TS転生魔改造毘沙門天なりきりセット装備・アマテラス風味 作:葛城
なお、鬼と定めた相手も同様です
まあ、プロローグだけなんで
──いやぁ、転生って本当にあるんですね。
そう、私が前世の事を思い出したのは、齢にして4歳の頃である。
もうね、本当ね、前世を思い出した瞬間はビックリしたよ。
よくある比喩だけど、まさにカミナリに打たれたみたいに、パーンって頭のてっぺんから足の指先まで、衝撃が走った。
本当に、そんな感じで一気に記憶が頭の奥底から、ぶわーっと噴き出してきたのだ。
これにはね、さすがの私もまいったよ。
なにせ、その時の私ってば、まだ4歳。おまけに、今生の年号が、明治。前世だと平成とか令和だったのに、今生は明治。
そう、『明治』なんだよ。明治の日本だった。
なんで明治だと分かったのかって、それは今生の両親たちの会話で、『めいじ』だの『えいじ』だの、どうとかこうとか話していたのを覚えていたから……で、だ。
こういうのはさあ、普通さ、ファンタジー的な世界でしょって思うじゃん?
でもさ、日本だったの。しかも、明治だったの。ファンタジー的な色合いがまったくない、明治時代だったの。
そのうえね、これは前世の記憶がぶわーっと噴き出して、思考が年相応から年不相応になった……え?
そりゃあ、年不相応になるでしょ。
だって、前世の私ってばアラフィフ直前のアラフォーだよ。
しかも、ロクな親じゃなかったせいで、けっこう心が荒んだままアラフォーになっていた、中年のおっさんだよ。
むしろ、犯罪をせずに暮らしていただけマシってもので……でね、話を戻すけど、私ってばその瞬間に年不相応になったわけ。
頭が痛いとか、記憶の混濁で混乱するとか、そういうのはなかった。
なんというか、膨大な長さの映画を観終わって、ちょっとボケーッとしてしまう感じが近い。
平々凡々どころか、社会的に見たら下の世界な人生を送ってきたけれども、40年以上の記憶がぶっ通しで強制上映されたようなものなのだ。
だから、最初のうちは本当にボケーッと突っ立ったまま、しばらくその場に呆けていたわけだけど……徐々に頭が再起動してくれて、それで……私は、今生の己の状況を正確に理解してしまった。
──あらやだ、私ってば捨てられちゃったじゃん……って。
そう、今生の私、なんと4歳で山に捨てられたのだ。
もちろん、私の思い込みじゃない。
記憶がよみがえる前の、今生の私の親が、『ここで待っていなさい、すぐに迎えに行くから』と放置して離れて行ったのだ。
右を見れば、うっそうと生い茂る木々ばかり。
左を見れば、うっそうと生い茂る木々ばかり。
前を見れば、うっそうと生い茂る木々ばかり。
後ろを見れば、うっそうと生い茂る木々ばかり。
頭上を見やれば、びっしりと四方八方から伸びている枝葉が太陽を遮って、昼間なのに辺りはちょっと薄暗い。
こんな場所に4歳の女の子を置いて行く時点で、普通じゃな……ん、あ、そう、今生の私ってば、女の子なの。
気のせいとかじゃなくて、ちゃんと女の子。
股から生えていたブツの間隔が無いし、今生の記憶がはっきりしているのは3歳ぐらいからだけど、ちゃんと穴から小便垂らしていた記憶があるし。
後々影響が出るかもしれないが、少なくとも、今の私はちゃんと自分を女の子だと思っているし、男ではないってのは理解出来ていたから、そこらへんの違和感もなかった。
……で、また話が逸れたので戻そう。
とにかく、私は山の中へと捨て置かれた。
もう確実に、そのまま死なせるために。いや、まあ、残酷な話なんだけど、仕方ないと言えば、仕方がないのかもしれない。
いや、まあ、本音を言わせたらふざけんなって話だけど、前世の記憶を元に客観的に考えたら、そうなっても仕方ないと思ってしまうのだ。
だって、今生の私のお家……しがない農家だけど、去年も今年もけっこう洒落にならないレベルで不作だったから。
姥捨てならぬ、子捨てってやつ。
言っておくが、前世の現代基準で考えてはならない。この頃の不作って、誇張抜きで餓死者がポロポロ現れるぐらいの影響が出るから。
実際、今生の家族の誰もが痩せ形(あるいは、超痩せ形)であったし、私の身体だって、4歳であることを差し引いてもガリガリである。
何もしなくてもあばら骨が浮いているし、お尻を叩いても尻の柔らかさよりも筋と骨の感触がする。触れば頬はこけているし、おそらく顔色だって悪いだろう。
たぶん、身長も現代の4歳児よりも低いだろう。
それに、どうやら今生の私……どうも、頭があまりよろしくないというか、なんか『色々と普通とは違う子』だと思われていたっぽくて、それが最後の決め手となったっぽいのだ。
まあ、致し方ない。
現代ですら、生まれてくる子供が障害児だと分かれば中絶なり堕胎なりを選択する親は珍しくない。
対して、今は健康体で生まれても、いつ流行り病からぽっくり死んじゃってもおかしくない時代だ。
そんな時代に、知的障害の疑いがある子供を育てられる余力がある農家なんて、1等宝くじを当てるぐらい難しい確立である。
だからまあ、捨てた時点で恩返しなんぞする気などないが、かといって、恨みを持つつもりもない……という感じが、今の私の正直な気持ちであった。
……で、だ。
改めて、私は周囲を見回す。
今の時刻はおそらくお昼。枝葉があるとはいえ、太陽光のおかげで薄暗いけれども視界が確保出来ているが……それも、時間の問題だ。
このまま行けば、あと数時間で私の視界は完全に闇に閉ざされる。比喩とかではなく、明るさ的な意味で。
それだけでなく、明日の朝を迎える前に野生動物に襲われる危険性だってあるし、そもそも、脱水症状っぽい感覚がする。
この調子だと、下手したら夜中の間に命を落としかねない。なにせ、そもそもからして慢性的な栄養失調っぽいのだから。
「……ふむ、とにかく、まずは食わねばならぬ」
なので、私は……己の内に眠っていた、不思議なパワーを開放した。
「いでよ、『コンビニ・エンス』」
その言葉と共に、私の眼前の空間に半透明のディプレイが現れた。それはまるでSFちっくな立体映像だが、ただの映像ではない。
そう、この『コンビニ・エンス』というのは、転生した事で得られた私だけの超能力なのである。
記憶が戻る前の私が『普通とは違う子』だと誤認された最大の原因がコレで、どうも、感覚的に使用するのは出来たようだが、知識がないし幼いので、意識的に使う事は出来なかったようだ。
まあ、そりゃあ、そうだ。
現代の4歳児ならともかく、明治時代生まれの4歳児に、いきなり缶コーヒーの開け方とか、おにぎりのビニール外しを失敗せずにできるわけがないのだ。
で、この『コンビニ・エンス』の中身は、いたって単純。
前世の言葉で説明するなら、『ネット通販』だ。
欲しい物をカゴに入れて、購入ボタンを押す。それだけで、私のすぐ傍に購入した商品が出現する、というわけだ。
ただ、一般的なネット通販とは違い、この『コンビニ・エンス』で買える商品は、どうやら物品以外の……そう、『概念的なモノ』も購入できるようだ。
たとえば、商品の中には『髪の毛+5cm』というものがある。
これを購入すると、今の髪の長さが+5cm伸びた状態になる。どうも、5cm伸びるのではなく、自然に伸びた後、という状態になるようだ。
他にも、『手先の器用さ+1』とか、『体力+1』とか、そういう物質的なモノではない、ステータス的な変化もいけるようなのだ。
原理とかは、まったくもって分からない。
正直、『コンビニ・エンス』って名前で負けてないか……と思わなくはない。
ただ、『転生したから使える』という根拠のない確信があるだけだが、気にするだけ無駄だと私はすぐに判断した。
「えっと、とりあえず……スポーツドリンクだな」
4歳で栄養失調の子供では、ペットボトルタイプは開けられない。なので、アルミ缶の方での購入を行う。
なお、『少年の値段が前世の物価基準』なのかは不明だが、もしも、そうなるなら、かなり割高な感じだが……背に腹は代えられない。
とにかく、そこらに落ちている枝とか平べったい石ころを使って、テコの原理で開けて……そうして、ゆっくり、ゆっくり、むせないよう気をつけながら、ゆっくりと。
「……う、美味すぎる、犯罪的だ……涙が出る……!!!」
4歳ゆえに舌足らずながらも、あまりの美味さに涙を滲ませながら……私は、じっくりゆっくりしっかりと、身体に浸みこんでゆく水分&糖分&塩分&その他諸々を実感するのであった。
……ちなみに、だ。
『コンビニ・エンス』で使用するお金は、今生の通貨でもなければ、前世の通貨でもない、専用通貨のみ使用可能である。
専用通貨の名称は、『ゴールド』だ。
これはもう、アレだ。一番近しいのが、『RPGゲーム』的な、アレ。モンスターとか、そういうのを倒した時に得る、アレ。
不幸中の幸いなことに、この『ゴールド』……どうやら、ものすごく対象となるモンスターの範囲が広いというか、適用範囲が広いっぽい。
具体的には、ただ道を歩いているだけで、ゴールドが溜まってゆく仕様になっているようだ。
おそらく、足を置いた所にある微生物を踏み殺したり、体内に入った病原菌を免疫が返り討ちにしたことが、そのまま『モンスターを、やっつけた!』みたいな扱いになるのだろう。
しかも、どうやらこのゴールドは、能力を開放した時点ではなく、私が今生の……そう、今の私がこの世に生まれ落ちてからの分が累積してカウントされているようなのだ。
これはマジで助かる。
そうでなかったら、『コンビニ・エンス』で食料を買う前に私の体力が尽きているところだ。
とにかく、生きているだけでも免疫は動いている。また、どうやら食事をするだけでも、微量ながらゴールドが手に入っていたみたいで。
(……とりあえず、『体力+1』を幾つか購入してステータスを底上げして……それからテントに、火を点ける道具に……まずは栄養を取って体力を付けないと、話にならん)
少なくとも、当分はゴールドが枯渇する心配はしなくていい。
また、これまた不幸中の幸いにも、私が捨てられた場所は山の中だが、人通りがほとんどない、けっこう山奥の方だ。
おそらく、万が一にも戻って来られないように……後は、今生の家族たちが密かに見付けている野草などの群生地に入り込まないようにするためだろう。
悲しいかな、伊達に前世の記憶がよみがえったわけではないので、そこらへんの背景を察することができた……まあ、それで、だ。
「……とにかく、少しでも身体に肉を付けんとな」
とりあえず、『コンビニ・エンス』にて用意したテントにて、ぐっすり身体を休めることにしたのであった。
……。
……。
…………ちなみに、使用済みの空き缶とかのゴミは、『買い取り』なる表示をクリックすると消すことが可能であった。
これが無かったら、食べ物のゴミの臭いで獣が寄って来てしまうので、地味だが非常にありがたい機能であった。
なお、非常に安価ではあるが、ゴミでも買い取ればゴールドが手に入るのは、嬉しかった。
──ハローエブリワン、如何お過ごしだろうか。
両親から4歳にしてキチガイ認定からの廃棄処分された私だが、今日でめでたく6歳になった──ん?
展開が早いって?
そう言われても、記憶がぶわーっとよみがえったのは、4歳の頃。
山奥に捨てられた身の私がすることなんて、兎にも角にもひたすら『コンビニ・エンス』にて飯を食って小便してウンコして寝て飯を食って小便して、ちょっと身体に栄養がチャージされ始めたなと思ったあたりで体操なんかを間に取り入れて……それの繰り返しである。
言うなれば、1分で終わるアニメを120回ループさせるようなモノだ。そんな展開を繰り返し描写したところで、私の方も途中から気まずくなるのは目に見えていた。
だから、いきなり6歳からのスタートである。
まあ、さすがにそれだと間が飛び飛びで困るっピ! ……みたいな人が居るかもしれないので、とりあえず、この2年間の間で分かった事……主に『コンビニ・エンス』についてだが、語ろう。
以前にも『コンビニ・エンス』はネット通販みたいなものと説明したが、正確には、けっこう違う。
というのも、この能力で買えるモノには概念的なモノとは別に『とある基準』がある他に、もう一つだけ隠された機能が搭載されていた。
まず、『とある基準』というのは、この世界のレベルに合わせて商品の値段が上下する……というもの。
たとえば、今は明治(間違ってはいないと思う)なわけだが、明治時代にアルミ缶なんて、有ったとしても相当な貴重品か高価な代物である。
なので、アルミを使用した商品は相当な割高になる。
反面、この時代で安価な代物ならば、『コンビニ・エンス』でも安価で買える……つまり、非常に少量のゴールドで買えるというわけだ。
言い換えたら、今の時代では手に入らない代物を『コンビニ・エンス』で購入しようと思ったら、それに合わせて料金も跳ね上がる……というわけだ。
特に、前世の現代基準でもSFに登場するような凄いモノになると、それこそ家一軒が新築で買えるぐらいで……話を戻そう。
──さて、次は、隠された機能のことだ。
それは……いわゆる、『トレーニング・モード』というやつで……金欠に陥った時用の救済措置みたいな感じのモードである。
その内容や使用方法は、いたって単純。
この『トレーニング・モード』をタッチして起動させた瞬間、私の意識が……そう、言うなれば、決戦のバトルフィールドのような空間に飛ばされる。
そこでは、様々なモンスターが私の現在の強さに合わせてランダムに登場し、それを倒すことで、本来得られるゴールドの半分を得る事ができる……というものだ。
私が救済措置と思った理由は、仮にモンスターに殺されても、私の身体は無傷だということ。非常にリアルなヴァーチャル空間で戦っていると言えば、想像しやすいだろうか。
おかげで、いくら貯金があるとはいえ、常に目減りし続けるゴールド残高に対する精神的なストレスはかなり軽減された。
……もちろん、デメリットはある。
それは、『トレーニング・モード』を開始すると途中で中止は出来ず、私が死ぬか、10回戦を終えるまで、モードが終わらないということ。
次に、負傷すれば現実さながらに痛みが走るということ。というか、感覚的には現実と同じなので、息切れもする。
また、ランダムで登場するモンスターだが、稀に今の私では手も足も出ないようなモンスターが出現する時もある。
どれぐらい手も足も出ないかって、攻撃が来るぞと思った時にはもう、首を落とされた己の身体を見上げていて──気付けば、現実に意識が戻っている時ぐらいだろうか。
とにかく、『トレーニング・モード』は精神的な負担がとんでもない……まあ、そのおかげで金欠でにっちもさっちも行かなくなるだなんて事態には陥らないから、有り難いのだけど。
で、だ。
長々と説明を終えたので、話を戻して……6歳になった私だが、無事に健康的な6歳を迎えることに成功していた。
やはり、基礎ステータスっぽい『体力』とか『抵抗力』とか、とにかく病気にならないよう永続ドーピングしまくったのが良かったようだ。
なんでかって、この時代、とにかく恐れなければならないのは、病気である。
現代とは違い、誰もが気軽に病院に行ける環境ではないし、健康保険なんてモノがないから、医療費がべらぼうに高い。
あと、薬も現代に比べて数も種類も少ない。慢性的な栄養不足な人も多く、風邪をこじらせて死ぬなんてのがもうゴロゴロいたような時代だ。
そんな時代で、風邪でも引いて、そのまま悪化させてみろ。
ただでさえ、健康な4歳児でも大人に比べて発熱しやすい時期なのだ……いくら『コンビニ・エンス』があったとしても、そのまま死ぬだろう。
どんなに優れた薬でも、それは当人の気力体力抵抗力があってこそ発揮されるものであり、それが無い者には、どれだけ薬があっても病気は治らない。
それを想像できていたからこそ、私はとにかく体力回復に努め、身体を直すことを最優先にした。
その結果、ガリガリの鶏がらみたいなガサガサボディは……知っているかな、ガチの栄養失調になると、肌ってボロボロになるし、酷いと乾燥してひび割れて出血したりするんだよね。
あと、髪が抜ける。がっさがさになったり細くボロボロになるだけでなく、ゴソッと抜け落ちる。たぶん、髪に回す水分&栄養すら惜しむ状態になると、そうなるのだろう。
私は幸いにも水だけは奇跡的に飲めていたし、肌がピチピチ(死語)の時期だったからそこまではいかなかったけど……で、まあ、とにかく身体を労わりまくった。
おかげで、6歳の今では、4歳のガリガリ鶏がらボディの時とは雲泥の差と断言出来るぐらいに、艶々になった。
とはいえ、だ。
基本的に同じ日常生活とは言っても現代とは運動量の桁が違うので、手足にはぷにっと柔らかい肉が付いても、若干細めで。
髪の艶や肌の艶こそ、現代にも匹敵するぐらいに……さすがは6歳児のツルツル柔らかボディ……だが、しかし。
「……あ~、ゴールド注ぎ込んで買った『コテージ』はまじ最高っすねぇ」
いくら『コンビニ・エンス』によって生きていくために必要なモノが買えるだけでなく、『トレーニング・モード』なる救済措置があるとはいえ、だ。
いくら、『コテージ』なる、見た目は本当にコテージなのに、内部は24時間快適かつ清潔な空間となっており、衣食住に必要な設備が全て揃って何故か水源無し電源無し下水設備無しなはずなに、何故かどこにも繋がっていないはずの蛇口から水もお湯も使えてコンセントを差していない家電が稼働してトイレの排水先が不明なうえに、何時でも『コンビニ・エンス』の『収納or取り出し』にて出し入れが可能な超不思議空間……が、あったとしても、だ。
所詮は、6歳児である。
それこそ、大人の本気パンチ一発で死亡しかねない弱さだ。
そりゃあ、『体力+1』とか『素早さ+1』とか『頑丈+1』とかでステータスの底上げはしているけど、私は欠片も過信していない。
所詮、1人の人間がやれる事など高が知れている。
いくら今の私が平均と比較してスーパー6歳児だとしても、二十歳越えの大人に囲まれたらひとたまりもないだろう。
それに、私のこの『コンビニ・エンス』の能力が他者に知られるのは非常にマズイ。善良かつ口が固い者ならともかく、下手に広まれば、人さらいが続々押し寄せてくるだろう。
だから、私は今もなお山奥の中でひっそりと人目を避けて暮らしている。
最初は寂しいとも思ったが、『ゴールドの枯渇=死』の方程式は今もなお変わっていないので、今では暇さえあれば『トレーニング・モード』でゴールドを稼ぐのが日常になって……ん?
……そんなにゴールドが必要なのかって?
いや、だって、ねえ?
あまり悪い言い方はしたくないが、率直に言えば、飯は現代基準のモノの方が美味い……つまり、食費がとんでもねえのだ。
本当に悪く言うつもりはないのだけど、長き年月に渡って品種改良を繰り返し続け、農学の研究が進み、栽培方法を確立させてきた現代の食品に比べたら……こう、うん。
ぶっちゃけると、米も野菜も肉も、現代の方がべらぼうに美味い。そして、私の舌はすっかり現代のそれに慣れてしまった。
別に、不味いわけではないのだ。定期的に、この時代の食品を購入して食べているし。
ただ、現代のと並べられたら、100%現代モノを選ぶぐらいには、味に差があるわけで……そして、現代食品はどうしても高価になるので、その分だけゴールドが必要になるわけだ。
しかも、『コテージ』を購入したから、懐にはまったく余裕が無い。『コテージ』の設備を使用すると、使用した分に応じてゴールドが消費されるので、余計に。
あと、実は救済措置っぽい『トレーニング・モード』だが、現実に戻れば怪我とかが無くなるわけだけど、使用する武器とか防具とかは戻らないという弱点がある。
つまり、最中に武器が破損してしまえば、現実に戻ってきても元には戻らない。同様に、衣服が破損すれば、破損した状態で現実に戻るわけだ。
実際、火を吐くモンスターに火達磨にされた後、ハッと我に返った私は素っ裸のまま突っ立っていたとかいう状態になっていたこともあった。
加えて、これは最近になっての事だが……出現するモンスターの中には、どうも『特別な武器』を使わなければ殺せない個体が現れ始めているのも、少々問題になっている。
私はその個体を、『レア個体』と呼んでいる。
レア個体は倒せば報酬(つまり、ゴールド)がデカいけど、その分だけ強いし、倒せないと大損だから……正直、タイミング次第な敵である。
だって、そういう『特別な武器』って、高いんだよね……他の武器に比べて、特別頑丈ってわけでもないから、下手すると破損しちゃうし。
そう考えると、けっこう良いことばかりじゃない。
まあ、そもそも、名前の通り利便性は破格だが、一旦ジリ貧の状態に陥るとけっこう立て直しに時間が掛かる……『コンビニ・エンス』とは、そういう能力なのだけど。
「──しゃあっ! 一眠りしたら、また人稼ぎッス!」
だから、この日の私も、少しでもゴールドを稼ぐために頑張るのであった。
……。
……。
…………さて、そんなこんなでまた時が流れて7歳になった頃……無事にジリ貧を脱出出来ていた私だが、問題が発生していた。
それは、『トレーニング・モード』に出現するモンスターが全て、『特別な武器』を使わなければ倒せない個体しか出て来なくなったことだ。
これがまあ、私としては大変に遺憾な事態である。
以前からそういう個体が増加傾向にはあったが、まさかそれで出現タイプが固定されるようになるとは、考えが甘かった。
なにせ、『特別な武器』はとにかく高い。消耗品だから、定期的な購入が必須である。
なのに、そういった個体の強さが、以前に比べて強くなっている。
今はまだ苦も無く殺せているが、時々出現する『レア個体』はヤバい。最悪、命を落としかねないぐらいに強い。
どれぐらい強いのかって、実は相手がモンスターの形をしたロボットなのかってぐらいに動きが速く息切れしないから、こっちがちょっとでも息切れして動きが鈍ると致命傷を負わされるぐらい強い。
おかげで、最近ではオヤツ代も全部肉体強化に注いでステータスを底上げしまくっている。この状況で下手にジリ貧に陥ったらヤバすぎるから、私も必死である。
『体力』とか『筋力』とかもそうだが、とにかく息切れ=敗北ぐらい大事だから、『肺活量』とか『呼吸』とかも上げまくっている。
やっぱり、いくら体力があったからといって、呼吸を止めてそう長くは動けないじゃん?
でも、人間ってば全力でパワーを出す時って息を止めるの。いわゆる、無酸素運動ってやつ?
この無酸素運動をどれだけ長く続けられるか、それが大事なわけ。
だから私は、一回の呼吸でいっぱい吸えるようになったら、その分だけ動けるじゃん……って考えたわけよ。
だから、『肺活量』とか『呼吸』とかのステータスを上げたわけ。
おかげで、相当長く息を止められるようになった。息を吸って吐く時とか、すごいよ……ゴォォォ、ってまるで体内で核融合が起こっているみたいな音がするんだもの。
でも、この二つを上げたおかげか、マジで身体のキレが良くなってさ……前まで苦戦していたレア個体も、けっこう瞬殺できるようになった。
これがまあ、とっても美味しい!
最近はせっかく女の子に生まれたのだから保湿剤とか色々、他にも『コテージ』以外の家も買おうかなと視野に入れていたから、臨時収入がやってきたぞ……的な感覚になっていた。
ただ、副作用なのか、最近になって身体に変な模様というか、痣が出てしまっているが……背に腹は代えられないから、我慢するしかないのが現状である。
まあ、痣が出ても体温がべらぼうに高いとか、身体の調子がおかしいとか、そういう症状がまったくないから、そこまで気にはしていないけど。
だって、ほら……今生の私ってば、ピチピチな女の子(7歳)じゃん……玉のお肌に痣とか、損失もいいところじゃん?
あと、地味に重要なのが、3ヵ月ぐらい前から底上げし始めた、『無駄な動き-1』というステータス。
これがまあ本当に地味に重要で、上げると息切れする頻度が減るし、疲れにくくなる。おまけに、無駄が減る分反撃しやすくなるから、上げれば上げるほど勝率が上がっている。
ただ、これも副作用がある。
どういう原理かは不明だが、集中すると相手の……モンスターの身体が透けて見えるようになったんだよね。
しかも、それだけじゃない。
こう、直感的に分かっちゃうんだよね。
筋肉の動きとか、関節の動きとか、血流の流れとか、どこがどう動いて、どこがどう止まって、どこに力が入って、どこで抜けているのか……全部分かっちゃう。
例えるなら、ババ抜きで相手の手札が常にオープンにされている……といえば、分かりやすいかな。
おかげで、相手のやろうとする行動が全部読めるようになった。
そのうえ、相手の身体が透けて見える時って……なんていうか、世界がスローモーションみたいになってんの。
なんというか、私だけ加速装置が働いているような感じかな?
だから、世界が透けて見えている時って、マジでボーナスタイム。だって、よっぽど運が悪く、めちゃ強レア個体を引きさえしなければだいたい瞬殺できるから。
……でも、この世界が透ける時って、相当に集中している時じゃないと発動しないんだよね。
いや、まあ、日常的に透けて見えたら、慣れるまで気持ち悪くてボケーッとしっぱなしになると思うから、今ぐらいがちょうどいいんだけどね。
「……おぉ! 瞳に文字が! それも、3体も!? しゃあっ!!!」
そうして、今日も『トレーニング・モード』を始めれば、なんと今日は一度に3体も出た。
しかも、全員がレア個体、幸先が良い。
見た目は人間っぽいが、中身は化け物。瞳に下弦だが何だかの文字が見え隠れしている、人食い生物である。
「な、なんだ、ここは……あ、ああ、そうか、ここは!?」
「お、思い出した! そうだ、私は前にもここで首を──」
「こ、こんなことが許されていいのか!?」
なにやら慌てふためく3体のレア個体……もちろん、逃しはしない。
「私はジェンダーレスだ、男も女も平等に首を落としてやるのよ……!!!」
『特別な武器』を鞘から抜き、私は走り出す。
この武器は、思いっきり強く握るとなんか刀身が焼けるように赤くなる特徴があり……これで切ると、手足の無限回復が抑えられる。
なので、最近ではレア個体に限らず、赤くした状態で手足を切り落とし、そのまま流れで首を落とすのが、ある種のルーチンになっていた。
──突然だが、私には今生の名前が無い。
いや、正確には、名前がある。
だが、この世界の常識に疎い私ですら分かる……間違いなく、それは名前に使ってよい言葉ではない、と。
少なくとも、現代でそんな名前を付けたら一発で児童虐待で逮捕である。それぐらい酷い名前なので、私は己の名前は無いということにした。
……そうして、気付けばつい先日、私は10歳になった。
一気に3年も月日が飛んだわけだが、今の私を10歳と思う者はまずいないだろう。
今生の私は、いわゆる早熟というやつなのだろう。
よく動いて、よく食べて、よく寝て、よくウンコをする。
そのルーチンのおかげか、今生の私は10歳だというのに、身長が約160cm近くまで伸びていた。
身体もうっすら筋肉が付いており、おまけに我ながら肉付きが良いと胸を張れるぐらい、肉付きが良い。
いわゆるスポーツ系巨乳少女といった感じで、ステータスを底上げしまくったおかげだろう……まあ、最近は底上げし過ぎたせいか、排泄とかしなくなったけど。
そう、以前はモリモリ食べてモリモリ排泄していたけど、最近はしなくても平気になったんよな。
これも、ステータスを底上げした弊害か……我ながら大丈夫かなって思ったけど、特に困る様な事態にはなっていないから、気にしないことにした。
……で、だ。
ここにきて、そこまで来て、私はふと思ったのだ。
──山暮らし、飽きた、と。
4歳でなんちゃってサバイバル生活に突入した私だが、さすがに誰とも会話しないまま大自然の中で6年も生きたら、色々と飽きも来る。
飽きが来るのは、それだけ『コンビニ・エンス』のおかげで余裕のある暮らしが出来ているからなのだが……それはそれとして、非常に大切な問題である。
だって、マジでルーチンだし。
違うのは、食う飯や食う場所が違うだけで、それ以外はひたすら『トレーニング・モード』でゴールド稼ぎをしているか、『コンビニ・エンス』での買い物も、特にしていない。
だって、山の中だし。
おまけに、『トレーニング・モード』に出てくるモンスターも、慣れると作業を通り越して虚無なのよね。
最初の頃はさ、かなり歯ごたえがあったのよ。
でもさ、さすがに対戦回数が6ケタを超え始めると、面白い面白くない以前に、流れ作業みたいな感覚になるわけよ。
特に、痣が出て世界が透き通ってスローモーションになるのが常態化すると、もうめっちゃヌルゲーなわけ。
それでもまあ、最初のうちはかなり苦戦するレベルのモンスターだったけど……慣れって、怖いよね。
気付いたら、そのレベルのモンスターが同時に100体ぐらい襲い掛かって来ても、なんか100コンボだドン! みたいな感じで倒せるようになっちゃって。
正直、見た目がちょっと違うだけの敵には飽きたでごわず。
まあ、そのおかげでゴールドを稼ぐ速度が早まったわけだけど……で、話を戻すけど、私はそういう生活にちょっと飽きたわけ。
だから、ちょっと山を下りて東京さ行くだ……って思い至ったわけだけど……ここでまあ、問題が一つ。
それが、私に名前が無いという事だ。
元々ある今生の名前はとてもではないが、人前では名乗れない。かといって、前世の名前は……なんというか、今生の私には似合わないだろう。
だって、今生の私ってば女だし。
いくら前世が男とはいえ、感覚的にはやっぱり『女』ってのがあるわけで……あと、間違いなく変な名前だと言われそうだから、名乗りたくないわけで。
で、だ。
さすがに名無しの権兵衛では不信感を招きそうなので、新しい名前と……あと、見た目の格好も大事だよなと思ったわけで。
「『コンビニ・エンス』……う~ん、さすがにパワードスーツは高くなるねえ……いや、マジで高いな、おい……」
とりあえず、困った時の『コンビニ・エンス』である。
自分の身は、自分で守る。
現代人が忘れがちな事だが、それは自然界においても同じ事であり、生物が生きていくためには逃れられない不変の真理である。
なので、金に糸目は付けるつもりはなく(限度はあるけど)、私は自分の身を守るために、防具を購入することにした。
(やっぱり、無難に甲冑っぽいのが安く……いや、安くねえな、なんだこれ、くっそたけえぞ?)
そうしてとりあえずは性能面を考慮して調べてみれば、防具もそうだが、武器に関しても想定している以上に値段が高いやつが表示されて混乱する。
例えるなら、アレだ。
たまには良いお酒でも飲む(予算5000円ぐらい)かと値段高い順でソートしてみたら、180万円の酒が表示されたとかいう、アレ。
例の『特別な武器』も高めだが、表示されているそれは比ではない。
試しに値段が安い順でソートしてみたら……なんだろう、握り飯十数個分ぐらいの値段になったせいか、前世のネット通販もこんな感じだったよなという懐かしさが……いや、話を戻そう。
とにかく、だ。
さすがに、低価格帯の武器防具は見えている地雷過ぎて買う気がおきない。
表示されている画像を見たら、なんかヒビが見えたり、汚れていたり、欠けていたり、錆びていたり。
ていうか、なんか画像の下に小さく『破損・汚染・劣化・多大注意!』って赤文字が……うん。
なんだろう、木の棒に石を括りつけた石斧の方が値段が高い理由が察せられた。
しかし、高価格帯の武器防具は……う~ん。
「SFちっくなパワードスーツは間違いなく妖怪の類だって思われるだろうし、甲冑系なら……やっぱ、高いやつが良いのか……?」
予算内で買える防具の中で一つ、赤字で『毘沙門天の加護有り、汝もまた毘沙門天!!』と書かれているのが有って、それがめちゃ気になる……あ、いや、待て。
……よくよく見たらこれ、『毘沙門天なりきりセット』だ。
セット内容が小文字になっているので注意深く見ていないと気付かなかったが、なにやら『三つ又の槍』と『宝塔』も付いてくるようだ。
しかも、それだけではない。
『三つ又の槍』には、どうやら悪や煩悩を払う力があるようで、特に悪鬼に対しては絶大な効果があるようで、私が使っている『特別な武器』よりもはるかに強力らしい。
『宝塔』にいたっては、中に仏教の教えが収められているらしく、他には、なにやら『天照大神』の力が宿っているようだ。
正直、だからどうした……という話だが、でもまあ、心惹かれる部分はけっこうある。
なにせ、『とにかくスゴイ! とにかくツヨイ! 実際、オカイドク!!』というキャッチコピーが付いているだけあって、絶対に損耗しないし、念じるだけで付け外し簡単という楽々仕様である。
それに、宝塔が懐中電灯の代わりになりそうなのが有り難い。三つ又槍は……ほら、高いところにあるリンゴとか、魚とか取れそうじゃん?
あと、よくよく見たら説明文の一番下に、『空も飛べます!』ってのが……あ、これ、買いに決まりだわ。
山暮らしは慣れたけど、整備も整地もされていない山を下りるのって、素人が考えるよりもはるかに辛いんよね。
私が山を下りなかったのも、そういう面倒臭さがあったのも理由の一つだし……で、だ。
(……ところで、毘沙門天って天照大神となんか関係があったっけ?)
あまり詳しくないし前世の事なのでうろ覚えだが……なんだっけ、たしか毘沙門天には『光の象徴』として祀っているところもあるとか、なんかテレビで見たような……まあ、いいか。
──ポチッとな。
こういうのは、勢いで購入するのが一番だ(n敗)。
そうして、私の前に出現する『毘沙門天なりきりセット』。
説明通りに念じたら、私の恰好が毘沙門天なりきり……甲冑を身に纏い、左手には宝塔と、右手には三つ又の槍が……ヨシッ!!
「おお、なんか分からんけど、飛び方が分かるぞ……!」
そして、空を飛行する力も手にした私のテンション、上がり過ぎた私は──勢いのままに空へと舞いあがり──空を駆けたのであった。
……。
……。
…………その結果、分かった事が三つある。
一つは、私は今の時代が『明治』だと思っていたのだが、それが勘違いだった事。
何故なら、どこを見ても明らかに街並みの発展具合や人々の服装が『明治』ではないからだ。
刀を持っている人がけっこういたし、農村の人達の恰好が明らかにみすぼらしい。ていうか、明治の時には当たり前になりつつある『鉄』の気配が全然ない。
実際に降り立って通行人に話を聞けば、とりあえず、明治とかいう年号ではないようで、明治という年号自体、聞いた覚えがないようだった。
で、二つ目だが、どうやら私が思っているよりもはるかに、今の時代は信心深い人が多いようだ。
そりゃあもう、話し掛けた人たち、1人の例外もなくその場に土下座されたぐらいに……あんまり畏れ多いみたいな態度をされたので、『ただのなりきりセットです』とは言えず、毘沙門天のフリをするしかなくなった。
そして、三つ目だが……どうやら、この世界には実際に『怪物』が存在するようなのだ。
その怪物を『妖怪』と称するべきか、それとも単純にガチのモンスターと思うべきか……些か判断に迷うところだが、とにかく、そういうのが居た。
なんとなく、『トレーニング・モード』に登場する敵に似ているような……と思わなくもなかったが、そこはいいだろう。
……で、だ。
どうして、三つ目の化け物の事が分かったのかって?
それは、たまたま通り過ぎようとしていた家から悲鳴が聞こえたので地面へ降り立ち、今にも襲われようとしている妊婦さんを助けた際。
その、襲った相手が、件の怪物だったからである。
まあ、幸いにも、その怪物は見た目だけの糞雑魚だったので、三つ又槍をブスッと刺したら、紙に火が燃え広がるように灰になって消えたので、それでひとまず危機は去ったわけ……なのだが。
「……本当に、ありがとうございます」
「子供共々助かりました、毘沙門天様!!」
「ありがたや、ありがたや」
正直、そんな事よりも、だ。
少し遅れて戻ってきた、妊婦さんの旦那さんと、助けた妊婦さんと、後はお婆さん(たぶん、産婆?)から、それはそれは頭を下げられ。
「某の名は、継国縁壱。妻は、継国うた──」
「よ、縁壱……う、生まれる!!」
「──う、うた! さ、産婆様、どうか、うたを!!」
「ヨシ来た!! 湯を沸かしてくだせえ!!」
次いで、まるでそれを見計らっていたかのように、うたと紹介された妊婦さんが産気づき、私も慌てて『コンビニ・エンス』よりタオルとか必要な道具その他諸々を用意し。
「ほれぇ! 気張れ! 息を止めたらアカンぞ! ほれ、吸って、吐いて、吸って、吐いて、ゆっくりじゃ、大丈夫じゃ、頭が出て来とる!!!」
「ひい! ひい! ひい! ふう! ふう! ふう!」
出産するお手伝いをするインパクトに比べたら。
(ま、まさか、お産の手伝いを経験することになろうとは……)
たかが化け物一匹、その程度の認識にしかならなかった。
誰か続き書いてや、お待ちしてます