Black Archive   作:アストラ連合学園中央生徒会

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混沌の門は開けられる



【挿絵表示】

アストラ連合学園所属第07独立偵察大隊第1中隊第1小隊、ヴェール711

AK74Mに光学サイトつけたかったけど無理だったよ……。


3話

 

 

 中央地区グリッドF-2を離れたヴェール711の車列は、再び銃撃の跡残る街並みの奥へと進んでいた。

 

 三両のタイフーンL改は速度を合わせて慎重に移動し、周囲の状況を逐一観測しながら情報を収集していた。

 

 作戦開始からすでに数時間。中央地区の治安悪化は、もはや「異常」と呼ぶレベルを超えていた。

 

 コマンドシートで戦術タブレットを睨む小隊長は、短く息を吐いた。

 

 

「やはり……連邦生徒会長の失踪は事実だな。パトロールへの急襲、SRTの機能不全、不良集団の異常活動。すべてが一致する」

 

 

 後部座席の通信担当が静かに頷いた。

 

 

「はい。隊長の判断は正しいと思います。このままでは中央地区全体が崩壊しかねません」

 

 

 その言葉が終わらないうちに、無線機が甲高い緊急音を鳴らした。

 

 

『CPよりヴェール711へ、緊急通信。応答せよ』

 

 

 小隊長は即座にスイッチを入れ、応答した。

 

 

「こちらヴェール711。感度良好、どうした?」

 

 

 CPのオペレーターの声は、いつもより緊張を帯びていた。

 

 

『ヴァルキューレの無線傍受からの情報だ。矯正局から7人の要注意生徒が脱獄した。

 

6人は既に逃走経路を確保し、逃走中。危険度は低いと判断されている。

しかし内1名が、報復目的か定かではないが、周囲の不良集団を扇動している模様だ。

 

現在、連邦生徒会の所有する連邦捜査部の建屋付近に戦力を集結させつつある。このままではDU地区が混沌に飲み込まれる恐れがある。

 

各小隊に対し、ただちに撤退命令を発令する。繰り返す、撤退せよ』

 

 

 車内が一瞬、重い沈黙に包まれた。小隊長は唇を固く結び、短く答えた。

 

 

「ヴェール711、了解。撤退する」

 

 

 三両のタイフーンL改は即座に針路を変更し、来た道を慎重に引き返し始めた。

 

 RCWSの重機関銃はいつでも発射できる状態を維持し、各分隊は車両の周囲を警戒しながら移動する。

 

 迅速な撤退行動━━無駄なリスクは取らない。それがアストラ連合学園の偵察大隊の流儀だった。

 

 偵察部隊が情報を持ち帰らなければ意味がない。

 

 しかし、撤退を開始してわずか数分後。再び無線が緊急コールで鳴り響いた。

 

 

『CPよりヴェール711、緊急通信!至急応答せよ!』

 

 

 小隊長は嫌な予感を胸に、再び無線を取った。

 

 

「こちらヴェール711。現在撤退中だ、どうした?」

 

 

 CPの声が続いた。今度はただのオペレートではなく、HQ直結の緊急通達だった。

 

 

『HQより緊急通達だ。別の任務で活動中の情報局のエージェントが、連邦捜査部付近で消息不明になった。繰り返す、エージェントが消息不明。

 

HQはすでに特殊部隊GOATを出撃させているが、一刻も早い安否確認と身柄の確保が必要だ。

 

付近で活動中の全部隊に対し、救助要請を出した。最も近いのはヴェール711、貴官らだ。受諾可能か?』

 

 

 車内の空気が張りつめていく中、後部座席の一人が呟いた。

 

 

「……仲間だ。情報局の奴らも、同じアストラの仲間だ」

 

 

 もう一人が静かに応じた。

 

 

「GOATが来るまで待てば安全だが……エージェントが今、どんな状況かわからない。放置すれば命に関わる可能性が高い」

 

 

 小隊長は数秒だけ目を閉じ、すぐに決断を下した。彼女の声は迷いなく響いた。

 

 

「こちらヴェール711。救助要請を受諾する、即座に向かう」

 

 

 無線越しにCPのオペレーターがわずかに息を飲む気配がした。

 

 

『……了解。無理はするな。GOAT到着までの時間稼ぎと安全の確保を優先せよ。以上』

 

 

 小隊長は無線を切り、即座に全車両へ指示を飛ばした。

 

 

「全車、転回!目標は連邦捜査部建屋付近。最大戦速で移動する。

03は前方警戒、01と02で側面と後方を固める。

 

エージェントの救助からの離脱が最優先だが、離脱が不可能な場合、延滞戦闘に切り替える。それが仲間を守る最善の方法だ。行くぞ!」

 

『了解!』

 

 三両のタイフーンL改が、タイヤが路面を削るような鋭いスキュール音を響かせて急激にUターンした。強化サスペンションが重い車体を支え、複合装甲が街灯の残光を鈍く反射する。

 

 エンジンが唸りを上げ、車列は一気に速度を上げて中央地区の奥へと突き進む。車内では、誰も無駄な言葉を口にしなかった。

 

 ただ、時折交わされる短い会話だけが、彼らの「仲間思い」の本質を表していた。

 

 

「情報局のエージェント……確か、去年の合同演習で顔を合わせた奴だったな」

 

「ああ。一緒に飯も食ったんだ。放っておけるかよ」

 

「GOATが来るまで持ちこたえられればいいが……最悪の場合、我々で時間を稼ぐことになる」

 

 

 小隊長はフロントガラス越しに迫り来る街並みを睨みながら、静かに言った。

 

 

「我々は偵察部隊だ。正面戦闘は専門ではない。

 

しかし、仲間を見捨てるような真似は絶対にしない。それがアストラの流儀だ。各自、弾薬と装備の最終確認を。

 

戦闘になったら、迅速に制圧し、エージェントの身柄を確保する。いいな?」

 

『了解!』

 

 タイフーンL改の車内灯がわずかに赤みを帯び、戦闘態勢に移行したことを示した。

 

 12.7mm重機関銃のRCWSが低く駆動音を立て、各分隊員はマガジンを叩き込み、ボルトを引く。21名の生徒たちは、冷静でありながら、確かな熱を胸に秘めていた。

 

 連邦捜査部へと向かう道は、すでに不良集団の気配で満ち始めていた。遠くから聞こえる断続的な銃声と、怒号のような叫び声。

 

 要注意生徒の脱獄、その余波が、キヴォトスの中心部を急速に飲み込みつつあった。

 

 ヴェール711は、撤退命令を自ら反故にし、再び危険な渦の中へと飛び込んでいく。

 

 それは、ただの命令遵守ではなかった。

 

 同じ学園で肩を並べて戦う「仲間」を、決して見捨てないという━━アストラ連合学園の生徒たちが、静かに、しかし強く守り続けている信念だった。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 連邦捜査部建屋付近まであとわずかという距離で、ヴェール711の三両のタイフーンL改は不良集団と三度遭遇した。

 

 最初の一組は大通りに待ち伏せていた自動小銃で武装した不良十数名だった。

 

 RCWSの12.7mm重機関銃が短く唸りを上げ、制圧射撃を浴びせると同時に車両は加速。複合装甲に跳弾が跳ね返る中、タイフーンL改の重い車体は不良たちを振り切り、路肩を削りながら突き進んだ。

 

 二組目は路地から飛び出してきた散弾銃持ちの集団。三両は即座にV字陣形に展開し、側面車両の分隊員がドアから身を乗り出し応射。

 

 精密な短点射で不良の足を狙い、動きを封じながら本隊は速度を落とさず突破した。

 

 三組目は最も厄介だった。屋上や窓から狙撃めいた射撃を加えてきた不良たち。タイフーンL改の装甲が鈍い金属音を立てて耐える中、小隊長は無線で短く命じた。

 

 

「速度維持。反撃は最小限。振り切れ」

 

 

 三両はエンジンを唸らせ、煙幕を撒きながら不良の包囲網を突破。装甲と機動力を最大限に活かす、典型的な偵察部隊の脱出行動だった。

 

 損害も出す事なく隊員たちは、沈黙を保ったまま、目標地点へと到達した。

 

 連邦捜査部の建屋が視界に入り、小隊長は無線機のスイッチを入れた。

 

 

「CP、こちらヴェール711。連邦捜査部付近に到着した。現在よりエージェントの捜索を開始する」

 

 

 CPのオペレーターは即座に応答した。声に緊張が滲んでいる。

 

 

『こちらCP、了解。ヴェール711、HQから追加情報を入手した。

 

エージェントからの最後の信号位置は、連邦捜査部から北西方向の裏路地群だ。

 

彼女が所持していた携帯端末の逆探知が可能だが、範囲が狭い。現地に赴いて端末の電波範囲に入り、信号を直接捕捉する必要がある。

 

それが周囲の部隊に救助要請を出した理由だ』

 

 

 小隊長は短く息を吐き、感謝を込めて答えた。

 

 

「情報提供、感謝する。最後の信号位置を送信してくれ」

 

 

 タブレットに表示された座標を見て、小隊長は思わず低く毒づいた。

 

 

「……くそ。そう簡単には行かないか」

 

 

 最後の信号は大通りから大きく外れた、狭い路地裏の奥だった。タイフーンL改のような重装甲車両では進入不可能。旋回すらままならない路地幅だ。

 

 

「全車、停止。防御陣を構築する」

 

 

 三両のタイフーンL改は、大通りと路地裏が隣接する一角に素早く展開。

 

 01車両と02車両を路地入口に斜めに配置し、RCWSを路地方向に向ける。03車両は後方と脱出ルートを確保する位置に留まり、エンジンをアイドリングさせたまま周囲警戒に入った。

 

 小隊長はコマンドシートから降り、自動小銃を構えながら指示を飛ばした。

 

 

「03は車両防衛と脱出ルートの確保に専念。02と01は私と共に入る。

 

クリアリングを徹底して進む。エージェントの身柄の確保が最優先。

 

発見したら即座に回収し、離脱する。戦闘になったら迅速に制圧。いいな?」

 

「了解!」

 

 

 小隊長が指揮を執る01分隊と02分隊、計13名の生徒たちが車両の陰から素早く展開。ヘルメット、ボディアーマーを装備した姿は、まさに軍隊そのものだった。

 

 路地裏に入ると壁には無数の落書きと弾痕が刻まれ、地面には空薬莢が厚く散乱している。

 

 足を踏み入れるたびに金属音が響き、その空薬莢がエージェントが撃ったものか、不良が撃ったものか、もはや判別すらつかない。

 

 空気は火薬と埃の臭いが混じり、遠くから断続的な銃声が聞こえてくる。

 

 

「行け、スライシング・ザ・パイで角を一つずつ確認しろ」

 

 

 小隊長の低い声が響く。

 

 分隊員たちは壁際に張り付き、互いにカバーしながら慎重に前進。

 

 曲がり角に近づくたび、先頭の隊員が銃身をわずかに出し、素早く「スライス」して視界を確保する。

 

 残りの隊員は低姿勢でサポートポジションを取り、いつでも応射できる態勢を維持。

 

 路地は狭く、視界が悪い。ゴミ箱や倒れたコンテナが障害物となり、いつどこから攻撃が来るかわからない。

 

 緊張が全員の肩を強張らせていた。

 

 曲がり角の一つをクリアしようとした瞬間、ポイントマンの隊員が素早く頭を引っ込めた。

 

 彼女は即座にハンドサインを発した——左手の指を素早く動かし、「待て」を示す。

 

 小隊長が無言で近づくと、隊員はさらに詳細なハンドサインを送ってきた。

 

 

 敵 集団 20以上

 

 

 小隊長の表情がわずかに引き締まる。

 

 GOATが到着するまで待つか、それともここで戦闘を起こすか。

 

 しかし、エージェントの端末信号はさらに奥から来ている可能性が高い。時間がない。

 

 小隊長は短く頷き、ハンドサインで明確に指示を出した。

 

 

 戦闘準備

 

 

 分隊員たちは即座に反応し、安全装置に指を伸ばしセミオートからフルオートに変え、マガジンを軽く叩いて脱落がない事を確認。

 

 ボルトを僅かに引き、薬室内を確認する音が小さく響く。

 

 02分隊の一部が側面カバーを取り、01分隊が突入準備に入る。

 

 路地の奥から、笑い声と不良たちの話し声が聞こえてきた。扇動された不良集団の目的は分からないが、ここにいる以上、何かを指示されたのだろう。

 

 小隊長は自動小銃を肩に当て、低い声で無線機越しに全隊に告げた。

 

 

「行くぞ、迅速に制圧しろ。……突入!」

 

 

 緊張感が頂点に達した瞬間、ヴェール711偵察小隊は、狭い裏路地の闇へと身を投げ出した。

 

 タイフーンL改のエンジン音が遠くで低く唸り続け、03分隊が脱出ルートを死守する中、路地裏の戦闘が始まろうとしていた。

 

 

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