TS機甲戦記 =無名の神話=   作:ペンギンフレーム

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ep24 神々廻歩夢② 

 8月8日 火曜日 AM9:00 ブリーフィングルーム

 

 第三守護獣を撃破した翌日、俺たちパイロットは朝からブリーフィングルームに召集されていた。

 今まではほとんど丸一日訓練で、夕方に一時間程度作戦の説明やおさらいがあるようなスケジュールだったけど、流石に今回はそうもいかないらしい。

 なにせ次の第四守護獣は神々廻の予知でも倒し方がわからない相手だ。まずはどう攻略するのか筋道を立てなければ始まらない。

 

「これまでも話して来たとおり、第四守護獣を撃破する未来は視えていない。しかしその原因はわかっている。第四守護獣が持つ『盾』の神威だ。これのせいで我々はかすり傷一つ付けられず敗北することになる」

 

 第三が持っていた『矛』と対を成すかのような『盾』の神威。

 あらゆる攻撃を防ぐ絶対防御の盾であり、予知によれば神々廻、火神先輩、神室先輩、神谷先輩、神楽坂、それから先生とかいう人の六人がかりで戦ってもダメージを与えられないらしい。

 

 外見はトゲの生えたダンゴムシを巨大化したような姿で、丸まった状態での回転突進や伸縮自在のトゲによる刺突が主な攻撃手段になるそうだ。

 

「物理攻撃によるダメージを与えられないのなら『蛇蝎』で内部から攻撃するという作戦も立てたが、どうやら神威による干渉すら防ぐらしい。失敗する未来が見えたと聞いている」

 

 火神先輩の共鳴神威『荼毒の蛇蝎《ディテスト・ペイン》』は接触した対象に毒性のある神威を打ち込み、蝕むように内部から侵食する権能らしい。

 RPGなんかじゃ防御が高い敵には毒の割合ダメージが有効だっりすることもあるけど、そもそもその毒すらも受け付けないインチキ守護獣というわけだ。

 

「同じく『怠惰』での神威抑制や『不和』での離反のような絡め手は全く効果をなさないようだ。巨大落とし穴のような罠にかけても伸縮するトゲを使って器用に抜け出してしまう」

「めっちゃ深くしてコンクリで埋めるのはどうですか?」

「似たようなことを試している未来で失敗したらしい。さらに言えば、第四守護獣のトゲは女神のコックピットすら貫通してくる。恐らく『盾』の神威はトゲの方にも適用されている可能性が高い。実質的に『矛』と『盾』の二つを相手にしていると考えた方が良いだろう」

 

 絶対防御ってことは滅茶苦茶硬いってわけで、流石に本家本元の『矛』ほどではないにしろ、欠けない槍を持ってるようなもんってことか。コンクリ詰めにしてもその硬いトゲで無理矢理突き破って出てくると。厄介な相手だな。

 

「本来であればここが我々の終着点。神々廻くんの予知で第四戦の後の未来を視ることが出来ないのも、ここで敗北して命を落とすことになるからだ。その先は予想になるが、不死身の神楽坂くんが生き残り、他の僅かな生き残りと共に女神の技術や知識を継承しながら各地を転々として、やがて先生(・・)が生まれてくるのだろう」

 

 重々しく語られた鏑木さんの言葉を聞いて、流石に俺たちの間にも緊張が走る。

 たしかに以前から第四戦を突破する未来は視えてないと聞いてたけど、今までは目の前の戦いに集中していたからあまり実感は湧いてなかったのかもしれない。

 神々廻の予知通りに進めば、この戦いが契機となって人類は衰退の道を歩み始めることになる。

 

「だが未来は変わった。先生は来なかった。つまり我々は、この戦いで決定的に勝つか致命的に負ける。生き残りが意思を繋ぐという行為が必要なくなるか、それすらも出来なくなるかの二つに一つだ」

 

 本来の歴史、あるいは未来と決定的に異なるのは、この場所にいるのが俺ということ。

 

「皆も気づいていると思うが、第四戦の要となるのは桜台くんの『虚無』だ。『盾』は神威による干渉すら弾く鉄壁の防御だが、神威そのものを無効化する桜台くんならば盾を剥ぎ取れるはずだ」

 

 以前に言われたことは覚えてる。俺が勝利の鍵だと。

 その時はまだ具体的な意味まではわからなかったけれど、そういうことだったのか。

 

「その上で、万全を期して火神くんの『蛇蝎』を打ち込む。『虚無』の発動には桜台くんが対象に接触する必要があるようだが、第四守護獣のトゲがそれを阻もうとするだろう。万が一コックピットを貫かれるわけにはいかない。試行回数は減らす必要がある」

 

 言われてみれば第一、第二、第三守護獣は密着した状態での有効な攻撃手段を持っていなかったからあまり反撃は意識してなかった。

『渡河』を使えば近づくこと自体は簡単に出来るだろう。ただし第四守護獣の場合、そこに伸縮するトゲの反撃が来る。俺は複数の神威を持ってるけど、同時に発動出来るのは一つだけ。つまり『虚無』を発動している間は無防備な状態になり、トゲの反撃を諸に受けてしまう。

 その点、火神先輩の『蛇蝎』を打ち込むのに成功すれば一度の攻撃で決着がつくかもしれないというわけだ。

 

 『盾』を剥がされた状態のトゲが女神の胸部装甲を抜けるほど貫通力があるのかはわからないけど、神々廻の予知では俺絡みの未来は見えないみたいだし事前に知ることは出来ない。だったら危ない橋を渡らないようにするのは当然だな。

 

「また、無事に接触出来たとしても守護獣の抵抗は激しいものになるだろう。『盾』を剥がした状態を維持し続けるのは難しいと見ている。『蛇蝎』を打ち込めるタイミングは非常にシビアになるはずだ。よって今日からは桜台くんと火神くんの連携をメインに訓練していく」

「了解っす!」

「……わかりました」

 

 連携訓練自体は前々からやっていて、パイロットの中でも火神先輩は相手の呼吸に合わせて動くのがかなり上手い。操縦技術に優れているからなのか、それとも相手の様子を伺うのが得意なのか。いずれにせよ、火神先輩とならそんなに心配する必要はない。

 

「神室くんと神谷くんは留守番だ」

「えー!?」

「全員で戦うレベルの相手じゃないんですか?」

 

 神室先輩がめちゃくちゃデカイ声で驚きの声をあげ、神谷先輩がそれに追随して疑問を投げかける。

 

「それは倒す手段をどうにか模索していた未来の話だ。桜台くんという切り札を握っている以上、君たちの出撃はリスクにしかならない。『矛』戦と同じだと思ってくれ」

「ちぇー、また見てるだけかよ」

「足手纏いになるだけ、か」

 

 相手のトゲが一撃必殺となる可能性がある以上、数を出せば良いというわけでもないということか。渋々ではあるが先輩たちも納得した様子で口を閉じた。

 

「同じ理由で神楽坂くんには出撃して貰う。連戦ですまないが、攻撃役の護衛を頼む」

「もちろんです!」

 

 任されましたと胸を張って神楽坂が答える。『矛』戦のことを考えれば、神楽坂ほどタンクとして頼もしい奴は他にいないもんな。心強い限りだ。

 

『そして最後に、今回は神々廻くんも壁役で参加する」

「神々廻先輩もですか?」

「今回の作戦において攻撃の要は桜台くんと火神くんだ。万全を期してそれぞれに護衛を付ける。神々廻くんは桜台くんを守り、神楽坂くんは火神くんを守ってくれ」

「了解ですけど、神々廻先輩は大丈夫なんですか?」

 

 ナイスだ神楽坂、よく聞いてくれた。俺も同じことを考えてた。神々廻に神楽坂レベルのタンクが出来るのか?

 ていうか何でよりにもよって俺が神々廻とペアなんだよ。交換してくれ、って言いたいけど火神先輩の安全を考えるとこのままの方が良い気もする。

 

「心配は――」

「共鳴神威を使えば致命傷は避けられる。それに、ここまで来れば僕の予知でわかることはもうほとんどないから」

 

 説明しようとした鏑木さんを制して、神々廻が自ら答える。

 

「予知者としての役目は終わった。これからは僕も、戦士としての役目を果たすよ」

 

 前に訓練で一戦交えて以来、神々廻が戦っているところは見たことがない。けど別にそれ自体に不満はない。予知に集中するためだったと言われれば確かにと納得出来る。だからあいつの顔を見るとムカつくのは、こないだの一件のせいだ。

 

「今までごめん。みんなにだけ戦いを押しつけて、ちゃんと話すことも出来なくて」

 

 何の前触れもなく、唐突に神々廻がそう言って深々と頭を下げた。

 別に神々廻を責めるような発言があったわけでもないのにだ。

 突然の謝罪だったため、呆気にとられって急にどうしたという感想が浮かんでしまう。

 

「ま~パイセンも色々忙しかったみたいじゃん。気にしなくて良いですって」

「予知のために人より長い睡眠が必要だったのも、それで得た情報を出来る限り対策室に共有しようとしてたことも知ってます。先輩は先輩のやり方で戦ってたのは理解してるつもりです」

「誰も恨んだりなんてしてないよ」

「そーですそーです! 見くびって貰っちゃ困ります!」

 

 先輩たちは俺と違って神々廻の心情を察しているのか、口々にフォローするような言葉を投げかけた。

 

 俺が思っていたより、先輩たちと神々廻の間には信頼関係があるのかもしれない。新参者の俺にはわからない何かがあったのかもしれない。普段神々廻が別行動ばかりしている理由なんて、俺は知らなかった。

 

 なんなんだよ。

 

 俺は神々廻のことがわからない。

 前は神室先輩に【神風】を使えなんて言ったくせに、必要なら自爆して死ぬのは当然だって言ったくせに、なんで今更謝るんだ。仲間のことなんて何とも思ってない、死んだって別に構わないと思ってる冷血漢なんじゃないのかよ。そうじゃないなら、なんであんなことを言えたんだ。

 

「……ありがとう」

 

 なんで、いつもつまんなそうな無表情のくせに、こんな時だけそんなに寂しそうな顔をしてるんだよ。

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