転生したら『捕食者』だったんだが 作:犬養よわし
リムルが牙狼のリーダーの首を水刃で切って捕食した。
許せねぇ!捕食する物は選べと言っただろ!(言ってない)確かに、中国の一部の省では犬を食べてるらしいけど、余裕で許容範囲外じゃ!
リムルへの愚痴を浮かべながら、来るであろう血生臭い味に備えて、力の限り目を瞑る。人間は匂いでも味を感じれるらしいので、ついでに鼻も摘んでおく。もっとも人間じゃない俺に効果があるかはわからないが、しないよりはマシだ。
……いつまで経っても味が来ない。それどころか、首が口内に現れない。どう言うことだ?確かにリムルは首を捕食した。現にリムルは牙狼の姿に擬態して、牙狼族のことを威圧している。
『どうしたのだ?さっきから様子が変だぞ?』
『……いや、なんでもない』
ヴェルドラが心配そうに俺を見つめてくる。可愛いかよ、初めてドラゴンに萌えを感じたぞ。
存在自体が異常だからこんなこともあるでしょ。そう自分を納得させて、悩むのを止める。それに、もうリムルがゲテモノを捕食しても、もう不味さに苦しまなくて済む。唯一の救いの手であった『大賢者』さんはずっと味覚切ってくれないし……頭にきますよ!!そんな俺を不憫に思った神様がなんか……こう……やってくれたんでしょ!
《……ハァ……》
『大賢者』さんは俺の適当な思考を読んで、哀れに思ったのかため息をついてきた。
ヤメロォ!!俺の思考を読んでくるなぁ!!スキルにだって最低限のプライバシーはあるんだぞ!……流石に自分でもどうかと思っていたが、いざ実際にため息をつかれると胸にくる。
『大賢者』さんから逃げるように視線をリムルの視界に向けると、ゴブリンはお互いの肩を組み合って、天に向かって腕を上げて勝利を喜んでいた。対照的に、牙狼族はできるだけ地べたに近い体制で首を垂れていた。
こうして、ゴブリン村での戦いはゴブリン側の勝利で終わった。しかし牙狼族としては、リーダーが殺されたのだ。その恨みがすぐに消えはしないだろう。これから一緒に生活する上で、トラブルの原因にならなければ良いのだが……。
そんな不安が俺の心の隅に巣食っていた。
〜〜〜
ゴブリン村での戦いから翌日。リムルが名前をつけると言った瞬間に、弾けるようにゴブリンと牙狼がお互いに喜びを分かち合っていた。俺の不安は杞憂だった。
それにしても早くない?昨日の敵は今日の友とは言うけども、それにしても仲が良すぎない?フレンドリーの代表格であるアメリカ人でもここまでフレンドリーじゃないよ。村長に至っては、息子が殺されたんでしょ?器が広すぎるよ。多分太平洋より広い。
『なぁ……魔物って全員こんな感じなの?』
『この世界は弱肉強食だからな。負けたら死か軍門に下る。それで終わりだ』
『全員潔すぎでしょ……薩摩かよ』
ゴブリンと牙狼は仲良く列に並んでリムルに名付けをしてもらっていた。
数十個の名前を考えるって大変そうっすね(小並感)実際大変なのだろう。途中からはゴブ太とかゴブ蔵とか、どんどん投げやりになってきている。これもう最終的には佐藤とかになってそうだな。
俺はそう思いながら、ヴェルドラとの将棋に興じていた。リムルに特に面白いことが起きてないときは、こうして元の世界のゲームを作り、ヴェルドラと遊んでいるのだ。たまに『大賢者』さんも混ざってやるが、そのときは ヴェルドラ&俺 VS 大賢者 という構図になっている。因みに、それでもボコボコにされている。悲しいなぁ…(諸行無常)
そんな具合で、ヴェルドラと暇を潰していたら、『大賢者』さんからお怒りを頂いた。
《告。無限牢獄の解析をしなさい》
『ちょっとぐらい良いであろう!!』
『そーだそーだ(棒読み)』
『我だって頑張っているんだぞ!!』
『そーだそーだ(棒読み)』
《案。個体名バアル・テンペストに無限牢獄の解析をやらせるのはどうでしょう》
俺に関係ないことだから、適当にヴェルドラに便乗してたら飛び火したんだが?しかし、『大賢者』さんも前一緒に楽しそうにトランプしてたのに、怒ってくるとはこれ如何に。俺とヴェルドラをボコボコにして楽しそうにしてたじゃん。忘れないぞ、俺は。
『『大賢者』の提案とあらば仕方あるまい……解析は、お主に託したぞ……』
ヴェルドラもこれ幸いと、『大賢者』さんの提案に乗っかる。
顔を背けて、口を手で覆っているが、このドラゴン、笑みを抑えきれてない。
殺されてぇかお前オォン!?
思い返せば、ヴェルドラは暇なとき、俺とゲームをやるか漫画を観てるかのどちらかだ。ヴェルドラが真面目に解析しているところを見たことがない。これは『大賢者』さんに怒られても無理ない。
『お前がそう言う態度取るなら、俺にだって考えがある』
『うむ、なんだ?言っておくが我は並大抵のことでは屈せぬぞ』
ヴェルドラが出所のない薄っぺらな自信を満々にして答える。
『お前の今読んでる漫画の展開』
『何?』
『ちょうど今クライマックスだよなぁ?』
『待て。いや、待ってください。お願いします』
『ヒロインいただろ?そいつ最終的に『ワァァアー!!』』
『お主は鬼か!?我の楽しみを奪おうとするとは!?』
『じゃあ無限牢獄の解析は自分でやるよな?』
『うっす……』
さっきまでの態度が嘘のようにヴェルドラがしおらしくなった。
即落ち2コマかよ。そんなにネタバレが嫌なのか……。リムルの記憶にある漫画の展開は全部知っているので、ヴェルドラが暴走したときはネタバレを引き合いに出すか。
そう考えていたら、急に名付けをしていたリムルの映像が途絶えた。
『何事!?』
思わず口に出して言うと、ヴェルドラと『大賢者』さんが同時に解説を言い始めてハモった。仲良いかよ。
『バアルは我に聞いたのだ!』
《否。以前『ヴェルドラより『大賢者』さんの方が信用できる』と言っていました》
『なんだとぉ〜?』
前言撤回。やっぱりそんなことないかもしれない。今、わざわざ『大賢者』さんが俺と瓜二つの実体を作ってヴェルドラにメンチ切ってる。ヴェルドラもそれに乗ってメンチを切り始めた。
この間に入るのすっごい怖いんだが?リムルに何が起きたか知りたいから入るけどさ……。
『別にどっちでもいいから、リムルに何が起きたか教えてくれない?』
《『よくないぞ!(です)』》
『えぇ…(困惑)』
それから、不毛な言い争いが続いた。多分、俺の体を作るとき並みに白熱してる。この内に自分で調べた方が早いんじゃね?思い立ったが吉日。俺はリムルの体を隅々まで調べることにした。いやらしい意味ではない。
結局、口論はヴェルドラが言い負かされた。それはもう、完敗と言っても良いほどに。てか、こいついつも『大賢者』さんに言い負かされてんな。『大賢者』さんと口論してはいけない(戒め)はっきりわかんだね。
そうして、『大賢者』さんが解説を始めようとしたが……
『あっ、もうわかったんで大丈夫です』
俺はヴェルドラと『大賢者』さんが言い争っていた間に、リムルの映像が途絶えた理由を突き止めたのだ。理由は普通に魔素の使いすぎらしい。これを聞いた『大賢者』さんは滅茶苦茶落ち込んだ。それも、乗り移った体を最大限使ってだ。やっぱり感情あるやんけ。
《ありません》
『あるわけないであろう』
『もうええわ』
『大賢者』さんが感情を否定するのは理解できる。だがヴェルドラ、お前は『大賢者』さんと口論したり、ゲームやったり、十分『大賢者』さんの感情に触れ合ってるだろ。なんなんだお前は。
それから、『大賢者』さんは乗り移った体を結構気に入ったのか、そのままで過ごしている。自分の顔と同じ人がいるのは違和感が半端じゃないが、制作者はヴェルドラと『大賢者』さんなので俺は何も言えない。
『暇だな……』
『お前はまだ読んでない漫画があるだろ』
リムルが意識を失ってから一日を経過した。『大賢者』さんに頼み込んで、一応リムルの周辺を見えるようにしてもらったが、特に何も起きない。強いて言うなら、進化したゴブリンたちが周りに食べ物を置いてくるだけだ。
……………
『なぁヴェルドラ、お供物って食べて良いとは思わないか?』
『む?別に良いのではないか?そこに置いて腐らせるよりかは、食べてやった方がお供物も喜ぶであろう?』
『だよな、俺もそう思う。お墓参りに行く度に、お供物も食ってやらなければ、腐って無駄になるよなって考えてたんだ』
『何が言いたいのだ?』
『今、リムルの周りには、このまま腐って無駄になってしまうお供物がたくさんある。あの周りにあるお供物美味しそうだよな。あれを腐らせるぐらいなら食べたいよな』
ヴェルドラと俺は目を合わせ、頷き合う。そして、体を作業をしている『大賢者』さんの方に向ける。『大賢者』さんも俺たちの動きを察知して、目線を俺たちに向けてきた。
『『『大賢者』様!どうかあのお供物も食べさせてはいただけませんか!?』』
二人で同時に頭を最大限下げる。
腹を満たせるなら、誇りなんぞ捨ててやる。己の味覚が満たされるなら、どんな辱めだって受け入れてやる。
『『大賢者』様。我々に下心がないと言えば嘘になります。正直に言って、あの美味そうな果物に齧り付きたいと考えております。しかし、腐らせてしまっては、持ってきてくれたゴブリンたちに申し訳が立たないと思っているのも事実です』
《……問。取り分はどのように?》
『それはもちろん『大賢者』様が5です。我々二人は、残りの半分を分け合います』
《了。取引が成立しました。今からお供物をここに転移させます》
『大賢者』さんの足元に魔法陣が浮かび上がり、周辺が瞬く間に光に包まれる。
光が収まって目が見えるようになったとき、『大賢者』さんの足元に、さっきまでリムルの周りにあったお供物が現れた。
『大賢者』さんが半分を取っていき、美味しそうに咀嚼する。
よし……これで『大賢者』さんもこちら側だ。いくらリムルが犯人探しをしようとも『大賢者』さんがいる限り、俺たちの犯行とはバレないだろう。
完 全 犯 罪
成 立
俺も早速、お供物に手を伸ばす。
『ウレシイ…ウレシイ…』
久しぶりに食べるまともな食べ物に思わず涙してしまう。
こっちに来てから、リムルが味覚がないからと言って、まともな物を口にする機会は一度もなかった。お前になくても、俺にはあるからもっと美味い物を食べてほしい。
『うまい……うまい……』
隣にいるヴェルドラが、涙を滝のように流しながらリンゴを食べている。図体がでかいせいで、一個のリンゴでは味も薄く感じるだろうに、それでもヴェルドラは美味いと泣いている。
思えば、ヴェルドラは数百年間封印されていたから、この食事は数百年ぶりの食事になるのか……。いっぱいお食べ……。
〜〜〜
「完全復活!!」
スリープモードから目を覚ました俺は、勢いよく跳ね起きる。その衝撃によって、何故か周りにたくさん添えられていた果物が地面に落ちてしまった。
なんで果物が?
「リムル様ッ!!お目覚めですか!?」
俺が起きたことに気づいたリグルドがやってきた。ちょうど良いので、周りの果物について聞こうと視線を向けると、そこにいたのは、俺の予想していた以前のようなヨボヨボのじいさんなリグルドではなく、ムキムキの兄ちゃんなリグルドがいた。あまりの変化に思わず声を出してしまう。
「名前を承ったことにより、我々はホブゴブリンに進化したのです!」
「そっかぁ……」
名付けってすごい。
「あ、リグルド。俺の周りにあった食べ物はどうしたんだ?俺はスライムだから食べ物は必要ないぞ?味覚もないしな」
俺の問いかけに、リグルドは不思議そうに首を傾げる。
特に変なことは言ってないはずだが?そう考えていたら、リグルドが問いに答え始めた。
「リムル様が眠っている間に、周りの果物を食べるので、必要なのかな、と……」
「俺別に眠っている間は何もしてないぞ?」
「え?それでは誰が……」
急にホラー展開が始まってしまった。
大賢者さんは何か心当たりない?
《解。スキル『捕食者』が食べていました》
『捕食者』が!?まず『捕食者』に自我ってあったの!?全然気づかなかった……。
《解。ユニークスキルには、大小はありますが、自我が宿っております。ですが、その自我はとても微小なものであり、会話を行えるには至りません》
そっか……。一応聞いておきたいんだけど、暴走の危険性とかは…?
《解。現状、スキル『捕食者』は暴走の危険性はありません。しかし、ずっとゲテモノを食べさせては『捕食者』が言うことを聞かなくなる可能性が高いです》
もしかして、『捕食者』って俺にキレてた?
正直に言って心当たりしかない。洞窟では、見るからに不味い魔物をたくさん捕食したからな。
《解。キレてました》
これからはちゃんとした物を食べさせてやろう。俺はそう心に誓うのだった。
バアル…誰の後輩でも弟でもありません。お供物美味しかったです(主犯)
ヴェルドラ…我が名付けた。だから我の弟!お供物美味しかったです(共犯1)
大賢者さん…私が育てました。だから私の後輩です。お供物美味しかったです(共犯2)
リムル…なんかスリープモードに入ってたとき、『捕食者』がお供物食べてたらしい。何それ知らん。怖っ…(被害者1)
ゴブリン村の魔物たち…リムル様がお供物を食べてくれた!もっとお供物しないと!(被害者2)