TS機甲戦記 =無名の神話=   作:ペンギンフレーム

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ep18 神室遊斗③

 7月31日 月曜日 PM9:00 屋上

 

 午前は守護獣戦、午後は神威の検証で碌に先輩たちと話す時間が取れなかった俺は、昨日の夜と同じように屋上にやって来ていた。先に神室先輩の部屋を訪ねてみたけど留守だったから、ここにいるかもしれないと思ったのだ。

 

 流石の神室先輩でも今日のことはこたえただろうし、大丈夫そうか様子を見ておきたい。

 

「お疲れっす、先輩」

「また来たの勇ちゃん? ここは俺の特等席なんだけど~?」

 

 予想通り神室先輩はいた。仰向けに寝っ転がって星空を眺めている。

 多分心を落ち着かせたい時とかによく来る場所なんだろう。

 

「気に入ったんで昨日から俺の特等席でもあります」

「むむ、後輩のクセに生意気な! なんてね」

 

 冗談だよ冗談、と神室先輩はいつもみたいにけらけら笑っている。

 

「今日はどしたの? また眠れない?」

「いや、神室先輩がここにいるかなと思って」

「え~、わざわざ探して会いに来てくれたの? モテる男はつらいね!」

「心配してたんですけど、大丈夫そうですね」

 

 強がりなのかもしれないけど、男ってのは強がってなんぼだからな。内心ビビりまくってたとしてもこういうことを言えてる内はまだ大丈夫だ。

 

「勇ちゃんは優しいなー。神谷なんてめちゃくちゃキレてたのに」

「そりゃ俺より付き合いも長いですし、生きた心地がしなかったんじゃないすか」

 

 わざわざ前日に神室先輩のことをフォローしてくれなんて頼むくらい友達想いの人だし、その分神室先輩の勝手な行動にも怒りを覚えたんだろう。

 

「やー、でも今日はマジで助かったよ。まさかあんな手も足も出ないと思ってなかったからさ、流石に死ぬかと思った」

「だからあんなことしたんですか」

「……あれ? もしかして勇ちゃんも怒ってる?」

 

 もし神室先輩が強がることも出来ないくらい弱ってるんだったら勘弁してやろうかと思ってたけど、大丈夫そうだから遠慮なく言わせて貰う。

 

「怒ってますよ!!」

「ひ~! ごめんて、ほんとに反省してるから! 鏑木さんにもめっちゃ説教されたしさ。作戦無視して独断専行しちゃってマジでごめん! 勝てないって、言われてたのにさ」

「そっちは別に良いんですよ!」

「え?」

 

 それまでずっと浮かべていたヘラヘラした笑みがなくなって、先輩は鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔をしていた。

 

「先輩が言ってたとおり未来は変えられるんですから、やってみなきゃわかんないじゃないすか!」

「あ、そ、そうなの? えっと、じゃあ何にキレてんの?」

「【神風】を使ったことに決まってますよね!?」

「ん、んー? あの状況なら多分俺以外でも使うっていうか、悪いことな気はしないんだけど……」

 

 案の定だ。

 

 神室先輩を探してここまで来たのは、メンタルとか大丈夫そうか心配だったのは勿論だけど、目的はもう一つあった。

 それは釘を刺すことだ。神々廻の話を聞いて、もし奴の言ってることが本当なら、先輩はいざとなったらまた使う気なんじゃないかと思ったんだ。

 

 俺は寝転がってる先輩の上に馬乗りになり、胸倉を掴んで強引に上体を起き上がらせる。

 

「悪いに決まってる! 最後まで諦めないでくださいよ! 死ぬ気で足掻いてくださいよ! 先輩が死んじゃったら残された人はどうすればいいんですか!? 勝手に悲しめって言うんですか!?」

「い、いや、そんなことは言わないけど……」

「だったら仲間を信じてくださいよ! 奇跡に縋ってくださいよ!」

 

 客観的に見て、あの状況ではどうしようもなかったのかもしれない。

 あのまま死を待つくらいなら、守護獣の命も道連れに自爆する方が賢いのかもしれない。

 仲間のピンチに覚醒なんて都合の良い奇跡は早々起きないのかもしれない。

 

 だけど、それでも

 

「死んでも良いなんて思わないでくださいよ!! 俺は……、もう……!」

「勇ちゃん、泣いてるの……?」

「泣いてない!」

 

 汗が目に入っただけだ!

 

「……守護獣はさ、神谷もまだ倒せてないんだ」

「ぐすっ……、なんすか急に」

「言い訳だよ」

 

 グシグシと目元を擦って水分を拭いながら問いかけると、神室先輩は自嘲するように答えた。

 

「だからあの時さ、【神風】を使えば神谷に勝ったって勘違いしたまま死ねると思ったんだ。それならまあ、悪くないかなって」

「なんで、そんなに」

 

 神室先輩が神谷先輩に対抗心を燃やしてるのは知ってるけど、だからってそれはあまりにも行き過ぎている。

 

「あいつとは結構長い付き合いでさ、気づいた頃にはなんでもかんでも比べるようになってたんだ」

 

「テストの点数、足の速さ、テニスの腕、ゲームの上手さ、身長。数え上げればキリがないくらい、さ」

 

「何をやってもあいつの方が上だった。10回やって10回負けるってわけじゃないけど、戦績は大体7:3くらいかな。どっちが上かって言われればいつだって神谷が上だった」

 

「部活の大会じゃ二人でそれなりに良い成績も取れてたけど、いつだって一位は神谷で俺は二番手だった。本番強いんだよねあいつ」

 

「そういやテストの点じゃ勝てたことないかも。あんまマグレで勝てるもんでもないし。あと対戦ゲームやるとあいつ忖度とかしないから毎回ボコられるんだよね。マジムカつくんだわ」

 

 堰を切ったように、溜め込んでいたものを吐きだすように、神室先輩は話し続ける。

 

「ほんと、何やっても勝てないんだよね。一つ一つで見りゃ神谷より凄い奴なんていくらでもいるし、別に完璧超人なんて言うほどの天才でもないんだけどさ。でも俺はそんな神谷に勝てなかったんだ。何も、何一つ。同い年で、同じ趣味で、同じ名前で、なのに俺はあいつの下位互換だった。神谷のことがずっと羨ましくて、妬ましくて、恨めしくて――」

 

 それはライバル視してるなんて簡単な言葉だけでは片付けられないほど、熱の籠った語りだった。

 

「俺にとって神谷に勝つってことは、生きる意味なんだ。一度は逃げちゃったけど、ここでまた会ったのはきっと運命なんだと思う。自分を肯定するために必要なことなんだ。だから、たった一つでも良いから、俺は神谷に勝ちたい。……はいっ、言い訳終わり!」

 

 最後はいつものように明るい笑顔を作ろうとしたんだと思う。

 だけどそれは凄くぎこちなくて、泣き出しそうな子供が必死に取り繕っているように見えた。

 

「神室先輩は……、神谷先輩と出会わなければ良かったって思いますか?」

「思わない」

 

 思わず聞いてしまったその言葉に、神室先輩は何の躊躇もなく答えた。

 

「あいつがいなければ良かったなんて思わない。出会わなければ良かったなんて思えない。何をやっても勝てないのはムカつくし苦しいけど、それと同じくらいあいつといるのは楽しかったから。あいつは俺の、一番の友達だから」

「だったら、なおさら死んじゃ駄目です。生きてれば何回でも勝負出来るんです。だからもう、【神風】なんて絶対使わないでください。どんなピンチでも俺が絶対助けますから」

「あはは、実際助けてくれた勇ちゃんが言うと説得力が違うね」

 

 冗談なんかじゃない。これからどんな敵が襲ってきても、どんなピンチになっても、俺が絶対助けて全員で戦いを終えてみせる。

 

 顔と顔が触れ合いそうなほどに近い距離で、神室先輩の瞳をじっと見つめ続ける。俺は本気だと伝えるために。

 

「……わかった、わかったよ。降参降参。もう【神風】は使わないよ」

「約束ですよ? 針千本ですよ?」

「それじゃ結局死んじゃうって。まあ、また後輩を泣かせちゃうのも忍びないしねー」

「だから泣いてないですって!」

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