Black Archive 作:アストラ連合学園中央生徒会
動き続けていたドローンが止まり、周りに比べれば比較的損壊の少ない廃工場へと入って行った。
追いかけたい所だが、ひとまずドローンの予備弾倉から弾をマガジンに装填。
気持ち的にはポケットを弾で一杯にしたいが……じゃらじゃらと煩い上に動きづらくなるので20発だけを持っていくことにした。
それにドローンがいるなら弾薬補給はなんとかなるはずだ。
「最悪殴るか」
などと言う冗談はさておき、ドローンが入ったのは廃工場上部に取り付けられた穴だ。
ドローン専用の出入り口なのか高所にある、あそこからは入れない。
だが有難いことに廃工場の壁には大穴が空いていた。
車が突っ込んだのか、爆破されたのか、さだかではないが壁に空いた大穴から廃工場に侵入する。
ドローンが入った以上、稼働してるかと思ったが、天井の蛍光灯は点いてない。
通路を進めば、大穴からの太陽光は届かなくなり、足元を僅かに照らす常夜灯のフットライトが頼りなく点くだけ。しかも時折点滅する。
無音で、機械の作動音も聞こえないが、電気が来てるならどこかで給電されてるはずだ。
ひとまず、先に進む。
金属扉を僅かに開き、ブービートラップがないか確認。
しかし酷く錆びついていたらしく扉が軋み、大きな音を立てる。静寂が支配する廃工場で、音が大きく響いた。
「マズった……」
ベルトからグラッチを取り出し、セーフティを解除。
壁に身を寄せ、息を潜めながら両手で銃を保持。胸の前で銃口が肩の方を向く構えをとる。
所謂、CARシステムという構えだ。
今の構え、ハイ・ポジションは至近距離に置いて照準器を覗かずとも素早く、かつ高い命中精度を確保する。
銃を体の中心軸に近くすることで相手に銃を奪われ難くする効果もある。
やがて足音が近づいて来る。複数か? 足音の主は扉の前に立ち、リビングのドアでも開けるような気軽さで扉を開け放った。
人型ロボットだ。藍色のカラーリング、一般的な成人男性を超える大きさ。頭部中央に青く発光するセンサーの様なバイザー。
手に近未来的な銃━アサルトライフルか?━を持ってるが、構えてはいない。
2体が1列で並び、1体目はトリガーを引く手でドアノブを握り、反対の手でハンドガードを持ってる。
2体目も銃を下げ、ロー・レディでもない無警戒な体勢。罠か?…… いや、今だ。
ハイ・ポジションで構えたグラッチを2連射、おまけにもう2連射。
閉所で銃声が大きく響き、マズルフラッシュが瞬間的に周囲を照らす。
4発の弾丸は1体目の胴部に命中。
小さな火花を放ち、頭部の光が消えると同時に動きも止まる。
活動停止か? 生憎と迷ってる暇はない。
動きの止まった1体目に体当たりをぶちかまし、2体目を巻き込んで転倒させる。
1体目に押し倒された形になった2体目の銃を持つ腕を踏みつけ、頭部のバイザーを狙って2連射、さらに2連射。
マズルフラッシュが再度辺りを照らし、バイザーを粉砕、消灯。
活動停止したと思うが、念のため2体の頭部に1発ずつ撃ち込む。
これでもう動かないだろう。
排莢された薬莢が床を跳ねる硬質な音が響く中、ハイ・ポジションからエクステンデッド・ポジションにスタンスを切り替え、増援を警戒する。
「ふぅ……咄嗟にやったが、覚えてるもんだな」
ドローンの時が問答無用だっただけに銃すら構えてないから、罠かと疑う程だ。
周囲に聞き耳を立てて待機していたが増援はなさそうだ。
念の為に2体目を確認すると、1体目に命中した4発のうち2発が貫通し、2体目にも損傷を与えていた。
至近距離だが、装甲は見た目より薄いようだ。どの攻撃が致命傷か分からないが、拳銃弾で倒せることが分かっただけマシとしよう。
グラッチのマガジンを取り出し、10発を込めて装填。早速ポケットの弾が半分に減り、不安が募る。
「予備のマガジンが欲しくなってきたな」
地面に落ちた近未来銃を手に取る。
M4A1くらいの銃身長、ボディカラーと同じ藍色、マガジンはリリースパドル系の操作で脱着するようだ。
マガジンの長さと反りのなさからして装弾数は多くは無さそうだ。
セーフティはトリガーを物理的にロックするタイプ。光学照準器もアイアンサイトもない。
ロボットの使用前提か。使いづらいが、弾の補給は楽だ。それにマガジンも使える。
もう一挺からマガジンを鹵獲、全ての弾丸を取り出すと19発入っていた。
初弾を装填済みと考えれば20発マガジンか。
コッキングは……ヘンテコなボタン? を押すとエジェクションポートが開き、未使用の弾が飛び出すトンデモ謎仕様だ。
仮称コッキングボタンを押して飛び出した弾丸をキャッチして眺める。
「世界が変わっても、この形は変わらないんだな」
鋭いドングリをマガジンに戻してポケットに詰め、捜索を再開。
ある程度見て回ると、面白いものが見つかった。
大きなシャッターの搬出入場に、地下行きのエレベーター。明らかに兵器を運搬する巨大な傾斜式エレベーターだ。
制御不能な生物兵器との最終決戦の場より広い。
「おいおい、なんだこれは」
恐怖心より好奇心が湧き上がる。
エレベーターの端にコンソールがあり、それは権限なしで誰でも使える状態の様だ、誰も来ることを想定してないのか、セキュリティが酷い。
侵入者としては助かるが……。
コンソールに複雑な物はなく、ボタンと謎の技術で空中に投影されるスクリーン、そのスクリーンにエレベーターの状態が映る。
地上階で停止し、長い間動いてないらしい。
コンソールを操作して、入り口を塞ぐ柵を降ろす。
腰より高い柵━落下防止用の遮断棒と言うやつだろう━が降り切ると、渡し板が隙間を埋める。
エレベーターに乗り込み、下を覗く。トンネル内の電気は消え、真っ暗だ。
かご側のコンソールに触れると、鈍いモーター音の後に電気が点き、トンネルの先を照らす。
ぼんやりと終着点が見える気がする。コンソールを確認すると、スピード調整が可能らしい。
かごの総重量で最大速が決まるようだが。今は空で最大速が出せる。試しに上限にすると、到着予想時間は40秒。
ぼんやりと見えるあの地点に40秒……。そっと速度を落とす。4分くらいなら妥当か? 分からない。
悩んでいても仕方ない。
後は勢いだと起動スイッチを押す。ブザー音と黄色の警告灯が回転。
渡し板が収納され、遮断棒が上がり、ロックの外れる音が響く。
エレベーターがゆっくり地上階から離れ、思っている以上の速度で降下を開始。
最大速ならどうなってたんだ、と薄寒さを感じる。
一定間隔の電灯の光を浴びながら、気持ちを切り替える様に近未来銃を構える。
しかし警戒も虚しくエレベーターは何事もなく地下階に接続され、地上階と同じくブザー音と黄色の警告灯が回転し、渡し板が架かり、遮断棒が降りる。
カチリとロックのかかる金属音を最後に、辺りに静寂が戻る。
目の前はかなり広い地下空間だ。
薄暗い常夜灯が点々と足元を照らし、巨大な鉄骨とパイプが絡み合う天井が遥か上に見える。
ひんやりとしているが空気は澱んでおらず、微かな油と金属の匂いが鼻をつく。
静寂の中、どこかで低いうなり音━機械か、換気扇か━が響き、工場の奥からかすかな振動が伝わる。
地上の工場は完全に停止していたが、地下工場は生きているらしい。
エレベーター前の広い地下空間は恐らく搬出待ちの兵器を待機させておく空間だろう、その空間から伸びる通路も広く、戦車が通れそうなほど。
広い通路だが破棄された物資や乱雑に積まれたコンテナ、機械部品が散乱しており遮蔽物として使えそうだ。
ロボット兵を警戒しつつ、ゆっくりと進む。
常夜灯の弱々しい光が時折点滅し、まるで何かが潜んでいるように揺らめいている。
通路を進むと、脇に開きっぱなしの扉があった。
スライド式の扉だが散乱した物資がレールに引っかかり扉が閉まらなくなったようだ。
扉の上部には今にも落ちかかっているプレートが掛けられ、物資保管庫と辛うじて読める。
これ幸いと中に入る。物資保管庫には錆びたロッカー、倒れた棚、散乱した工具。雑多な物の中に、円筒形の金属ケースが転がっている。
これはフラッシュバンか……? ダミーをみた事があるしゲームで頻繁に使っていたからよく覚えている。
見ためはM84に似ているが、何故ここに?
「まぁ、有難く貰っていくか」
拾い上げ、ポケットに突っ込もうとしたが、すでに9mm弾と近未来銃のマガジンでポケットには余裕はない。
「アイテムスロットは6枠か?」
アンティークな鍵なら捩じ込めたかもしれない。
なんでも良いので収納できる物が無いかロッカーを漁ると、くすんだオリーブグリーンのチェストリグが引っかかっている。
東側っぽい作りのチェストリグだ。
長年放置されたからか少し埃っぽいが、目立った破損はない。
「いいね」
ジャケットの上から装着。ベルトを調節して締め、ポーチにフラッシュバンを収納。
9mm弾10発もポーチに移し、近未来銃の予備マガジンも別のポーチに移す、膨らんだポケットから解放されて動きやすくなった。
ついでにその辺に落ちていた複数の紐を適当な長さに繋ぎ合わせる。
「これで……」
銃身の付け根とストック部分に巻きつけ、肩にかける長さに調整。
近未来銃に括り付けて簡易的なスリングにする。
近未来銃を構え、グリップから手を離しベルトのグラッチを素早く引き抜く。
これで弾切れになった瞬間に素早く手放してグラッチに切り替えられる。
再びベルトにグラッチを挟み、近未来銃の簡易スリングを調節する。
これならホルスターも欲しいところだが、残念なことにこれ以上は何も見つからなかった。
通路を進むと、突き当たりに半開きのシャッターが見えた。
光と共に向こう側から機械の作動音が強く聞こえてくる。
「ここが……本命か?」
シャッターの隙間を覗き、ブービートラップや伏兵がないか確認。
問題なさそうではあるが、警戒しながらシャッターを潜り、ようやく通路から工場エリアへ足を踏み入れた。
そこは広大な生産ラインの空間だった。
無数のコンベアやアームが動き、藍色のロボット兵やドローンが、自動車のように次々と組み立てられている。
巨大なロボットアームが部品を運び、青白い火花を散らしながら溶接される部品たち。様々な金属の擦れる音が響き合う。
アームに固定されたロボット兵の胴体が整然と流れていく。
頭部は取り付けられていないが、腕や脚が取り付けられる。
別のラインでは、ドローンの円形ボディが回転しながら組み立てられ、カメラレンズや小型ガトリングが装着されている。
ロボット兵やドローン、明らかな軍用兵器が量産されている。
「ここは軍需工場か……いや、大人の玩具工場だな」
別のコンベアでは、近未来銃そのものが生産されている。
台座に固定された藍色の銃身がコンベアを滑り、グリップやハンドガード。
主要部品がブロックのおもちゃが組み立てるように自動で取り付けられる。
謎のスキャナーが赤い光を走らせ、バーコードを読み取るように次々と銃をチェックしていた。
工場の奥では、コンテナに完成したロボット兵が整列して収納されている。なのに、誰もいない。
人間の気配はなく、機械だけが淡々と稼働し続ける。
無機質な光がコンベアを照らし、機械の作動音と振動が足元を震わせる。
しかしよく見れば生産ラインの脇には、未完成のロボット兵の部品が雑多に積み上げられている。
センサーなしの頭部、腕、脚――まるでマネキンのパーツを雑に積んだような光景。
ラインに載るロボット兵も左右の腕が逆に付いていたり、頭部や脚部が反対だったりと不良品が多そうな気配だ。
「俺が監督者だったら発狂モノだな」
社畜をしていた頃に視察に行った自動車生産工場を思い出して、別の意味で背筋がゾクリとした。
そんな事を思い出していると機械の音に混じって、遠くから硬質な足音が聞こえてくる。
4体のロボット兵だ、奴らが向かってくる。
「警備兵か?」
すぐさまコンテナの影に隠れ、様子を伺う。
ロボット兵の動きは巡回ではなく、何かを捜すそぶりを見せている。俺を探しているのか?