TS機甲戦記 =無名の神話=   作:ペンギンフレーム

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ep29 神々廻歩夢③

 神々廻歩夢が『予知』の神威に覚醒したのは6歳の春、小学校に入学する日の朝だった。

 膨大な記憶の奔流に押し流されるように数多くの出来事を忘れてしまっているが、その時のことだけはハッキリと覚えている。

 

 とは言っても、最初は覚醒したことにも気づかず平凡な日常を送っていた。

 小学校に入学し、毎日友達と遊び、夏休みには家族で旅行に行ったり、時には喧嘩したりと、普通の少年としての日々を歩み、毎年行事をこなし、そして卒業。

 中学校に入学すると部活を始めてみたり、新しい友達ができたり、好きな子ができて失恋したり、受験をしたり。そんな様々な経験をして、そしてまた卒業。

 

 異変が起きたのは高校三年生の夏のことだった。

 夏休みを迎えたものの、大学受験を控えた身である神々廻は日々勉強に勤しんでいた。

 そしてその日を迎える。西暦2045年7月24日。第一守護獣の襲来。

 

 脳内に直接語り掛けるような聞いたこともない神話と共に、映画やアニメにでも出て来そうな巨大な鳥の怪物が姿を現した。その怪物は神々廻の住む町を破壊し、人々に死を振りまいた。神々廻はわけがわからないままその災害に巻き込まれ、巨大怪鳥の崩壊させた建物下敷きになり、呆気なく命を失った。

 

 はずだった。

 

 けれど神々廻は目を覚ました。

 まるで夢でも見ていたかのように。

 あの燃えるような痛みや、血が抜けて全身が冷たくなっていく感覚はとても夢とは思えないほどにリアルで、現実のように感じられたが、それでも自分が死んでいないということは夢だったのだろうと安堵して、それから神々廻は違和感に気が付いた。

 

 夏にしては肌寒い。

 視点がやけに低い。

 家具の位置や内装が変わっている。

 そして、自分の体が縮んでいる。

 

 大きな混乱の末に、それでも何とか冷静さを取り戻した神々廻は、カレンダーやテレビから得られる情報を基に、目覚めたのが西暦2034年4月7日、自分が小学校に入学する日の朝であることを理解した。当然、肉体もその時代の神々廻のもの。齢6歳の小さな身体だ。

 

 今までの出来事が全て夢だったとは流石に思えなかった。

 リアルさがどうというより、夢にしては残された知識が多すぎた。

 これから小学校で習うはずの授業の内容、中学校や高校も同様に、記憶として知識が残されていた。睡眠学習なんて言葉で片付けられるレベルではない、明らかな異常事態。

 人並みに漫画やゲームも嗜んでいた神々廻が最初に行き着いた結論は、タイムリープや死に戻り等の、精神のみが過去に戻る現象だった。

 

 そんなことが現実としてあり得るのかという疑問は、数日も経てば消え去っていた。

 小学校時代の記憶を鮮明に覚えているわけではなかったが、実際に体験すればそれが一度経験したものだということはすぐにわかった。間違いなく自分は過去に戻っているのだと確信できた。

 

 既に知っている授業をもう一度受け直すのは退屈だったし、数年来の付き合いがある友人と改めて友達になった時は距離感を掴むのに苦戦したし、急に聞き分けが良く賢くなった息子の変化を両親に悟られないよう演技をするのは大変な苦労だった。まさか本当のことを話しても信じて貰えるわけがなく、神々廻は自分が未来から来たことを隠していた。

 しかしそれよりなにより神々廻が気がかりだったのはあの日の出来事だった。

 

 西暦2045年7月24日。夏休み3日目の午前中に突然現れた怪物。

 この先の未来が神々廻の経験した通りに進むのであれば、その日またあの怪物は現れるということになる。そして神々廻はその怪物の大暴れに巻き込まれて死ぬ。

 具体的な場所や時間帯はわかっているのだから、その日だけ家を離れれば直ちに危険はないかもしれない。あの時神々廻はすぐに巻き込まれて死んでしまったため、その後あの怪物がどうなったのかはわからなかった。ただ、最終的には自衛隊や米国の軍隊が何とかしてくれるだろうという楽観があった。

 

 だから神々廻は、自分と同じように過去に戻って来ている人間がいないか軽くネットで探してみたり、未来を変える方法を調べてみたり、UMAや宇宙人・妖怪などのオカルト知識に手を出してみたりという消極的なアプローチこそ行っていたものの、本気であの怪物をどうこうしようというような熱意は持っていなかった。それどころか、人生二周目であることを利用して賢しく生き始めていた。

 

 そして運命の日、西暦2045年7月24日。

 本気でどうこうするつもりこそないものの、流石にその日何が起きるのかは覚えていた神々廻は、バイトで貯めたお金をはたいて家族を旅行に誘い一時的に地元を離れた。

 怪物は一周目の記憶とほぼ同じように出現して、暴れ出した。正確な時間や場所までは神々廻も覚えていなかったが概ね記憶の通りであることは間違いなかった。

 

 旅行先のホテルでニュースを見ながら、とりあえず当面の危機は回避したかと神々廻は安堵した。

 しかしそれが間違っていたことはすぐにわかった。一日経っても、二日経っても、一週間経っても、怪物は暴れ続けた。どんな軍隊でも、どんな兵器でも相手にならず被害はどんどん拡大していった。さらに一体目の出現から丁度一週間が経ったころ、新しい怪物が出現し、その怪物は見る見るうちに数を増やしていき、あっと言う間に日本中を蹂躙し、海を渡り出した。

 

 その頃にはとっくに日本社会は終わっていて、安全な土地と食料を求めて人間同士でも争いを始めていた。二周目で死んだのは怪物のせいだったか、暴徒のせいだったか、神々廻はもう覚えていない。これから何度も何度も、どちらにも殺され続けたから。

 

 二度目の覚醒がいつ頃のことだったかも忘れてしまっていた。小学校一年生であったことまでは覚えているが、正確な時期は思い出せない。覚えていることがあるとすれば、二度目の覚醒の際、戻り先が未来にズレていると認識したことくらいだった。

 

 三周目からの神々廻は必死だった。あの怪物たちは、放置すれば確実に人類の滅亡を招く死の災厄であることを理解した。けれどどうすればそれに対抗できるのかはわからなかった。特別な地位にあるわけでもない一民間人の子供に出来ることなど高が知れている。国の協力を取り付けるしかないという結論に達するのにはそれほど長い時間はかからなかった。だが、どうすればそんなことが出来るのか。自分は未来を知っていて、いずれ現代兵器の通じない怪物が現れて人類を襲いだすなどと、そんな世迷言に誰が耳を傾けてくれるというのか。二周目で自分と同じ境遇の人がいないか探した時も、自称預言者は掃いて捨てるほどいたが、それを本気で信じている人なんてほとんどいなかった。実際、神々廻と同様に未来から戻って来たと確信できる相手もいなかった。本気で未来人だと信じて貰おうとするのなら、直近の未来を何度も何度も連続で言い当て続けなければならない。

 

 そう結論付けた時点で、神々廻は三周目を捨てることを決めた。

 過去に戻れるのは自分の意識だけであり、記録媒体を持ち込むことは出来ない。

 だからこの三周目は、極力自分は派手に動かず、その上で起こる出来事を記憶することに徹した。

 最も優先順位が高いのは自然災害。逆に優先順位が低いのは人間のスキャンダル。人間関係の出来事は神々廻が預言者として動くことによって発生しない危険がある。バタフライエフェクトと言われる、些細な行動が原因で未来が大きく変わる現象を危惧したのだ。その点、自然災害は高々人間一人の活動程度に左右されることはまずない。

 

 もちろんすぐにうまくいったわけではない。

 広報のノウハウがなく、予言は出来ても注目を集められないこともあった。

 予言は当たっているのにインチキだ、似非預言者だと批判を浴びて炎上し、誰にも信じて貰えないこともあった。

 予言の的中率からカルト的な信仰の対象となり、身動きがとりづらくなることもあった。

 大勢の人に預言を信じて貰えたにもかかわらず、実際に現れた怪物の無敵ぶりに結局人類は敗北を喫し、怪物たちを手引きした黒幕だと掌を返されたこともあった。

 それでも、百回以上にも及ぶトライアンドエラーの末にとうとう政府に未来予知を信じさせ、怪物の対策を行うことを確約させることが出来た。

 

 そしてその周回が転機となった。

 

 運命の日、西暦2045年7月24日。

 その日確かに忌まわしい敵は現れた。ただしそれと同時に、心強い味方も。

 

 先生。

 遥かな未来でなお、怪物たちと戦う人類の生き残り。

 機甲女神と呼ばれる、唯一怪物に対抗できる兵器の繰り手。

 

 卵が先か鶏が先かという、因果関係を問う比喩表現がある。

 しかし先生の一件は間違いなく、神々廻の行動によって引き寄せられた結果だった。

 神々廻が行動しなければ、この世に機甲女神は生まれなかった。

 

 先生が来たことで神々廻は機甲女神の存在を知り、神威とは人類にも宿るものであることを知る。

 今までは視方をわかっていなかっただけで、神々廻には神威を視る目があった。

 そして先生と共に現れた未来の機甲女神ミカサとの共鳴により、神々廻は初めて知ることとなる。自分の神威が『予知』であることを。タイムリープしているのではなく、予知夢によって未来を視ているのだと。

 

 死ぬ度に過去に戻っていたのではない。

 死ぬ度に夢から覚めて、現実に戻っていただけなのだ。

 

 そして今、遥か数千年の夢を踏み越えて、何度繋ぎ直しても断ち切られてしまう絆を諦めて、擦り切れてしまった心をなお燃やし、神々廻は戦っている。

 

「何のために?」

 

 何のために戦っているのか。

 そんなことは今更考えるまでもないことだった。

 

「僕しか知らないから。あの悲惨な未来、守護獣に敗北して荒廃した世界、秩序も倫理も失った人類。負けたらどうなるのか、本当の意味で知ってるのは僕だけだから」

 

 あんな夢を現実にさせるわけにはいかないからだ。

 

「絶対に、この世界に平和を取り戻すため」

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