Black Archive 作:アストラ連合学園中央生徒会
グリッドK-5を目指し、ヴェール711の01分隊と02分隊は、路地裏を可能な限りの最速で前進していた。
小隊長の指揮の元、13名の生徒たちは、互いにカバーを取り合いながら移動し、角を一つずつクリアリングしていく。
指は常にトリガーにかけられ、息を潜め、視線は次の角の死角に注がれていた。
一瞬の油断が即座に部隊の瓦解に繋がる、そんな戦場特有の緊張が全員の肩を強張らせていた。
道中、不良集団と数回遭遇した。
最初の遭遇は5名程度の小規模グループだった。
先頭のポイントマンが振り返り小隊長に視線を投げると、小隊長は短く頷く。
ポイントマンは即座にトリガーを引き3点バーストを放つ。乾いた射撃音が路地に響き、不良の胸部に命中する。
撃たれた不良がお返しとばかりに出鱈目に乱射し、牽制しようとするが、続く隊員が追加射撃を浴びせ、耐え切れず倒れる。
慌てて遮蔽物に隠れる不良たちに機関銃手が、制圧射撃を加える。
2挺の軽機関銃から放たれる凄まじい弾幕に、遮蔽物から出られない不良たちに擲弾手が手榴弾を投げた。
手榴弾に気付いた不良が逃げようとするが、凄まじい弾幕に晒されあえなく倒れる。
逃げなかった不良は、当然の如く手榴弾の加害範囲から逃れることが出来ず、爆発に巻き込まれた。
「02前進!」
土埃が舞う中、02分隊が先行し行先の安全を確認する。
『クリア!』
「01前進!」
「うぐぐ……う、ぐ」
驚く事に爆発を受けて、まだ意識を保っている不良がいたが、01分隊と共に前進中の小隊長に頭を撃たれて気絶する事となった。
瞬く間に5名全員を行動不能に追い込んだが拘束はせず、「制圧完了、前進!」という短いコールとともに即座に移動を再開した。
二度目は18名を超える中規模集団だったが、小隊長の判断は瞬時だった。
「迂回する!」
小隊長は戦術タブレットを随時確認しながら、移動の指示を出す。隊員たちは一言も発さず、素早く指示通りに針路を変更。
狭い裏道を全力に近い速度で駆け抜けた。重い装備を背負いながらも、息を乱さず、足音を最小限に抑える訓練された動きだった。
背後から聞こえる声と散発的な銃声が、迂回が正解だったことを物語っていた。
三度目は8名程度のグループだった。しかし不良たちも移動中であった為に、索敵が間に合わず有利を取ることが出来ずに正面戦闘となった。
「エンゲージ!」
先頭で接敵したポイントマンの短いコールとともに、隊員たちはすぐさまカバーアクションを取り、一斉にバースト射撃を浴びせた。
不良たちも慌てながら銃を乱射する。
銃弾が飛び交い、壁に無数の弾痕が刻まれる中、発射時の衝撃を抑えるバースト射撃が不良たちを次々と沈めていく。
マガジンが空になった隊員は即座に「リロード!」と叫び、後列の仲間と順番を入れ替え、先頭に入れ替わった隊員が続けて射撃を行う。
マガジンチェンジを終えると即座に射撃を再開する。
正面戦闘だった為に、複数の隊員が撃たれた。大体は面積の大きい胴体が当てやすく、胴体がよく狙われるが、ボディアーマーが衝撃を吸収してくれる。
とは言え、不良たちの射撃は良くも悪くも精度が悪い。どうしても腕や脚、当たりどころが悪いと頭にも当たる。ヘルメットをしていても痛いものは痛い。
しかし、ヴェール711の隊員たちは、立ち止まり休憩している暇はない。移動しながら、痛み止めのタブレットを飲み込み、銃撃を受けた箇所に服の上からでも浸透する治療用スプレーを吹きかける。
そうして激しい戦闘と移動の末、ヴェール711の01・02分隊はグリッドK-5南南東の6階建ての廃ビル前に到着した。
廃ビルは路地裏から出て大通りに面しており、既に到着していた03分隊と三両のタイフーン-L改が、鉄壁の防御陣形を組んで待機していた。
車両のRCWSは周囲を警戒し、エンジンはいつでも発進できる状態でアイドリングを続けている。
小隊長は車両の陰に滑り込むように移動し、03分隊長と短く拳を合わせた。
「ご無事で、隊長。警戒要員以外は補給を手伝ってやれ!」
03分隊の隊員たちが即座に動き出し、01、02分隊の消費したマガジンを回収し、新たなマガジンに加えて、手榴弾、医療キットも次々と補充されていく。
隊員たちは新しいマガジンを装填し、ボルトを引く金属音を響かせながら、薬室内の弾丸を確認する。
最前列で銃撃を受けたポイントマンは、ボディアーマーの防弾プレートを引っ張り出し新品と交換する。交換された防弾プレートはボロボロで、戦闘の激しさを物語っていた。
各々の補給が完了したところで、小隊長は全隊に短く指示を飛ばす。
「03は変わらず車両防衛と脱出経路の確保。01と02は私と共に突入する。エージェント発見後は速かに回収し、即時離脱。いいな?」
「了解!」
突入準備が整ったその瞬間、小隊無線に新たな通信が入った。
『こちらGOAT 1、ヴェール711応答せよ』
小隊長は即座に無線を開いた。
「こちらヴェールリーダー、感度良好」
『準備は出来ているか、ヴェールチーム?』
その言葉が終わらないうちに、隊員たちの足元に巨大な影が落ちた。
上空を覆うように飛来したMI-24DハインドD攻撃ヘリコプターが、太陽を完全に遮った。
機体側面に描かれたA.S.D.R.Aのロゴが、午後の陽光を鈍く反射している。
重低音のローター音が廃ビルの壁を激しく震わせ、強烈なダウンウォッシュが地面の埃とゴミを激しく巻き上げる。
小隊長は上空を見上げ、力強い声で返答した。
「GOAT 1、こちらヴェールリーダー。我々の準備は完了している。貴官らと共に戦えることを光栄に思う!」
無線の向こうから、GOAT 1の声が熱を帯びて返ってきた。
『こちらGOAT 1。ヴェール711の献身と勇戦は、すでに聞き及んでいる。
貴官らが自身の危険を顧みず情報局のエージェントの救出に向かったこと、我々も深く敬意を表する。
貴官らのその献身に、我々も全力を持って報いよう。全力で戦う!』
小隊長の胸に熱いものが込み上げた。彼女は全隊に聞こえるよう、小隊無線をオープンにしたまま、鼓舞の声を上げた。
「全隊、よく聞け!
GOAT部隊の本気が見られるぞ!
胸を借りるつもりで、己の限界を超えて戦え!
ペル・アスペラ!アド・アストラ!」
隊員たちから、熱く力強い声が次々と上がった。
「ペル・アスペラ! アド・アストラ!」
「やってやりますよ! 絶対に!」
「GOATと肩を並べて戦えるなんて……感激です!」
士気が一気に爆発的に高まるのを感じ、小隊長は自動小銃を強く握りしめ、吼えるように叫んだ。
「さぁ行くぞ!」
その掛け声と同時に、上空のハインドDから複数のロープが投下され、GOAT部隊の精鋭たちが、屋上へのラペリングを一斉に開始する。
カーキの戦闘服を纏った影たちが、ロープを滑り降りていく様は圧巻だった。ローターの風圧が地面を叩き、隊員たちの戦闘服を激しくはためかせる。
ヴェール711の隊員たちも即座に廃ビルの正面入口で隊列を組み直す。
小隊長は最後に短くGOAT部隊へ無線を飛ばす。
「突入を開始する!」
『了解。貴官らの武運を祈る!』
重低音のローター音とブーツの激しい足音が、廃ビルの周辺を支配する。
ヴェール711小隊はエントランスから、GOAT部隊は屋上からのラペリングで侵入する二正面作戦が開始した。
小隊長以下01分隊と02分隊は、自動小銃を構え、左右の壁際に展開しながらエントランスへと踏み込んだ。
廃ビルのエントランスは予想以上に広く、天井も高かった。廃墟とは思えないほど床や壁が比較的綺麗に保たれており、薄暗い照明が不気味に点いている。
ポイントマンが部隊の数メートル先を先行し、視界を確保しながら慎重に進む。残りの隊員たちは2列に分かれ、互いにカバーし合いながら前進した。
エントランスの半ばを過ぎたところで、突然動きがあった。
机の下に隠れていた不良4名が一斉に姿を現した。
「伏せろ!」
ポイントマンの鋭い声が響いた瞬間、ヴェール711の隊員たちは即座に近くの机、椅子、受付カウンターの陰へと身を投げた。
直後、軽機関銃による猛烈な弾幕が頭上を飛び交い、壁や家具に無数の弾痕を刻んでいく。
跳弾が甲高い音を立てて跳ね、削り取られた欠片が隊員たちのヘルメットにあたり硬質な音を立てる。
「フラッシュバン!」
擲弾手の隊員が無線越しに短く報告し、閃光手榴弾のピンを抜いて不良たちに向かって投げ込んだ。
「注意しろ!」
隊員たちは光を直視しないよう顔を伏せ、いつでも飛び出せる態勢を取った。
不良たちは自分たちの弾幕によるマズルフラッシュと、銃身の過熱で生じる陽炎によって視界を乱され、もはや正確に何を狙っているのかすら分かっていない状態だった。
当然、閃光手榴弾が飛んできた事すら気付かず、炸裂音と共に強烈な閃光と爆音が不良たちを襲う。
閃光手榴弾の効果で不良たちの視覚と聴覚が一瞬で麻痺し、トリガーから指が離れ、弾幕がぴたりと止まる。
「今だ!」
小隊長の号令と同時に、隊員たちが一斉に遮蔽物から飛び出す。
隊員が即座に3点バーストを浴びせ、次の隊員が即座に次の射撃を加える。精密なバースト射撃が不良たちの胸部と頭部に命中し、次々と行動不能に追い込んでいく。
倒れなかった者には即座に追加のバーストが叩き込まれた。
「クリア!」
ポイントマンが不良の出てきた机の下を覗き込み、声を張る。
隊員たちが素早く前進し、倒れた4人の不良の手足を樹脂製ハンドカフで迅速に縛り上げた。
小隊長は周囲を素早く確認し、短く指示を飛ばした。
「エントランス確保。2階へ向かう」
隊員たちは即座に階段へ移動し、2階へと上がった。
2階の通路入口に差し掛かかり、ポイントマンがドアの隙間から覗き込んだ途端、猛烈な弾幕が飛んできた。
「エンゲージ!」
ポイントマンは即座に体を翻して入口から離れ、大きく距離を取る。弾丸がドア枠を激しく削り、木片と埃が飛び散った。
「バリケードを確認! 不良どもが通路を要塞化している!」
通路には机、ロッカー、椅子などで簡易的なバリケードが築かれ、不良たちがその陰から銃口を覗かせていた。
通路全体が射線で覆われており、正面からの突破は極めて危険だ。
「どうした!? かかってこいよ! 腰抜けども!!」
「ヴァルキューレかなんだか知らねぇが、アタシらの敵じゃねぇ!」
不良たちの耳障りな煽りがバリケードの奥から響いてくるが、小隊長は冷静に状況を判断する。
エージェントがどの部屋に監禁されているのか分からない以上、手榴弾や爆発物の使用は極めて危険だった。爆風や破片で人質に被害が出る可能性が高い。
「爆発物の使用禁止。スモークで視線を塞いで機関銃手が交代で制圧射撃、その隙に01、02で別れて通路の両サイドに展開し前進、いいな!」
「了解!」
01、02の隊員たちは即座に2列に分かれ、壁際に張り付きながら通路への突入準備を開始した。
擲弾手は煙幕手榴弾を構え合図を待った、小隊長は最後尾で構え、隊員たちの準備が整ったのを確認し、前に立つ隊員の肩を叩く。
肩を叩かれた隊員は、さらに前の隊員の肩を叩く、そうして遂に擲弾手の肩が叩かれる。擲弾手は即座に煙幕手榴弾のピンを抜き、通路の奥へ転がっていく様に投げる。
煙幕手榴弾は勢いよく転がり、途中で白い煙を大量に撒き散らしながらバリケードの手前で止まった。
たちまち濃密な白煙が通路を埋め尽くし、不良たちの視界を完全に奪う。
煙幕が十分に不良たちの視界を塞いだ事を確認したポイントマンは、通路に突入する。それに続く様に隊員たちが突入して行く。
「撃て」
機関銃手に射撃指示を出し、小隊長が突入する。その直後、7.62mmの弾幕が煙幕の中へ容赦なく叩き込まれ、通路全体を震わせる。
弾が切れると即座に次の機関銃手が引き継ぎ、絶え間ない制圧射撃を継続する。装填手が素早く弾帯を交換し、射撃の途切れを許さない。
その猛烈な弾幕の中、隊員たちは煙に身を隠しながら一気に前進した。
「どうする!? 何も見えないぞ!」
「取り敢えず、撃っときましょうよ!」
「バカ! 弾切れを待てばいい、どうせあんな弾当たらねぇ」
不良の声が聞こえる程の距離まで接近した隊員たちは、一時停止する。小隊長は機関銃手へ射撃停止を指示した。
射撃が止まった事を訝しむ不良たちだったが、煙幕の中から現れた隊員たちに驚きつつも射撃しようとするが、近過ぎた。
ポイントマンは全力で駆け、バリケードに張り付くと即座に振り返り、中腰をとり手を組む。そこへ擲弾手が走ってくる。
「くそ! 張り付かれた!」
「どうせ乗り越えられない、隙間から撃て!」
「踏め!」
擲弾手は、ポイントマンが組んだ手と肩を踏み台にバリケードを乗り越える。続く隊員たちも次々とポイントマンを踏み台に、バリケードの向こうに飛ぶ。
バリケードの向こうでは隊員たちの銃声、不良たちの困惑した怒号が聞こえてきていた。