ほら、頑張れ頑張れ。
昨日、日記で書いていたように今日は夕方明けの人街に来た。
そのままの状態で街に出れば間違いなく不審者として御用になるのは目に見えている為、今日も屋根と路地を渡り歩き隠密行動で動く。
いかに血を貰って身体能力が上がったとはいえ、無闇に騒ぎを大きくして、鬼殺隊を呼び寄せて、隊士に首を切られる事になってしまっては元も子もない。
それに出来れば人を殺したくないという前世の倫理もある。
これから試そうとしている実験も、予想が正しければ騒ぎになることはないはずだ。
もし成功すれば、無惨様への成果として差し出せる切り札にもなる。
夕闇の影が長く伸びる街角で、俺は静かに屋根から屋根へと飛び移った。
人々は家路を急ぎ、提灯の明かりが細い路地を照らす。
鼻をくすぐるのは、囲炉裏で焼いてるのであろう焼き魚と酒の匂い──そして人間達の臭いが混じっていた。
「……じゅる……はっ! いかんいかん!」
やはり獣の肉を食べているとはいえ、人間と言う鬼の御馳走を目の前にすると今すぐ飛びつきたい欲が生まれてしまう。本能を強引に理性で抑えつけ、その場を後にする。
ここは人通りが多くて目立ちすぎる。もし狙うならば人通りが少ない路地裏などで実験したい。
そして路地の隅、洗濯物を取り込む若い女性を見つける。
「……よし、あの女性にしよう」
俺は指を噛み千切り、血を瓦から垂らす。
それは女の肩に落ち、彼女が不思議そうに指先ですくって鼻先に近づけた瞬間──女性の瞳が虚ろに濁った。
術に掛かったと判断した俺は、屋根から女性の前に立ち、反応するか試すが女性が俺を見ても取り乱す様子はなく、周囲に異変を気づかせることなく、支配は完了していた。
俺の血鬼術は自分の血を飲んだり、空気中に散った血を吸った者の意識を洗脳し、支配下におくというものを想像していたが、どうやら上手くいったようだ。
なぜ、この血鬼術を考えたのか。
──答えは簡単、呼吸封じである。
まだ鬼殺隊士には試せていないが、彼らの使う呼吸は空気中の酸素を肺に取り込み、身体を強化して型を放っている。そんな彼らにとっての生命線が使えなくなるとどうなるのか。
上弦の弐である童磨の血鬼術の氷は肺を凍り付かせ、壊死させ蟲柱の胡蝶しのぶに大ダメージを負わせていた。しかしそれだけでは血気迫る鬼殺隊士らの勢いを止められるのかと言えば怪しい。
故に俺は血鬼術を戦闘向けではない洗脳・支配という形にして確実に封じられるようにした。
しかし鬼滅の刃の小説で精神支配を使う下弦の壱が負けた事が書かれていたため、油断はできない為、血鬼術に縛りや制約と誓約の概念があるかは分からないが、この能力を使うときは俺の血を使用しなければならない事、能力自体は殺傷能力を持たせず、指示を出さなければ1分以内に能力が解除される事。それを条件に能力の発動成功率が上がるようにした。
支配は上手くいったので次は洗脳だ。
この状況を誰かに見られては不審がられる為、早々に進めなければならない。
「……俺の言葉を問答無用で信じろ。」
「俺の命令を可能な限り遂行しろ。」
「昼に咲くとされる青い彼岸花を誰にも悟らせないように探して見つけ次第、俺に知らせるか持ってこい。それまでは今まで通りに過ごせ」
「……はい」
そう命じると、女性は何事もなかったように洗濯籠を抱えたまま家に入り、戸を閉めた。
鼓動も声も乱れない。また周囲に異変を気づかせることなく、支配は完了していた。
「よし!」
どうやら完全に上手くいったようだ。
これで自分の術が正常に機能する事が分かったので、これで次の計画に進められる。
上手くいったことによる高揚感と達成感で声が上擦る。
実験は成功したので、後は廃屋に戻り、準備を整え次第、次の街に行き、同じようにして協力者を増やす事で全国中を捜索できるはずだ。
とりあえず女性の家から離れ、廃屋に戻ろうとした時。
「!?」
先ほどまで感じられなかった異様な冷気が俺の興奮をかき消した。
路地の入り口に、ひとりの男が立っていた。
単色の葡萄色と緑とオレンジの柄が入った明るい羽織波の文様を半々羽織にし、腰に刀をつけている。そして男の顔は原作の鬼滅の刃の推しでもあった人。
鬼殺隊──水柱、冨岡義勇の姿がそこにあった。
「お前は……鬼か」
低く、淡々とした声。それなのに全身を釘付けにされるような威圧感があった。
俺は即座に後退するが、瞬きをする瞬間に姿は視界から消え──次の瞬間、首筋に冷たい物が触れる。
「……お前が女性を殺害した噂の殺人犯だな」
(まずい、速すぎr)
「全集中・水の呼吸、壱ノ型──
反射的に後ろへ飛び、爪から血を飛ばす。
しかし、水柱は澄ましたように刀を振って血を弾き、眉ひとつ動かさない。
「全集中・水の呼吸、拾壱ノ型──【
「そんな小細工は俺に通じない」
何事もなかったように、切り払われ、刃が再び首を狙う。あと一瞬で俺の首は落ちるだろう。
──死にたくない。
これが走馬灯なのだろうか、時間が、引き延ばされたように遅くなる。
俺は口を噛み切り、刃が迫る瞬間、振り向きざまに血しぶきを義勇の顔へと浴びせた。
鉄の匂いが鼻腔を満たす。
そして──義勇の瞳が、濁った。
「……俺と会ったことは忘れろ」
死の恐怖に突き動かされ、俺はそれだけ告げて屋根へ跳び上がる。もっと命令を刻むこともできたが、下手に行動を変えさせれば原作の流れが崩れる恐れがある。
ひとまず、呼吸使い──それも柱にも俺の術が通じることが分かった。今はそれで十分だ。
こうして、俺は初めての鬼殺隊との遭遇を切り抜けた。
「……なぜ、俺はこんな場所にいる」
冨岡義勇が正気に戻った時、路地には人影もなく、夜風だけが吹き抜けていた。
主人公を生き残らせるためにとりあえず勝たせるしかなかった...。
全国の富岡義勇ファンの方ごめんなさい!
とりあえず出し切ったので一旦チャージ期間を挟みます。
ではまたお会いできる日まで、ごきげんよう。
皆さんに参考までに聞きたいんですど、このまま原作に沿ったルートにするか、それとも原作から大きく離れ、鬼側無双RTAみたいに展開を早くするかどっちがいいですか?
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今まで通り原作準拠で進める
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主人公の血鬼術による鬼側無双ルート
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その他(ifとして後で作る)