Black Archive   作:アストラ連合学園中央生徒会

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想い


第四章
間話


 

 

 先生が連邦捜査部へ入って行った数分後━━

 

 

 

 守月スズミは、銃を下ろした後も、しばらく息を整えていた。

 

 戦いは終わった。

 

 しかし、彼女の胸の中には、まだ小さなざわめきが残っていた。

 

 

「……アストラのみなさん、随分と本格的でしたね」

 

 

 彼女は隣に立つハスミに、小さな声でそう言った。

 

 正義実現委員会を経て自警団の活動を長く続けているスズミにとって、アストラ連合学園の存在はよく知っているものだった。

 

 L.R.N.社がトリニティの治安維持を一部担っていることは、委員会の人間なら誰もが把握している事実だ。

 

 そしてL.R.N.社がアストラ連合学園へ業務提携という形で、治安維持業務に従事していることも。

 

 ただ、こうして実際に彼女たちが本気で戦う姿を間近で見るのは、初めてだった。

 

 

「彼女たちも……きっと、守るべきものがあるのでしょう」

 

 

 スズミは、既に走り去った車両の影を静かに目で追った。

 

 北方の廃校になった学園の生徒たちが集まってできた連合であり、硬い絆で結ばれた同盟。

 

 彼女らが武器を持ち、危険な場所へ自ら足を踏み入れる理由を、彼女はなんとなく理解できた気がした。

 

 

「……私たちと、少し似ているのかもしれません」

 

 

 ハスミがわずかに眉を寄せた。

 

 

「似ている、ですか」

 

「はい。正義実現委員会、そして自警団もトリニティのすべてを守りきれているわけではありません。

 

それでも……」

 

 

 スズミは少し言葉を濁した。

 

 本当は、もっと素直に言いたかった。

 

 

 「彼女たちも、私たちと同じように『誰かを守りたい』と思って戦っているんだな」と。

 

 ただ、それを言葉にするのは、少しだけ恥ずかしかった。

 

 

「……スズミさん」

 

「はい」

 

「今は、ただ彼女たちに感謝しましょう。

 

委員会を通して彼女たちの協力があったことも伝えておきます」

 

 

 ハスミの言葉に、スズミは小さく頷いた。

 

 

「……はい」

 

 

 彼女は、もう一度だけ、走り去って行ったアストラの部隊の方を振り返った。

 

 北方から来た生徒たち。

 

 彼女たちは、きっと自分たちと同じように、誰かを守るためにここにいた。

 

 それだけで、十分に胸を張れるはずなのに━━

 

 スズミは、なぜか少しだけ、胸が痛むような気がした。

 

 ……私は、あの人たちと同じように、誰かを守るためにここに立っていると言えるのだろうか。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 連邦捜査部S.C.H.A.L.E開業から数日後━━

 

 

 

 落ち着いた色合いの机と椅子、古風なランタンが小さく周囲を照らす執務室。

 

 窓の外は暗く、僅かながらも雪がちらついている。そんな夜更けに俺はいつものように一人でいた。

 

 執務室の明かりは古風なランタンのみで最小限に抑えられており、机の上には報告書が静かに積まれている。

 

 内容はすでに目を通したもの。

 

 連邦捜査部、通称シャーレ(S.C.H.A.L.E)の顧問に就任した大人の“先生”について。

 

 情報局からの報告では様々な問題解決のために全力で取り組んでいる、らしい。子猫の捜索までしているという。

 

 あの日、GOATから転送されてきた写真を見て驚いたものだ。

 

 学園都市キヴォトス。

 

 俺が謎の光に手を伸ばし、連れてこられたこの世界はそういう名前らしい。

 

 そこでは子供である学生たちが都市を収めていた。学園一つが一国のように扱われる、生徒会長が首相か大統領、はたまた国王のような存在に。

 

 大人も存在していたが、犬や猫、熊に鳥、挙句にはロボット市民までいるが、あくまでも人の形をしているだけで見た目は動物だ。

 

 まあ、俺も人間かと問われると否定せざるを得ない。どこの世界に山羊の頭蓋骨を浮かべる人間がいると言うのだ。

 

 併せて言うのなら、キヴォトスの子供や住民たちの全ては、銃で撃たれても死なない。俺もそうだが……。

 

 さておき、写真だ。

 

 子供でも動物人間でもロボットでもない、完全な人間の大人の写真。

 

 最初はこの世界に迷い込んだ人間かと思ったが、どうにも違うらしい。

 

 今代の……失踪してしまった連邦生徒会長、直々に指名され連邦捜査部シャーレに就任したという。

 

 人の身では、このキヴォトスで生きるのは困難だろう、と予測していたのだが報告によれば銃弾は何らかの方法で発生したシールドによって弾かれるという。

 

 なにか特殊な能力を持っているのなら大丈夫だろう、ひとまずは様子見となる。

 

 一度、椅子から離れ、窓の外に広がる暗い街並みを眺める。ささやかな煌びやかさを残しつつも質実剛健が勝る街並み。

 

 俺がキヴォトスに降り立ってから、随分と時間が経った。

 

 それでも、白い光に手を伸ばしたあの時から、俺の気持ちは変わっていない。……子供が、寒さに震え孤独に死ぬなど、許されない。

 

 その想いは、今も胸の奥底で、静かに燃え続けている。

 

 だが、当時の俺はオートマタ兵を引き連れたPMCに過ぎなかった。街のインフラや治安維持のための武力行使も、行政権がなければ正当性を与えられなかった。

 

 無視してやることも出来たが、それでは意味がない。俺がやりたかったのは改革であり改善である、圧政ではないのだ。

 

 だからこそ、行政権を渡す、という嘘に引っかかったとも言える。結果的にやや強引ではあったが正式に行政権を譲渡してもらえたのは幸運だった。

 

 廃校になった学園に残された子供、連邦生徒会から見捨てられた子供、行き場を失った子供……そんな子供たちに、再び学びの機会を与えたかった。

 

 寒さや空腹によって命が脅かされず、ただ平穏に笑って過ごせる環境を整えたかった。

 

 そもそも俺は、子供たちに“戦え”と命じた覚えはない。

 

 ただ、キヴォトスにおいては銃撃戦が必ず起こる。それで死なずとも酷く痛い思いをする、だからこそ俺たちが駆けつけるまでの自衛に役立つと考え戦技指導もした。

 

 子供たちの認識が変わったのは、あの大侵攻からだ。

 

 あれ以来、子供たちは積極的に戦技指導に取り組み、更に高度な戦術機動まで求めてきた。

 

 遂には会社で使っていた兵器すら、使いこなすようになっていった。

 

 いつしか、ただ守られるだけの単なる“子供”ではなくなった。武器を手に取り、戦うことを選んだ子供たちだ。

 

 危険を承知で、なおも前へ進もうとする子供たちだ。彼女たちは、誰に命じられたわけでもない。

 

 ただ、“自分たちが守らなければならないものがある”と信じて、危険な場所へと足を踏み出している。

 

 いくら軍人らしい口調で報告をし、いくら冷静に任務を遂行していても、俺から見ればみな子供だ。だが、子供だからと遠ざけては成長は出来ない。

 

 オートマタ兵の整備性を考え、防具系の装備開発は趣味に留めていたが子供たちが戦場に立つと言うのなら、と開発も進めた。

 

 成長を妨げないように軽く、銃弾によるダメージを最小限に。

 

 それらを子供のサイズに合わせられるように小型化する。言葉にすれば簡単だったが道のりは遠かった。

 

 かなり趣味を反映してしまったが、それでも完成した。子供のことを思えばなんてことはなかった。

 

 自ら戦う事を選んだ子供。戦う力を持たない、ただ平穏に過ごしている子供。どちらも俺が守るべきもの、だが過度な干渉はすべきではない。

 

 子供の成長を見守り、子供たちが安心して過ごせる場所を創ること。それが大人の出来ることだ。

 

 決して子供たちの安息を失わせはしない(Lost Rest Not)

 

 それが俺たちだ。




今回は短め。
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