Black Archive   作:アストラ連合学園中央生徒会

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混沌の地DU


2話

 

 

 

 連邦生徒会が治める直轄地区DU.、その中でも連邦生徒会のある中央地区は非常に栄えており、治安も良く他の学園生も遊びに来るほどだ。

 

 だが、それは数週間前の話だった。

 

 数週間前までは穏やかだった都心部の空気が、重く淀んでいた。街灯の一部は破られ、ビルの壁面には弾痕が修復されずに残っている。

 

 歩道にはガラス片と空薬莢が散乱し、遠くから聞こえるサイレンも、まるで諦めたような響きを帯びていた。

 

 アストラ連合学園所属・第07独立偵察大隊第1中隊第1小隊「ヴェール」その先頭車両が、静かに速度を落とした。

 

 

「全車、停止。CPへ現状報告。02、03は周囲警戒」

 

 

 ヴェール偵察小隊の小隊長を務める生徒が低い声で指示を出す。彼女の横では通信担当の隊員が、すでに暗号化された無線機のスイッチを入れていた。

 

 

「CP、CP、こちらヴェール711。目標座標に移動中。現在位置、グリッドE-4。繰り返す、E-4に入った。」

 

 

 無線の向こうから、すぐに落ち着いた少女の声が返ってきた。

 

 

『了解、ヴェール711。状況を報告せよ』

 

 

 小隊長は短く息を吐き、淡々と続けた。

 

 

「作戦開始から、既に7組の不良集団を確認・制圧済み。

 

いずれも銃器、爆発物を所持し、明確な組織的抵抗を示した。我が小隊に損害なし。ただし……」

 

 

 彼女は一瞬、言葉を区切った。

 

 

「犯罪発生数が異常だ。

 

CP、こちらの推定では、この24時間だけで中央地区内は通常時の約14倍の強盗・傷害・器物損壊事案が発生している。

 

パトロール中のヴァルキューレですら、武装した不良集団に襲われるケースが頻発している模様だ。

 

補給部隊との合流を予定より前倒しにしたい。増援の派遣も強く希望する」

 

『……了解した。補給部隊の合流ポイントを変更する。現在地から最も近い安全ルートを再計算中だ。少し待て』

 

 

 無線機の向こうで、わずかに間が空いた。

 

 

『━━こちらCP。ヴェール711、E-4から北東へ移動、グリッドF-2付近で合流可能とする。時間は約40分後だ』

 

 

 助かる、小隊長は短く答えた。

 

 CPのオペレーターは、抑揚を抑えながら続けた。

 

 

『増援部隊については、ただちにHQへ進言する。

ヴェール711、よくやっている。現状維持に努め、決して単独で深部へ進まないこと。以上』

 

「ヴェール711、了解。通信終了」

 

 

 通信担当員が無線機のスイッチを切ると、車内が一瞬、静まり返った。

 

 小隊長はフロントガラス越しに、何処か殺伐とした中央地区の街並みをじっと見つめた。

 

 本来であれば生徒の賑やかな声がこだまするビル街が、まるで死んだように静かだ。遠くで何かが爆ぜるような音が響き、すぐに途切れた。

 

 やがて、彼女は小さく、しかしはっきりと独り言を漏らした。

 

 

「……一体、どうなってるんだ」

 

 

 後部座席に座っていた隊員が。マガジンに弾を込めながら応じる。

 

 

「隊長。どうなってる、じゃなくて、どうなってきている、でしょうね。

この異常は、連邦生徒会長の失踪が事実である可能性が高いです」

 

 小隊長は答えず、ただ唇を固く結んだ。

 

 ヴェール711の車列は、再びゆっくりと動き始めた。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 中央地区グリッドE-4を離れ、北東へ向かう道はさらに荒れていた。

 

 三両のタイフーンL改が、静かに車列を組んで移動する。

 

 アストラ連合学園仕様のタイフーンL改は、重厚な複合装甲と強化サスペンションを備え、屋根のRCWSには12.7mm重機関銃が据えられていた。

 

 各車両に7名の分隊員を乗せた3分隊1小隊、総勢21名のヴェール711小隊は、補給部隊との合流ポイントのグリッドF-2を目指していた。

 

 小隊長は先頭車両のコマンドシートに座り、戦術タブレットでルートを確認しながら指示を出した。

 

 

「速度を維持。敵の気配があれば即座に報告せよ」

 

『了解』

 

 

 車内は無線とエンジン音だけが響くが、外の街並みはますます混沌を増していた。

 

 倒れた街灯、弾痕が残る壁、散乱した空薬莢。数週間まで普通の生徒たちが行き交っていたはずの通りが、今は戦場のような様相を呈していた。

 

 突然、先頭車両の観測員から声が上がった。

 

 

『隊長!13時方向、約150メートル先。トリニティの制服が見えます。周辺にヘルメット団13名、武装確認。恫喝中かと思われます』

 

 

 小隊長の目が鋭くなった。

 

 アストラ連合学園——ひいてはロルン(Lost Rest Not社)のお得意先であるトリニティの生徒を、こんな場所で素知らぬ顔はできなかった。

 

 

「全車両、戦闘準備。トリニティ生徒の安全を最優先に救出する。散開!」

 

 

 三両のタイフーンL改が素早く散開し、ドアが開いた。分隊員たちが訓練された動きで降車し、車両の陰に展開。

 

 装甲車両の車体を盾に、各自が所定の射撃ポジションを取る。RCWSの重機関銃が低く唸りを上げ、照準が不良集団に向けられた。

 

 幸い不良たちはまだ気づいていない。

 

 ヘルメットで顔を隠した13名の集団が、怯える一人の少女を囲み、笑い声を上げながら金品を要求していた。

 

 少女は明るい金髪を低めのツインテールにまとめ、黄色と黒のリボンで結んでいた。頭には小さな翼のような髪飾りが揺れ、トリニティのセーラー服を着ている。

 

 手に小さい珍妙なキーホルダーを握りしめ、肩を震わせていた。

 

 小隊長は無線で短く命じる。

 

 

「02、左翼から制圧。03、右翼から援護。01は車両で火力支援。トリニティ生徒に弾が当たらぬよう精密射撃を心がけろ」

 

『了解』

 

 

 戦闘は一瞬で始まった。

 

 02分隊の隊員たちが車両の陰から素早く前進し、射撃を行う。乾いた銃声が連続し、アスファルトに数人が沈む。

 

 不良の一人が驚いて振り返った瞬間、03分隊の隊員が自動小銃を単連射。相手の肩と脚に複数発が命中し、バランスを崩した不良が倒れる。

 

 

「うわっ!?」

 

「何だ、ヴァルキューレか!?」

 

 

 ヘルメット団が慌てて応戦を始めた。散弾銃の乱射がタイフーンL改の装甲に当たって鈍い金属音を立てるが、貫通などするはずもない。

 

 RCWSの12.7mm重機関銃が短く唸り、制圧射撃を浴びせると、不良たちの足元が土煙を上げて抉れ、複数の不良が銃撃を受けて倒れた。

 

 分隊員たちはその隙に前進。車両の装甲を活かし、互いにカバーしながら距離を詰める。

 

 隊員の一人が不良の自動小銃を蹴り飛ばし、即座にタックルで地面に押さえつけた。

 

 もう一人は散弾銃を構えた相手にショルダーチャージを入れ、至近距離から拳銃で胸を撃ち抜いて行動不能に陥らせる。

 

 銃声と怒号が交錯する中、小隊長自身も車両から降り、自動小銃を構えて突入した。彼女の動きは無駄がなく、プロフェッショナルそのもの。

 

 不良の一人が少女に向かって銃を向けようとした瞬間、自動小銃を連射し、相手の胸を連続した銃弾が襲う。反撃する暇もなく地面に倒れ動かなくなる。

 

 

「動くな!アストラ連合だ!抵抗をやめろ!」

 

 

 不良たちは次々と制圧されていった。

 

 自動小銃の連射が不良達を一人一人確実に倒していく、不良達の応射はタイフーンL改の装甲に跳ね返され、まともに反撃出来ていない。

 

 数分で13名全員が地面に倒れる、銃を捨てて逃げようとした者も03分隊の側面射撃に倒れ、捕らえられた。

 

 

「戦闘終了。敵13名、制圧完了。各隊の状況は?」

 

「01、損害なし」

 

「02、損害なし」

 

『03、損害なし』

 

 

 小隊長は素早く周囲を確認し、怯えたまま蹲るトリニティの生徒に近づいた。少女は目を大きく見開き、珍妙なキーホルダーを胸に抱きしめていた。

 

 

「大丈夫か。……怪我はないな?」

 

 

 少女は少し震える声で、しかし丁寧に答えた。

 

 

「あ、ありがとうございます……。突然でびっくりしてしまって……。私は、えっと、普通の生徒なんですけど……」

 

 

 小隊長は周囲の安全を確認しながら、変わらぬ口調のまま続けた。

 

 

「現在、この地区の治安が極めて悪化している。それはトリニティでも教えられた筈だ、君はなぜこんな危険な場所にいる?説明してもらえるか」

 

 

 少女は少し目を伏せ、恥ずかしそうに指を絡めながら濁した。

 

 

「その……ペロロ様の限定グッズが、近くのショップに残ってるかもしれないって聞いて……。ちょっと探しに来てしまって……。まさかこんなことに……」

 

 

 小隊長は内心でため息をついたが、表情には出さなかった。トリニティの生徒らしからぬ、純粋で少し抜けた理由だ。

 

 

「調書を取るつもりはないが、作戦行動中だ。名前を聞かせてくれ」

 

「あ……私は阿慈谷ヒフミです。帰宅部で……本当にありがとうございました!助けていただいて……」

 

 

 小隊長は彼女を「ヒフミ」と親しげに呼ぶことはせず、名字で呼んだ。馴れ馴れしさは避けるのが彼女らの流儀だった。

 

 

「阿慈谷。作戦行動中のため、連れて行くことはできない。ここから自分で帰れるか?」

 

 

 ヒフミは慌てて首を振り、柔らかい笑顔を浮かべた。

 

 

「大丈夫です!自分で帰れますから、心配しないでください。本当に……ありがとうございました。アストラ連合学園の方々、かっこよかったです……!」

 

 

 彼女はもう一度深くお辞儀をし、珍妙な━ペロロのキーホルダーを握りしめながら、足早に安全そうな方向へ去っていった。

 

後ろ姿を見送りながら、小隊長は小さく呟いた。

 

 

「……無事に戻ってくれよ」

 

 

 心配は残ったが、任務は優先だ。ヴェール711は即座に車両へ再搭乗し、合流ポイントへ向けて移動を再開した。

 

 移動中、小隊長は無線を入れた。

 

 

「リロック、こちらヴェール711。グリッドF-2へ接近中。ETA約8分。状況に変更なし」

 

 

 補給部隊「リロック」からすぐに返事が来た。

 

 

『リロック、了解。ヴェール711、こちらも警戒網は張っているが、状況が状況だ。警戒は怠るな』

 

 

 F-2ポイントに到着した時、補給部隊の車両群がすでに待機していた。

 

 物資を満載した装甲トラックと護衛車両。リロック補給部隊長が車両から降り、ヴェール711の小隊長と短く敬礼を交わした。

 

 情報共有は迅速に行われ、リロック部隊長は淡々と告げた。

 

 

「ヴェール712とヴェール713からも、連絡を受けている、補給を前倒ししたいとの要請だ。中央地区の状況は想定以上に悪化しているようだな」

 

 

 小隊長は頷いた。

 

 

「犯罪発生率は異常水準、連邦生徒会長失踪の噂の影響が色濃く出ている。

我々の消耗も激しいが、他の部隊への補給は足りるか?」

 

「問題ない。出発前は多過ぎかと思ったが、情報局は我が隊も戦闘する事も念頭に入れていたようだ。気にせず、しっかりと補給して行ってくれ」

 

 

 部隊長は短く息を吐き、檄を飛ばした。

 

 

「ヴェール711、我が隊は他の部隊への補給に向かう、貴官らの無事を祈る」

 

「ありがとうリロック。我々も任務に戻る、貴官らも無事でな」

 

 

 補給物資の受け渡しを素早く済ませ、両部隊はすぐに別れた。

 

 リロックの車列が別の方向へ動き出すのを見送りながら、ヴェール711の三両のタイフーンL改は、再び中央地区へと進んでいった。

 

 車内では、誰もが無言だった。

 

 ただ、任務の重さと、キヴォトス全体を覆い始めている異変の気配だけが、静かに彼女たちを包んでいた。

 

 




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