Black Archive 作:アストラ連合学園中央生徒会
地下車庫から最初に姿を現したのは、グストフ632戦車小隊のT-72B3改の三両だった。
重い履帯がコンクリートの傾斜を軋ませ、僅かな金属音を立てながら力強く進み、やがて車体全体がゆっくりと陽光に晒される。
ディーゼルエンジンの低く重い唸りを轟かせながら、車体全体が低周波の振動を刻み、履帯が砂に食い込む音が連続して響く。
続いて、別の地下車庫からリトヴィノフ63機械化歩兵中隊の
その数は九両。最後尾にはアンテナが増設され部隊間通信機能を強化した指揮車モデルのBMP-3K改が車列に加わり、十両となっている。
歩兵戦闘車であるBMP-3M改の後部の兵員室には4名と部隊内で使用する小火器用弾薬や消耗品を載せ、操縦席に操縦手とその左右に搭載された7.62mm機関銃の銃座に分隊員2名が搭乗。
砲塔左側に砲手、砲塔右側に分隊長が座り、車長を兼任している。
それぞれのBMP-3M改に9名が搭乗しており、三個分隊で一個小隊となり、それが三組あり一個中隊を形成し、総勢81名がこの中隊に所属していた。
指揮車でありローザの搭乗するBMP-3K改は、操縦手、砲手、車長、ローザと彼女の指揮を補佐する指揮補佐官が2名。合計で6名により運用されている。
大きな違いは、操縦席左右の銃座が撤去され、兵員室が指揮用の作業ステーションになっている事だ。増設された無線機類、ナビゲーション装置などにより兵員輸送能力を落とし、中隊全体への指揮能力を向上させている。
アビドス方面統括局の敷地から出ると、グストフ632の小隊長が搭乗する戦車がスピードを上げ先頭を走り、リトヴィノフ63機械化歩兵中隊の第3小隊*1の三両がその後方についた。
戦車一両に対して歩兵戦闘車三両が縦列を組み、戦車と歩兵戦闘車が交互に連なる車列を組んで進む。
指揮車は二両目の戦車の後方に続く歩兵戦闘車の列の中で、四両目に位置している。三両目の戦車に続く最後尾の歩兵戦闘車より、更に離れた後方にはガラノヴァ補給部隊の車両が続いた。
ガラノヴァ補給部隊は、運転手を含めて3人乗りの角ばった車体に大きな荷台を備える、キャブオーバー式大型輸送車両のムスタングを二両。
後部の兵員室に補給部隊員を10名を乗せつつ、ムスタングの護衛を兼ねて、運転席の車長が操作できるRCWSの12.7mm重機関銃が搭載されたタイフーン-K改が二両。ムスタングの前後を挟む形で計四両が随伴していた。
ムスタングの一両は大型燃料タンクで、約8,000リットルの燃料を積載できる。これは中隊全体の行軍と高強度戦闘を行なっても、十分に補給出来るほどだった。
二両目のムスタングは通常の幌付き荷台型になっており、主に戦車の砲弾や予備部品、少量の
今回の強襲作戦に参加している補給部隊員は、運転手や車長を含め30名。車列に加わっている人数は117名、偵察中の部隊を含めればさらに多くなる。
無線に短い声が飛び交う。
『CPからグストフ632。隊列の調整が完了した』
「グストフ632、了解。速度を40km/hで維持する」
『CPから全車両へ、速度40km/hで維持。レーダーでは敵性反応は無いが不審点があれば即刻報告せよ』
『了解』
キュポーラから身を乗り出していた小隊長は、ちらりと後方の車列を眺めたあと車内に戻りハッチを閉じた。
「ふう……」
小隊長は頬を伝う汗を袖で乱暴に拭い、ペリスコープへ顔を寄せた。
『車長、冷房を強めましょうか?』
本来ならT-72B3に冷房機能は存在しなかったが、どんな環境でも作戦をこなせるようにと、改修の際に取り付けられた機能として追加されたものだった。
「大丈夫だ。暑いが慣れてる」
『了解』
100名以上が作り出した車列は、砂漠の熱風を受けながら履帯と車輪が砂塵を巻き上げ、薄くたなびいた。
エンジンの唸りと履帯が砂を掻く音が重なり合い、綺麗に整った一列の車列が生き物のように、前進を続けていく。
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ヘルメット団が拠点とする場所までもう少しという所で、指揮車の無線機が鳴る。先行させた偵察部隊からだった。
『CP、CP、こちらリトヴィノフ611。敵機甲戦力の増援を確認』
「了解。リトヴィノフ611、敵機甲戦力の詳細は分かるか?」
『巡航戦車クルセイダーが四両、重装甲偵察車プーマが八両』
「他には?」
『件の重戦車ですが……Flak41改を搭載した自走対空砲、フラックパンターではないかと……。
形式は完全密閉式の旋回砲塔。砲塔も装甲化されていると仮定すると、装甲はやや高いと思われます』
「了解、少し待て」
ここに来て機甲戦力の増援、果たしてそれはアストラ連合学園を警戒しての事か、それとも対策委員会への妨害を強めたのか。
ローザは作戦ステーションの上に無線機を置き、側頭部を指で叩きながら思考する。
巡航戦車が四両、重装甲偵察車が八両、高射砲を搭載した自走対空砲が一両。質はともかく量は向こうが上、それも機動力の高い巡航戦車と偵察車だ。
だが、こちらにはT-72B3改が三両ある。火力と装甲では圧倒的に優位だ。
彼女は無線機を手に取り、短い息を吐いてから指示を出す。
「リトヴィノフ611、こちらCP。そのまま敵機甲部隊に張り付き位置情報を送れ、敵に気付かれたら即座に離脱せよ」
『了解』
リトヴィノフ611との通信を切ると、続けて各車両へ繋がる無線機を手に取り、迷わずにプレストークボタンを押した。
「CPから全車に通達、作戦を変更する」
各車両の車長は、無線機に耳を傾け、素早く手元にメモ帳を手繰り寄せる。
「火力と装甲で敵をすり潰す強襲作戦だったが、偵察部隊より敵の機甲戦力の増援が確認された。巡航戦車が4、重装甲偵察車が8、高射砲を搭載した自走対空砲が1。
優先目標は自走対空砲だ、あれを最初に潰す。戦車小隊はまずはあの自走対空砲を確実に無力化しろ。
中隊は隊を二つに分け、左右から迂回して側背を突け。クルセイダーとプーマは機動力が高いが装甲は薄い。BMPの火力で十分対処可能だ。
自走対空砲を撃破した時点で、戦車小隊は中隊と合流し、残敵を掃討する。作戦目標は変わらず敵主力部隊の排除とする」
『グストフ632、了解』
『リトヴィノフ63、了解』
ローザはリトヴィノフ611から送られてきた敵機甲部隊の座標を各車両へと送信する。それに合わせて戦車小隊が車列から離れ、中隊も走りながら隊を二つに分け距離を保つ。
補給部隊も速度を大幅に落として、戦闘区域外にある廃墟にムスタングを隠し、タイフーン-K改が周囲を警戒しつつ待機した。
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三両のT-72B3改が砂を巻き上げながら移動している、先頭を切るのは小隊長の搭乗する第01戦車分隊だ。
小隊長は無線機を手にしながら戦術マップを開き、自走対空砲の位置を確認すると分隊へと指示を出した。
「01から各車へ。自走対空砲は現在グリッドC-2、北北東へ前進中。十分回り込める速度だ。01はグリッドC-3北西側の岩陰から履帯を破壊する。
02、03はグリッドC-3北東にある砂丘の稜線を使い、動きの止まった所を仕留めろ」
『02、了解』
『03、了解』
第01戦車分隊は速度を上げグリッドC-3北西へ、第02、03戦車分隊は北東へ進路を取り二手に別れた。
ヘルメット団の自走対空砲は低速で移動中であるため、T-72B3改の
しかし小隊長はより確実にするために移動する敵を一斉射で破壊するより、一両が履帯を破壊し、動けなくなった所を二両が確実に当てる作戦にした。
移動し終えた第01戦車分隊は車体が隠れる大きめの岩のやや後方に停車し、砲塔を回転させ岩陰の隙間から砲身を僅かにせり出す。
第02、03戦車分隊は砂丘の稜線へ移動、砂漠の強い光が砲塔に反射し見つからないように稜線のすぐ裏側でタレットダウンの位置に付き、砲塔を完全に隠す。
小隊長はハッチを開け、キュポーラから出てハッチを閉めエンジンデッキに降りる。軽く周囲を見るとエンジンデッキから地面に飛び降りた。
軽やかに着地すると、そのまま走り出した。向かう先はエンジンデッキ上で見た、そう離れていない小高い丘の上だ。
息を乱さず登り切った小隊長は、その場に伏せ、キルフラッシュ付の双眼鏡を覗き込む。
しばらくそうしていると遠くに土埃をたてる車両が見えてくる。自走対空砲フラックパンターだ。
小隊長はプレストークボタンを押し、戦車内の分隊員へ無線を飛ばした。
「目標視認。現在の風速は?」
砲手は弾道計算機から風速センサーの数値だけを拾い、素早く返答する。
『1.3m/s、ほぼ無風です』
「ほぼ無風か……。砂の残り具合からして25km/hくらいだろう、6分程度で交戦距離に入る」
『了解。02、03に共有します』
「頼んだ。私もすぐに戻る」
双眼鏡を戻すと、来た道を駆け下り、戦車の履帯を足場にしてエンジンデッキに登るとキュポーラのハッチを開け、するりと中に入った。
『後2分で交戦距離に入ります、即撃ちますか?』
「いや、駄目だ。1,500mまで引きつけろ、確実に仕留める。
『榴弾装填、了解』
砲手の指が装填スイッチに触れると、モーターの駆動音が響き自動装填装置が動き始めた。主砲がわずかに上を向き、装填位置で固定される。
車体下部のカルーセルがゆっくりと回転し、榴弾用のカセットを装填ラインに合わせて停止した。
砲尾が閉じ、装填が完了したことを示す表示が点灯する。一連の動作が終わると、主砲は先ほどの照準角度へと自動的に戻された。
『榴弾装填完了』
砲手は照準器に顔を寄せ、砲塔を微調整しフラックパンターの前部履帯に狙いをつける。既に交戦可能距離だ。
身体の力みを感じ、薄く息を吸った。息を止め、ぐっと身体に力を入れて息を吐きながら力を抜く。
「射撃用意!」
その声に操縦手と砲手は次に来る言葉を聞き逃さぬように神経を尖らせた。
「撃て!」
砲手が即座にトリガーを引いた。
主砲が発射された瞬間、車内を鈍い衝撃が突き抜けた。
砲尾が大きく後退し、砲塔全体が一瞬、後ろへ押し戻されるような感触が3人の体に伝わってくる。
耳を圧迫するような重い轟音が戦闘室に満ち、ヘルメットの中で鼓膜が震え、胸の奥まで振動が届いた。
細かな埃が天井や機器類から揺れ落ち、照準器の映像が一瞬だけ乱れる。発射の余韻が残る中、ディーゼルエンジンが唸りを上げながら車体を後退させた。
後退することで岩陰に砲塔を隠し発見を遅らせた。
「
『徹甲弾装填、了解!』
砲手は素早く次弾を徹甲弾に変更し、装填スイッチを押す。次の動作を開始した自動装填装置のモーター音が床下から低く響いた。
発射された榴弾は狂いなくフラックパンターの左側の前部履帯を直撃した。
着弾と共に起きた爆発の衝撃と金属破片は履帯を容赦なく引き裂き、複数の履板がねじ切れるように吹き飛んだ。履帯ピンや履帯リンク部は引き千切れ、金属の破片が周囲に飛び散る。
車両は前進する力を失い、大きく右に逸れた角度で停止する。サスペンションアームの一部が歪み、接地していた転輪が浮き上がっている。
反撃のためか砲塔が動き出すが、車体の機動力は完全に奪われていた。
砂煙が爆発地点からゆっくりと立ち昇り、損傷した走行装置から滴るように油が漏れ始めている。
間を置かずして動けなくなっていたフラックパンターにハルダウンへと移行した二両のT-72B3改が稜線から主砲を向けた。
二両の砲口がほぼ同時に火を噴き、弾頭の射出と共に強烈なマズルブラストが周囲の砂を放射状に吹き飛ばす。
一発目の徹甲弾は砲塔側面を直撃した。
T-72B3改の125mm徹甲弾は、フラックパンターの装甲を容易く突き破り、砲塔内部で凄まじいスポール現象を発生させる。
装甲の内側から剥離した金属片が高速で飛散し、砲塔内を蹂躙する。照準装置、砲塔リングなどの重要区画を一瞬で粉砕した。
砲塔内部に居た車長、砲手、装填手も高速で飛散した金属片を体のあちこちに受け意識を手放していた。
二発目の徹甲弾はフラックパンターの、側面装甲を貫き、車内を斜めに走り抜けながら破砕を繰り返す。
貫通経路上のすべてを薙ぎ払い、配線、油圧系統、残存していた機材をことごとく切断・破壊した。
車内で発生した二次的な破片がさらに被害を広げ、戦闘室は完全に機能を失う。
フラックパンターの車体が大きく揺れ、砲塔の隙間から白く薄い煙が噴き出し始めた。
動力を失った砲身は不自然な角度で傾いたまま動きを止め、車両全体が力を失ったように沈み込み、砂の上で沈黙した。
装填を終えた第01戦車分隊は、再び岩陰から砲塔を覗かせる。
フラックパンターは完全に沈黙し、動き出す様子はない。小隊長は念のためにもう1発撃っておこうか、と考えているとフラックパンターの車体前方左側のハッチが開いた。
色々調べてたら、めっちゃ時間が掛かってしまいました。