Black Archive   作:アストラ連合学園中央生徒会

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社畜の魂百まで


5話

 

 

 管理者となった俺の初仕事は、動かなくなったチャンプを部屋の外に引き摺り出すことから始まった。

 

 チャンプを外の通路に引き摺り出した後、軽く息をついてから施設の把握や生産ラインの現状確認と忙しなく働いていた。

 

 制御室の時計は動いておらず、地下であるため窓もない。

 

 当然、日光も入らず、睡眠が必須でなくなった体では昼夜の感覚が薄れている。

 

 人間だった頃の社畜生活を思い出す。死んでもまだ働く俺。社畜極まっているが、あの時にはない充足感がある。

 

 ただし工場内は依然として散らかったままだった。

 

 破棄されたオートマタ━例のファイルにはロボットではなくオートマタと表記されていたので、そう呼称することにした━の残骸や不良部品が積み上がり、雑多な機械の部品があちこちに転がっている。

 

 理由はシンプルにオートマタ兵に掃除や機械の整備を指示していたから。

 

 オートマタ兵、つまり藍色の装甲を持つ奴らは、命令に従うものの、戦闘用にチューニングされており、清掃や片付けなどの作業は出来なくはない程度。

 

 そもそも戦闘用のオートマタ兵に掃除や片付けなんて繊細な仕事は向いていなかったのだ。

 

 

「やっぱり作り直した方が速いか……」

 

 

 比較的小綺麗な椅子に座り、コンソールを操作する。

 

 戦闘用オートマタをそのまま使っていては、拠点としての機能が上がらない。

 

 元々考えていた事だがメンテナンス用のオートマタを別に製造する事にした。

 

 設計図を呼び出し、藍色のオートマタ兵の基礎のみを流用し改造。

 

 武装を完全に排除し、戦闘用の諸々を工業用に変更、装甲は最低限にし軽量化。オリーブグリーンとブラウンで軍用な外見に変更。

 

 ハード面を変更したら、次はソフト面。なんとなくでも動ける人間と違い、機械は用途に合わせた作りである方が何かと都合が良い。

 

 何でもかんでも詰め込んだ高性能汎用機というのは、ロマンがあるが現実的に考えればデメリットもそれ相応に大きいものだ。

 

 オートマタ兵に搭載されている戦術モジュールコア、戦闘機動プログラムや射撃管制システム、戦術リンクシステム。

 

 それらの戦闘用にチューニングされたソフトウェアを外し、整備関連のソフトウェアを詰め込む。

 

 一通り確認してから、製造指示を入力。

 

 解体された藍色のオートマタの部品を素材にひとまず5体を製造開始。工場の一部が稼働し、新しいオートマタが生み出される。

 

 差し詰め、オートマタ工兵と呼ぶとする。まぁ、兵と付けたが便宜上だ。

 

 

「……品質の低下は避けられんか」

 

 

 管理者になり現状把握のついでに戦闘用のオートマタを設計し直していたが、それらを造らなかった理由もそこにある。

 

 工場の生産品質が低下しているのだ。

 

 当たり前だが、長い間手入れしなければ、機械というのは精度や精密性をどんどん失っていく。

 

 機械の寿命とは人間の寿命に比べて遥かに短い。

 

 ヤバくなっても無茶の出来る人間と違い、機械は無茶をすれば破損し動かなくなる。

 

 まぁ無茶のし過ぎで死んだのだから、言わずとも理解している。無茶はするものじゃない。

 

 兎も角、品質は落ちていようとオートマタ工兵には指示を出す。

 

 既存の稼働可能な製造ラインの整備、修繕からはじめ、破損した製造ラインの修理。

 

 無理そうなら撤去、併せて製造ライン周辺の残骸や零れ落ちた部品の回収。

 

 オートマタ工兵は純粋な戦闘用とは違い、動きは繊細で正確だ。残骸を回収して再使用出来そうなものを分別し、資材置き場に運んで行く。

 

 青白い光を放つのモニターで作業映像を眺めながら、俺は椅子の背もたれに大きく寄りかかる。が、椅子から嫌な音が響いたので背筋を伸ばす。

 

 

「そう言えば……電力供給源は何処だ?」

 

 

 ふと思い出したのは地上階で見た常夜灯、そして現在地下工場を動かしている電力は何処から来ているのか。コンソールを操作して電力供給元を調べる。

 

 どうやらこの場所から離れた所にある、地熱発電所と風力発電所から電力供給を受けているようなのだが、必要電力量は大きく下回っている。

 

 これは、調べる必要がある。

 

 ただ必要電力量は下回っているが、少なくとも途切れた履歴がない。

 

 それならば、ここで戦力を増やしてからでも遅くはない。

 

 4体のオートマタ兵に苦戦したように、数と言うのは単純かつ重要な戦力指数だ。

 

 とは言え余り悠長な事も言っていられない、今まで大丈夫だからこれからも大丈夫だとは限らない。

 

 現状維持とは緩やかな衰退、というのを見たことがある。何かの本だったか?

 

 考えていた計画を変更し周囲のガラクタをざっくりと片付けたら、現在稼働可能な製造ラインを優先して修復する。

 

 並行して銃器の製造ラインを作り替える、今ある近未来銃を一時的に使う事も考えたが、あれは使い物にならない。

 

 アイアンサイトすらないのは余りにも使い難い。

 

 だから個人的な趣味にもなるが、AK74をモチーフにオリジナルのAKを製造する。

 

 ストックは固定ストックからテレスコピックストック*1にして、ハンドガードもピカティニー・レールを備え付けた現代改修版に。

 

 レールシステムにより、グリップやレーザーサイト、フラッシュライトなどなど、現代の銃では必須装備と言っても過言ではないアタッチメントを搭載可能。

 

 加えて光学サイトを付ける為にサイドマウントベース、サイドマウントレールを標準装備にして光学サイトを取り付けられるようにする。

 

 ひとまず、等倍の1P87ドットサイトを搭載。

 

 試作として1挺作り、工場の端に自作したシューティングレンジ━ガラクタを並べた粗末な作りだが無いよりは良いだろう━にて使用感を試す事にした。

 

 指先一つで触れる様に変更したセレクターレバーを1番下に下ろし、マガジンをマガジンハウジングに引っ掛けるAK特有の独特な装填方法で装着。

 

 左手をハンドガードから離し人差し指でコッキングレバーを引っ掛ける様にして引く。

 

 しっかりとしたスプリングの抵抗を感じながら手を離し初弾を装填、再びコッキングレバーを軽く引きチャンバー内を確認。

 

 ハンドガードをアルファベットのCの形の様に握り込む。

 

 ゆっくりと息を吸い、吐く。ドットサイトのレーティクルを頭部に合わせトリガーを引いた。

 

 鋭い炸裂音と共に5.45×39mm弾は、ガラクタの左肩を直撃し、そのまま貫通していった。

 

 

「ポン付じゃ、当たらんか」

 

 

 調整用のダイアルを回し再び射撃。次は首の間を抜けていった、再びダイアルを回し調整。

 

 というのを計4回行い、概ねレーティクル通りに弾が飛んでいくようになった。

 

 その後、フルオート射撃も含めひと通り撃ち尽くしたが、銃を作り直したのは正解だった。

 

 近未来銃ではこうもいかなかっただろう、弾薬サイズも不明だったので弾薬もまた新たに作り直した。それが良かったのか、はたまた別の理由か。

 

 新たに作成した5.45×39mm弾はオートマタ兵の装甲を貫通し得る威力だ。

 

 AK74改めカスタムAKもオートマタ工兵同様に品質低下を受けているため、グルーピングはややバラけがちではある。

 

 だがレーティクルを大きく逸れることはなく、150メートル圏内であれば問題はないだろう。

 

 試作品が上手くいったので此方も増産、したいところだったが、10挺だけに留め製造を停止する。

 

 今はオートマタ工兵の製造ラインの修復を優先で行っており、次いでオートマタ兵の製造ライン。

 

 その次は弾薬製造……と足りていない電力リソースを切り詰めて回しているため、銃製造にまで電力を回せないからだ。

 

 10挺のカスタムAKを一つ一つゼロイン調整を終わらせ、空いた時間に制御室の掃除。

 

 オートマタ工兵だけではとても手が足りない、せめて自分が使う制御室ぐらい自分で綺麗にする。

 

 だがその甲斐もあった。この数日で工兵製造ラインの修復が粗方終わり、オートマタ工兵を10体増産する事が出来た。

 

 品質的には誤作動は起きにくい程度だが、今は問題としない。

 

 増産した事により修復速度は目に見えて速くなった、資材の消費も含めてではあるが。

 

 そして遂にオートマタ兵製造ラインの修復が終わった。と言っても稼働をしても不良品の発生確率が極めて低くなっただけだが。

 

 それでも稼働テスト及び実弾演習を行い、致命的な不具合が発生しない事が確認できたのならば十分。

 

 稼働テストが終わり、銃の点検、整備をさせているオートマタ兵を眺める。

 

 自分でデザインを考えただけあってかなり愛着がある。

 

 流線型のヘルメットの中にはカメラレンズとセンサー類を含む精密機器が詰まっている。

 

 センサーとカメラレンズを保護するようにバイザーを取り付けてはいるが、残念ながら防弾性能は高く無い。

 

 コスト的な問題もあるが、飽くまでバイザーは飛散してくるだろう破片や砂塵などをレンズに当たらないようにする仕切りでしかない。

 

 距離の離れたところからの拳銃弾なら跳弾を狙えるかもしれないが……。

 

 胴部は厚めの装甲により角張った形をしており、腰部は脚部と胴部を接続する駆動部が大半を占めている。

 

 銃の反動や下半身の動きのノイズ、それらをやわらげるためのショックアブソーバーも仕込んである。

 

 また彼等にはチェストリグを装備させ予備のマガジンや弾薬を持たせている。

 

 藍色のオートマタ兵の様に脚部などに収納させる。と言うのも考えたが、そういったギミックはコストが掛かる。

 

 ロマンはある、ロマンは……。

 

 故に低コストで製造出来る物を装備させた、本当ならプレートキャリアを装備したいところだが。

 

 幸い胴部の装甲はそれなりに厚い、ゆくゆくはプレートキャリア前提の装甲厚にしてみたいものだ。

 

 総じて藍色のオートマタ兵が人間に近しい姿の兵士風に対して、俺のリデザインしたオートマタ兵はまさしく機械の兵士と言った感じだろうか。

 

 人の形をしているが一目で機械である事が分かる。

 

 オートマタ兵同士は戦術モジュールコアによる、戦術リンクシステムによって高度な連携が取れる。

 

 だが俺には無い、故にオートマタ兵の戦術機動の中心は俺となる。

 

 しかし行動中に俺の動きを視覚に入れ続ける、と言うのはいくら機械であれども無茶がある。戦闘時ならば特に。

 

 しかし俺の出すハンドサインや声、指示を読み取れなければ意味がない。

 

 そこで俺自身に戦術モジュールコアを埋め込む事にした。

 

 最初はどうやって神経に接続するか悩んだのだが、首があった所から湧き出る闇色の靄、その中に突っ込んでみた。

 

 何故そんな事をしたのかと言われると、特に意味はない。出来ることをやってみただけだ。

 

 社畜とは時に思考を放棄する生き物なのだから。

 

 兎も角。どういう原理かは理解出来ないが、戦術モジュールコアは問題なく稼働した。

 

 俺の視界にはオートマタ兵の簡易的なアイコンと共に稼働状態が示されていた。

 

 闇色の靄の中に手を入れ戦術モジュールコアを引っ張り出す事もできた。

 

 その場合は視界のアイコンは消える事となり、ますます疑問符が出た。

 

 まぁゲームで言う特殊兵装みたいな物だろう、と強引に納得しておく。

 

 それに考えた所で答えが出る訳でもない、そういうものだとしておく方が悩まなくて済む。

 

 オートマタ兵との連携は後ほどやるとして、発電所へ向かうチームの選出や俺が不在の間、侵入されないように防衛の準備もある。

 

 まだまだやる事は沢山ある、だと言うのに心は熱く燃え盛るようだ。

 

 脳裏に浮かぶのは、雪に埋もれた廃校と、孤独に倒れ伏す少女の姿。

 

 あの光の裂け目で見た光景が、本当に起きた出来事なのか、それとも何かの象徴なのかは分からない。

 

 ただ、思い出すだけで胸の奥からマグマのような憤怒が沸き上がる。

 

 それがお前の存在意義だ、と突き付けられている気がする。

 

 だから俺は、使えるものはなんでも使う。破棄された工場だろうと、軍事兵器のオートマタ兵だろうと。

 

 

*1
伸縮機能のあるストック




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