Black Archive   作:アストラ連合学園中央生徒会

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殴打は顔に


6話

 

 

 擲弾手が勢いよくポイントマンの手と肩を踏み台にし、バリケードを飛び越え、着地と同時にピンを抜いた煙幕手榴弾を投げた。

 

 

「くそぉ! ……うお! あ、がっ」

 

 

 至近距離にいた不良が慌てて自動小銃を向けようとした瞬間、彼女は左手で銃身を強く押し上げながら体を斜めに滑り込ませる。

 

 ほぼ同時にグリップを掴んでいる相手の手を、右手ではたき落として強引に引き剥がし、奪った銃を腹部に突きつけ連射。

 

 不良は激しく体を折り曲げて前のめりに崩れ落ち、苦痛の呻きを漏らして動かなくなる。

 

 擲弾手は奪った銃のマガジンを取り外して捨て、ボルトを引いて薬室内の弾丸を排除し、奪った銃も投げ捨てる。

 

 擲弾手が不良の銃を奪う瞬間に、次いで飛び越えてきた隊員も別の不良と激突した。

 

 

「オラァ! がぁ、ぐ! うっ」

 

 

 相手が散弾銃を振り回してきた瞬間、彼女は低く沈み込んで相手の腕の内側に入り、強烈な肘打ちを顎に叩き込んだ。

 

 ガクンと首がのけぞり、たたらを踏んだ不良の懐にさらに踏み込み、掌底を鼻に打ち込む。

 

 バランスを完全に崩し、倒れかけた相手の右脚を刈り、地面に叩きつけて行動不能に追い込む。

 

 擲弾手の投げた2個目の煙幕手榴弾が、バリケードの向こう側の視線を遮り不良たちを分断する。

 

 後続の隊員たちが次々とバリケードを越えていく中、小隊長はバリケードの隙間から自動小銃を突き出し、的確に援護射撃を加えていた。

 

 短いバーストが連続して煙幕の隙間を切り裂き、不良たちの動きをさらに混乱させる。

 

 煙幕が十分に散布され、視界は数メートル先までしか利かない。

 

 不良たちは視界の閉ざされた煙の向こう側、そこから聞こえる銃声と悲鳴に怖気付き、前へと脚が出ない。

 

 

「隊長!」

 

 

 ポイントマンの張り上げた声を聞き、小隊長はバリケードから数歩下がり、短い助走をつけた。

 

 短い助走ながらも勢いよく駆け、ポイントマンの組んだ手を強く踏み、肩を蹴ってバリケードの上部に飛び乗る。

 

 着地しバランスを保ちながら、片手をポイントマンへ伸ばした。

 

 

「掴まれ!」

 

 

 ポイントマンは全力で助走をつけ、バリケードを蹴り高くジャンプした。小隊長はポイントマンの腕をがっしりと掴むと、全身の力を込めて一気に引き上げる。

 

 二人はほぼ同時にバリケードの向こう側へ着地し、即座に膝射を取って煙幕の向こう側へ射撃を開始した。

 

 優勢だった筈が瞬く間に劣勢となり、扉から慌てて出てきた不良。

 

 無防備に銃口を向ける不良の銃を隊員は左手で払いのけ、右手の拳で顔面を殴打。相手がよろめいた隙に腕を捻り上げ、投げ飛ばして地面に叩きつけた。

 

 既にバリケードを超えた隊員たちは、通路に通じる扉から個々に出てくる不良を制圧していく。

 

 煙幕の中で視界が悪いにもかかわらず、隊員たちの動きは一切迷いがなかった。

 

 

「エネミーダウン!」

 

「バリケードを確保!」

 

 

 短いコールが飛び交う中、小隊長は立ち上がり、自動小銃を構えながら前進を続けた。彼女の射撃は極めて冷静で、煙幕の隙間から顔を出した不良の頭や胴体を的確に撃ち抜いていく。

 

 

「01と02は各4名で左右の部屋を並行してクリアリング! エージェントの痕跡を最優先に探せ。私と通信手は中央のバリケードを撤去する。

 

機関銃手組はバリケードまで移動して制圧射撃を継続、隙を作れ! 装填手はバリケード破壊を補助しろ。

 

さぁ、行け! 行け! 行け!(ダヴァイ! ダヴァイ! ダヴァイ!)

 

「了解」

 

『了解』

 

 

 素早く指示を出し射撃に移ろうとした瞬間。不良の一人が煙の中から突然飛び出し、雄叫びを上げながら小隊長に銃を向け突撃してくる。

 

 

「うぉおお!」

 

 

 小隊長は即座に銃から手を離し、体を捻り射線から逸れながら左腕で銃身を押し上げ、右手で相手の顔面に強烈な掌底を叩き込む。

 

 耐えきれず相手の体がのけぞった隙に、相手の銃を引き寄せながら膝を腹部に叩き込んだ。さらに不良の首元を掴み、脚を刈り取って地面に叩きつけた。

 

 気絶した事により手から離れた自動小銃を、擲弾手がやったように無力化し投げ捨てる。射撃姿勢に戻りつつ、冷静かつ迅速に指示を飛ばした。

 

 

「問題ない、動け!」

 

「了解!」

 

 

 左右の分隊が即座に動き、機関銃手組はバリケードまで移動して隙間から軽機関銃を突き出し7.62mmによる制圧射撃を開始した。

 

 長く響く連射音が通路を震わせ、煙幕の向こう側にいる不良たちの動きを強く封じ込める。

 

 小隊長、通信担当、装填手2名が即座にバリケードに取りついた。

 

 

「重い机からだ! 左から引きずれ! ロッカーは横に倒して隙間を広げろ!」

 

 

 小隊長自ら一番重い机に手をかける。金属製の脚が床を擦る耳障りな音を立てながら、ゆっくりと引きずり出された。通信担当と装填手も廃材や椅子、倒れたロッカーを必死に撤去していく。

 

 一方、機関銃手たちは射撃を続けながら煙幕を睨む。02の機関銃手が制圧射撃を続けている間、01の機関銃手が自ら弾帯を再装填、再び交代し制圧射撃を途切れさせない。

 

 制圧射撃が響く中、01分隊の4名は誤射を避ける為に壁際を張り付くように移動し、最初の部屋のドアに到達した。

 

 ポイントマンがドアノブを軽く確認し、合図を送る。部屋に不良が残っている可能性を考え、ドアを僅かに開け、擲弾手が閃光手榴弾を隙間から投げ入れた。

 

 炸裂する強烈な閃光と爆音の直後、ポイントマンが扉を蹴破り2名が左右に分かれて突入。

 

 

「左側クリア!」

 

「右側クリア!」

 

 

 セミオートの精密な射撃が響き、部屋に潜んでいた不良2名を瞬時に制圧。部屋の奥まで確認し、残敵とエージェントの捜索をする。

 

 

「部屋1、クリア! エージェントの痕跡なし。次の部屋だ!」

 

 

 次の部屋ではより激しい抵抗があった。ドアノブを捻った途端、扉越しに自動小銃の連射が飛んでくる。ポイントマンは即座に体を引いたが数発被弾し顔を歪める。

 

 別の隊員が素早くドア縁に移動し閃光手榴弾を投げ入れる。強烈な閃光を受けながらもトリガーを引き続け、牽制をする不良たち。

 

 隊員たちは銃弾を受けながらも互いにカバーしながら、銃弾の雨の中を低姿勢で突入。銃撃により塵や粉塵が舞い視界が悪い中でも、音と気配を頼りに不良の位置を特定し、的確に射撃して確実に制圧していった。

 

 02分隊も同様に進行していたが、3部屋目で本格的な抵抗に遭った。

 

 ドアを蹴り開けた瞬間、簡易バリケードを築いた不良4名が猛烈な射撃を浴びせてきた。

 

 

「食いやがれっ!」

 

 

 不良の雄叫びを他所に隊員たちは冷静にドアの両側に張り付き、カバーポジションを取りながら応射。

 

 マガジンが空になった隊員が「リロード」と叫ぶと、隣の隊員が即座に制圧射撃で時間を稼ぐ。素早いマガジンチェンジの後、閃光手榴弾投げ入れ突入して不良たちを次々と制圧した。

 

 

「部屋3、クリア! 痕跡なし! 次!」

 

 

 中央ではバリケード撤去作業が着実に進んでいた。

 

 小隊長は汗を拭いながらも、二手に別れた隊員たちからの無線に耳を傾け、状況を判断する。

 

 

「01、02、クリアリングを急げ! 機関銃手は射撃を緩めるな!」

 

 

 やがて、バリケードの中央部分に人が2人が並んで通れる程度の大きな隙間が開いた。

 

 小隊長は自動小銃を構え直し、低く力強い声で全隊に命じた。

 

 

「退路は確保した。全隊、前進! 制圧を続けながら通路を確保する!」

 

 

 左右の部屋を並行してクリアリングしていた01分隊と02分隊からも、次々と報告が上がってくる。

 

 

「部屋5、クリア! 不良2名制圧、エージェントの痕跡なし!」

 

「部屋6、クリア! 痕跡なし!」

 

 

 小隊長は自動小銃を構えながら、低く応答した。

 

 

「了解、このまま進むぞ」

 

 

 通路の最も奥、鉄製の分厚い扉が一つ、ひときわ目立っていた。元々は重要書類を保管していたらしい、頑丈な鉄扉の部屋だ。

 

 中から不良の怒号が聞こえる、どうやら簡易バリケードを追加で築き、必死に守っている様子だった。

 

 小隊長が鉄扉に手を触れると、重く冷たい感触が伝わってきた。明らかに特殊な強化鋼板が使われており、簡単には開きそうにない。

 

 

「破壊できるか?」

 

 

 擲弾手が慎重に扉に触れ強度を確かめ、顔をしかめた。

 

 

「この厚さ……我々の携行爆薬程度では破壊できそうにありません、軽度ながら防爆仕様がされています」

 

 鉄扉の前で小隊長が次の指示を出そうとした瞬間——

 

 通路の空気が、ほんのわずかに変わった。

 

 それは音ではなかった。気配でも、気配の欠如でもなかった。ただ、暗闇の一部が“存在”として認識されたような、奇妙な違和感だけが残る。

 

 ヴェール711の誰も、周囲を警戒する隊員さえ足音を聞いていなかった。

 

 ブーツの音も、布ずれの音も、呼吸の音すら感じなかった。

 

 影が、まるで液体のように床を這い、壁を伝い、天井を滑るようにして、ゆっくりと形を成していく。

 

 そして——

 

 突然、黒い人影が通路の暗がりから、ぬらりと浮かび上がる様に現れた。GOAT部隊だ。

 

 彼女たちは味方であるヴェール711にさえ気付かれず、屋上から2階までを制圧していた。

 

 GOAT部隊が使うタクティカルブーツは、一般隊員とそう違わないが、まるで影が滑るように移動している。

 

 全身を覆う戦闘服は、機能性を追求された頑丈な物。しかし瞬きをすれれば、そこから消えるのではないかと思うほど、薄暗い通路に完全に溶け込んでいた。

 

 それはひとえにGOAT部隊の個々の技量によるものだ。

 

 ハイカットタイプのヘルメットにヘッドセット、機動力と防御力を両立した複合装甲プレートの入ったプレートキャリア。

 

 レッグホルスターに収められた正式採用拳銃、腰には複数個の閃光手榴弾、煙幕手榴弾や医療キットが機能的に配置されている。無駄な装飾は一切なく、ただ“効率”と“機能性”を追求した装備だった。

 

 特に先頭に立つGOAT 1の存在感は圧倒的だった。

 

 長身で引き締まった体躯、首から肩にかけてのしなやかな筋肉が戦闘服の上からでもはっきりとわかる。

 

 黒髪を後ろでまとめ、ゴーグルの奥から覗く瞳は冷たく、しかし深い経験を湛えていた。

 

 薄いバラクラバで口元を覆い、ゴーグルから薄く透けて見える顔立ちは、整いながらも戦場で生き抜いてきた鋭さを持っている。

 

 彼女の後ろに控えるGOAT隊員たちも同様だった。

 

 ヴェール711の隊員たちの何人かが、思わず息を呑んだ。小隊長ですら、完全に気配を捉えられていなかった。

 

 GOAT 1が静かにゴーグルを上げ、小隊長に視線を向けた。凛とした、それでいて感情を抑えた声が響く。

 

 

「ヴェールチームの諸君、待たせたな」

 

 

 小隊長は一瞬だけ息を飲み、すぐに表情を引き締めた。

 

 

「……気配を全く感じなかった。上の階の状況は?」

 

 

 GOAT 1は短く頷いた。

 

 

「3階までは片付けた。この階に来るまで、不良はいたがエージェントの姿は確認できなかった」

 

 

 小隊長は鉄扉を指し、状況を簡潔に伝える。

 

 

「この階は粗方制圧したが、最後の鉄扉が問題だ。上の階にも居なかったとすると、この部屋が囚われている部屋の可能性が高い。しかし我々の装備では突破は難しい」

 

 

 GOAT 1は鉄扉を一瞥し、即座に判断を下した。

 

 

「了解。我々に任せてくれ。GOAT 4」

 

 

 GOAT部隊の突破手であるGOAT 4が音もなく前に出た。彼女は鉄扉を軽く触り確認すると、ポーチから小型のC4を取り出し、鉄扉のヒンジ部分と中央のロック機構に、極めて精密に設置し始めた。

 

 動作は静かで、無駄が一切ない。指先一つで爆薬の量を調整し、起爆装置のコードを繋ぐ。

 

 小隊長は少し離れた位置でその様子を見守りながら、わずかに感嘆の息を漏らした。

 

 ——これが我が校が誇る最精鋭部隊か。

 

 ヴェール711が速度と火力で突破するのに対し、GOATは「存在そのものを消す」ように戦う。

 

鉄扉の前に跪いた突破手が、最後に起爆装置を確認し、GOAT 1に合図を送った。

 

 

「セット完了。いつでもいけます」

 

 

GOAT 1は小隊長に視線を向け、静かに告げた。

 

 

「爆破する。貴官らは後方で警戒を、我々が突入する」

 

 

 ヴェール711小隊は周囲の警戒に当たり、GOAT部隊はエージェント救出の為に部屋への突入準備に入った。

 

 

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