と禰豆子が眠りに落ちた柱達を前に、互いに引くことのない壮絶な戦いを繰り広げる中で、一部始終を、離れた木陰から栗花落カナヲは見る。
蟲柱の継子であり、師範である胡蝶しのぶと共にこの那田蜘蛛山に来た彼女は、自身よりも早い速度で先行した胡蝶しのぶを追いかけ、その先で奇妙な光景を見ていた。
何故か先行したはずの師範と他の水柱ら鬼殺隊員が仲良く眠っていたのだ。しかも青年が師範らに近づこうとしており、しかしそれを少女が手を大きく広げて防いでいる。
そんな混沌とした光景から得られる情報をカナヲでは処理しきれず、青年が師範に近づこうとしたように見えたので止めに入るべきかとコインを投げるも裏は出ない。更に少女が師範に近づき、そして師範がいきなり燃え始めたのでさすがに助けに行こうとするが、やはり……裏であった。
……何回行動しようとしても、裏しか出ないので、カナヲはその内、考えるのをやめた。
ーー
なんか無理あるなと思ったそこの貴方。私もそう思います。今回の話は今まで主人公視点でしか書いてこなかったので、めちゃくちゃ難産でした。
登場する人物が多いと書く難易度がアホほど高くなりますね、勉強になりました。
皆さんに参考までに聞きたいんですど、このまま原作に沿ったルートにするか、それとも原作から大きく離れ、鬼側無双RTAみたいに展開を早くするかどっちがいいですか?
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今まで通り原作準拠で進める
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主人公の血鬼術による鬼側無双ルート
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その他(ifとして後で作る)