自称“凡人”の人生譚   作:飢堕天

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 お待たせしました。
 なかなか話が進まないですね。
 すみません。。。。


12話 帰宅と出発

 

 時刻は真夜中。

 

 「……静かだな」

 

 眼前には廃教会。

 俺の新しい本拠地が静寂に紛れるようにして存在している。

 周囲には誰もいない。

 フェルは俺の影の中に居るため、この場には俺一人。

まるで現世から切り離されたような感覚になるが、頬を撫でる温かな風が確かに生きていることを実感させてくれる。

 

 「二人は……居るな」

 

 《魔力感知》で廃教会の地下にある隠し部屋を確認する。

 生体反応を二つ感知したことで、二人が居ることを認識する。

 

 ここを出てから丸一日と半日。

 行きに要した時間は半日。

 帰りに要した時間は丸一日。

 

 できるだけ早く帰りたかったが魔力が枯渇していたため、行きより時間が掛かってしまった。

 帰りはフェルの背に乗って移動した。

 どうやら影の兵士の体力は無尽蔵らしく、疲れることなく走り続けてくれた。

 速度は飛翔時の俺よりも格段に速かったので、陸地移動だが然程時間もかからずにオラリオに帰還することができた。

 

 廃教会の古びた扉を開き中へ入る。

 そのまま隠し部屋につながる階段へと向かう。

 

 《魔力感知》で確認した限りでは、既に二人は寝床に入っている。

 起こしては忍びないので、できる限り音を出さないように心がける。

 

階段につながる扉を開け、足音を立てずに階段を下る。

 流石に暗くて前が見えないので、光魔法で淡い明かりを灯す。

 

 音を立てることなく階段を下り切り、部屋へと入る。

 

 「……ただいま」

 

 一応帰宅の挨拶をする。

 小さく呟いたその声は、すぐに空気に溶けていった。

 

 部屋を見渡し、二人を視認。

 二人ともぐっすりと寝ている。

 起きそうな気配がないことに一つ息を吐き、スペースがある箇所に移動する。

 

ベッドを一つ置けそうな場所。

 その前に立った俺はその空間に手を翳し、心の中で魔法名を唱える。

 オラリオに帰還する道中で検証した結果、【起源魔導】の効果である詠唱破棄は詠唱文だけでなく魔法名すら省略可能であることが判明した。

 

 【クリエイト】

 

 創造するのはベッド。

 人一人が寝ることができるサイズをイメージする。

 この魔法はイメージを鮮明にすることが肝だ。

 精神力に関してはある程度回復したので問題ない。

 

 魔法を発動して数秒。

 目の前には想像通りのベッドが創出された。

 

 「……やっぱ便利すぎんだろ、この魔法」

 

 【オムニ・ジェネシス】のあまりの便利さに呆れ交じりのため息を吐く。

 しかし呆れる心情とは裏腹に口角は自然と上がり、魔法の凄さに胸が高鳴っていることを自覚する。

 

 それも仕方のないことだと自分で思う。

 何しろ俺は魔法が大好き人間だ。その思いは恐らく、いや確実にベル以上であると自負している。

 そんな俺に『創造魔法』という規格外魔法が発現したんだ。興奮するなという方が無理である。

 

 とはいえ、流石に声に出して興奮を露にしては二人を起こしてしまう。

 そのため今は胸の内に留めておく。

 

 さて、今日はもう遅いしさっさと寝るか。

 靴を脱いで静かにベッドに入る。

 できればシャワーを浴びたかったが、寝ている二人を起こしてしまう可能性があるため断念。

 

 起きてから浴びよう。

 そう心に決めて、眠りに入った。

 

 

 

 

 「——……る……よ……る……」

 「……ん……?」

 

 声が聞こえる。

 同時に身体を揺すられる感覚もする。

 瞼越しに入り込む光に目を細めながら、上体を起こした。

 

 「夜!」

 「ヨル君!」

 

 微睡む意識の中、声のする方へ視線を向ける。

 そこには心配と安堵の入り混じった表情のベルとヘスティアが居た。

 周囲を見渡せば、温かな光で包まれている。

 天井に目を向けると、隙間から太陽の光が漏れている。

 そこでようやく、朝を迎えたことを認識した。

 

 視線をもう一度、二人に戻す。

 相変わらず心配そうに見つめてくる。

 二人と視線を交わした俺はとりあえず、

 

 「……おはよう」

 

 朝の挨拶をした。

 

 「「あ、うん。おはよう」」

 

 二人も同じように返してくれる。

 どこか中身のない、突発的なニュアンスだが特段気にしない。

 

 朝の挨拶を終了した俺は頭の中で今日の予定を考えて、

 そいえばシャワーを浴びようとしていたんだった。

と昨日のことを思い出す。

 

 シャワーを浴びるためにベッドから立ち上がろうとしたその時、

 

 「「——って、ちがーうっっ!!」」

 

 うおッ、びっくりした……!

 唐突に二人から発せられた大声に驚いて、思わず二人を見る。

 心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。

 先程までぼんやりしていた頭が一気に覚醒してしまった。

 

 声を荒げた二人がこちらを見てくる。

 何やら不満げな顔だ。

 二人の様子に訝し気に感じながらも何かを言いたげなように見えたので、

 

 「……どうした?」

 

 と問いかける。

 すると二人は先程よりも更に眉間にしわを寄せ、

 

 「どうしたじゃないよ!」

 「ボクたちの心情も知らずに暢気なもんだねぇ、君はっ!」

 「二日経っても帰ってこないし心配したんだよ?! 今までどこに行ってたのさ!」

 

 怒涛の勢いで攻め立てられる。

 二人の勢いに思わず背を引く。

 

 二人の表情は怒りの色に染まっている。

 ……どうやら本気で怒っているらしい。

 こちらを睨む二人を前に、頭の中で先程の言葉を反芻しながら状況を整理する。

 

そしてすぐに理解する。

 突然血相を変えて飛び出して、そのまま二日経っても帰ってこなかった。

 そりゃあ……怒るか。

 せめて何か一言でも言っておくべきだったのかもしれない。

 しかしあの時は蘇生魔法のことしか頭になかった。そのため、それ以外に気を回す余裕がなかった。

 けれど、その行動の結果、二人を心配させてしまった。

 

 怒る二人を見る。

 二人の怒りは至極当然のこと。

 この件に関しては全面的に俺が悪い。

 ならば言わなければならないことがある。

 そう思った俺は、

 

 「……何も言わずに勝手に飛び出て悪かった」

 

 そう言って、二人に頭を下げる。

 

 これからはもう少し考えて行動しよう。

 今の俺は一人ではない。

 だから俺の行動が誰かに心配を掛けさせることもある。

 そう心の中で反省する。

 

 「……はぁ、全くだよもう。本当に心配したんだよ?」

 「……すんません」

 「まぁ反省しているようだし。ボクからはこのくらいで勘弁してあげるさ。た・だ・しっ! 次からは事前に説明すること! いいね?」

 「あぁ」

 「ならばよし! ベル君はどうだい?」

 

 何とかヘスティアからは許しを得た。

 次はベルの番。

 ということでベルの方へ向く。

 

 ベルはこちらを見ていたようで、視線が交差する。

 こちらをじっと見つめるベルの視線が痛い。

 先程の怒りの表情とは違う、無表情。

 逆に怖い。

 せめて何かしらの感情は見せてほしい。

 でないと何を考えているのかが分からないし、怖い。

 

見つめ合うこと数秒。

 生きた心地がしないその短い時間は、俺にとっては物凄く長く感じる。

 そしてようやくベルが口を開く。

 

 「……心配したんだよ」

 

 その言葉にどれほどの思いが詰まっているのか、俺は想像することしかできない。

 けれど、本心からの言葉であることは分かった。

 

 「……悪い」

 

 謝る。

 今の俺にはそれしかできない。

 

 「……不安だった。夜がどこかに行って、それっきり帰ってこなかったら……また僕は一人になってしまうんじゃないかって。そう思ったら怖かった……」

 

 そう言って俯くベル。

 

 独りになる恐怖。

 それがベルの心を蝕んでいる。

 ベルの祖父である大神ゼウスが去ってから俺と出会うまでの間、ベルは独りだった。

 

 ベルはその恐怖に逆戻りすることを恐れている。

 だから俺が居なくなってここまで焦燥しているのだろう。

 

 本当に、悪いことをしてしまったな。

 

 「ベル」

 

 俺の呼び声にベルは俯いていた顔を上げる。

 

 「俺はお前の前からいなくなったりしない」

 

 俺の言葉にベルは目を見開く。

つい数日前に飛び出ていった俺が言うには説得力の欠ける言葉だ。

けれど、この言葉は本心だ。

 

 「友達を置いていなくなるわけないだろ?」

 

 これもまた本心。

 けれど、こんなセリフを真面目に言うのは恥ずかしいので、少しおどけてみせる。

 ベルの表情が和らぐ。

 仕方がないなぁとでも言いたげな笑みに、こちらもまた自然と笑みを湛える。

 

 「……本当に心配したんだからね?」

 「あぁ、分かってる」

 「本当に分かってるの?」

 「分かってるって」

 

 俺の言葉に「はぁ」と呆れ交じりのため息を吐くベル。

 失敬な。

 本当に分かってるってのに。

 

 「仕方がないから今回は許してあげる」

 「そうか、ありが——」

 「でも——……次はないよ?」

 「お、おう」

 

 やはりベルは怖い。

 そのことを改めて実感した。

 

 

 

 

 「ふぅ、さっぱりした」

 

 シャワーを浴び終わった俺は、タオルで身体を拭いて服を着る。

 そしてシャワー室を出ると、そこにはベルだけが居た。

 

 「あれ、ヘスティアは?」

 

 部屋を見渡すもヘスティアの姿はない。

 ヘスティアの気配を探るために《魔力感知》を発動する。

 しかし反応はない。

 

 どこかに出かけたのか。

 そう思っていると、

 

 「神様はバイトだってさ」

 

 俺の言葉を拾ったベルが答えを教えてくれた。

 

 なるほど。

 そういえばヘスティアは『じゃが丸君』のバイトをしてるんだったな。

 

神がバイト。

 なかなかシュールな光景だが、生きていくためには金は必要不可欠。

 下界に住まう神々は『神の力(アルカナム)』を封じている。

 そのため、生活能力は俺たちと同等。

 いや、俺やベルは『恩恵』のよって力を得ているため、正確には同等とは言えないかもしれない。

 まぁどちらにせよ、神であるヘスティアも生きていくためには金は稼がなければならないということだ。

 

というか俺自身ヘスティアのことを言える立場ではない。

何しろ、現時点で俺はまだ冒険者登録すらしていないのだ。

 つまりは無職。

 

 うん、早くギルドに行って冒険者登録しよう。

なんだか負けた気分になった俺は、心の中で決意する。

 

 あれ、そういえば、

 

 「なぁ、ベル。お前冒険者登録はしたのか?」

 

 俺が居ない間、ベルが何をしていたのかは聞いていないから分からない。

 けれど、冒険者登録くらいはしているかもしれない。

 そう思って聞いてみた。

 

 「まだしてないよ。ギルドには夜と一緒に行こうと思ってたし」

 

 どうやらまだらしい。

 ベルに「そうか」と返した俺は準備に取り掛かる。

 何の準備か。もちろん、ダンジョン探索の準備である。

 

 

 

 

 「そういえば、夜に聞きたいことがあったんだ」

 

 目の前に佇んでいるベルがそんなことを言ってくる。

 

 「んー? なんだ?」

 

 作業中の俺は、その作業に集中しながら片手間に聞く。

 

「夜が座ってるそのベッド……そんなのあったけ?」

 

 ベルの質問に、あぁと一つ頷く。

 

 「このベッドは俺が創った」

 

 別に隠すことでもないので素直に答える。

 

 「……へ、へー。もしかして、夜が今使ってる魔法で?」

 

 ベルの問いに「そう」と簡潔に返答。

 

今俺がしている作業。それはベルの装備製作だ。

ベルは装備を持っていない。

恐らくギルドに頼めば支給品をくれるのだろうが、当然ながら金がかかる。

 しかしその支給品の性能はそこまでよくはないと思う。

 何しろ、支給品を求めるのは新人くらいだ。

 そして新人に高性能の装備は必要ない。いや、不釣り合いだ。

 理由は単純。新人に高性能の装備を与えれば、装備頼りの戦闘になる。それでは彼らは成長しない。

 まぁ、単純に新人に金を掛けたくないという理由もあるかもしれないが。

 

 いずれにせよ、支給される装備に期待はできない。

 であれば、俺が見繕う方がいい。そう判断した。

 

 「その魔法、とても便利な魔法だよね」

 「そうだな。むしろ便利すぎると言ってもいい」

 

 俺の言葉にベルは「確かに」と頷く。

 

 「……魔法かぁ。いいなぁー」

 

 ベルは羨ましそうに俺の魔法を見ている。

 ベルの気持ちは痛いほど理解できる。

 俺も地球に居た頃は、心底魔法に憧れていた。

 

 けどな、ベル。

 お前はそこまで悲観する必要はないぞ。

 なぜなら——これから先、お前は必ず魔法を発現させる。

 

 そう確信を持って言える。

 けれど、それを口には出さない。お楽しみというものだ。

 

 それはそうと、ベルに言っておかなければならないことがある。

 

 「ベル、この魔法に関しては他言無用だぞ」

 

 この魔法は秘密厳守。

 それだけは守らせなければならない。

 でないと厄介事に巻き込まれることになる。

 それが対処可能な事柄であれば問題ない。しかし、現時点の俺たちでは対処不可能な事象の方が多い。

 

 故に少し語気を強めてベルに忠告をする。

 

 「う、うん。分かった」

 

 俺の醸し出す雰囲気に少し臆しながらも、了承するベル。

 

 ——まあ、厄介事に巻き込まれた場合、最悪相手を皆殺しにしてでもベルだけは守れればそれでいい。

 

 身体の芯が冷えていくのを感じる。

 妙に思考がクリアになっていき、たった一つの行動原理だけが本能と共鳴する。

 倫理観が闇へと沈んでいき、純然たる殺戮本能が顔を出す。

 

 そこで俺は思考を強制的に停止させた。

 

 ……今のは危なかった。

 俺は一体何を考えているんだ。

 自分自身の思考に正気を疑う。

 いくらベルを守るためとはいえ、殺す必要はないはずだ。

 俺が誰かを殺すことなんてベルは望まないだろう。むしろ“僕のせいで”って絶対に自分を責める。その姿が容易に想像できてしまう。

 

 ……また、同じことを繰り返す気か。

 自己満足の為に誰かを傷付ける。

その行為が行き着く先を俺は知っているはずだ。

 

 狂気に吞まれるな。

 でないと——今度こそ、本当に全て失うことになるぞ、ツクヨミ・夜。

 

「……ふぅ」大きく、ゆっくりと息を吐く。

自分の中にある黒い感情を吐き出し、落ち着かせる。

 重く沈んだ思考が正常に回帰する。

 

よし、もう大丈夫。

そう判断した俺は止まっていた作業を再開させる。

 

「夜? 大丈夫?」

 

 すると、そこにベルから声を掛けられる。

 その声色からは心配していることがはっきりと感じられる。

 

表に出てしまっていたか、と己の未熟さを思い知る。

同時に、どれだけ心配を掛けさせるんだ、と己の至らなさに憤りを覚える。

 

 けれど、未熟さは俺個人の問題。

 それを表に出すことなく胸の内にしまい、平常で応える。

 

 「あぁ、ちょっと考え事をしていただけだ」

 「……本当に?」

 「本当だ」

 「……何か隠してない?」

 「隠してない」

 「……そっか」

 「そうだ」

 

 そこで言葉のラリーが止まる。

 視線を上げれば、ベルと目がある。がすぐに逸らす。

 

……その目はやばい。

 こちらを見透かすような目。

 ベルの奴、間違いなく俺が嘘をついていることを見破ってるぞ……。

 

 ベルが向けてくる目に若干の恐怖を覚えたが、かぶりを振ることで意識を切り替える。

 今はベルの装備製作に集中しよう。

 そうして作業を進めていった。

 

 

 「……よし、できた」

 

 装備製作を開始して数十分。

 ようやく完成した。

 製作したのは、胸当て、籠手、肘当て、腰当て、膝当て、脛当て、そして短剣二本。

 装備の系統は軽装。

 ベルの敏捷能力を殺さない装備だ。

 しかし俺が製作した装備一式の性能自体は普通水準に留めておいた。

 

 俺が製作した装備はあくまでも支給品の代替として使ってもらう予定だ。

 もちろん、その分支給品よりは性能は良いはずだ。

 けれど、ベルが身に着ける装備の本命は俺が製作した装備ではなく、ある男が製作した装備だ。

 本命と出会うのはもう少し先になるが、その出会いがきっかけとなって大きな歯車が動くこととなる。

 故に、そのきっかけを摘んでしまうことは避けなければならない。

 俺が普通水準に留めたのはそれが理由だ。

 それに普通水準と言っても上層程度であれば十分やっていけるレベルではある。なので問題はない。

 

 「うわー! すごい!」

 

 ベルを見れば、その顔は喜色一色。

 子供が玩具を与えられたように喜んでいる。

 その様子に、思わず頬を緩める。

 満足してもらえてよかった。そう思えた。

 

 「夜! この装備すごいよ!」

 「そりゃよかったよ」

 

 キラキラした瞳を向けてくる。

 あまりにも眩しかったため、視線を逸らして答える。

 

 あ、肝心なことをまだ聞いてなかった。

 

 「着心地はどうだ?」

 

 そう、着心地は聞いておかなければならない。

 いくら装備の見た目が気に入っても、装備者に合わなければ逆効果となる。

 ベルの身体に直接装備状態になるようにして製作したので、フィット感は問題ないと思う。

 しかし、装備を制作したのは初めての為、どこか違和感がある可能性はあるかもしれない。

 そう思って訊ねてみれば、

 

 「とてもいいよ! 初めて着たのにすごく身体に馴染んでる!」

 

 どうやら問題はないようだ。

 とりあえずは成功したことに安堵の息を吐く。

 

 ベルを見れば、まだはしゃいでいる。

 これは落ち着くのに時間が掛かるな、そう思った俺は今のうちに自分の装備も製作してしまうと行動に移す。

 

 数分後。

 自身が着用する装備一式も完成。

 系統はベルと同じ軽装。

しかし、ベルが金属製なのに対して、俺は革製。

理由は何となく、そっちの方が俺に合うかなぁと思ったから。

武器は刀。理由は刀が好きだから、以上。

やっぱり日本人だからな。刀が一番格好いいと感じてしまう。

 

 俺が一人、自分の装備に満足していると、

 

「うわー! 夜の装備もカッコいい!」

 

 ベルが俺の装備を見て称賛の声を上げる。

 ……いいね、褒められて悪い気はしない。

 まあ、だからといって天狗になったりはしないけどな。

 

 俺は別に本職の鍛冶師ではない。

 だから装備自体にロマンは感じても、装備製作に本気になることはない。

 そもそも、製作と言っても俺のものは魔法で創ったものだ。

 つまりはズル。

 このことが鍛冶師に伝われば、間違いなく疎まれる。

 

 一応注意しておこう。

 そう考えてベルを呼ぶと、すぐに反応が返ってくる。

 

 「その装備、どこで手に入れたのか聞かれたら、適当にオラリオ外で手に入れたとでも言えよ」

 「え……どうして?」

 「俺とお前が着用している装備は俺の魔法で創ったものだ。それを鍛冶師に知られれば恨まれる可能性があるからな」

 「それは……確かに」

 

 そう言ってベルは俯く。

 ベルは純粋な男の子だ。

 だからこそ、嘘はつきたくないのだろう。

 けれど、本音を漏らすことで被害を被る恐れがあるのであれば、嘘を語る方がいい。

 それくらいはベルも判っているはずだ。

 

 「……分かったよ」

 

 納得できないのか、不貞腐れたようにそっぽを向く。

 全く……ベルの態度に苦笑する。

 

 「ほら、装備も整えたし——行こうぜ、ダンジョンへ」

 

 そう言って、親指を地上につながる階段へと向ける。

 俺の言葉を聞いたベルは一瞬固まった後、先程の態度を一変して笑顔で頷く。

 

 分かりやすい奴だな、そう思うも胸に留めておく。

 今は野暮ったいことはなしだ。

 

 「行こうっ、夜!」

 「……はいよ」

 

 ベルが走って階段を駆け上がる。

 俺はそれを後ろからついて行く。

 

 ベルの後姿はまだまだ頼りない。

 しかし、ここからどのように成長していくのか。

 

 ——楽しみだな。

前を走るベルの姿を見て、俺は思いを馳せた。

 

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