数多の忘却との出会い   作:獄華

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奏でられた本当の音色

 

 妾の子。

 ドラマ等でしか聞いた事がない単語にまさか自分が当て嵌っていたなんて夢にも思わなかった。

 

 「貴女の父親は……豊川定治。初音、豊川家の人間に会うのも近づくのも駄目よ……」

 

 本土から離れた島に親子揃って越して来た私に母は蚊の鳴くような声で告げた。

 眼振を起こし、冷や汗をかき、私の両肩に置かれた手はブルブルと震える。

 当時の幼い私でも母の異様な様子が手に取るように分かった……。

 

 「わ、分かったから…お母さん落ち着いて……顔色悪いよ?」

 

 「ごめんなさい……」

 

 以降、母の口から豊川家や私の本当の父の名前が出ることはなくなった。

 母は地元で漁師を営んでいた現在の父と結婚し、私には初華と言う異父姉妹が出来た。

 可愛い私の妹……私とよく似た顔をしているが明るく積極的で私とは正反対。

 

 「大きくなったらアイドルになるの!絶対に東京に出るから!」

 

 「……初華は可愛いからきっとなれるよ」

 

 応援の言葉を口にするのとは裏腹に私は初華に対しコンプレックスを抱いていた。

 彼女は血の繋がった両親と暮らせるが……私は父の名前すら口に出来ない妾の子。

 だけどそのコンプレックスを口にしたらきっとこの生活は壊れてしまう。

 だから私は耐えた。

 私の為でもあるが、家族と言う運命共同体を壊さない為。

 

 ―――心なんて痛んだって構わない……。

 私の犠牲で皆が仲良く暮らせるなら。

 

 「…初音どうしたの固まって」

 

 「なんでもないよ!お母さん!ちょっとボーとしてただけ!」

 

 「まぁ。考え事も程々にね」

 

 「変なお姉ちゃん〜」

 

 ほら簡単だ。

 皆賑やかに笑っいる。

 ずっとこの幸せが続くんだ……きっと。

 幸せな日常を過ごす中、母の話が次第に記憶から薄れていき、完全に記憶の片隅から忘却されるだけと考えていた……あの夏までは―――。

 

 「あ〜!面白かった!」

 

 泥だらけで帰って来た初華は満足そうに笑っていた。

 

 「お帰り初華、友達とでも遊んできたの?」

 

 「うん!お姉ちゃん!祥ちゃんって言うんだよ!」

 

 「さきちゃんか、可愛い名前だね」

 

 「あ、連絡先も交換したんだ〜!字が難しいから祥ちゃんに入力してもらっちゃった!」

 

 私と初華は一つのスマホを二人で使っていた。

 二人ならば互いに注意出来るのでスマホの長時間使用を防げるし、スマホ代の節約にもなるので一石二鳥だ。

 親には感謝しかない。

 

 「はい!これが祥ちゃんの電話番号!」

 

 未だに覚えている。

 初華に見せられたその画面を見て暫く身体が動かなくなったのを。

 

 「お姉ちゃん……?」

 

 「……豊川祥子(とがわさきこ)

 

 祥ちゃんの名前を見た時、私の中で消えかけていた記憶が甦った。

 それから暫く私は新たなコンプレックスに苛まれる。

 

 「今日は祥ちゃんとカブトムシ捕った!」

 

 「……そうなんだ」

 

 間違いない。

 豊川祥子……彼女は私と同い年の姪だ。

 教えてくれたのは母、初華が祥ちゃんと仲良くなったのを彼女から聞いたのだろう。

 初華が初めて祥ちゃんと遊んだ翌日に、私は一人だけ部屋に呼ばれ母の前に座らせられた。

 母の表情が重い。

 

 「初音。初華が仲良くしてる祥ちゃんは貴女と同い年の姪よ」

 

 「……姪?、祥ちゃんが」

 

 「えぇ。言わなくても賢い貴女なら分かると思うけど、くれぐれも馬鹿な気は起こさないで頂戴ね。豊川の血筋は貴女には関係無いわ」

 

 「……はい」

 

 母は私から何かを感じ取ったのか真剣な表情で私に言いつけた。

 毎日繰り返される初華の祥ちゃん自慢に私も祥ちゃんと遊びたいと言う思いが徐々に強くなっていく。

 

 ―――駄目なのに。

 私は豊川の血筋と関わっていればはならないのに……祥ちゃんと遊びたい!。

 どうすればいいの?。

 

 初華が熱を出した日魔が差した。

 気づけば私は豊川家の別荘の前に立ってしまったのだ。

 窓の外から仲の良い父と母と娘の家族三人のやり取りが見えた。

 親から与えられた幸せを噛み締め少女は楽しそうに笑っている。

 

 「ごきげんよう!」

 

 私とは違い無垢な目がこちらを捉える。

 逃げなきゃと去ろうとする私に祥ちゃんは続けて話し掛けた。

 

 「初華(・・)。今日は何をして遊ぶんですの?」

 

 ……私は初華じゃない。

 

 「初華?」

 

 私は―――。

 

 「虫を取りに行こう!大きな蝶々がいる場所を知ってるんだ!」

 

 初華の笑顔を真似た私はその日一日祥ちゃんと遊んだ。

 信じられない程楽しかったが……同時に私は罪悪感に苛まれた。

 初華を騙り、祥ちゃんまで騙した事を。

 自分自身の欲を満たしたいが為に母との約束を裏切り血の繋がった妹と姪を騙す程私は堕ちたのだ。

 だけどこの時間だけは三角初華として過ごしたい。

 ……私は本当に傲慢だ。

 誰に似たのか。

 

 「明日、帰っちゃうんだよね?」

 

 「えぇ、残念だけど帰らないと……」

 

 「じゃあ夜も遊ぶ?」

 

 「夜は怖いですわ…」

 

 「迎えに行くよ!窓を叩いたら合図だから!」

 

 その日の夜、祥ちゃんの部屋の窓に小石を投げた。

 これが彼女が指定した合図……程なくし満面の笑みの祥ちゃんが出てきた。

 私達は手に手を取り合って走り出し森の中に入る。

 

 「怖くない?」

 

 「初華が一緒ですもの!冒険の始まりのようでワクワクしますわ!」

 

 森を抜け出すと夜空には数多の星が。

 

 「こと座、はくちょう座」

 

 星座を指さし私は唱える様に名前を言っていく。

 

 「ふふふ」

 

 「どうしたの?」

 

 「初華は不思議な人ですわね。いつもはお日様みたいに明るいのに今日は月のように優しくて」

 

 光が満ちた私の人生に。

 あぁそうか……私はずっと照らされたかったんだな。

 可哀想なだけだった私を人間にしてくれた。

 大好き!。

 私だけの祥ちゃん!可愛い祥ちゃん!。

 

 「う、いか?具合が悪いんですの?顔が真っ赤よ?」

 

 「……なんでもない!ねぇ祥ちゃん。また会おうね」

 

 「えぇ!機会があれば」

 

 それからはまるでジェットコースターのようだった。

 血の繋がりのない父が死に、私は泣くわけにはいかないと涙を堪えていると初華に「…なんで初音は泣かないの!。お父さんの事なんてどうでもいいと思ってるから!?」と怒鳴られ……家族に見切りをつけ祥ちゃんが居る東京に。

 スカウトされアイドルユニットsumimiを結成し芸能界デビューを果たし真っ先に祥ちゃんに連絡した。

 メール来た時は興奮して泣きかけたよ本当に。

 祥ちゃんのお父さんが偶然sumimiのライブに来てくれていた事もあり彼とも話した……私の出で立ちも。

 びっくりしたのはその後、祥ちゃんのお父さんが豊川の一族から追放されたから私のせいだと思ってたら「地面師のせいですわ」と祥ちゃんから聞いた。

 

 ―――実の父に離れなさいって言われて、島に戻ったら祥ちゃんが助けに来て……そこで私の本当の名前も告げて。

 ふふふ、本当にかっこよくて可愛い姪だな。

 ……大好き、世界で一番。

 

 「色々あったよね」

 

 「どうしたの初音急に」

 

 「祥ちゃんから電話が来てAve Mujicaを結成してからさ、睦ちゃんとモーティスちゃんの件だったり、解散したり、海鈴ちゃんが呼びかけたり、にゃむちゃんが発破かけたり、再結成したり」

 

 「ふふふ、ですわね。神として私が今度はきちっとマネジメント致しますわ」

 

 「祥ちゃん、たまには甘えていいんだよ。姪なんだから」

 

 「……もう子供じゃありませんわ私は」

 

 「私からすれば可愛い姪だよ」

 

 「初華。しつこい叔母は嫌われるよ」

 

 「そうなんだ。気をつけるよ睦ちゃん……え、睦ちゃん?」

 

 私と祥ちゃんの驚愕の声が響いた。

 

 「む、むむむむむむむむむむ睦ちゃん!なんでいるの!?」

 

 「気配を消してこっそり忍び込んだ」

 

 「だ、だだだだだだだだだだ誰から習ったの!?」

 

 「楽奈が教えてくれた」

 

 楽奈ちゃんは何者なの……?。

 

 「最近祥と初華がより親しくなっていたから気になってたの。親戚だったんだ。クス、通りで同じリアクションするはずだね」

 

 「……睦ちゃんは私が気持ち悪くないの?」

 

 「そんな事思わない。複雑な家庭環境だろうが初華は私達の大切な仲間、Ave Mujicaのドロリス。運命共同体を私は拒絶しない」

 

 「睦ちゃん!」「睦!」

 

 「って事で今日は私が祥を抱っこしながら寝ます。初音おばさん」

 

 「うん♪前言撤回だね♪祥ちゃんの隣は私だからぁぁぁ!」

 

 「しわが増えるよ初音叔母さん」

 

 「あんたに叔母さんって言われる筋合いないから!」

 

 「……ど、どうすれば?」

 

 なんだかんだあってこの後祥ちゃんが本気で泣き出してしまったので休戦して非常に不服でしたが私と睦ちゃんで祥ちゃんを抱き締めながら寝ました。

 凄く可愛いかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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