TS機甲戦記 =無名の神話=   作:ペンギンフレーム

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ep20 神楽坂日向②

 8月2日 水曜日 PM7:00 コンピュータールーム

 

 着の身着のままでこの世界に放り出された俺にはあまり関係ない話だけど、女神のパイロットに割り振られている個室には物品の持ち込み制限がある。

 自宅から持ち寄ったパソコンやらゲーム機、スマホなんかは一旦対策室の方で預かっていて、休日には申請をすれば一時的に返して貰えるというような仕組みになっているらしい。

 夜更かしして訓練に影響が出ないようにという措置のようだ。

 

 そしてそれとは別に、調べもの等に利用できるパソコンが設置された部屋がある。

 こっちは特に申請とかは必要なく、平日休日関係なく消灯の一時間前までは自由に使用することが出来る。

 アクセス制限がかけられていてSNSや匿名掲示板などは閲覧できないようだけど、一般的な調べものや知人との連絡を取るのに使う分には十分という感じだ。

 

「やっぱりネットで検索しても創作とかオカルトチックな与太話しか出てこないですね」

「精密検査の結果でも遺伝子レベルで女になってるって話だし、それなのに異常はない健康体だしで手がかり0だな」

 

 俺と神楽坂は数日前から、専属医に検査結果を詳しく訪ねてみたり、パソコンを使って手がかりを掴めないかネットで検索をかけたり、大きい図書館の電子目録を調べてみたりと、俺の身に起きた性転換の原因を突き止める手がかりになりそうな情報を探ってるけど、今のところ収穫は皆無だった。

 神話やら古い伝承やらではそういう話も出てくるけど、それはあくまで御伽噺のようなもの。例えば妖怪という概念は日本人なら誰でも知ってるだろうけど、だからって妖怪は実在するんだと思う奴は早々いないだろう。そんなものは手がかりとは言えない。

 

「むむむ、半陰陽、陰の気、陽の気……。うーん、僕たちの知りたい情報じゃなさそうです」

「陰陽思想ねぇ……。実在する疾患は置いといて、あんまオカルトとか信じるタイプでもなかったけど、神威なんてもんがあるなら気だのなんだのもほんとにあんのかねー」

「気ってなんか神威に似てるような気もしますしね。超自然的なパワーという意味では」

「呼び方が違うだけでルーツは同じ、みたいな感じか」

 

 自覚がなかったり微弱過ぎて影響がほぼないだけで、神威を持ってる人間自体は結構いるって話らしいし、そういうこともあるのかもな。

 

「じゃあ共鳴は陰陽和合みたいなものですかね。だったら女神は男としか共鳴しないのも納得です」

「陰陽わごう? なんだそれ?」

「知らないならだいじょぶです!」

 

 神楽坂は教えてくれる気がないようなので後で調べておくか。

 女神が男としか共鳴しないのも納得ということは、まるっきり無関係な話でもないんだろうし。

 

「あーもう何もわかりません! 折角ムツの再生も終わって探検再開出来たのに、つまんないです」

 

 その後も無為に時間ばかりが過ぎていき、神楽坂がわざとらしく頬を膨らませブーブーと文句を垂れだした。

 

 神楽坂は一昨日から昨日にかけて限界まで共鳴しては休憩を取り、また共鳴するというサイクルを繰り返し、ようやく今日の午後になって再生が完了したのだった。ヤマト以外の女神の再生には時間がかかると言っていたけど、ムツの損壊が非常に激しかったことも相まってこれだけ長引いたようだった。

 この二日間、神楽坂は訓練もなしで再生に付きっ切りであり、当然TS探検隊も休業で碌に話す時間もなかった。

 

「ここに缶詰じゃ調べる方法も少ないし、しょうがないだろ」

 

 もっと自由に動けるなら、例えば国立図書館の資料を漁ってみたり、その道の有識者とか研究者とかがいるならコンタクトを取ってみたり、もっと大きな病院なんかで最先端の検査を受けてみたりということも出来るだろうけど、自由に外出出来ない身では選択肢も限られる。

 

「まあ、本当はわかってたんですけど」

「何がだよ?」

「普通に調べてもわかることはないってことです」

 

 そりゃ外科的な手術でもなく遺伝子レベルで女に変わったなんて話は聞いたことないし、俺もそんな簡単にわかるとは思ってなかったけど、わかってたって言うのは何か意味合いが違くないか?

 

「多分神威由来か、それに近い何かだと思います」

「おいおい、『虚無』とは別の原因があるって言ったのは神楽坂だろ?」

「勇くんの神威は『虚無』だと思ってたので関係ないって仮定したんですけど、それ以外の『神威』を持ってるとなると話は変わってきますよね」

 

 『虚無』以外の神威って言うと、『渡河』と『繁栄』のことだろうか。

 でもこれは俺がこっちの世界に来てから手に入れたもので、女になったのより後だ。

 

「神威は原則一人に一つ。でも勇くんは何個も持ってます。つまり普通じゃないってことです。だったら、『虚無』『渡河』『繁栄』の三つ以外にも何かある可能性は否定できません。それが原因なら、完全に女の子の体になっちゃったって言うのも納得できます」

「いや、『渡河』を発動してから気づいたんだけど、自分の中にある神威の数は何となくわかってるんだ。『虚無』と『渡河』と『繁栄』の三つ。今のところそれ以外はないぞ」

 

 今後また守護獣の持つ神威を手に入れられるのであれば増えるかもしれないけど、現状では三つだけだと自覚してる。

 

「逆に言えば発動するまでは把握できてなかったんですよね? だったら勇くんが把握出来てないだけで、眠っている神威がまだあるのかもしれません」

「そう言われると絶対ないとは言い切れないけどさ」

「それを自覚できれば元の姿に戻れるかもです! さあ覚醒してください勇くん!」

「覚醒しろって言われて出来るのは覚醒って言えるのか?」

 

 一応目を閉じて集中しながら自分の中の神威を探ってみるけど、やっぱり何もわからない。

 

「本気でやるなら女神に乗ってる時の方がいいかもな。共鳴中の方が神威を感じやすい」

「じゃあ早速明日の訓練でこっそり試してください!」

「別にいいけど、そんなに焦らなくてもよくないか?」

 

 精神の安定化に繋がり戦力アップにもなるという話だったけど、正直今は帰った後の心配をしているほど余裕がないというのも本音だ。色々試すのは戦いが終わった後でも良いと思うんだけどな。

 

「何言ってるんですか! 『渡河の神威』を使えるようになったってことは、元の世界に帰れるかもってことですよね? だったら早く男の子に戻る方法を見つけないとじゃないですか!」

「帰れるかもってのは俺も思ったけど、今はまだ無理だ」

 

 この世界に迷い込んでしまったのは『渡河』の守護獣のワープに巻き込まれたからで、『渡河』を使えるようになった今なら帰れるかもしれないというのは俺も考えた。

 でも実際一昨日の訓練兼検証で試した結果、俺の『渡河』にはまだそれほどの力がないということがわかった。

 

「まだ? いつか帰れるようになるんですか?」

「俺の『渡河』でどこまで行けるのかはまだわからないけど、『繁栄』の守護獣を倒した時『渡河』が強くなったのを感じたんだ。多分俺は、倒した守護獣の神威を吸収して成長してるんだと思う」

「じゃあこのまま守護獣を倒していけば」

「帰れるかもしれない」

 

 確信はないけど、予感はある。

 

「でも帰れるようになったとしても、この戦いが終わるまでは一緒に戦うから安心してくれ」

「え!? なんでですか!? 言い方は悪いですけど勇くんには本来関係ないですよね? 帰れるようになったら早く帰らないと、死んじゃうかもしれないんですよ? それに、友達や家族が心配なんじゃなかったんですか?」

「関係なくねえ。俺にとってはもう、お前らも心配な友達なんだよ。友達を見捨てて一人だけ逃げ出せるわけねーだろ」

 

 それに、先輩たちにも約束したしな。

 どんなピンチでも俺が絶対助ける、拒絶されたって無理矢理助けるって。

 

「勇くんは友達想いなんですね。なんかちょっと照れちゃいます」

 

 照れくさそうに頬を搔きながら、神楽坂がえへへと笑っている。

 格好や顔だけではなく仕草まで可愛らしい女の子のよう、というかあざとさがあるな。

 

「友達想いって言うなら神楽坂もだろ。自分の自由時間削ってまで俺が元に戻る方法探すの手伝ってくれてるんだから」

「……あはは、そうですねー。言われてみればそうかもです」

 

 言葉に詰まったように、ほんの少し間を空けて神楽坂が笑いながら視線を逸らした。また照れているのかもしれない。

 

「とりあえず今日の探検はこれで終わりだな。明日の訓練でまた試してみるよ」

「はい。何かわかるといいですね。僕はもう少しここに残りますね」

「何か調べものでもあるのか? 手伝うか?」

「いえ、些細なことですから大丈夫です。おやすみなさい」

「ああ、じゃあまた明日な。おやすみ」

 

 踵を返しひらひらと手を振りながらコンピュータールームを後にする。

 最後、神楽坂の様子がいつもと違ったような気もするけど、次の戦闘は神楽坂がメインみたいだし不安や緊張があるのかもしれない。何が起きても対処できるように、俺も気を引き締めないとな。

 

 消灯時間まではまだ余裕があるし、今日も自主練をするとしようか。

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