TS機甲戦記 =無名の神話=   作:ペンギンフレーム

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epilogue 無名の神話

 こうして、俺たちの長い戦いは終幕を迎えた。

 みんなのその後を少しだけ話していこう。

 

 守護獣特別対策室という組織は主な役目を終えたためいずれ解体されるとのことだった。

 とはいえ、戦いの後始末や国内、そして諸外国への説明などまだまだやらなければいけないことは多く、当分は先のことになりそうらしい。

 ここからは大人の仕事だと言うことで、パイロットは夏休み一杯で基地を出て行くことになった。

 基地の中にはテレビがなく、SNSや掲示板へのアクセスも制限されていたため、機甲女神と守護獣の戦いが世間でどのように見られているのか俺たちパイロットは知らない。鏑木さんから説明された限りでは賛否両論らしく、調べるのはオススメしないと言われた。

 また、パイロットの素性については徹底して情報規制がされているため、自分から暴露したりしなければバレることはないだろうとのことだった。

 

 人間になった虚無の神の処遇については一旦保留となっている。

 真実をありのままに公表するのは大きな混乱をもたらすことが予想され、処分は内々に決定されるだろうと鏑木さんは言っていた。

 驚くべきことに、改めて被害状況を確認したところ今回の守護獣騒動で発生した死傷者は俺たちパイロット以外にはいないらしい。とはいえ、それは別に虚無の神に殺意がなかったというわけではなくて、神々廻先輩の予知によって先手を打ち続けられたのが大きい。何も対策せずに守護獣の出現を迎えれば、予知夢通り大虐殺の末に人類は衰退していたはずだ。

 責任能力の有無なども含め、総合的に判断されるだろうとのことだったけど、殺してしまうのもそれはそれで後が怖いという意見も出ているそうだ。人の器に移したとはいえ神の魂を宿した存在だしな。虚無の神が俺に対して試そうとしていたように、人の器を壊すことで神として復活する可能性もある。

 結論が出るのはしばらく先の話になるだろう。

 

 とまあ大人たちは戦いが終わった後もあれこれと忙しなく働いているみたいだけど、俺たちパイロットは残りの夏休みを存分に満喫させてもらっていた。

 みんなで海に遊びに行ったり、花火を買って来たり、夏祭りで食べ歩きをしたり、バーベキューで肉の取り合いをしたり、カラオケに行ったり、ボウリングをしてみたり、ゲーセンに行ったり、ファミレスで駄弁りながら溜まりに溜まった宿題を片付けたり。

 普通の高校生のように、今まで出来なかったことを取り戻すように、全力で遊びつくした。

 

 それからみんなが持っていた神威は、虚無の神との戦いの時に俺が取り戻してそのままになっている。

 日常生活ではほとんどデメリットしかない神威ばかりだからな。もう戦う必要もないのだから、こんなものはない方が良い。俺なら『虚無』で全ての神威のデメリットを踏み倒せるから、俺が持ってるのが一番無難だ。

 

 『怠惰』の影響がなくなれば、神室先輩は色んな事に本気で取り組めるようになるだろう。

 『不和』の影響がなくなれば、神谷先輩はもっと人と深く関われるようになるだろう。

 『蛇蝎』の影響がなくなれば、火神先輩は人に嫌われるのを恐れる必要なんてなくなるだろう。

 『予知』の影響がなくなれば、神々廻先輩は現実に向き合って豊かな感情を取り戻せるだろう。

 『太陽』だけは、返し方がわかったら神楽坂に返すつもりだ。珍しくこれは良い影響の方が大きい神威だから。

 

 神室先輩と神谷先輩は相変わらず勝負事になると張り合っているけれど、今までよりも更に仲良くなっているような気がした。もしかしたら俺の知らないところで、約束を果たしてくれたのかもしれない。

 神楽坂は最近、何か挙動不審というか、俺と二人きりなると何か言おうとしては止めるということを繰り返していて落ち着かない様子だ。TS探検隊についても最近は言及しなくなったし、何か心情の変化があったのだろうか。

 火神先輩は一番最初に会った時と比べると格段に前向きで明るくなった。初対面の人と話すのはまだ緊張するみたいだけど、自分に自信を持てるようになったようだった。自分からみんなを遊びに誘ってくれることも増えたしな。それと、俺と神々廻先輩を見て悲しそうな表情をしてる時がある。何かしてしまったか聞いてみても、何でもないと言われるばかりでよくわからない。

 

 まあ、戦いが終わったからって何もかもうまく行ってめでたしめでたし、とはならないよな。

 現実に生きる俺たちの人生は、これからも続いていくんだから。

 この先も色んな困難が待ってるかもしれない。だけど、それを乗り越えるための強さを俺たちは持っている。時には立ち止まることもあるかもしれないけど、この戦いだって乗り越えた俺たちなら、何度だってまた歩き出せるはずだ。

 

 残るは、俺と神々廻先輩だな。

 今までのことを頭の中で振り返ってる内に、丁度準備も終わったようだ。

 

『桜台勇、機甲女神ムメイ、共鳴率100%。安定しています』

『桜台くんの共鳴率が異様に高かったのも、ムメイと元は同一の存在だったからか……』

「守護獣の力を吸収する度にムメイとの共鳴が馴染むようになってたんで、そういうことでしょうね」

「最初から思考操縦が出来たのも、本来は自分の体だったからかも」

 

 現在俺はムメイのコックピットに座る神々廻先輩の膝の上に腰掛けている。

 二人乗りなど想定されていないから、こうでもしないと二人でコックピットに乗り込むのは無理だったんだ。

 いくらなんでも鏑木さんたちの見ているところでイチャイチャするためにこんなことをしているわけではない。

 

「勇の体、細くて折れちゃいそう。もっとご飯食べた方が良いよ」

「くすぐったいですって! こんなところで抱き着かないでください!」

 

 ひじ掛けがあるんだからそこに置いておけばいいものを、神々廻先輩はわざわざ俺のお腹に腕を回して抱きしめ、耳元まで口を近づけた囁いてくる。息が耳にかかってくすぐったい。

 ていうか人前でこういうことするなって何度も言ってんのに、俺が虚無の神に一度ぶっ殺されて以来、神々廻先輩は人前でもお構いなしにべったりくっついて来るようになった。もう二度と離さないというような執念を感じるくらいのべったり具合だ。

 

 悪い気はしないけど、ちょっと恥ずかしい。

 

『あー、ゴホン。それで桜台くん、神々廻くん、本当に行くんだな?』

 

 経緯を知っているからか鏑木さんも注意しづらいようで、気まずそうに咳ばらいをしたかと思えば、真剣な声音で改めて問いかけて来た。

 

「はい。行き来が出来るならそれが一番ですし、身動き取りやすい内に試した方が良いと思うので」

「勇が行くなら当然僕も行きます」

『そうか。向こうの世界に機甲女神が存在しないなら、いつでも帰って来ると良い。君とムメイはこの世界の英雄だ。少なくとも、得体の知れないロボットとして扱われるよりはマシだろうからな』

「そうですね。虚無が言うには向こうの世界に守護獣が出たのは第一の時だけで、機甲女神もないらしいですから、あんまり長居は出来ないと思います」

 

 俺はこれから、『渡河』を使って元の世界に帰る。

 前に心配したような、元の世界にも守護獣が襲来してるかもという不安はもうないけど、いずれにせよ俺は突然消息を絶って行方不明になっている状態だろうから、最低でも家族に顔を見せて、遠い場所に行くけど元気にやってるということくらいは伝えなければならないだろう。後は、友人への言伝も。

 

 『渡河』で自由に行き来出来るのなら、こっちの世界で生きていくのも、外国に嫁ぐのと大きな違いはない。今生の別れになるわけじゃない。

 政府に機甲女神という存在が認知されているこっちの世界と、恐らく謎の人型兵器というような扱いを受けるであろう元の世界では、どちらの方が生きやすいかなんて答えは見えてる。

 

 だからこの帰郷は、一時的な里帰りだ。盆休みや年末に実家に顔を出すようなもの。もう俺は、この世界で生きていく覚悟を決めた。神々廻先輩と、仲間たちと、守り抜いたこの世界で。

 

『では、桜台くん、神々廻くん。また会おう』

「はい、また!」

「行ってきます」

 

 簡単な別れの挨拶を済ませて『渡河』を発動する。

 今までは一瞬でワープ出来ていたけど、世界を渡るとなるとそうもいかないのか、見たこともないようなグニャグニャした不思議な空間に飛ばされたかと思えば、様々な景色が凄まじい速さで流れていく。

 

「世界を岸と考えるなら、これがその間に跨る河なのかもね」

「だから『渡河』ってわけですか」

 

 渡河だけなんか名前と効果のイメージがピンと来てなかったけど、この河を前提にした力だったかもな。

 

「ねえ、勇。このままでいいの? 日向と一緒に元の性別に戻る方法を探してたよね? 本当は戻りたいんじゃないの?」

「なんですか突然」

 

 今までそんなこと一切言及してなかったのに、本当にいきなりだ。

 

「だって、これから家族のところに行くんだよね? 信じて貰えるの? 自分が桜台勇だって」

「こんなロボットと一緒にワープして来たらそれくらい信じるんじゃないですか?」

「そういうもの?」

「そういうものです。っていうか、別にもう元に戻りたいとは思ってません」

 

 『創造』を使えば人間の器を創ることは出来るのだから、元の姿に戻ろうと思えば戻れる。だけどもう、以前の自分に未練はない。

 

「この身体のお陰で神々廻先輩を助けられました。この身体のお陰で神々廻先輩に好きになって貰えました。だから良いんです。俺は、女です」

「勇……。好き、愛してる。愛おしくて頭がおかしくなりそう」

「えへへ、俺も好きですよ、先輩」

 

 愛の告白というやつは何度聞いても心が浮き立つようで、我ながらチョロいなと思いつつも、幸福を感じながら同じように愛の言葉を返すのがお決まりのやり取りになっていた。

 

 これから先、長い道のり中で、いくつもの困難が立ち塞がるかもしれない。様々な苦難が待っているかもしれない。時には喧嘩する時もあるかもしれない。時にはすれ違うこともあるかもしれない。だけどきっと大丈夫だ。先輩となら、きっとなんだって乗り越えていける。後で振り返れば、あんなこともあったねって笑い合える。

 

 だからこれからも紡いでいこう。

 俺の、俺たちの物語、無名の神話を。

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