Black Archive   作:アストラ連合学園中央生徒会

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巡航戦車




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MI-24D メインパイロット



8話

 

 

 03分隊からの緊急通信が、無線機を震わせた。

 

 

『繰り返す! 敵戦車発見! 巡航戦車クルセイダーだ、数は1両! 連邦捜査部方向の大通りにて他校の生徒たちと交戦中!』

 

 

 小隊長は無線機のスイッチを握りしめ、表情を硬くした。

 

 瞬間、GOAT 1へ視線を飛ばす、GOAT 1は視線に対して軽く頷く事で返した。それを受け小隊長は、無線機のスイッチから手を離した。

 

 代わりにGOAT 1が無線機のスイッチを押した。

 

 

「これよりヴェール711はGOATの指揮下に入る」

 

『了解!』

 

 

 アストラ連合学園において特殊な状況が起きない限り、現場で同作戦を行動中の部隊は、指揮系統が混乱しないために下級部隊は上級部隊の指揮下に入る。

 

 

「小隊長を含めた分隊をV 1、02をV 2、03をV 3と呼称する。

 

V 1、V 2は待機中のV 3へ合流。V 3はまだ交戦するな、車体をビルの陰に隠せ」

 

「了解!」

 

『了解!』

 

 

 この場合、大隊に所属している小隊のヴェール711は下級部隊になるのだが。彼女たちは独立偵察部隊であり、上級部隊に属しておらず保安局からの指示で行動している。

 

 

「我々は屋上に戻るぞ、ヘリを呼び戻す」

 

「既に手配しています、あとは我々が戻るだけです」

 

 

 しかし、GOATもまた下級部隊を持たない上級部隊だ。彼女たちも保安局、引いてはL.R.N.社からの指示で行動している。

 

 故に同じ保安局の指揮下にあるGOATの下にヴェール711小隊が付くのは当然のことだった。

 

 

「よし、走るぞ」

 

「了解」

 

 

 GOAT 1が隊員たちを率いて屋上へと急ぐ。

 

 ヴェール711小隊もエージェント・ヤストゥリプ8を護衛しながら来た道を戻る。途中で一部を撤去し退路を確保したバリケードを難なく通り抜け廃ビルを脱出する。

 

 03分隊の待機地点に到着すると、03分隊を含めた 3両のタイフーン-L改はビルの陰に隠れるように停車し、息を潜めていた。

 

 

「隊長!」

 

「よくやった、見つかってないな?」

 

「勿論です。どうぞ」

 

 

 03分隊長が安堵する様に小隊長を呼び、手にした双眼鏡を渡す。

 

 小隊長が双眼鏡を覗き戦場を観察すると、遠くの大通りで激しい戦闘が展開されていた。

 

 

「組織だった連中じゃない筈だが……」

 

「恐らく何処かのPMCから流れた物を使用していると思われます」

 

 

 不良が操る巡航戦車クルセイダーの40mm2ポンド砲が断続的に火を噴き、他校の生徒たちが必死に抵抗している姿が確認できた。

 

 小隊長は短く息を吐いた。

 

 

「正義実現委員会の副委員長か、自警団もいるな」

 

「ミレニアムのセミナーとゲヘナの風紀委員もいます、あとは……」

 

 

 彼女たちの視線は戦闘する生徒の後方に立つ人物に向けられた。スーツを纏った“大人”の男性。場違いながらも、何やら指示を出しているようにも見える。

 

 

「“大人”だな……」

 

「“大人”ですね……」

 

 

 しかし彼女たちはやや困惑する、何故なら彼女たちが知る大人の男性というのは━━

 

 

「随分と華奢だな、あれで銃を撃てるのか?」

 

「そういう風には見えませんが……」

 

 

 ━━ゴートマンだからだ。

 

 銃を撃ち、オートマタ部隊を率いて陣頭指揮を執り、自らも空挺投下に参加し戦う。それがヴェール711、いやアストラの生徒たちが見てきた“大人”の姿。

 

 故に指揮こそ執っているように見えるものの、銃を持たず戦いに参加しているようでしていない姿に違和感を感じている。これが完全な非戦闘員ならそう感じる事はなかっただろう。

 

 

「V 1からGOAT 1へ。目標を視認、敵戦車と交戦中の生徒はゲヘナ、ミレニアム、トリニティの生徒だ。

 

その後方にスーツを着た大人の男性がいる、指揮をしているようにも見える」

 

『こちらGOAT 1、目標を視認した。他校の生徒の身元は確認出来ている、もっとも正義実現委員会がいることから敵ではない。

 

ただスーツの大人は確認出来なかった。現在、HQへ画像を転送して調査している。少し待て』

 

「了解」

 

 

 小隊長は偵察を03分隊長に任せ、他の隊員たちの元に向かう。

 

 他の隊員たちは廃ビルの中で消耗した弾薬、手榴弾類を補充し、防弾プレートを割られた隊員は、ボディアーマーから引っ張り出し新たな防弾プレートを入れ直す。

 

 小隊長も消耗した弾薬を補充し、03分隊員から渡された飲み物を口に含む。束の間の小休止だった。

 

 隊員たちも軽く体を休めて次に備えていた。そんな中、エージェント・ヤストゥリプ8は小隊長の側までやって来た。

 

 

「隊長さん、私にも銃を貸してもらえる? 捕まった時に落としちゃったみたいで……」

 

「さすがに74小銃の予備は渡せないが、433拳銃は貸せるぞ。予備のマガジンも持っておけ」

 

「ありがとう」

 

 

 エージェント・ヤストゥリプ8は拳銃を受け取ると、マガジンを抜きスライドを後退させ薬室から弾丸を取り出すと、何度かスライドを前後させ可動確認をする。

 

 スライドを元に戻すとハンマーを手動で上げ、トリガーを引きカチンと小気味良い金属音を響かせる。

 

 

「やっぱりいい銃よね、ちょっと大きいけど」

 

「情報局はPMだったか」

 

 

 会話しながらマガジンを装填しスライドを引きコッキング、次いでデコッキングしながら安全装置をかける。

 

 

「PMもいい銃よ、軽いし携行性も高いから。今度使ってみたら?」

 

「私たちが使うには8発は少な過ぎるな」

 

「ふふ、それもそうね」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 ヴェール711小隊が消耗した弾薬の補充をしている頃、GOAT 1の無線機が反応した。

 

『GOAT 1、応答せよ』

 

 

 GOAT 1は無線機のスイッチを押した。

 

 

「こちらGOAT 1」

 

 

『画像の件だが……ボスからの指示だ。

 

あのスーツの男……キヴォトスの人間ではなく普通の人間の可能性がある。誤射を徹底的に避けろ、との事だ』

 

 

 小隊長の眉がわずかに動いた。

 

 

『重火器、特にロケット弾の使用は禁止する。もし本当にキヴォトスの人間ではなかった場合、爆風も熱風も耐えられないそうだ。

 

たかが銃弾1発でも致命傷になる可能性が非常に高い。

 

並びにトリニティの正義実現委員会、それも副委員長を無視して逃げるのは、今後の関係を加味すると得策ではない。だが戦車を破壊する必要はない、履帯を破壊して戦車の機動力を無力化し、協力した事実を作り速やかに撤退しろ』

 

「GOAT 1、了解」

 

 

 彼女は、こちらを見つめる隊員たちに肩をすくめながら答えた。

 

 

「……そういうことだ。ロケット弾は使えない」

 

「『銃弾1発で致命傷』か、信じられない」

 

「12ゲージのペレット1発も無理なのか?」

 

 

 GOAT隊員たちは不思議そうに首を傾げながら疑問を口にした。

 

 

「作戦を変更する。ロケット弾は使用しない、クロコディルの機関銃、若しくは我々の銃撃での牽制に留める。

 

目標はクルセイダーの履帯を破壊し、動きを止めることだ。戦車を破壊する必要はない。エージェントを連れたヴェールチームを無事離脱させる、それが最優先だ」

 

「了解」

 

 

 隊員たちの返事を他所に、GOAT 1はヴェール711小隊へ無線を飛ばす。

 

 

「こちらGOAT 1、V 1聞こえるか?」

 

『こちらV 1、感度良好』

 

「作戦を伝える。

 

スーツの大人は銃弾1発で致命傷になる可能性が高い、併せて爆発物に耐性もない。万が一を起こさないためにロケット弾によるクルセイダーの破壊は出来ない。

 

代わりに機関銃での援護になる、だが戦車を排除する必要はない。我々が戦車左側面から攻撃し、注意を引く。その隙に右側面から抜けながら履帯を破壊しろ。

 

3両で撃てば走りながらでも破壊出来る筈だ、そのままDUを抜け撤退する」

 

『了解、撤退しつつ敵戦車の履帯を破壊する』

 

 

 GOATが乗るMI-24Dは高度を下げビルの間を裂くように飛行し、交戦中のクルセイダーに迫る。

 

 

『しっかりと捕まっておいてくれよ、あとシートベルトを忘れずに』

 

「了解」

 

 

 MI-24Dの後席に座るメインパイロットが機内へアナウンスをするが、GOAT隊員たちは既に着席しシートベルトを閉め、足を突っ張りシートへ背中を押し付けていた。

 

 機首に搭載されている4つの銃身を持つ機関銃、その束ねられた銃身が回転を始めた。MI-24Dの前席に座るサブパイロットがヘルメットのバイザーを下ろし操縦桿を握る。

 

 銃身がサブパイロットの頭の動きと連動し、4つの銃口がクルセイダーを捉える。

 

 MI-24Dはさらに高度を下げ、クルセイダーの後方から左側面をなぞるように飛行し、すれ違いざまに機関銃が爆音を轟かせ砲塔側面をノックする。

 

 

『な、なんだっ!?』

 

「あれはアストラの……!」

 

 

 左側面を抜け低空飛行のままクルセイダーの視界に入り、見せつけるようにUターン。銃口は回転したまま再び12.7mmのシャワーが爆音を轟かせ砲塔正面の装甲を撃つ。

 

 

『こ、このぉ! アレを狙え!』

 

 

 改造が施されているのか、クルセイダーからスピーカーのように車長の声が響く。しかし、その声は焦りが大きい。

 

 ただでさえ4人の生徒相手に苦戦していたのに、攻撃ヘリまで現れれば当然だ。しかもクルセイダーの正面、仰角的にも当てやすい位置に居る攻撃ヘリを狙うのも仕方のないこと。

 

 

『てぇっ‼︎』

 

 

 しかしMI-24Dは出力を上げ、機体をふわりと上昇させ砲弾を回避した。

 

 

『な、なにぃ! 装填急げ!』

 

「焦っちゃってまあ」

 

 

 メインパイロットはクルセイダーから見て左側に緩く機体を滑らせる、それはクルセイダーの砲塔がギリギリ追いつかないほどなめらかな操縦技術だった。

 

 クルセイダーの砲手は相手の思惑に気付くこともなく、機体に合わせられるように懸命に砲塔を左に向けていく。

 

 砲塔が機体を追い40度ほど傾いた時、後方から3両のタイフーン-L改が猛スピードで走ってくる。だが、目の前のMI-24Dに集中して車長ですら気付かない。

 

 先頭を走る01分隊のタイフーン-L改に搭載されたRCWSの12.7mm重機関銃が火を噴いた。

 

 重い銃声が空気を切り裂き、右側の履帯を撃ち抜き火花を散らす。驚きからかクルセイダーの砲塔の旋回が止まる。

 

 その隙を突くように続く02分隊03分隊の車列が続き、RCWSの12.7mm重機関銃が履帯の一部を削り取るように撃ち続ける。

 

 03分隊が通り過ぎる辺りでクルセイダーの履帯板が耐え切れずに弾け、履帯ピンや履帯リンク部が弾け飛び周囲に飛散した。

 

 遅れてクルセイダーの主砲がゆっくりと車列に向かおうとするが、MI-24Dが再び機関銃を射撃し、砲塔が激しく揺らされる。

 

 

『くそぉ! 車体を回せ!』

 

 

 クルセイダーの車長は履帯の破損に気付かず、車体を旋回させようとするが履帯板の外れたスプロケットが虚しく空転し、無事な筈の左の履帯に無理な力がかかり悲鳴を上げる。

 

 移動不能(Mobility Kill)である。

 

 巡航戦車である快速性は失われ、ほぼ無力化したも同然であるが、MI-24Dはそれを見届けるとタイフーン-L改の走り去った方向へ機首を向け飛び立っていく。

 

 残されたのは戦闘能力の大半を喪失したクルセイダー。巻き添えを喰らわないように遮蔽物に隠れていた4人の生徒と大人の“先生”だけだった。

 

 しかし、クルセイダーはまだ終わっていない。砲塔だけを動かし目の前に残る4人を倒そうとする。

 

 

『せめてお前たちだけでも!』

 

「無駄よ!」

 

 

 先頭に立つ菫色の髪を腰まで伸ばしたミレニアムの生徒、早瀬ユウカに同軸機関銃が放たれるが、彼女が手に持つデバイスによりシールドが形成され銃弾は全て弾かれる。

 

 

「閃光弾、投擲します!」

 

 

 白いロングヘアのトリニティの生徒、守月スズミがクルセイダーの砲塔に向け閃光手榴弾を投げる。一見意味はなさそうに見えるが、戦車には搭乗員が外を見るための窓がある。

 

 砲手は照準器を覗いていた視界が真っ白になり機関銃を撃つ手が止まる、同じく車長もペリスコープを覗いていたために視界が真っ白になってしまう。

 

 

「攻撃します」

 

 

 長い黒髪と高い身長を持つ正義実現委員会の副委員長、羽川ハスミ。彼女は手に持つライフル、インペイルメントのボルトを後退させ排莢、ボルトを前進させ弾丸を薬室に送り込む。

 

 ハスミはクルセイダーの砲口に照準を合わせ、引き金を引いた。

 

 力強く装填された弾丸は狂いなく砲口の中へ入り、その奥で装填された砲弾を貫いた。

 

 貫かれた砲弾は砲塔内部で炸裂し砲口は花のように咲き、撒き散らされる金属片により搭乗員は逃げる間もなく意識を失った。

 

 戦場は一時的に静寂に包まれた。クルセイダーが破壊された事で、周囲に隠れ様子を伺っていた不良たちも逃げ出したようだった。

 

 

「ひとまず、片付きましたね。医療支援が必要な方はいらっしゃいますか?」

 

 

 明るい髪色に風紀委員の腕章をつけたゲヘナの生徒、火宮チナツが医療品を取り出しながら言うが、みな大した傷は負っていなかった。

 

 

“みんなよく頑張ったね、お疲れさま”

 

「先生、お疲れさまです。お怪我はありませんか?」

 

 

 もっとも後方の位置にいたハスミがスーツの大人━━“先生”へ声をかける。

 

 

“大丈夫だよ。それにしても、さっきのヘリコプターと車は一体……?”

 

「あれはアストラ連合学園の攻撃ヘリとMARP(装輪式多目的装甲車)ですね。私たちのように連邦生徒会に事情を聞きに来たのでしょうか?」

 

「もっと速く来てくれたら、こんなに苦労しなかったのに! ここで使った弾はぜっーたい、連邦生徒会に請求するから!」

 

「話をしに来たにしては、随分と物々しい気もしますが……」

 

 

 話を遮るように通信が割り込む。

 

 

『「シャーレ」部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう』

 

“みんな、ありがとう。ちょっと行ってくるね”

 

「はい、お気をつけて」

 

 

 “先生”は連邦生徒会主席行政官、七神リンからの通信により4人に感謝を伝え、連邦捜査部へ入っていた。

 

 




現実だとクルセイダーの2ポンド砲ではタイフーン-L改の装甲を貫徹出来ないらしい。
しかもタイフーンLに搭載した12.7㎜重機関銃は側面、後方であれば確実に貫徹できるとのこと。
ま、まぁキヴォトスなんで……ほら、特殊なアレがアレで、ね?
現代の工作技術で作った的な……。

MI-24Dの操縦席はさっぱりなのでタンデムっぽく見える、1番近そうな見た目を選んできました。
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