Black Archive   作:アストラ連合学園中央生徒会

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時には拳で語り合え


4話

 

 

 通路をさらに奥へと進むと、空気が澱んでいるように感じる。恐らくこの区画はロボット兵も来ないのだろう。

 

 壁面も崩れ落ち、太い配線らしきものが露出している。

 

 やがて、金属製のスライド式の扉が見えた。錆びが浮き、横に制御パネルがある。

 

 パネルに手を翳すと、青白い光が点滅し、扉はスムーズとは言えない渋い動きでゆっくりと開いた。

 

 内部は制御室……だろうか。広めの部屋で、天井が高く、無数のモニターが壁面を覆っている。

 

 青白い光が部屋を照らし、幾つもの椅子や書類の類いが散らかるなか、中央のコンソールに近付く。

 

 モニターには工場の稼働状態らしきものが流れ、別のモニターには地上の廃墟の監視映像が映し出されている。

 

 だが監視モニターの7割近くは暗く何も映っていない。

 

 制御室内にロボット兵がいない事を確認しつつ慎重に周囲を観察する。長年誰も入っていないのか空気は埃っぽく、機械の低音のみが響いている。

 

 一応、稼働しているようなので操作が出来るか試す。

 

 タッチパネルが反応し、モニターにグラフや数値が流れるが、何を指すのかさっぱりわからない。

 

 ロボット兵の製造ラインや、近未来銃の製造数か?

 

 俺はさらに捜索を続ける。部屋の隅に散乱した資料や、壊れた端末を調べる。

 

 

「これは?」

 

 

 鍵のかかっていたキャビネット中にconfidential(極秘)と描かれたファイルを見つけた。

 

 キャビネットの鍵は強く引っ張れば引きちぎれたのだが。

 

 ファイルは特殊なインクでも使っているのか、滲みが酷く読める所が少ない。かろうじて読めた単語は……。

 

 

「無限の軍隊……Divi:Sion計画、計画の見直し、一時凍結、襲撃予測と施設破棄……移転、か」

 

 

 断片的な単語と微かに読める文章的に、無限の軍隊はロボット兵やドローン攻撃機のような機械兵を指しているようだ。

 

 Divi:Sion計画とはそれらを製造を行う制御AIの作製だった訳か。

 

 そして何らかの問題があり、計画は見直しされ、凍結までされた訳だ。

 

 その後、何処かの勢力からの襲撃情報を掴み、AIこそ未完成であったものの、完成していた生産施設を起動し防衛させ、そのまま施設を破棄した……と言った所か。

 

 随分と現実的な出来事だが、スケールがSFみたいだ。存在がオカルトな俺が言うのもなんだが。

 

 突然、警報音が部屋内に鳴り響く。赤いランプが点滅し、モニターに「不正アクセス検知」の文字が表示される。無遠慮に触るのはマズったか?

 

 壁にあったらしい隠し扉が開き、ロボット兵が1体出現する。

 

 しかしその体躯は200センチをゆうに超え、今まで見たロボット兵に比べて明らかに装甲が強化されている。

 

 つまり強化型ってことだな。

 

 そんな強化型だが両手には何も持っておらず、装甲の取り付けられた無骨なマニュピレーター()のみ、だがその拳は硬く握られ大きく振りかぶられる。

 

 

「まあ制御室で銃は使わないよな。こっちは使わせてもらうが」

 

 

 そこまで広い部屋でも無いが距離を取り近未来銃を構える。距離は10メートルも離れていない、狙いを付けずにトリガーを引く。

 

 連続したマズルフラッシュが部屋を照らし、強化型の胸部やバイザーに命中するが、火花が散り装甲が小銃弾を弾き返す。

 

 

「随分と頑丈だな」

 

 

 強化型は動きを止めず、左の拳を振り抜いてくる。

 

 拳の風圧が空気を切り裂くが、俺は右へ身を転がして回避。金属の剛腕が空を切り風圧よっては溜まった埃が舞う。

 

 

「こりゃ破城槌だ」

 

 

 制御室の機器を破壊しないよう、銃を使わず近接攻撃に徹しているらしいが、その拳の威力は脅威だ。

 

 もし直撃したら、KO間違いなしだ。

 

 俺は転がった勢いで立ち上がり、すぐに応射。バイザーを狙って連射。

 

 炸裂音が止まりコッキングボタンが迫り出す。残弾を打ち切ったがバイザーの表面を削っただけで有効なダメージを与えたように見えない。

 

 これでは、ジリ貧だ。

 

 強化型が即座に反撃し、振り抜いた左の拳を裏拳の如く横薙ぎに振るう。俺は屈んでやり過ごし、強化型の脇を抜けて反対側に移動する。

 

 リリースパドルを押してマガジンを捨て素早くリロードする。だがこの装甲の前では近未来銃は厳しい。

 

 強化型が再び接近し、両腕を交互に振り抜いてくる。

 

 左、右、左――連続した鉄拳の嵐が空気を叩き、俺は繰り出される拳に合わせて左右に回避しながらさらに連射。

 

 胸部とバイザーに叩き込むが、動きは鈍らない。咄嗟に出されたジャブが俺の肩をかすめ、体幹を崩されかかる。

 

 

「マズった!」

 

 

 即座に近未来銃から手を離し、グラッチを抜く。狙いもそこそこに3連射。有難いことに2発がバイザーに命中し、僅かに動きが鈍る。

 

 その隙に後方に飛び込み、あちこちをぶつけながらゴロゴロと転がり、立ち上がる。

 

 グラッチはダメージは与えられたようだが、バイザーは破壊されず、ただの軽い損傷に留まるばかり。こいつでも有効打にはならないのか。

 

 またも拳を連続で振り抜いてくる。俺はグラッチを射撃しながら距離を取り、4発を脚部と腕部に叩き込む。

 

 装甲に小さな凹みが生まれるが、止まらない。

 

 右のフックが側頭部に飛んでくる、回避が間に合わず、咄嗟に左腕を側頭部に滑り込ませる。

 

 腕をクッションにしたとしても衝撃は殺せず、足が地面を滑り壁にぶつかる。

 

 

「うお」

 

 

 意識はある、視界も明瞭だ。だが腕に違和感。痺れてるのか。

 

 壁際に追い詰められ、逃げ場が狭くなる。強化型のバイザーが俺を捉える。

 

 

「殴るって言ったのは冗談なんだがな」

 

 

 俺は意を決して、グラッチを床に置き、近未来銃のスリングを外し壁に立て掛けた。

 

 銃弾を物ともしない頑強な肉体を信じ、素手で挑む。CQCなんてゲームや動画で見た事しかないが……。

 

 強化型の振り抜く拳を待ち、タイミングを計って避け、カウンターで右拳をその胸部に叩き込む。

 

 見様見真似のパンチだったが、装甲がへこむ鈍い音が響く。火花が散り、強化型の体がわずかに後退する。

 

 

「効くのか!」

 

 

 200センチ強の巨体に俺の喧嘩パンチが効いてるのは謎だが今更だ。両腕を顔の高さぐらいまで上げ、防御できるようにしておく。

 

 強化型が反撃の拳を振るう、腕で頭をガードして衝撃に備える。ガードごと殴られるが、しっかりと踏ん張り今度は地面を滑ることはない。

 

 左手でジャブを打ち、僅かに止まった隙にバイザーへ右ストレートを叩きつける。硬質な物同士がぶつかる衝撃音が部屋に響き、バイザーにヒビが入る。

 

 強化型がよろめき、右手で俺を掴もうとする。俺は腕を払い、肘打ちを加えて離脱。

 

 息を整え再び接近し、左フック、右ストレートでバイザーを狙らう。

 

 残念ながらどちらもガードされてまうが腕の装甲が凹み、火花が連続して散る。強化型の動きが遅くなり、拳の軌道が予測しやすくなる。

 

 しかしここで油断したためにガードから強引に繰り出されたストレートに反応出来ずにモロにくらってしまった。

 

 思わずたたらを踏み、歪む視界に頭を振って意識を明瞭にする。

 

 

「今のは効いたぞ、チャンプ」

 

 

 ガードから強引に出した万全では無いストレートでこの威力、間違いなく次は意識を持っていかれるな。

 

 とは言え奴もボロボロ、此方もワンパン圏内、先に有効打を当てた方が勝者だ。

 

 チャンプが距離を縮めて来る。俺も近付きながらガードを構える。

 

 先に動いたのはチャンプだ。俺がやったのと同じようにジャブからのストレート。回避しつつ相手の懐に飛び込む。

 

 そのままボディブローを叩き込もうとした瞬間、チャンプの動きが変わるのを感じた。

 

 背後から振り抜かれた筈の腕が迫って来る。抱き込み、クリンチ?いやベアハッグか!?

 

 ベアハッグから逃れるため即座に前転しながら脇の間を抜け、回転の勢いもつけて膝裏へ蹴りを繰り出した。

 

 蹴りの入った関節部がショートし膝が曲がり体勢を崩す、両膝を着き位置の低くなった頭部へ渾身のハンマーナックルを叩きつける。

 

 チャンプの頭部には大きな凹みが作られ、バイザーも粉々に粉砕され完全に動かなくなった。

 

 警戒しつつも拳で胸部を押しチャンプを倒す。重量物が床に沈む音が響き、部屋に静寂が戻る。

 

 

「……10カウントだな」

 

 

 息を吐き、握り締めた拳を解き、プラプラと振って力を抜いた。

 

 赤いランプが消え、モニターの表示も戻る。不正アクセス検知の文字も消え、先程と同じ画面に戻った。

 

 拳を軽く開閉し、異常がないことを確認。最後のは流石に痛かったな。

 

 グラッチを拾い、マガジンに弾丸を補充しベルトに戻す。

 

 これでドローンから補充した弾丸は無くなった、マガジン内の分も合わせて17発だ。何処かで手に入ればいいが……。

 

 近未来銃も壁から取り、簡易スリングを肩に掛ける。パンチを避ける際に咄嗟に連射したせいで残弾がわからないがひとまずリロードする。

 

 残弾不明のマガジンは後で数えるために別のポーチに入れておく。

 

 戦闘で消耗した分は後で補充するとして、今は部屋の捜索を優先する。

 

 制御室の機材は無事で、強化型の拳によるコンソールやモニターに深刻な損傷はない。幸い俺が撃った弾の跳弾も機材に損傷を与えていない様だ。

 

 コンソールの前まで戻り、タッチパネルを操作する。

 

 警報が解除されたおかげで、アクセス制限が緩んでいるようで、モニターに表示されるデータがさらに詳細になる。

 

 ロボット兵の製造ラインのログ、装甲の素材組成、補助制御AIのログなど――断片的な情報が次々と流れる。

 

 素材の分析データを見ると、通常の金属合金ではなく、何か「得体の知れない物質」が混在しているらしい。これまた得体の知れないグラフが表示されるが、俺の知識では理解しきれない。

 

 ただ、ファイルにあった「Divi:Sion計画」の一環で、この物質が「無限の軍隊」の耐久性を高めているのは確かだ。

 

 部屋の隅に散乱した資料をさらに漁る。先ほど見つけた極秘ファイルの続きをめくる。滲みが酷いが、読める部分を更に探す。

 

 「名もなき━━」「鍵」――にそんな単語が散見される。

 

 

「鍵……?」

 

 

 何を言ってるのかさっぱりわからない。

 

 コンソールに表示されたデータを見ながら、俺はさらに操作を続ける。しかし見たい箇所は管理者権限が必要であると表示される。

 

 管理者データ――そんな項目が並んでいる。凍結された計画とはいえ、施設の基幹システムはまだ生きているらしい。

 

 タッチパネルに触れ、管理者のデータを選択する。モニターにSignal Lostと表示され続けて文言が出力された。

 

 

『管理者バイタル、シグナルロスト。新たな管理者を設定してください』

 

 

 モニターの青白い光が広がり、手のひらの形をしたスキャナーが起動した。

 

 

「もしかしてチャンプか?」

 

 

 チャンプの停止と同時に止まった警報といい、最終管理者をチャンプに設定していたのかもしれない。

 

 スキャナーが光を走らせ、早く手を翳せと言わんばかりだ。

 

 

「ふーむ……」

 

 

 少し悩んだが、まぁ良いかとスキャナーに手を翳した。即座に青い光が掌を上から下まで舐める様に照らし、入念にスキャニングされる。

 

 

『新たな管理者を決定。既存の命令を停止しました、新たな命令を待機中』

 

 

 貰えるなら貰ってしまおう。俺はコンソールから命令を入力し、工場内の動けるロボット兵を集めさせ、機械のメンテナンスと施設全体の整備、清掃を指示する。

 

 

「工場は5Sが基本だぞ?」

 

 

 この世界に来る前に見た少女を思い出す。自分一人では情報収集に難がある。

 

 ここのロボット兵は有効活用させて貰おう、それに拠点があれば活動もし易い。

 

 ひとまず、指示を出したヤツが怠けるのは良くない。ここの掃除から始めるか。

 

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