Black Archive 作:アストラ連合学園中央生徒会
方面統括区から増強中隊が出撃した直後━━
アビドス高等学校、対策委員会の部室に、乾いた風が砂を運んでいた。
カーテンがわずかに揺れ、床に落ちた細やかな砂粒が光を反射する中、部室の扉が開けられた。
「みんな、お待たせー」
“お待たせ”
部室に入ってきたのは、間延びした語尾で桃色の髪を靡かせるアビドス対策委員会の委員長、小鳥遊ホシノとシャーレの先生だった。
「ホシノ先輩! 先生! 何かわかりましたか!?」
「まぁまぁ、落ち着いてアヤネちゃん。ちゃんと調べてきたからさ」
入室した2人に詰め寄るのは、アビドス対策委員会の書記およびオペレーター担当の奥空アヤネ。
「どうだった?」
落ち着いた声色で問いかけるのは銀色のセミロングでまとめられた髪、水色の瞳に左右で瞳孔の色が違うオッドアイを持つ行動班長、砂狼シロコ。
そのオッドアイは真っ直ぐとホシノを見つめていた。
「先生の権限を使って、連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスできた」
「あのネットワークに……。先生は、そんな権限までお持ちなのですね……」
「うへ〜でも、バレたら始末書だよ〜?」
「ええっ!? だ、大丈夫なんでしょうか……」
アヤネは気遣わしげに先生を見上げた。そんなアヤネを見た先生はおどけるようにサムズアップし、軽い口調で対策委員会の面々に伝えた。
“バレなきゃオッケー”
あまりにもあっけらかんとした態度に一同は、困惑を見せたが委員長であるホシノが雰囲気を戻すように続けた。
「通信が途絶える直前のセリカちゃんの携帯の場所、ここだったよー」
「ここは……砂漠化が進んで破棄された市街地の方ですね?」
ホシノが指した座標を見つめ、記憶と照らし合わせるように発言したのはベージュのロングヘアを左側だけシニヨンでまとめた一般委員の十六夜ノノミ。
「住民はいない、廃墟になったエリア……。
ヘルメット団が集まってる場所だね。でも、よくこんな場所に集まれるね」
「こんな場所……? でも、ヘルメット団ならカタカタヘルメット団の仕業でしょうか」
シロコはホシノが指した座標から、少し離れた座標に目を向けた。アヤネは理解できず、ただ状況証拠的にカタカタヘルメット団の名前を出した。
「なるほどねー。セリカちゃんを拉致して、アジトに連れていこうとしてるってことかー」
「学校を襲うくらいじゃ足りなくて、人質で脅迫しようってことかな。でもここは━━」
「考えていても仕方ありません! 急いでセリカちゃんを助けに行きましょう!」
何かを言おうとするシロコだが、ホシノと目が合い言葉を切った。
「━━うん、もちろん」
「よっしゃー、そんじゃ行ってみよーか!」
“出発!”
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アビドス郊外を走る小型トラック、荷台には幌がかけられているが見るからに古く、破れている箇所が散見される。
小型トラックの後方にも同じようなトラックが2台続き、合計で3台が車列をなしていた。
最後尾を走る小型トラックの荷台には、1人の少女が檻に入れられ眠っていた。長い黒髪をツインテールにまとめたアビドス対策委員会の会計担当、黒見セリカだ。
「おーい! 誰か聞こえないのか! 応答しろっ!」
「やっぱランデブーポイントで待ってた方が良かったんじゃねーの?」
運転席に座るカタカタヘルメット団の団員が無線機に向かって怒鳴り付けるが、無線機から返ってくるのはホワイトノイズばかり。
助手席の団員が怒鳴り声に対し、鬱陶しそうに返答する。
彼女たちはフラックパンターと共にバイト帰りのセリカを襲撃し、拉致することに成功した。
発見のリスクを下げるためにフラックパンターと別れて移動し、ランデブーポイントにてフラックパンターと再合流する予定であった。
しかしランデブーポイントに到着してもフラックパンターは現れず、本拠地の仲間に連絡したくても小型トラックに搭載された無線機では、本拠地まで通信が届かない。
仕方なくフラックパンターの走行ルートに向かって走り出したところだった。
「う、うぅ……。はっ! こ、ここは!? うぐ、頭が……」
目を覚ましたセリカは歪む視界と酷い頭痛に襲われ、頭を抑える。
「ここは、トラックの荷台? 檻まで準備してるなんて、ヘルメット団は私をどこに連れて行くつもりなの……。
破れてる、ここから外が見えるかな……」
頭痛がおさまった彼女は檻の隙間から破れた幌に手を伸ばし、少し捲ってみた。しかし、外の景色は砂漠が続くだけで位置を知れる目立った目印は無かった。
「砂漠……本当にどこまで連れて行くの……? これじゃ脱出できてもどうやって帰れば……。
どうしよう、みんな心配してるだろうな……」
ただ1人荷台に置かれている状況が、彼女の心に孤独を植え付けていく。
「もしこのまま砂漠に捨てられちゃったら……みんなは街を去ったと思っちゃうのかな……裏切ったって思われるかな……。
誤解されたまま、私は消えちゃうのかな……う、うぅ……」
その時、運転席から荷台を覗くための後部窓が開きフルフェイスのヘルメットが覗き込む。
「なんだ? お嬢ちゃん、泣いてるのか?」
「う、うわぁ! な、何よ! 泣いてなんか、いないわよ!」
後部窓から見えたヘルメットに驚いたセリカだったが、相手が自分を攫ったヘルメット団と理解すると、目元の涙を袖で強引に拭き虚勢を張った。
「アンタなんてすぐにボコボコにしてやるわ!」
「威勢がいいな、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんには元気でいてもらわないとねぇ」
「何を言ってるの、私をどうするつもり!?」
「いい反応だよ、お嬢ちゃん。私も暇だからさ、少しお喋りしようか」
「どういう━━」
「おい! あまりベラベラ喋るな、人質だぞ」
「お堅いねぇ。ま、いいか、お喋りは無しだ。大人しくしてな、お嬢ちゃん」
セリカの言葉を遮り運転手の団員が鋭く声を出すが、助手席の団員は意に介さぬような対応をしつつも指示に従った。
団員が後部窓を閉めると同時に爆発音と共に車両が大きく揺れる。トラックはそのまま横転しセリカを収めた檻は幌を突き破り、地面に激突した。
「う、うわぁぁぁぁ!」
簡素な檻は衝撃で大きくひしゃげ、中にいたセリカも外に投げ出される。
「な、なに!? 爆発!?」
地面に投げ出されたセリカだったが、幸いにも砂漠の砂がクッションとなり大きな怪我を負うことは無かった。
そんなセリカの目の前に1機のドローンが接近してくる。
『セリカちゃん発見!』
「あ、アヤネちゃん!?」
ドローンから聞こえるアヤネの声に思わず涙ぐむセリカ。
「ん、こっちも確認した、半泣きのセリカ発見!」
「!? な、泣いてなんか……!」
再び目元の涙を袖で乱雑に拭き取った。
「泣かないでください、セリカちゃん! 私たちがすぐに助けて差し上げますから!」
“良かった、良かった。安心したよ”
「せ、先生まで!? どうやってここまで来たの!?」
“ちょっとした魔法を、ね?”
「ふ、ふざけないでよ! 意味わかんない!」
「うへ、元気そうじゃーん? 無事確保完了ー。でも、油断は禁物だよー?
人質を乗せた車両が破壊されたって知ったら、敵さん怒り狂って襲ってくるよー」
『前方のカタカタヘルメット団が戻ってきます、少数ですが気をつけてください!』
前方を走っていた2両の小型トラックが爆発を聞きつけ、Uターンして戻ってきていた。それぞれのトラックは荷台6人、運転席側2人の計8人。合わせて16人が向かって来ていた。
「たったこれだけで奴らに勝てるのか!?」
「やるしかないんだよ! 連絡が繋がらねぇんだから!」
「ちくしょう……」
「最悪、あいつらを拾って撤収……出来る、かな?」
もっと人数が多い時に校舎を襲撃した時も上手くいかなかったというのに、それよりも少ない人数で対策委員会に挑まなくてはならない。
「合流時間はとっくに過ぎてるんだぞ! 時間を稼げ、増援が来るはずだ!」
彼女たちは口々に文句を言いつつ、仲間が来ることに望みを賭けて戦闘準備を整える。
「そっちが来ないなら、こっちから行くよー」
「くそ! 撃て、撃て!」
「ちょこまかと、うぐぅ」
距離を保ち、銃撃を加えようとしていた団員たちに盾を構えたホシノが飛び出して行く。その動きは非常に速く団員たちでは狙いがつけられない。
素早い動きで団員に近付くと至近距離から散弾を浴びせ、吹き飛ばす。また別の団員へ近付くと、その大きな盾で殴打した。
「ほらほら、こっちだよー」
ホシノが飛び出した事により、団員たちの注意が彼女に集中する。その隙にシロコは側面に周り、遮蔽に守られていない胴部へ射撃を浴びせる。
「全弾発射〜!」
団員たちは慌てて応射や別の遮蔽物へ移動しようとするが、ノノミの持つガトリングガンから豪雨のような弾丸が放たれ、頭を上げることすら出来なくなる。
セリカもシロコの後に続き、遮蔽物から身動きができない団員たちの側面をスコープ付きの小銃で的確に無力化していく。
カタカタヘルメット団の思惑とは裏腹に比較的短期間で決着がついた。
そもそも人数差を活かした飽和攻撃で押し、相手の補給をすり潰す戦術を取っていたカタカタヘルメット団が少人数で、対策委員会とぶつかり、勝てる見込みは薄かった。
ましてや、シャーレの先生到来により、弾薬などの補給品を気にする必要のなくなった対策委員会に対して、規律の低いヘルメット団では遅滞戦闘という高度な作戦は不可能だった。
「うーん? おかしいなー、もっといっぱい来ると思ったのに。どう? アヤネちゃん」
『えーっと、周囲にカタカタヘルメット団の兵力は、確認できません』
“ラッキーって事かな?”
「そんなに簡単なことじゃないかなー?」
ホシノは周囲を見渡し、敵の増援の気配がないことを確認しつつ、気絶したフリをするヘルメット団の団員に近付く。
団員はぴくりと指を動かしたが、倒れたフリを続けた。
彼女の愛銃であるEye of Horusを傾けローディングポートに1発ずつ、ゆっくりと見せつけるようにショットシェルを装填する。
「でも、親切な“誰か”が教えてくれたりー?」
コッキングハンドルを軽く引き、エジェクションポートから指先でショットシェルに触れる。
「わ、わかった! わかったから、撃つな! アンタの散弾は痛過ぎる……」
「親切な人が居てくれて、おじさん嬉しいよー」
じわじわと掛けられる圧力に負けた団員は、気絶したフリをやめて両手を上げた。
「ん、さすがホシノ先輩。私なら撃ってた」
すかさず背後に回り込み、小銃を突き付けるシロコ。
「ふふ、大丈夫ですよ〜? 正直にぜ〜んぶお話ししてくれたら、痛いことは何もありませんからね」
「ぐ、ぬぬ……。はぁー、そこの黒髪ツインテを拉致った後、念の為に二手に別れた。少し前に合流するはずだった仲間が来ないから、迎えに行ってた」
これでいいか? と言わんばかりにホシノの顔を見る団員。しかし、ホシノは首を縦には振らなかった。
「それじゃぁ、足りないなー」
ホシノの視線が団員の背後にいるシロコに向けられる。シロコは無言でセレクターを動かす、僅かなクリック音だというのに団員には酷く大きく聞こえた。
「まてまてまてっ! 合流するはずの仲間はフラックパンターだ! この位置から向こう側へ真っ直ぐ進めば、仲間の移動経路と重なる予定だったんだ! 本当だっ!」
必死に身振り手振りを使って砂漠の道を指差す団員。
『少々お待ちください、彼女の言った座標付近をスキャンしてみます。
……確認出来ました! 確かに熱源を検知しましたが、動きがありません』
「待ち伏せ!?」
『いえ……見晴らしのいい場所で停まっています。どういうことでしょう……』
団員の証言を元にアヤネが素早く該当地域をスキャニングした。しかし、結果は思いもしていない事だった。
「言っとくが、私も知らないぞ。何度も連絡したのに繋がらなかったんだ」
「そっかー、ありがとね。助かったよー」
「なら、解放して━━」
彼女が言い終わる前に背後に立っていたシロコが銃床で首筋を叩き、一瞬で気絶させた。
「しっかりと狙った、痛くない」
“なら、いい……のかな?”
「セリカちゃんは確保しましたけど、どうしましょうか?」
“うーん……確認しに行った方がいいじゃないかな”
「私もそう思うなー、セリカちゃんを襲った戦車が野放しになってるのは、良くないからねー」
『そうですね。セリカちゃんは大丈夫?』
“無理そうなら、私が背負って行こうか?”
「な、何言ってんの!? この変態教師! 私は大丈夫だから!」
一同はセリカの身を案じつつも、団員の言ったフラックパンターを確認しに行く事にした。
「セリカ、無理しないで、私が背負って行く。いいトレーニングになる」
「だから、大丈夫だってば!?」