TS機甲戦記 =無名の神話=   作:ペンギンフレーム

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ep38 『虚無』

 その後、俺たちは一緒に鏑木さんの元を尋ねて、神々廻先輩の呪いが解けた報告を正式に行った。朝の内に色んな人に伝えて回っていたから、鏑木さんや小篠塚さんの耳にも既に入っていたようで、念のための再検査の準備が整えられていた。

 

 呪いを解いた方法については追及されなかった。まあ、医務室は昨日の夜からそのままのはずだし、多分何をしていたのかはバレてるだろう。だからこそ深堀はされなかったんだと思う。恥ずかしくてしかたないけど、やってしまったものはしょうがないのだから気にしないように努力するしかない。

 

 神々廻先輩が検査を受けている間、俺は自分の部屋で時間を潰して待っていることにした。先輩たちには運動やら遊びやらに誘われたけど、昨日から股がズキズキと痛むからちょっと休みたかった。

 

 検査が終わるまでは結構かかるようで、ムメイとの共鳴を試せるだけの時間はあるみたいけど、それはやめておいた。

 帰るにせよ、帰らないにせよ、神々廻先輩に見守っていて欲しいから。

 神々廻先輩もミカサとの共鳴テストをするそうだから、その時に一緒にやるということになった。

 

 戦いは終わったはずだけど、神話で言及されている虚無の神と創造の神という存在は無視出来ない。

 俺が虚無の使途なのだとすれば、虚無の神は人類側で創造の神が敵対しているということになる。

 神様は神様同士で争ってるんなら、俺たちが創造の神と戦うことにはならないと思うけど、絶対にないとも言い切れない。だから念のために共鳴テストというわけだ。

 

 ヤマト、ムサシ、ナガト、ムツの四機についても、昨日の戦いで一部を破損したまま再生出来ていない。呪い騒動でそれどころじゃなかったからしょうがない。多分この四機は今日から神楽坂が不滅の太陽で直していくことになるだろう。

 

 よく考えると、今この瞬間に敵が現れたらマズイよな。

 神々廻先輩は十中八九もう共鳴できないだろうし、俺も試してみないとわからない。残る四機も万全の状態じゃなくて、すぐに出撃可能なのは数秒程度で再生できる|ヤマト(神楽坂)くらいだ。

 

 まあ、流石にそんな都合よく、というか俺たちにとっては都合の悪く、そんなこと起きるわけが――

 

『緊急事態発生! 未登録の機甲女神の出現を確認! パイロットは至急女神に搭乗し出撃準備を! 繰り返します! 未登録の機甲女神の出現を確認! パイロットは至急女神に搭乗し出撃準備を!』

 

 未確認の機甲女神……?

 それは、俺のムメイみたいなものってことか?

 第六の守護獣とかじゃないのは良かったけど、これは予想外だ。

 とにかく、一応は俺も指示通りに出撃準備をしなくちゃだよな。

 神々廻先輩に見守っていて欲しいって思った矢先にこれとは、ついてないな。

 

 

・  ・  ・

 

 

『桜台勇、機甲女神ムメイ、接続完了。神威共鳴率、っ!? 100%! 安定しています、問題ありません!』

「共鳴、できた……?」

 

 基地内放送を受けて整備ドックに集合した、俺、神楽坂、神室先輩、神谷先輩、火神先輩の五人は、それぞれの女神に搭乗して共鳴を開始した。

 そして驚くべきことに、俺は今もなおムメイと共鳴することが出来た。

 オペレーターさんは俺と神々廻が何をやったのか知らないのか、共鳴出来ていること自体に驚いてはいなかったけど、共鳴率がとうとう100%にまで達したことに驚いているようだった。

 

 100%って、完全に共鳴してるってことだよな?

 【神風】を使えば200とか300とかになることを考えれば、別におかしくはないのか?

 つーか、たしかに昨日の夜、案外まだ共鳴できるかもなんて神々廻先輩には言ったけど、あんなのは半分冗談で本気で言ってたわけじゃない。まさか本当に共鳴できるなんて。やっぱり俺とムメイは先輩たちとは違うんだろうか。

 

 思いがけず、まだ元の世界に帰るという選択肢が残っていることを知ってしまった。

 

『……桜台くんが出れるのなら、神楽坂くんは各機の再生を優先して貰う。すまないが、まずはムメイ一機で接触して貰うことになる。行けそうか?』

「大丈夫です。ていうか、そんなに警戒する必要あるんですか?」

『君が出現した時も警戒はしていたさ』

「そっすか。桜台勇、いつでも出れます!」

 

 まあ、予知夢でも視えてなかった正体不明の機甲女神ともなれば警戒されて当然か。

 俺の時のように何の事情もわかってない奴が乗ってるのか、それとも案外、話に聞く先生とかが乗ってるのか。なんにせよ運の良い奴だ。戦いが終わった頃にやって来るなんて。『渡河』で行けそうな場所から来たなら、送り届けてやっても良いかもしれない。

 

『カタパルト接続を確認!』

『カタパルトゲート開放確認!』

『リニアカタパルト、エネルギー充填率80……90……100パーセント。機甲女神全機、発進準備完了!』

『射出カウントを開始します。3……2……1――』

『機甲女神ムメイ、発進!』

 

 未確認の機甲女神とやらが出現した場所は、昨日第五守護獣と倒した場所よりも更に基地に近い場所だった。射出開始から僅か数秒で地上へ出て、その姿をムメイの眼で捉えることが出来た。

 ムメイとは正反対の真っ黒なボディをした機体だ。だけどデザインの全体像はムメイによく似ている。ムメイと関連のある機体なのか、もしかして俺の世界から来たのかもしれない。

 

「えーっと、パイロットに告げる! 所属と名を名乗れ! 俺は防衛省守護獣特別対策室所属の桜台勇! ちなみに今は2045年の8月22日だ!」

 

 視界をムメイから自分のもの切り替え、コックピットのモニターに表示されたカンペを読み上げる。

 正確に言うと俺は対策室に所属してると言えるか微妙だけどまあ良いだろう。日付を言ったのは未来から来た可能性を考慮してだ。

 

 通信は繋がっていないため、機体に搭載された拡声器を使っての呼びかけである。

 

『やっと会えた! お母さん!』

 

 俺の名乗りに対する奴さんの反応は、完全に予想外のものだった。

 ドスドスと、大質量に見合う足音と振動を響かせながら無遠慮に近づいたかと思えば、タックルするように抱きついて来てそう言ったのだ。

 

 声は幼いように聞こえた。少年のものだろうか?

 ていうか誰がお母さんだ、誰が。俺はまだ子供なんて産んじゃいねえ。

 ……いや、もしかして俺が未来で産んだ子供が時を遡って来た、とか?

 いやいや人違いの可能性の方が全然高いだろ。

 

「誰かと間違えてないか? 俺はピチピチの16歳だ。子供なんていねーよ」

『……そっか、やっぱり覚えてないんだね』

 

 どこか寂しそうにも聞こえる声音でそう答えた謎の機甲女神は、ゆっくりと俺に抱き着いていた腕を離して一歩下がった。

 

「とりあえず自己紹介をしてくれないか? 結構厳しい戦いが続いたから、こっちもピリピリしてるんだ。お前が何者でどうして今現れたのか、何か事情を知ってるなら教えてくれ」

『僕に名前はない。だけど強いて言うなら、『虚無』だよ』

「……は?」

『大丈夫、すぐに思い出させてあげるから。その穢れた器はもういらない』

 

 おもむろに、漆黒の機甲女神が右手をこちらに向けた。

 ムメイの視点から見て、少し下。ちょうど、俺の乗っているコックピットがある辺りだ。

 

『解放してあげる、お母さん』

 

 一瞬眩い光が灯ったと感じ、そして――

 

 

・  ・  ・

 

 

「さ、桜台勇、生命反応消失……」

 

 あっと言う間の出来事だった。

 未登録の機甲女神が右手を掲げたかと思えば、眩い光と共にビームのようなものが放射されムメイの胸部を貫いた。

 相手が守護獣ではないが故に、言葉の通じる相手であるが故に、完全に油断していた勇はそれを避けることなど出来なかった。『渡河』で逃げることも、『盾』で防ぐことも出来なかった。

 

 機甲女神の心臓部であるコックピットを狙いすましたように放たれた一撃。

 完全に断面が熱で溶け、ドロドロに溶けた金属が滴る風穴の中に、勇の姿は影も形も存在しなかった。

 

 殺されたのだ。桜台勇は、その命を奪われた。

 

『勇くん!? 返事してください! 勇くん!!』

『はぁ? なに、これ? 勇ちゃん……?』

『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!』

『出撃させて下さい! 今すぐ! あいつは敵です! 桜台の仇を討つ!!』

 

 ムメイの出撃に少し遅れて全機の再生が終わり、今にも出撃しようとしていたパイロットたちが口々に声をあげた。

 

 勇の死を受け入れられず必死に呼びかける神楽坂。

 モニターに映し出された事態に理解が追い付かない神室。

 現実逃避するように嘘だと叫び続ける火神。

 仇を討つため語気を荒げて出撃許可を要請する神谷。

 

「……夢? 夢だよね。予知夢だ。絶対そうだ。ねえ、そうだよね、勇」

 

 基地中に響いていた緊急事態の放送は当然神々廻の耳にも入っており、検査を途中で切り上げてたった今管制室へとやって来たところだった。

 そしてまさにその瞬間、ムメイの胸が貫かれるところを目撃した。

 純潔を失った勇はもう、女神とは共鳴出来ないはずだった。そのはずなのに、仲間たちは勇の名前を呼んでいる。まるでムメイに勇が乗っていたかのように。

 

「僕のせいだ、僕のせいだ、僕のせいだ……」

 

 何が起きたのかを理解した神々廻は、膝から崩れ落ちブツブツと小さな声で独り言を繰り返し始めた。

 

 対策室の職員たちも、この戦いで初めての死者が出たことで少なからず動揺していたが、少年たちの取り乱しようを見て我に返る。

 ここで対応を間違えれば、より被害が拡大してしまう。

 

「各員、出撃準備! 桜台くんの死を無駄にするな!」

 

 神話において神の存在に言及されていたにもかかわらず、誰もが戦いは終わったのだと思い込んでいた。

 神は神同士で争いあっていて、自分たちの戦いは終わったのだと勘違いしていた。

 それでも、もしかしたらまだ何かあるかもしれないという可能性は考慮して動いていた。

 けれどそれが、こんな形で訪れるとは誰も思っていなかった。

 

「神楽坂日向、機甲女神ヤマト、共鳴率0%!」

「神室遊斗、機甲女神ムツ、共鳴率0%!」

「神谷憂斗、機甲女神ナガト、共鳴率0%!」

「火神命、機甲女神ムサシ、共鳴率0%!」

「異常事態発生! 各パイロットと女神が共鳴出来ません! メンタルの不調でもここまで下がることはないはずです!」

 

 各機の数値をモニタリングしているオペレーターたちが、パイロットと女神の共鳴率を目を疑いながら読み上げる。

 ついさきほどまで高い共鳴率を維持していたはずなのに、気が付けば全ての機体が共鳴率0%という異常な数字を示していた。

 

「何が、起こっている……?」

 

 思いもよらぬ桜台勇の死に加え、理解不能な異常事態の発生。さしもの鏑木も、呆然とそう呟くことしか出来なかった。

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