TS機甲戦記 =無名の神話=   作:ペンギンフレーム

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ep23 神楽坂日向③

――友達想いって言うなら神楽坂もだろ

 

 桜台にそう言われた時、いつも通り振舞えていたか、太陽のように笑えていたか神楽坂にはわからなかった。

 元の世界に帰れるようになった時男の子に戻る方法がわかってないと困るから、なんていうのは建前で、本当は自分の為で、それが後ろめたくて、だけど秘密を伝える勇気は出せなかった。

 

 神楽坂日向は物心つく頃には何となく違和感を抱くようになっていた。

 特撮ヒーローやロボットアニメより、魔法少女やアイドルアニメが好きだった。

 格好良いものよりも、可愛いものが好きだった。

 ズボンじゃなくて、スカートやワンピースを着るのが好きだった。

 

 ただその時はまだ、その違和感が何なのか自分でもわかっていなかった。

 決定的におかしいと感じたのは、幼稚園に入学し、自分の着る制服が男児用のものだと知った時だった。

 この時初めて、男の子はズボンで女の子はスカートという、ルールによる明確な区別に直面した。

 

 神楽坂は男の子として生まれた。けれど心は女の子だった。

 幼い頃はそれが何なのか、体と心の性が一致していないなんて難しいことは神楽坂も理解出来ていなかったが、男の子として扱われるのが嫌だったことだけは今でも覚えている。

 

 神楽坂の両親も、女の子っぽい趣味嗜好だなと思いはしても、まさか心が女の子だということまでは気づいていなかった。

 神楽坂には姉がおり、お下がりの服や玩具が元々与えられていたこともあって、新しく欲しがるものが女の子っぽい物でも今までの影響が残ってるのかなと思われるだけだった。

 

 家族が神楽坂に対してとても寛容で優しく、沢山の愛情を注いでいたことも気づけなかった理由の一つだろう。もっと男の子らしくしなさいなんて言うことはなく、可愛いものが好きという好みを否定することもなく、社会通念上のルールの範囲内で神楽坂の意思を尊重していた。

 それが『太陽』の神威による影響なのかは今となってはわからないが、とにかく神楽坂は違和感や気持ち悪さを覚えながらも、家族の愛情に支えられて幼少期を乗り切った。

 

 小学校に上がる頃になると、自分は男子だけど本当は女の子なんだと理解出来るようになった。

 そして世間一般にそれが普通ではなく、着替えやトイレ、男女の組み分けにおいて自分は男子に属するのだということも。

 

 そのルールに逆らってやろうというほどの反骨精神は神楽坂にはなかったが、女の子の服を着ることも、髪を伸ばすことも、可愛いオシャレをすることも、自分で選べることは何一つ妥協しなかった。プライドや信念なんて堅苦しいものがあったわけではなく、ただ自分がそうしたいと思ったからそうしていた。

 幸い友人には恵まれ、可愛いものが好き過ぎて自分も可愛くなろうとしてる変な奴とは思われつつも、虐められたり疎外されることはなく、それどころから男子とも女子とも仲良くなり、いつだって人間関係の中心にいるようなポジションになっていた。

 

 今にして思えばそれは『太陽』のお陰だったのだろうと神楽坂も理解している。

 

 中学校に上がる頃、神楽坂はこの秘密を家族に明かすべきか、話さないべきかで悩むようになっていた。

 友達の保護者経由で伝わっていたのか、いつの間にか家族にも可愛いもの好きが高じて女装していると思われるようになっており、神楽坂もその認識を正すことはしてこなかった。

 子供ながらに自分がおかしいということは気づいており、それを家族に話すのが怖かった。

 最初は嫌われてしまうかもしれないと考えて、けれど家族の確かな愛情によって心配させてしまうかもしれないと思い直し、成長して多少思慮深くなったことで悲しませてしまうかもしれないという結論に至った。女の子に産んであげられなくてごめんねと、そう思わせてしまうかもしれない。

 

 大切な家族にそんな思いはさせられない。

 だけど誰かに相談したい。人間関係に恵まれて、学校生活だって順調で、毎日楽しく過ごしているけれど、それでもいつも息苦しさを感じている。自分はどうすれば良いのか。贅沢な悩みなのか。男として生きるべきなのか。今は可愛らしく自分を飾れても、いつか自分の性と向き合わなければ行けない時が来る。

 恐ろしくて、不安で、気持ち悪い。きっと何をしても、誰と居ても、この暗い気持ちを忘れることなんて出来ない。だったらいっそ可愛らしい今の姿のまま、と考えて家族や友人を思い出し、踏みとどまる。

 

 機甲女神のパイロットとして勧誘されたのは、正にそんな悩みを抱えていた時のことだった。

 荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい話だと神楽坂は思ったが、お試しということでヤマトと共鳴した瞬間、直感的に理解した。

 世界に危機が訪れていること、それに対抗するための兵器がこの機甲女神なのだということ、自分にパイロットとしての適性があるということ。それらが全て本当のことなのだと。

 

 『太陽』の神威だなんてあまりにも皮肉だと思ったが、その神威に今まで助けられて来たのだと言うこともわかった。

 これから勧誘する予定のパイロットは『太陽』とは真逆で、大きなデメリットのある神威の持ち主たちであり、精神安定のためにも、戦力的にも、『太陽』を持つ神楽坂は必須であるらしい。

 だったらこの『太陽』でみんなの役に立って、そして最期は戦って終わらせられれば、家族も友人も悲しむより誇らしいと思ってくれるかもしれない。男として生まれたから死んだなんて、そんな風に思わせなくて済むかもしれない。いつでも明るくみんなの太陽のような神楽坂日向でいれば、死に場所を求めていたなんてきっと誰にもわからない。

 

 そう思っていた。桜台勇という存在と邂逅するまでは。

 

 その少女は、誰も知らない機甲女神に乗って現れた。

 その少女は、いとも簡単に第一守護獣を屠ってみせた。

 その少女は、異世界から迷い込んだという。

 その少女は、本当は男だったらしい。

 

 外科的な手術で性転換をするという方法は勿論神楽坂も調べた。けれどそれは、神楽坂の求めるものではなかった。

 神楽坂は考えたこともなかった。まるで最初から女の子として生まれたかのように性転換する、そんな魔法みたいな方法があるなんて。

 機甲女神や神威なんていう現代科学では説明できないとんでもオカルトパワーが存在するのなら、あり得るかもしれない。桜台勇が本来の性別に戻るための方法。完全な性転換を可能にする何か。

 

 神楽坂がTS探検隊を結成したのは、自分の為だ。

 手がかりはまだ掴めていないけれど、暗く深い闇の中にほんの少しの光が見えた。

 だからまだ、死ぬわけにはいかない。死に場所はこんなところじゃない。

 

『――僕は沈むわけにはいかないんですっ! 僕はみんなの太陽ですから!!』

 

 神楽坂がみんなの太陽だというのなら、神楽坂にとっての太陽は桜台だ。桜台勇という存在そのものが希望だ。

 神楽坂は知らなかった。太陽の下で生きるということが、こんなにも世界を輝かせてくれるなんて。

 

 

・  ・  ・

 

 

「勇くーん!」

「おわっ!? 急に突っ込んで来るな!」

 

 見事第三守護獣を撃破し、帰投した神楽坂が女神から降りるや否や桜台に飛びついた。小篠塚が用意した対策室の女子制服に身を包んでおり、相変わらず可憐な女の子にしか見えないため、女子同士のスキンシップのような光景が繰り広げられている。

 

「やりましたね勇くん! 探検隊の勝利です!」

「99%神楽坂の手柄だと思うけどな」

「細かいことは気にしなくていいのです! それより神威はどうですか?」

「倒した時に一つ増えたのがわかった。今日はこれからまた『矛』の検証だ」

「えー!? 作戦通り余裕の勝利だったんですから祝勝会とかやりましょうよー!」

 

 小柄な神楽坂が比較的長身の桜台にしがみついてブーブーと文句を垂れるが、対策室からの回答はない。

 

「前回は作戦通りじゃなくて悪うござんしたよっと」

「ぷぷぷ! 僕の方が神室先輩より強いことがわかってしまいましたね! やーいやーい雑魚せんぱ~い!」

「うざっ! まあでも、よくやったんじゃね?」

「ナイスファイトだったな、神楽坂。流石にコックピットを貫通した時は心配したぞ」

「いやー、僕も一瞬死んだかと思いました! 神々廻先輩から致命傷食らっても死なないとは聞いてましたけど、僕不死身過ぎますね!」

 

 着替えをしていた神楽坂より一足先に女神を降り、桜台と共に神楽坂を待っていた神室と神谷も会話に加わり、いつもの調子で話始めた。

 

「日向くんが無事で、本当に良かったよぉ……」

「え!? 火神先輩泣いてます!? 僕は死なないって言ったじゃないですか!」

 

 ポロポロと涙を流しながら無事を喜ぶ火神に、神楽坂はギョッとしながらも心配性だなーと笑っている。

 その後も鏑木司令から指示が来るまでの間、神楽坂たちは賑やかに話し続けていた。

 

「僕が代わりになるなんて烏滸がましかったんだ。そんなの必要ないって、本当はわかってたはずのに」

 

 賑やかな話し声に紛れ、ぼそりと呟かれたその言葉に気が付く者はいなかった。

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