Black Archive 作:アストラ連合学園中央生徒会
痛む身体を起こし、即座に瓦礫の影に身を隠した赤いヘルメットの隊長。
彼女は、砲塔側面に描かれた交差する2本の旗と先端に火を灯す燭台を見て即座に悪態をついた。
「くそくそくそ! やっぱりアストラの奴らか!」
「た、隊長! どうしましょう……」
「こうなりゃヤケだ! 何がなんでも奴らに一泡吹かせろ!」
「で、でもぉ……この装甲車、借り物ですよね……?」
プーマのキュポーラから身を乗り出した団員が弱々しく反論する。
「あん? 文句あるのか?」
「ヒェ! な、なんでもないです!」
しかし、癇癪を起こした隊長に強く睨まれ、縮こまるように砲塔の中に潜り込んだ。
弱々しく反論した団員の乗るプーマが砲塔を動かし、アストラの戦車に狙いをつける。
だが、耳鳴りからも回復しつつあった隊長の耳に大きな扉を叩くような音が聞こえた。
「IFVの攻撃が来るぞ!」
拡声器のない自分の声に団員たちが反応できるかは分からなかったが、できる事はそれぐらいだろうと声を張り上げた。
次に隊長の耳に入ってきた音は燃焼音だった。ガスが細い管から強く出続けるような音だ。
その音はどんどん太く、高くなり、彼女の頭上を飛翔する。
「あれは……ミサイル!」
微かに見えた筒状の弾頭とその後方に伸びる安定翼、対戦車ミサイルだ。
対戦車ミサイルは僅かに進路を曲げ、先ほど反論した団員の乗るプーマの側面装甲に着弾した。
一瞬の閃光と共にプーマは衝突の衝撃、爆発の圧力で着弾側のタイヤが浮き上がる。
装甲を貫いたメタルジェットと内面の剥離片が予備弾の薬莢を突き破り、装薬が熱で誘爆し車内で爆ぜる。
「うぅ!」
近くにいた隊長にも爆風と熱が届き呻き声を上げた。
「痛い、頭ぶつけた!」
「あんなの、無理だよぉ〜」
車内の爆発圧力で開いたハッチとキュポーラから団員たちが這う這うの体で逃げ出す。ヘルメット団は隊長からの指揮が途切れ、統率が大きく乱れていた。
「ヤバいぞ……」
「逃げるか?」
「取り敢えず後退だ、アタシらが退路を完全に塞いじゃ意味がない」
後列のプーマが破壊されたプーマを避けるように後退を開始した時、噴進音とともに成形炸薬弾頭が飛来する。
弾頭は側面下部の車軸懸架装置に着弾し、爆発の圧力がプーマの車体を僅かに持ち上げた。
「くっそ、やられた! 脱出しろ!」
幸い足回りへの被弾だったために内部で誘爆は起こらず、搭乗員はハッチを開けて外に飛び出した。
『01から02、03へ。破壊された車両を遮蔽にし前進。機甲部隊はグストフ632に任せ、車両から出てきた奴らを叩け』
「02、了解」
「03、了解」
地面に着地し、走りだそうとした団員の頭部へ銃弾が撃ち込まれ、力無く地面に倒れ込んだ。
第01小隊02、03分隊は車両から脱出した団員を無力化し、樹脂製ハンドカフで素早く縛り上げた。
前列は戦車に気を取られ後方まで気が回らない、後方を警戒していた後列のプーマは迅速に処理され、後方への歩兵の浸透を許してしまった。
ヘルメット団から見れば、皮肉にも仕掛けた浸透攻撃を同じく浸透攻撃でやり返されるようにも見えた。
銃声は50mm戦車砲の射撃音に掻き消され、浸透に気付けない。
再びプーマの50mm徹甲弾が砲声とともに放たれ、T-72B3改の正面装甲に直撃した。
しかし、非常に甲高い金属音を響かせながら50mm徹甲弾は斜め後方に弾かれる。
弾かれた徹甲弾は廃ビルに突き刺さり、新しい瓦礫を生み出した。
プーマの攻撃に対して第03戦車分隊が即座に砲塔を回転させ、鋭い炸裂音と共に125mm徹甲弾を放つ。
125mm徹甲弾はプーマの正面装甲に直撃すると、まるで抵抗がないかのように貫通し内部を破壊し尽くす。
弾頭は尚も留まらず、プーマの後方から装甲に孔を開けながら飛び出し瓦礫に突き刺さり止まった。
プーマは弾頭が飛び出すと同時に予備弾の薬莢に金属片が直撃し、加熱された装薬が内部で爆発する。
内部での爆発圧力でハッチが開き、炎と共に搭乗員が這い出してくる。
「あっつ、いって……」
「アザになっちゃうよ!」
第01小隊02、03分隊の面々は後列のプーマ2両の搭乗員全員を縛り終えると素早く前進して行く。
ヘルメット団の隊長が乗っていたクルセイダーまで近付いて来た第02分隊の分隊長は、ハンドサインでクルセイダーの搭乗員を探すように分隊員へ指示をする。
「うおおぉらぁぁぁ!!」
「っ!」
しかし、クルセイダーの死角を確認しようとした分隊長よりも速く、死角からヘルメット団の隊長が飛び出し小銃の銃口とハンドガードに掴み掛かった。
「お前だけでも、ぶっ倒してやる!」
「口だけは達者だな」
「お仲間だってこの距離じゃ撃てないぞ?」
分隊長は、ヘルメット団隊長の腕を振り払おうとする。だが、思いの外力が強く振りほどくことができない。
「馬鹿力め」
「伊達に隊長やってねぇよ!」
第02分隊員たちは周囲への警戒要員と分隊長への掩護要員を分け、一時的に前進を止めた。
第03分隊の分隊長は過剰な掩護は不要と判断し、前進を続けたが、そこには確かな信頼があった。
分隊長は腕の力を僅かに緩め、ヘルメット団隊長に半歩近付く。突然緩められた力に思わずバランスを崩しそうになるヘルメット団隊長。
「ぐ、うぅ……」
そんな彼女の脇腹に強烈な膝蹴りが叩き込まれる。半歩近付いた分隊長が隙を作り攻勢に出たのだ。
「驚いた、根性あるな」
「へ、へへ……隊長だから、な」
分隊長はゴーグルから覗く瞳を大きくさせ、驚いていた。なにせ膝蹴りを叩き込むと同時に小銃に力を込め、振り払おうとしたが出来なかったからだ。
大抵は痛みと驚きで力が抜けるのだが、ヘルメット団隊長は不意に受けた膝蹴りを根性で堪え、力を緩めなかったのだ。
「分かるぞ、私も隊長だからな」
「ケッ! 何が━━!」
ヘルメット団隊長が言い終わる前に分隊長は、小銃から手を離し、目にも留まらぬ速さで腰のホルスターから拳銃を引き抜き腹部に向けて連射した。
「ぐ、くそぉ……」
「その根性は見事なものだ。だが、大人しくしていろ」
撃たれた腹部を押さえ、蹲るヘルメット団隊長に拳銃を構えたまま近付き、地面に落ちた小銃を分隊員の方へ蹴る。
分隊員は、小銃を拾い肩に掛けるとヘルメット団隊長に樹脂製ハンドカフをかけ縛り上げた。
「隊長」
「ありがとう。前進を続けてくれ」
「了解」
分隊員から受け取った小銃のマガジンを叩き、ボルトキャリアを引いて排莢し次弾を装填した。
程なくしてヘルメット団隊長が乗っていたクルセイダーの搭乗員を発見し、無力化した上で縛り上げた。
並行して第01、02戦車分隊の射撃によって2両のプーマが破壊された。
これによりヘルメット団の残存機甲戦力は、プーマ1両となった。
不幸中の幸いか、残ったプーマは初撃のクルセイダー撃破時に過貫通した弾頭が車軸懸架装置を破壊し、身動きが取りにくくなっていた車両であった。
しかし、破壊されたクルセイダーの陰から動かなかった事で戦車小隊の射界に入らず、最後まで残っていた。
「降参! 降参だ、撃つな!」
だが、もはや戦意はなく車長がキュポーラから身を乗り出し、必死に両腕を振って投降の意思を示していた。
「01から各車、交戦を一時停止」
第02、03戦車分隊からの応答を聞いたグストフ632戦車小隊、小隊長はペリスコープからプーマの様子を確認しながら中隊への無線を飛ばした。
「グストフ632からリトヴィノフ63。敵に投降の意思があるようだ、どうする?」
『こちらリトヴィノフ63。射撃は一時中止、展開した歩兵部隊に捕縛させる。ただし、攻撃の意思が確認できた場合は貴官の判断で射撃せよ』
「グストフ632、了解」
1両のT-72B3改がプーマを睨む。残りの2両が砲塔を正面に向け、縛られた団員たちに威圧をかけた。
そう時間をかけず、第01小隊02分隊がプーマの元までやってきた。第03分隊は縛り上げた団員たちを一纏めにし、監視している。
「そのままゆっくりと車両から降りろ、手は常に見える位置におけ」
「わ、わかった」
恐る恐るプーマから出てくる4人の団員。車両から降り、地面に足をつけて間も無く縛り上げられ、第03分隊が監視する場所へ移動させた。
「02から01。敵機甲部隊の無力化を確認」
『こちら01、了解。路地側の戦闘は継続中だ、そこの指揮官に投降するように指示させろ』
「02、了解」
路地の方では未だ絶え間なく銃声が響いている。無線機のプレストークボタンから指を離した分隊長は、ゆっくりと隊長に近付く。
「路地に展開した部隊に戦闘停止命令を出せ」
「断ったら?」
「……なるほど」
隊長は、お前の指示には従わない、と言わんばかりに挑発的な視線をぶつけた。
そんな彼女の態度に、分隊長は落ち着いた声で返答した。その直後、唐突に隊長の胸ぐらを掴み強引に立ち上がらせた。
後ろ手で縛られたまま急に引き上げられ、バランスを崩す隊長を意に介さず、互いのヘルメットがぶつかる程引き寄せられる。
ヘルメットのバイザーから分隊長のゴーグル越しに目が合う。意志の強い、覚悟と責任を伴った瞳。
「お前の矜持だけで戦う部下に、最後の命令を出すのもお前の責務だろ。お前は隊長なんだろ」
荒げた声や怒鳴り声ではないと言うのに、隊長には酷く胸に突き刺さった。
率いている人数なら自分の方が確実に多いのに、何故こんなにも違うのか。
「……ポケットに無線機が入ってる、それを使えば他の奴と連絡がとれる」
視線が分隊長の瞳から逸れる。あの瞳を見ていると、自分の矮小さが際立っているように感じてしまう。
分隊長は隊長のポケットを探り、無線機を取り出す。
「これだな、少し待て。……02から01。第2、第3小隊へ交戦の一時停止を、敵指揮官より投降を促します」
『01、了解。少し待て』
「02、了解。待機する」
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旧市街地路地側
路地には雷鳴のように鋭い炸裂音が轟いていた。
125mm戦車砲の鋭い砲声が路地の建物に反響し、雷鳴のように聞こえる。主要道路の方を向けば黒煙が複数、空へと伸びていた。
しかし、路地側から浸透しようとしていた団員たちに、恐ろしい雷鳴を気にする余裕は無かった。
少し前までは敵が後退していくのを追いかけていた筈が、いつの間にか自分たちが後退し、敵が追いかけて来る逆の構図になっていた。
「くっそぉ! 今━━ぎゃ!」
「ばっかオメェ! 無理だっつただろう!」
壁に隠れていようがいまいが関係なしに撃ち込まれる7.62mm弾の弾幕が止まり、体を遮蔽から出した団員に5.45mm弾が正確に撃ち込まれた。
主要道路側から雷鳴がなろうと、機関銃から放たれる7.62mm弾の重く圧のある弾幕を前にすれば些細な事だった。
既に隊長からの指示はなく、呼び掛けにも応えない。団員たちは、やられたからなのか交戦中で忙しいからなのか判断がつかなかった。
「どうする? どんどん押し込まれてるぞ!」
「隊長からの連絡が無いんだって、私もどうすればいいかわからないよ」
「弾も心許なくなって来た、アイツらアタシらの倍以上撃ってるのになんで弾切れにならないんだ?」
「さぁ? 私も知りたいよ」
「おい、起きろ〜」
「……い、痛い……私の鼻ついてる?」
「見えねぇよ。いいから下がるぞ!」
今し方、撃たれた団員を揺さぶり起こし、更に後退していく団員たち。
最後尾を走る団員が違和感に気付いた。
「なぁ、撃ってこないぞ?」
「ホントだ、なんだ?」
その時、団員の1人が持つ無線機に雑音混じりに声が聞こえた。
「隊長かも! はやく隠れて指示を聞こう!」
「はやく、はやく!」
団員たちは急いで瓦礫の側で隠れると無線機の感度を調整し、雑音が少なくなるようにする。
『━━けだ。━━武━━おい━」
「ヘタクソ、貸せ!」
「お、おい!」
雑音が酷く、理解できない単語しか拾えず、苛立った団員が無線機を奪うように取り上げ、慎重に調整ダイアルを回す。
『━い━━繰り返す━。私たちの負けだ。武器を置いて投降しろ、3分間は撃ってこない。武器を置いて通りに並べ、いいか抵抗は考えるな、もう負けたんだ』
団員たちは沈黙したまま、互いを見合う。
「だよなぁ〜!」
「あそこまで撃たれといて勝ってます、は無いと思ってたよ」
「体中が痛い、明日は筋肉痛だぞ、これ」
彼女たちに落胆の色はなかった。むしろ、安堵の感情が優っていた。
何せ進めば進むほどに撃たれ、後退が入れ替わった後は引けば引くほどに撃たれ、ひたすらに撃たれまくった。
「待ってくれてるんだろ? さっさと並ぼうぜ」
「銃は後で返してくれるかな、オキニのシール貼ってんだよね〜」
「あー、あのキモい鳥? 物好きだねぇ、アンタ」
「アレがいいんじゃん、キモカワってやつ?」
既に気が抜けてはいたが、談笑しつつも銃を壁に立て掛け、後頭部で手を組む姿は、あまりにも降伏慣れしていた。
それもその筈、彼女たちはアビドス対策委員会へ幾度となく襲撃を仕掛け、一度の勝利も飾っていない。
何故、隊長がアビドス対策委員会に固執するのかすら知らない。だがそれでも良かった。
彼女たちは、指示通り戦い金さえ貰えればそれでいいと考えていた。
3分が経ち、大人しく待っていた彼女たちが見たのは壁から僅かに身を晒し、銃口を向ける敵の姿だった。
向かいの壁からは何度も苦しめられて来た機関銃手が素早く伏せ撃ちに移行する姿。
「抵抗してないんだから、さっさと来ればいいのに」
そうは言いつつも敵、アストラの生徒が行う戦術機動に目が奪われていた。
壁から僅かに身を晒し銃を構える生徒、小隊長が構えを解く事も視線を逸らすもなくハンドサインを出す。
機関銃手が伏せる壁から別の小銃手が銃口と共に身を晒し、機関銃の射界に入らないように壁際を保ったまま前進した。
小銃手は数歩進むと左肩に当てていたストックを右肩に切り替え、あわせてグリップとハンドガードを握る手の位置を入れ替える。
「おい、今の見たか?」
「うん、めちゃくちゃ滑らかなスイッチングだね……」
続けて小隊長が前進し、そのすぐ後ろにもう1人の小銃手がぴったりと張り付くように追従する。
2人から間を開け、対戦車要員とその補佐員がそれぞれの銃を構えて前進。
機関銃手も立ち上がり、重量のある機関銃を物ともせずに構えたまま前進。
最後尾の機関銃補佐員は機関銃手の歩みに合わせ、後ろを向きながら追従する。
ブレない銃口、乱れない歩調。それぞれが役割を果たす、機械的なまでの機能美。
「7人……?」
「嘘、だろ……」
たった7人が織りなす、最小単位の戦闘グループ。
対する団員たちは13名、約2倍近い戦力差があったにも関わらず一方的に敗北した。
アビドス対策委員会のような圧倒的な個による蹂躙とは違う。真っ当な武力による真っ当な敗北は、彼女たちに衝撃を与えた。
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