数多の忘却との出会い 作:獄華
恐れを知らぬ騎士が忠誠を誓う場所はどこか……。
信用。
現代社会に於いてこの言葉が如何に軽いか私は思い知らされました。
初めて私がバンドを組んだ時、ライブ当日の日に私以外のメンバー全員がボイコットを起こしたんです。
結構上手くやれていたと思ったのですが私一人の自己満足だったようで。
「ふざけんな!」
「金返せ!」
―――人間なんてこんなもの。信じる方が馬鹿を見る。
多数の観客に罵られながら、涙目で頭を下げる私がそう思い込むのに時間は掛からず……このトラウマを無表情の仮面で隠しひたすら前を歩きました。
仲の良いバンドを見るたびに胸をチクリと痛めながら。
Ave Mujicaが解散する時も、「あぁ仕方のない事だ」と言う感想しか出てきませんでした。
寧ろバンドが続くほうが珍しいのです……遅かれ早かれ解散が来るのは運命。
ましてや、若葉さんが若葉さんではなくなりギターが弾けなくなるような状況では無理もありません。
「では失礼します」
Ave Mujicaの最終ライブを彩ったのは観客の不満と悲鳴。
私の古傷を思い起こすには充分な……。
でも一番傷ついたのは私ではなく豊川さんでしょう。
最後の挨拶をした時、彼女の後ろ姿しか見えませんでしたが……まるで10代の少女とは思えない重く悲しい雰囲気を纏っていました。
オブリビオニスの衣装を着たままだったので余計にそう見えたかもしれません。
Ave Mujicaを辞めた後私は掛け持ちしてあるバンドを手伝う元のルーティンに戻りました。
たくさんのバンドを手伝い『責任』や『信用』も忙しさの中で消し去る。
―――これが私の通常運転、私はこれでいい……。
そう思っていた矢先に私は練習で訪れたライブハウスRiNGで見てしまったのです。
MyGO!!!!!のメンバー否、正確には高松燈さん、長崎そよさん、椎名立希さんと一緒に豊川さんと若葉さんが演奏をしてるのを。
「…元鞘?」
思わず口に溢し私は壁に寄りかかり5人のバンドを聞きました。
美しく暖かい音色……Ave Mujicaとはまた違うアプローチで心に届く叫び。
―――これは……私の知らない音だ。
豊川さんと若葉さんがMyGO!!!!!のあの3人とこれ程精密の高いセッションが出来ると言う事はやはり組んでいたのでしょうね。
伊達にAve Mujicaを創設したわけではないと言う事ですか……。
私も豊川さんと―――。
「元鞘ですか?良かったですね。では…私とも元鞘に戻りませんか?」
いても立ってもいられず私は二人に声を掛けていました。
結果はフラれてしまいましたが。
後日、学校で「Ave Mujicaをやり直すつもりです」と立希さんに言ったら「信用出来ない」と言われてしまいますし。
「睦はどーすんの?」
「誘いましたよ。フラれましたけど」
立希さんは面倒臭そうに舌打ちし、「そういうとこ」と釘を刺すように私に告げてきたのでこちらも少し苛立ちを覚え「何ですか?」と強めの口調で返していました。
「そりゃフラれるでしょ。海鈴信用出来ないし」
「……っ!」
―――なんでだよ!。私はまた人を信じ苦しみも幸せも共有してバンドをしたいのに!。
人を信じたいのに!。
学校終わり気づけば私はRiNGでバイトする立希さんにベースを預けショピングモールでヤケ買いしてしまいその足で祐天寺さんの事務所へと向かいました。
当然その姿に驚かれたのは語るに及ばずですが他にも祐天寺さんは私の言葉に驚きます。
……若葉さんの件で。
「……信用出来ないってそう言う事ですか」
「仕切る割には責任はサキコに取らせるような喋り方しかしてなかったもんね〜」
そこで私は過去のトラウマを祐天寺さんに話したのです。
……彼女はあまり興味無さそうな様子でしたが。
その後若葉さんを連れて来たら連絡してとの言質を取り若葉さんと接触、主人格は若葉さんではなくモーティスさんでした。
ギターが弾けない彼女に若葉さんがギターを弾いてる様子を見させ練習させましたが一朝一夕で身に付く筈はありません。
我ながら愚かな事をしてしまったと若葉さんには反省しています。
後日、私達Ave Mujicaは久しぶりに5人全員が揃いました。
揃うまで色々ありました……感情を制御出来ず泣き出してしまった私の訴え、あたしにはもうAve Mujicaしかないの!と強く発言する祐天寺さん。
それらを汲んでAve Mugicaを復活させた豊川さん。
勿論、ついて来てくれた三角さんや若葉さんにも……この5人だからこそやり遂げられたのだと思います。
復活ライブ後も私達は順調に練習を重ね前へと突き進んでいます。
―――Ave Mujicaに居て良かった。
「海鈴どうされましたの?。チャーミングな笑みを浮かべて」
「素晴らしいバンドに会えた事を感謝しているんです。このティモリス恐れる事を恐れずAve Mujicaをこれからも支えます」
ここが私が忠誠を誓うべき場所なのだから。