TS機甲戦記 =無名の神話=   作:ペンギンフレーム

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ep33 『茨』②

 目まぐるしく変化する戦況に気を取られ、増援の存在に気付くのが遅れた。

 いつの間にか姿を現していた四機の女神が、それぞれの共鳴神威を発動して第五守護獣との戦闘を開始する。

 

『待たせたね勇ちゃん! ほんのちょっとだけ作戦会議してたんだわ!』

 

 泥沼の怠惰を展開したムツ(神室先輩)は俺たちを守るように立ちはだかった。

 多分『怠惰』の対象は茨だ。遠目にも明らかに動きが鈍くなっている。それでもなお素早いが、対処が追い付かないほどのスピードではなくなったように見える。

 

『やっぱり『不和』は効果がないか。先輩たちの補助に回る』

 

 ナガト(神谷先輩)も当初は俺たちを守るように立ち、裏切の不和を弾丸にこめて神威のビームを連射した。けれど、着弾した茨が反旗を翻さないことを確認すると装備をブレードと盾に切り替えて前線へ上がり始めた。

 

『まずは茨を削ぎ落すことになったから、桜台くんは僕と一緒にアタッカーをやって!』

「了解です!」

 

 一足先に第五守護獣を追いかけていたムサシ(火神先輩)は、先端に『蛇蝎』を集中したツルハシを器用に振り回して襲い来る茨を迎撃している。

 確かにあれなら、切断は出来ずとも毒によって茨を枯らすことが出来るかもしれない。

 

 火神先輩の要請に応じて、神楽坂と神室先輩を残し俺も第五守護獣に向かって動きだす。

 

『ヒナタはその間に絡みついてる茨を外して。多分それが権能を封じてるから』

『わかりました!』

 

 火神先輩と一緒に第五守護獣の足止めをしているミカサ(神々廻先輩)は、両手にブレードを持って踊るように激しく動き回りながら茨の攻撃を紙一重で回避し、受け流し、弾き飛ばす。

 よくよく見てみれば、時折ムサシ(火神先輩)の死角から襲い掛かろうとする茨の迎撃も行っているのがわかった。それでいて自分自身は死角からの攻撃にもキッチリ対応し、あの茨の津波を相手にたった二機で前線を維持している。

 『予知』を使っているからこその芸当だとは思うけど、それにしてもやっぱりとんでもない強さだ。『予知』は視界の範囲でしか未来視が出来ないはずで、死角への対応は多分予測で行っているということになる。神楽坂が神がかっていると言うのも頷けるな。

 

 神々廻先輩の邪魔をしないようにするのと、俺に課されたアタッカーという役目を考えれば、ここで使うべき神威は自ずとわかる。

 

『援護します!』

「『矛』!」

 

 今俺が発動している神威の名前を先輩たちに伝えながら、ナガト(神谷先輩)と一緒に前線へと殴り込みをかける。

 すると当然茨が俺たちにも襲い掛かるけど、頭数が増えれば一機に割り振られる茨の数は少なくなる。『怠惰』によってスピードが落ちていることもあり、さっき神楽坂と二人で対処していたよりは格段に楽に茨をさばけるようになった。

 とはいえ俺の腕前では危ない場面もなくはないのだけど、この場には操縦技術のトップスリーが揃っている。見落とした茨がすぐそこまで迫って来て一瞬ヒヤリとすることはあっても、必ず誰かがフォローしてくれて俺は『矛』による茨破壊に専念できる。

 

『この茨『蛇蝎』を受けたら自切するみたい! 枯らすのは多分無理!』

 

 トカゲの尻尾切りのような習性に気づいた火神先輩が情報を共有する。

 流石に根元から一気に腐らせるとか、そこまでうまくはいかないらしい。それでも自切するなら確実に削れてるってことだ。

 

 ていうか神々廻先輩はともかく、アタッカーとしての役目を果たしながらしれっと俺のフォローもしてる火神先輩も大概だよな。頭数が増えて負担が軽くなったからこそだとは思うけど、俺にはそんな余裕はこれっぽちもない。

 

不滅の太陽(イモータル・サン)! よーし! 僕復活です! 神々廻先輩の読み通り、茨に巻き付かれると権能が使えなくなるみたいです! 気を付けてください!』

『お守りはもう良さそう?』

『バッチリです! 行きますよ神室先輩!』

『オッケー!』

 

 完全復活した神楽坂と神室先輩も加わり、これで全ての女神が万全の状態で第五守護獣と対面することになった。

 あとは少しずつでも確実に茨を削いで行って、本体付近の守りが手薄になったら俺が『虚無』でトドメを刺す。

 勝利の道筋が見えて来た。六機なら茨の物量も余裕を持ってさばき切れる。このまま行けば勝てる!

 

 決して油断はしていない。しかし勝利を確信したことでほんの少し程度の気の緩みはあったのかもしれない。そしてそれは恐らく俺だけじゃなく、この場にいるほぼ全員。

 その確信を感じ取ったのか、あるいは理論的にそうなるであろうことを読み切ったのか、理由はわからない。わからないけれど、第五守護獣も理解したのだろう。ここが最後の分水嶺であると。

 

 だからここまで伏せていた切り札を切って来た。

 

『げぇ!?』

『なにっ!?』

『うわぁ!?』

『ヤバイです!!』

「神々廻先輩!」

『――っ!』

 

 全員の混乱や焦燥の混じった声が一斉に響く。

 

 激しい攻防の中で、切り落とされた茨がいくつも地面に転がっていた。それが突如としてひとりでに動き出し、俺たちの操る女神に向かって飛びついて来たのだ。

 この予想外の攻撃に対応できたのはたった一人だけだった。

 

 俺だ。俺だけが偶然、跳びはねる直前にピクリと動く茨に気が付いた。そして咄嗟に、その茨が絡みつこうとしていたミカサ(神々廻先輩)を突き飛ばした。

 その時ミカサ(神々廻先輩)は切り落とされた茨なんて見ていなかった。視界に入れていなかった。神々廻先輩が死角からの攻撃に対応できるのはあくまで予測できる範囲内の話。切り落とされ動かないはずの茨が襲って来るなんて、そんなの予想できるわけがない。

 とはいえあの短時間でそこまで考える余裕はなかった。結局はさっきも言ったように、咄嗟にだ。気づいた時には体が動き出していた。

 

 そしてそれは、多分正解だった。

 恐らくこの切り落とされた茨にも権能を封じる効果がある。

 だけど俺だけは『虚無』でそれを踏み倒せる可能性があるからだ。

 

『繁栄っ、渡河っ、虚無!』

 

 絶体絶命の危機に陥ったことで、思考が研ぎ醒まされていくのを感じる。ほんの数秒が数分にも感じられるほど、時間の進みがスローになっていく。

 

 俺たちが体勢を立て直すよりも、そして『怠惰』の影響下から脱した茨が俺たちを捕まえるよりも、神々廻先輩が行動を起こすのが早かった。

 姿勢制御用のバーニアで素早く体勢を立て直した神々廻先輩は、早口で捲し立てるようにそう言ったかと思えば、茨に絡みつかれたムメイ()の左腕を一切の躊躇もなくブレードでぶった切り、その勢いのままに反転して第五守護獣の本体に向かって駆け出した。

 

 土壇場でちゃぶ台返しを受けたことで浮足立ちかけている俺たちは、このまま行けば茨に捕まって絞殺されるだろう。だけどそれまでは、茨というリソースは俺たちにも割かれることになる。つまり今この瞬間が最後のチャンス。

 俺と火神先輩で茨を削っていたのも大きかった。本体を守る茨の量は最初期よりも明らかに減っている。あれなら、茨による防御を掻い潜って本体にたどり着くことが出来るかもしれない。いや、神々廻先輩ならきっと出来る。『予知』によって茨の動きは読めるのだから間違いなく。

 

 だとすれば、ほんの僅かな時間ですら貴重だったはずのこの瞬間、神々廻先輩が何の意味もなくムメイ()の左腕をぶった切ったとは考えにくい。俺の『虚無』をあてにしているなら茨の権能封じなんか気にする必要はない。

 

 繁栄、渡河、虚無。

 普通に考えればその順番で神威を使えという指示。

 繁栄はわかる。応用で左腕の再生をしろってことだ。でも渡河は? ここから一度避難しろってことか? 避難するにしても全員を連れて一度に移動することは出来ない。それにその後の虚無は? 何に対する虚無だ?

 

『【神風】!!』

 

 『繁栄』を発動して左腕を再生しながら思考を続ける俺をよそに、神々廻先輩は茨を掻い潜り本体の懐へ潜り込み、まるで宣言するかのように【神風】と叫んだ。

 

 今までの俺なら頭に血を昇らせて怒りのままに何も考えず動き出していただろう。

 だけど神々廻先輩がただの冷酷な人間ではないと知った今は、そうじゃないとわかる。

 そもそもらしくないんだ。【神風】は宣言なんてしなくても発動出来る。それなのに、否定派の俺がいるにもかかわらず、なぜわざわざ宣言した? それは誰に対する宣言だ?

 

 ――!

 

「そういうことですか……!」

 

 本体に抱き着くように掴み掛かったミカサ(神々廻先輩)を、第五守護獣は突き放すのではなく迎え入れるように茨の鎧を脱いだ。かと思った次の瞬間、懐に飛び込んだミカサをベアハッグするかのように茨がグルグルと巻き付いて締め付け始める。【神風】が発動する前に絞め殺すという算段なのだろう。第二守護獣戦で神室先輩が使おうとしたことで、【神風】というヤバそうな奥の手があるのは守護獣も知っていたのだ。

 

 そう、知っていた。

 そして知っているであろうことを、神々廻先輩は予想していた。

 だからあえて宣言した。そうすることで、第五守護獣を焦らせた。

 その焦りによって今、本体の周辺でゆらゆらと揺らめいた茨の全てが、神々廻先輩を絞め殺すために使われている。

 

 つまり神々廻先輩は【神風】なんて使ってない。あの宣言は餌だ。第五守護獣を釣るための餌。

 

 だからここで『渡河』だ!

 

『そう』

 

 第五守護獣の背後に移動した俺は、神威を『虚無』に切り替えて特注ブレードを突き出す。

 狙いは頭部。茨の鎧に守られていない、急所と思われる場所。

 密着している関係上ミカサの頭部にも当たってしまうが、コックピットのある胴体に当たらなければ問題はない。

 

 神々廻先輩に釘付けになっていた第五守護獣は俺の存在に気づくことなく、ブレードはその真っ白な頭部を貫いた。

 

「くたばれえええーーーっ!!」

 

 突き刺したブレードを180°捻り、傷口を広げながら振り上げる。頭部が急所であるならば、ここまでやれば十分なはず。

 

 断末魔の声は上がらない。今までの守護獣も声を発することはなかった。

 

 けれど、勝った。

 神々廻先輩に巻き付いた茨が光の粒子となって消え始めている。

 

 終わりだ。俺たちは勝ったんだ。第五守護獣を倒した。これで全部終わり。戦いは、終わったんだ。

 

【オオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!】

 

「っ!?」

 

 断末魔の声は上がらない、はずだった。

 それなのに、消滅していく第五守護獣が怨嗟の如き咆哮を上げた。

 

 嫌な予感がする。

 

『離れて!!』

 

 茨から解放された神々廻先輩が、今度は自分の番だとでも言うようにムメイ()を突き飛ばした。

 そして次の瞬間、消滅していく第五守護獣の亡骸から真っ黒で禍々しい茨が這い出し、ミカサ(神々廻先輩)に群がった。

 

 それがどういうものなのかはわからないけれど、絶対に良いものではないことだけはわかった。

 

「神々廻先輩!!」

 

 すぐに『虚無』を発動してミカサに接触し、黒い茨を消し飛ばす。

 

 消せるってことはこれも『茨』の権能だ! あの野郎、最後の最後に置き土産をしていきやがった!

 

「大丈夫ですか!? 神々廻先輩!」

 

 糸の切れた人形のように、自力で立てなくなったミカサを支えながら必死で呼びかける。

 黒い茨そのものは『虚無』によって消滅させられたけど、ミカサの装甲に黒い茨の紋様が刻まれていてそっちは消えてくれない。そして神々廻先輩からの返事がない。

 

 なんだこれ。なんなんだよこれ……! 折角誰も死なずに勝てたと思ったのに、なんでこんなわけわかんないことになるんだよ! クソ! とにかく早く先輩を基地に連れ帰らないと!

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