TS機甲戦記 =無名の神話=   作:ペンギンフレーム

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ep7 事故

 結局神々廻には一撃も入れることが出来ず、良いように転がされ、一方的に攻撃を受け続けて15分が経過した。

 神々廻の野郎は最後まで指導しているような姿勢を崩さず、逐一俺の行動の良い点や悪い点を指摘しながら戦い、一戦目が終わったらさっさと帰ってしまった。口には出していなかったけど軽い運動になったとでも言うような余裕っぷりだった。ムカつくことこの上なし。

 

 しかし収穫がまったくなかったというわけではない。一撃入れることはかなわなかったが、俺の操縦技術はこの短い模擬戦の間に確かに上がっている。年単位で訓練して来た先輩たちとはまだまだ差があるだろうけど、上達しているのは実感できている。

 

 いつか絶対にぶん殴ってやる!

 

ムメイ(桜台)、第二演習地域に到着しました』

ヤマト(神楽坂)、準備できてます!』

ナガト(神谷)、第一演習地域に到着しました』

ムツ(神室)! 準備バッチリっす! 今日こそ俺が勝つからな!!』

『今日も俺が勝つ』

『あんだと~!?』

『あ、あの、ムサシ(火神)、第二演習地域に到着しました……』

 

 次のマッチングはムメイ()VSヤマト(神楽坂)ムツ(神室先輩)VSナガト(神谷先輩)で、ムサシ(火神先輩)は俺たちの戦いを見学だ。

 ちょうど俺が第二演習地域に移動して来たところでムサシも到着した様子だったけど、各パイロットの発言に割って入れず最後の報告になってしまったようだ。

 

『各機、指定演習地域への到着を確認。体調不良や怪我がなければ、5分休憩の後に第二戦を始めます』

『これまでの戦績は大体7:3くらいか』

『俺が7な!』

『いや俺だけどな』

 

 神室先輩と神谷先輩はその後もなにやら言い合っていたが、途中で通信が途切れて聞こえなくなった。さっきの模擬戦でも対戦相手とオペレーターさん以外とは通信が繋がってなかったから、管制室の方で操作したのだろう。

 

「で、どっちが7なんだ?」

『神谷先輩ですね』

 

 もっと僅差ならともかく、7:3で逆の戦績を主張するとかどんだけ厚かましいんだよ。

 

「先輩たちはいつもあんな感じなのか?」

『神室先輩が神谷先輩に突っかかってるのがほとんどですけどね。ここに来る前から友達だったんですよ』

「そりゃ随分な確率だな」

 

 今までたった5人しかいなかったパイロットの内、2人が顔見知りどころか友人だったなんて天文学的とまではいかなくても普通ならあり得ない確率なんじゃないか?

 

『先にいたのは神谷先輩なんですけど、後から神室先輩が来て初めての顔合わせの時は2人とも驚いてましたね。とくに神室先輩の方は凄い顔してました』

「ふーん。ってことは神楽坂はそれより前からいたのか」

 

 2人が凄い驚いてたのを見てる感じの口ぶりだし、少なくとも神室先輩よりは前だよな。

 

『順番で言うと僕、火神先輩、神谷先輩、神室先輩、桜台くんですね。あ、もちろん神々廻先輩は一番最初ですよ? 対策室の立ち上げメンバーの1人だそうですから』

「あいつの予知がなけりゃ今の状況もなかったってことみたいだしな」

 

 神々廻を除けば神楽坂が一番最初のパイロットなわけか。なんか意外と言うか、勝手なイメージで学年順に選抜されてるのかと思ってたけど違ったようだ。

 

『ちなみに火神先輩と神谷先輩の間は一年くらい空いてて、火神先輩と二人だけで訓練してた時間が結構長かったんですよね。神谷先輩と神室先輩はああ見えて結構仲が良いので、ペアを組む時とかは自然と僕・火神先輩、神谷先輩・神室先輩になることが多いです』

「げー、じゃあ俺あぶれちまうじゃん」

『その時は3人組にすれば良いじゃないですか! ね、火神先輩!』

『あ、う、うん、桜台くんが嫌じゃなければ……』

 

 通信繋がってたのか。現着報告以降一言も喋ってなかったから気づかなかった。

 

「むしろありがたいですよ。火神先輩はあの2人みたいに神楽坂と競争したりしなかったんですか?」

『そ、そんな、競争なんて。神楽坂くんは僕よりずっと強い神威を持ってるから……』

『ふふん! 実はそうなんですよねー! 神々廻先輩以外だと僕が一番神威の出力は高いんです! でも操縦技術で言うと火神先輩の方が上なので謙遜しないでください! 勝率は5:5くらいですから!』

『あ、ありがとう』

 

 ふむ、ということは神楽坂と火神先輩は総合的には同じくらいの強さなわけか。

 

「やっぱ一番強いのは神々廻なのか?」

『そうですね、神々廻先輩は圧倒的です。神威自体は一番とは言っても突出してるわけじゃないんですけど、操縦技術の方が神がかってます。あの域に届くのにどれだけ長く訓練してきたのか想像もできないです』

『ぼ、僕も全然神々廻くんには敵わない、かな』

 

 じゃあさっきの訓練で一方的にボコられたのは俺が初心者だからってだけじゃなく、神々廻が尋常じゃなく強かったからっていうのもあるわけだ。マジで初心者狩りじゃねえか。

 

「全員で見ると強さの順番はどんなもんなんだ?」

『うーん、総合力では神々廻先輩以外は多分そんなに変わらないと思います』

「でも神谷先輩と神室先輩の戦績は7:3なんだろ? それって結構差があるんじゃないか?」

『神室先輩は権能が強力なので通常訓練の成績だけで判断するのは早計ですよ。能力ごとの順番は大体明確になってますけどね』

 

 神楽坂の説明によると、

 1.機体のパワーやスピード、タフネスに直結する「神威の出力」は、神々廻>神楽坂>神谷先輩>神室先輩>火神先輩の順。

 2.女神の強さを引き出すために必須な機体の「操縦技術」は、神々廻>火神先輩>神谷先輩>神室先輩>神楽坂の順。

 3.咄嗟の行動や戦況を俯瞰して適切な動きを取るための「戦術判断」は、神々廻>神谷先輩>神室先輩>神楽坂>火神先輩。

 4.状況をひっくり返す可能性を秘めたとっておきの「権能」は、各自の方向性が別物であるため単純比較は出来ない。ただ、情報を遮断し屋内で権能ありの訓練をやった際の成績は、神々廻の次に神室先輩が優れていたらしい。次点で神楽坂、火神先輩と続き、最後に神谷先輩だそうだ。

 

 うん、神々廻(あいつ)おかしいわ。

 

「でもあれだな。そう聞くと権能なしの通常訓練で戦績7:3って結構健闘してる方なんじゃねーの?」

『ですねー。対戦相手が少ないので段々相手の動きに慣れてくるんですけど、神室先輩は特に神谷先輩の動きに慣れるのが早いんです』

「研究して対策でもしてんのかな」

『どうですかね。その辺はわかりませんけど』

 

 神室先輩と当たったら聞いてみるか。

 

『休憩終了です。全員準備は良いですか?』

ヤマト(神楽坂)行けます!』

ムメイ(桜台)、いつでもOKです』

『それでは、第二戦開始してください』

 

 オペレーターさんの言葉を合図にムメイ()ヤマト(神楽坂)は同時に駆け出し、正面から相手に突っ込んで拳を振りかぶる。

 さっきの話で神楽坂は操縦技術が低いって聞いてたから、神々廻みたいに投げ飛ばすとか受け流すみたいな真似は出来ないと思っての猪突猛進だったのだが、まさか相手も同じ手で来るとはな。

 

『食らえおらぁ!』

『行っきますよぉ!』

 

 互いの拳がぶつかった瞬間、空気が震え、衝撃波が地面を撫でた。

 ヤマトの右腕が嫌な軋みを上げ、そのまま肘から先がひしゃげるように潰れ関節部でぐにゃりと歪む。

 数拍の静寂の後、金属の塊が大地と衝突する鈍い音が響いた。

 

『えっ!? だ、大丈夫か神楽坂!?』

『日向くん!?』

 

 こうも一方的な結果になるとは思っておらず、更に言えばまさか機体が壊れるなどと思っていなかったため操縦を止めて安否を確認する。

 見学していた火神先輩も思わずと言った様子で声をあげた。

 

『僕は大丈夫ですけど、鏑木さん、訓練用の出力制限してないんですか?』

 

 すぐに神楽坂の声が返って来て安心した。

 向こうも痛覚のリンクは最低限なのか、特に苦しそうな様子はない。

 

『いや、出力制限はしている。各人の能力差異を反映するために一律の割合で設定していたがそれが仇になったか……』

『桜台くんの神威の出力ヤバすぎでは?』

『我々の見込みが甘かったようだな。すまない、神楽坂くんは帰投してくれ』

『はーい』

「ごめん、神楽坂」

『桜台くんは別に悪くないと思いますよ? ただの事故ですから気にしないでください』

「いや、でも女神が」

 

 6機しかない女神の1機が甚大な被害を負ってしまった。次の戦闘は神楽坂の出番はないらしいけど、今後の戦いに響くんじゃないか? 修理は間に合うのか?

 

『機体のことは心配しなくていい。このくらいの破損ならすぐに直る』

『あとでカラクリを教えてあげるのでほんとに心配しなくて良いですから!』

 

 スラスタを噴かして基地の方向へ去って行く神楽坂から励ますような通信が入る。

 心配しなくて良いとは言われても、もし攻撃した場所がコックピットだったら今頃神楽坂は……。

 

 守護獣と戦った時は無我夢中だった。

 その後は現実味のない話の連続で気にしている余裕がなかった。

 元の世界に帰るためには戦うしかないのだと思って、覚悟を決めたつもりでムメイに乗った。

 

 だけど今ようやく気が付いた。

 俺が乗っている兵器(モノ)の危険さを。

 一歩間違えれば、簡単に人の命を奪ってしまえる力を持っているのだということを。

 

 もし、避難していない住民がいたら。

 もし、事故が起きてしまったら。

 もし、戦闘中に誤射をしてしまったら。

 

 俺が覚悟するべきは、自分の命をかけて戦うことだけじゃなかった。

 誰かの命を奪ってしまう可能性を、その覚悟をしておかなければいけなかったんだ。

 

『桜台くん、神楽坂くんの神威出力でも受けきれないなら今の設定での模擬戦は危険だ。今日の訓練は一人用の機体操縦技術向上プログラムへ変更する。模擬戦への参加は明日以降、再度出力を調整してからになる』

「わかりました」

 

 今更怖気づいて逃げ出すことなんて出来ない。

 だったら俺がやるべきは、ちょっとでもそのもしもの可能性を抑えるために努力すること。

 俺はまだ全然このムメイのことを知らないんだ。とにかく一時間でも一分でも多く、ムメイに乗ってこいつの使い方を知る。まずはそれからだ。

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