数多の忘却との出会い   作:獄華

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 カメラマン堤郁依は被写体から何かを感じ取った。


捨てられた仮面

 

 「何それ本気?。あんたつまんない」

 

 忘れもしない…あれはAve Mujicaが解散する少し前。

 若葉睦()と言う人間を構成する数多の人格の内、私を演じていたモーティスがその時驚いていたのを私は鮮明に覚えている。

 今までのカメラマンならこの笑顔でOKサインが貰えるのが常道だった。

 聞きたくもない「流石、森みなみの娘ね〜」なんて枕詞を聞きながら。

 その日、私達(・・)につまんないと告げた男性カメラマンに私もモーティスの中で驚いていた。

 

 ―――モーティスの笑顔がつまらない……?。

 どうして……この子は私より笑顔が上手いのに…。

 

 金髪で天然パーマでピアスをしたその男性は済ました顔のまま話を続ける。

 

 「三角さんだっけ?。アレ(・・)の事はもういいや、ボーカルの君だけで表紙飾るから」

 

 「え、はい…」

 

 初華は申し訳なさそうにこちらを見ながら引き続き撮影に挑んだ。

 スタッフも戸惑いながらモーティスを楽屋へと送った。

 

 「ごめんね…あの子、堤君って言うんだけど何考えてるか分からない事があって……まぁまだ彼も19だからねぇ。許してあげて」

 

 「ぁははは!大丈夫ですよ~!」

 

 「ごめんね〜」

 

 スタッフ達が出ていき私達の時間が訪れる。

 誰にも知られず1つの身体を使い私とモーティスで話し合うのだ。

 

 「何!あのモジャモジャカメラマン!。私ちゃんと笑顔だったじゃん!何がいけなかったわけ!?」

 

 「……モーティス。声大きいよ」

 

 「だって!私の笑顔完璧じゃん!小さい時からこの身体で笑顔を見せてきたのに!もう最悪!意味わからない!睦ちゃんもそう思うでしょ!」

 

 「うん」

 

 私も考えるがモーティスの何がいけなかったのかさっぱり分からない…。

 あの堤さんって方のこだわりだろうか。

 程なくし撮影を終えた初華が戻って来た。

 着替えが終わると私達は一緒に楽屋から出て帰路につく。

 その道中の廊下で……。

 

 「あ、堤さん」 「……っ!」

 

 「やぁ、三角さんと若葉さんだっけ?。お疲れ様」

 

 「お疲れ様です」 「……お疲れ様です」

 

 また堤さんに会ってしまったのだ。

 この世に神がいるとしたらとても残酷な事をするものだ。

 初華の隣を歩き顔を伏せ通ろうとするモーティスに「ねぇ」と堤さんは声を掛けた。

 微動だにせずモーティスは「何ですか?」と聞き返す。

 

 「あんたのそれが病気由来の物なら早く病院に行った方がいい。後々取り返しがつかなくなるかもよ」

 

 「…何の話ですか?疲れてるのでこれで」

 

 「とにかく。そんな状態のあんたじゃ仮にまた仕事をする事になっても俺は撮れない。本物の若葉睦(・・・・・・)じゃないものになんて興味ない」

 

 「っ!」

 

 「じゃあね。ゆっくり休んで」

 

 堤さんはそう言い残し去って行った。

 

 

 ―――本物の若葉睦なんて最初から私にはないのに。

 これら全てが若葉睦なのに……。

 

 私には堤さんの発言の意図がまるで読めなかったが、直ぐ後に全国ツアーと言う花道の真っ只中のAve Mujicaが私のせいで……解散した。

 彼の言うように取り返しが付かなくなったのだ。

 その後、元CRYCHICとMyGO!!!!!のメンバーの支え、海鈴の奮闘、にゃむの訴えによりAve Mujicaが復活し、復活の産声(バンド)の中()モーティス(・・・・・)は一度消え若葉睦は再構築された。

 今ではどの人格も節制を守り()を演じている。

 今日はカタログの撮影だ。

 カメラマンはあの時の堤郁依。

 

 「ギター上手いんだね」

 

 「Ave Mujicaとモーティスの為です……私はその為ならいくらでも上手くなれます」

 

 睦の武器(ギター)モーティスの武器(笑顔)を構え私は撮影と言う戦場に身を投じた。

 本物の若葉睦なんてない。

 全てが本物の私なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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