Black Archive   作:アストラ連合学園中央生徒会

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主力戦車


7話

 

 

 

先生を含めた対策委員会は、カタカタヘルメット団の使用していた小型トラックを拝借し、移動していた。

 

 

「うへー、ごめんね、ノノミちゃん。運転、任せっきりにしちゃってさー」

 

「いえいえ、気にしないでください。これくらい、大したことありませんよ〜」

 

 

 運転するノノミが朗らかに言うが、開きっぱなしの後部窓からシロコが声を出した。

 

 

「ん、ホシノ先輩じゃ、脚が届かない。ノノミが運転するのは正しい」

 

「んもー、シロコちゃんは手厳しいねぇ。おじさんはね、アクセルとブレーキを踏み替えるだけでも腰が痛くなっちゃうの。だからこれでいいんだよー、うん」

 

「ふふっ、シロコちゃんも、そんな風に言わないであげてください。ホシノ先輩は、助手席でみんなを見守ってくれるだけで十分助かってますから〜」

 

 

 一見、辛辣な言葉と嗜めるような言葉に聞こえるが、その声色はどこか楽しげで3人の仲の良さを表していた。

 

 先生も談笑に混じりつつ和気藹々とした雰囲気だったが、進行方向正面に何かが見えると一同は談笑をやめた。

 

 

『——先生、皆さん! 正面に見えているものが、先ほど探知した熱源で間違いありません。警戒を!』

 

「ちょっと、そこの岩陰……今、何か光らなかった!?」

 

「んー……見た感じ、もう動いてなさそうだねぇ。よし、まずはあの岩陰から調べてみよっか」

 

 

 小型トラックを岩陰近くに停め、全員が下車して捜索するが、発見物はすぐに見つかった。それは鈍く光を反射した穴の空いた金属製のカップだ。

 

 

“なんだろう、お鍋の蓋?”

 

『なんでしょう?』

 

「これ……」

 

『シロコ先輩、これが何か分かるんですか?』

 

 

 シロコが金属製のカップを持ち上げると、腕が僅かに力む。見た目よりも質量のある物体。

 

 

「ん、やっぱり。これはスタブ」

 

“す、スタブ……?”

 

「うん、スタブ」

 

 

 先生やセリカ、アヤネは、始終はてな顔だが、これは無理からぬ事だった。

 

 

「これは、薬莢の根本(スタブケース)だよー。戦車の砲弾を撃った後に出る空薬莢みたいなものかな」

 

“なるほど……。でも、どうしてそのスタブがここに?”

 

「ん、スタブだけじゃない。砂に履帯の跡が残ってる、アストラの戦車だと思う」

 

“アストラ……”

 

 

 先生は顎に手を伸ばし、視線を宙に飛ばした。キヴォトスへ来て早々に起きたシャーレ奪還作戦を頭に浮かべた。

 

 不良が操っていた戦車を見事な連携で攻撃したヘリコプターと装甲車、それらに乗っていたのがアストラの生徒たちだったなー、と思い出していた。

 

 

「もう撃破されてると思う」

 

「ふ、ふーん……。あいつらがもうやっつけたなら、別にいいんだけどさ。

 

……まあ、わざわざ私たちが手を下す手間が省けたってことよね!」

 

『セリカちゃん、そう慌てないで……。

 

ですが、本当にヘルメット団の戦車が撃破されたのか、まずは残骸を確認しておいた方が良さそうですね。

 

先生、ホシノ先輩、熱源の方も調べてみてもらえますか?』

 

“そうだね、確認してみようか”

 

 

 対策委員会と先生一同は再び小型トラックに乗り込み、アヤネが確認した熱源へと移動する。

 

 近づくにつれて遠目では分かり辛かった輪郭をはっきりとさせる。

 

 不自然な方向で向きを止めた砲塔、千切れて地面に落ちる履帯。大小様々な部品が散らばり、垂れたオイルが砂を濡らしていた。

 

 調べるまでもなく、完全に破壊されていることが見てとれた。

 

 

「確認してみましょうか〜」

 

「動かないのは確実ね。ふん、いい気味よ!」

 

「うへー、こりゃ毎度ながら堅実な戦い方だよー」

 

“そうなの?”

 

「見て、先生」

 

 

 ホシノはフラックパンターの被弾箇所を指で指し示しながら答える。

 

 

「まずは履帯、分かりやすく言うと足回りだよー、最初に撃たれたのはここ。次はほぼ同時じゃないかな、砲塔と車体側面に貫通痕があるよねー。

 

1発でも致命的なダメージにみえるから、火力や装甲に差があるのに機動力を奪って、しっかりと仕留めに行ったってことー」

 

“なるほど……。ホシノはアストラの生徒たちについて詳しいんだね”

 

「おじさんがアビドスに来る前からあったからねー」

 

 

 ホシノが先生に解説する傍らで、シロコら他の対策委員会の面々は散らばった部品や車体を調べていた。

 

 

「アヤネ、これ」

 

『これは、シリアルナンバーが消されていますね……! シロコ先輩、いくつか持って帰って来てもらえませんか? 調べてみますので』

 

「ん、わかった」

 

「うぇ、中には誰も居ないわよ」

 

 

 車体前方左側の開いたハッチに体を突っ込んだセリカは、車内から漂う塗装が熱で焦げた、甘いような刺激臭が鼻をついた。

 

 それに加えて、工場の溶断現場のように溶かした鉄を鼻の奥で感じる乾いた臭いに鼻を歪め、うめき声が漏れた。

 

 

「先生は、アストラの生徒たちについて知ってるー?」

 

“トリニティの治安維持に協力してるって事ぐらいかな……ごめんね、私はアストラの生徒と直接会った事はないんだ”

 

「ならL.R.N.社は、もっと知らないかなー」

 

“L.R.N.社? 聞いたことないなぁ”

 

「……そっか、なら大丈夫だよー」

 

 

 何か含みがありそうだったが、ホシノが話を切った為、先生は追求せず、ホシノが自分から言うのを待つ事にした。

 

 

「ホシノ先輩、先生。履帯の跡が続いてる、追いかける?」

 

「あの子たちが何をしてるのかも調べてみた方が良さそうだねー。ノノミちゃん、またお願いするよー」

 

「はい、お任せください〜」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

同時刻

 

 

 ディーゼルエンジンの低く重い唸りを轟かせ、グストフ632戦車小隊が進み、砂地からアスファルトに乗り入れようとしていた。

 

 

「グストフ632からリトヴィノフ63、応答せよ」

 

『こちらリトヴィノフ63』

 

「グリッドE-10に到達、このまま南下するが、道路上に廃棄車両が多く、見通しが悪い。敵の機甲部隊の位置を教えてくれ」

 

 

 履帯が砂を離れると、砂を掻く鈍い音が硬い地面と擦れて起こる乾いた金属音に変わった。

 

 薄い砂を噛み潰す音が混ざり、車重により柔らかい砂地に沈んでいた車体の沈みが抜け、持ち上がる。

 

 サスペンションが硬い地面を捉え、車体の揺れが短く、硬くなった。

 

 

『了解。敵の機甲部隊はE-20付近まで進軍、中隊のBMPはE-16まで後退、歩兵部隊はE-17だ。

 

予定通り、E-15付近で合流し攻勢に移行する。こちらは最後尾を叩き退路を断つ、タイミングはそちらに任せる』

 

 

 道路上に残った砂を弾きながら、グストフ632戦車小隊は主要道路へ本格的に乗り上げていく。

 

 

「グストフ632、了解」

 

 

 小隊長は無線機から手を離すと、ペリスコープを深く覗き込む。障害物となる廃棄車両を選別するためだ。

 

 小型の朽ちた車両であれば戦車の重量を持ってして踏み潰せばいいが、バスやトラックの大きさになると先に砲口が当たってしまう。

 

 だが、バスやトラックの大きさであれば遮蔽物としての防御力は期待できなくとも、敵の視界を塞ぐ壁にはなる。

 

 

「01から各車へ、目標地点に到達、初撃は02、03だ。前に出ている車両を狙え」

 

『02、了解。左側、クルセイダーを射撃する』

 

『03、了解。右側、中央よりのクルセイダーを射撃する』

 

 

 それぞれの戦車が廃棄車両の隙間や割れた窓から照準をつけ、簡易的なハルダウンを作り指示を待った。

 

 小隊長はペリスコープを覗きながら、無線機のプレストークボタンを押し、落ち着いた声色で告げた。

 

 

「撃て」

 

 

 小隊長の合図により、ほぼ同時に射撃された125mm徹甲弾(APFSDS)は強烈なマズルブラストを伴い道路上に積もった砂を宙に舞い上げる。

 

 車内には鈍い衝撃が突き抜け、空中を伝わったマズルブラストが車体を叩いた。

 

 車体全体が強く押されたかのような振動が3人の体を揺らし、天井と機器類から細かな埃が揺れ落ちる。

 

 第02分隊の徹甲弾は、射出され数メートル程度で弾頭から装弾筒が分離した。

 

 分離した装弾筒は3片に分かれ、そのうちの一つが廃棄車両のドアに当たる。

 

 自動車の薄いドアでは装弾筒を止められず、反対側のドアまで貫通し、その先にある車両のエンジンブロックに突き刺さり、ようやく動きを止めた。

 

 一方、真っ直ぐに飛翔する弾頭はクルセイダーの傾斜した砲塔側面に着弾する。

 

 着弾点に短い閃光が走った。傾斜した装甲が弾頭の貫通するまでの距離である視線厚を増やしたが、弾頭は細く長い。

 

 細い弾頭は傾斜によって滑りにくく、砲塔側面の鋼を押し退けるように貫通した。

 

 貫通と同時に砲塔内部でスポール現象が起こり、内側の剥離によってできた金属片が砲塔リングや重要区画に飛散し破壊する。

 

 飛散した金属片は戦闘室にいる搭乗員にも殺到し、車長、砲手、装填手を即座に行動不能にした。

 

 尚も弾頭の勢いは衰えず、クルセイダーの装甲が薄い事もあり、内側から外側へ再び貫通し、後続のプーマにも命中した。

 

 弾頭は後続のプーマの左側の第1輪目の車軸懸架装置を破壊する。短くなった弾頭は、そのまま瓦礫を割りながら突き刺さった。

 

 第03分隊の射撃した徹甲弾も同様にクルセイダーの砲塔に着弾する。

 

 だが、第02分隊とは違い砲塔正面から貫通し、砲塔内に保管してあった予備弾に金属片が当たる。

 

 金属片が40mm徹甲弾の薬莢を突き破り、高温に曝された装薬に引火した。

 

 砲塔の隙間から閃光が走り、火が噴き出る。キュポーラや車体前部左側のハッチが圧力で開き、慌てて搭乗員たちが飛び出す。

 

 

「あち! あち!」

 

「ゲホッ、ゲホッ!」

 

「い、痛い……」

 

 

 さらに40mm榴弾にも引火したのか、クルセイダーの内部で炸裂音が弾け、キュポーラから激しい炎と黒煙が立ち昇る。

 

 ヘルメット団の団員たちは、押し続けていると思っていた敵から強烈な射撃が飛んできた事に酷く動揺していた。

 

 

「どうなってる! 敵はIFVだけじゃないのか!?」

 

「どう見ても主力戦車級だぞ!」

 

『さ、下がれ! 距離を取れ! 距離を取って撃ちまくれ! 近づかせるな!』

 

 

 車列の中央に位置する最後のクルセイダー。そのキュポーラから上半身を乗り出し、拡声器を使って声を荒げている赤いヘルメットの隊長。

 

 

『とにかく撃ちまくれ! 撃ちまくって時間を稼げ! 後ろの奴はさっさと下がれ!』

 

「りょ、了解っ!」

 

 

 前方に展開した4両のプーマが50mm戦車砲を廃棄車両目掛け、次々と発射する。

 

 廃棄車両に着弾し爆発する50mm榴弾、廃棄車両を貫通していく50mm徹甲弾など、車長が手に取れる位置にあった砲弾を確認する暇なく装填していた。

 

 プーマの砲塔内は狭く、装填手用の座席はない。そのため車長は装填手を兼任していた。

 

 しかし車長が装填に集中すると周囲への警戒、目標の選別が難しくなるのは弱点であった。

 

 雑多に放たれていた50mm徹甲弾の一つが廃棄車両を貫通し、何かを爆発させた。

 

 

『射撃やめ! 止めろ!』

 

 

 爆発と共に廃棄車両のものではない物体が弾け飛ぶのを見た赤いヘルメットの隊長は、射撃を止めるために声を張り上げる。

 

 前方には榴弾により爆煙と砂埃が舞い視界を酷く悪くしていた。

 

 

『なにチンタラしてるんだっ! さっさと下がれ!』

 

「は、はいぃ〜!」

 

 

 チラリと後方を確認した赤いヘルメットの隊長だったが、未だに後列の車両が動いていない事に声を荒げた。

 

 

「これ、動かないんだけど!」

 

「そんな筈ねぇだろ!」

 

 

 プーマには後方への移動を迅速にするための後方操縦席が存在し、前進と同じように操縦することができた。

 

 しかし、そこに座る団員が操作しようとしても上手く動かず、赤いヘルメットの隊長に怒鳴られる羽目になっていた。

 

 

「ホントだって、動かないんだよ!」

 

「んなこたぁ……待て。おい、お前! まさか手を離してないのか!?」

 

 

 反論しようとした車長は、咄嗟に前方操縦手へ声をかけた。

 

 

「え、うん。ハンドル握ってるけど?」

 

「こんのぉ、バカァ! ハンドルから手ぇ離せ! ペダルからもだ!」

 

「うぇ! 離した、離したよ!」

 

 

 前後それぞれに変速操作系があるため、両方が操作をすると両方の操作を受け付けてしまい、正しく動かなくなるのだ。

 

 

「よっしゃ、動い━━」

 

 

 後方操縦手がプーマを動かそうとした瞬間、車体を爆発による強烈な揺れが襲った。

 

 それと同時に車内へ高温の金属片と剥離した装甲内面が飛散し、車内の機器を砕きながら突き進む。

 

 

『RPG!』

 

「あっつ、あちち!」

 

「一体なにが……!」

 

「イテぇ!」

 

 

 プーマに搭乗していた4人は、砲塔上面のキュポーラや前後に設置された側面ハッチから飛び出すように逃げ出した。

 

 

『退路が……、いや、まだだ! お前は後方の警戒をしろ! くそっ、徒歩の奴らは何してる!』

 

 

 一連の出来事を見ていた赤いヘルメットの隊長は、後退するための退路が破壊されたプーマによって塞がれた事に動揺する。

 

 しかし、前方の敵も撃ちまくれば勝てる筈と自らに言い聞かせ、後列に居るもう1両のプーマに後方警戒を言いつけ前を向く。

 

 風が爆煙と砂埃を薄めていくのをじっと見つめていたが、粉塵の向こうから閃光が見えた。

 

 

『なん━━』

 

 

 彼女が鋭い炸裂音を認識するより前に、下から突き上げるような強烈な爆風を受ける。

 

 キュポーラから投げ出され、僅かに宙を舞い、地面に激突する。

 

 

「ぐっ……。一体、何が……」

 

 

 全身を蝕む痛みと酷い耳鳴りを堪えながら周囲を見回すと、爆発炎上するクルセイダーが視界に飛び込む。

 

 炎上するクルセイダーの更に前方、先ほど砲弾を撃ち込んだ先、幾分か小さくなった廃棄車両を踏み潰しながら3両の戦車が姿を現した。

 

 先頭の戦車、その車体に張り付いている大量の箱状の物体。

 

 その一部が無くなり装甲の表面が抉られたように見えたが、戦車の動きにはダメージが見えなかった。

 

 

 

 

 




ネームドを会話させるの難しい。
本当にこのキャラはこの喋り方か?と再確認しまくります。
ヘルメット団、喋らせてる方が楽しいよ!
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