Black Archive   作:アストラ連合学園中央生徒会

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生徒会長


第二章 庇護なき学園
1話


 

 

 私の、私たちの学園。

 

 ボロボロで、あると言えるのかわからない、私たちの学園。

 

 連邦生徒会のどこかの部屋、どこかの棚の中にある書類では、きっと存在してる。

 

 例えそれが自治区の治安が最悪で、チンピラやスケバンにヘルメット団たち、不良生徒が屯する無法地帯だとしても。

 

 昔はそうでなかったらしい。先輩の先輩、そのまた先輩の……数年か数十年くらい前だと思う。

 

 それぐらい前には、学園にも生徒が居て、治安維持委員会もあったらしい。

 

 でも年々生徒の入学数が減っていって、治安維持に回せる人手すら居なくなっていった。

 

 取り締まる人が居なくなれば、不良たちがやってくるのも当たり前で、今の私たちのような現状だったとか。

 

 昔は生徒会の子たちが持ち回り、自治区内をパトロールしていたのだとか。

 

 今はそれすら出来ず校舎の3分の2を乗っ取られ、残りの1を必死に防衛する日々。

 

 それも長くはもちそうにない。

 

 みんなの顔から笑顔を見なくなったのは、いつからだっけ?

 

 私が生徒会長になった時は、自治区内は無理でも校舎だけは死守していたのに。

 

 そっと化粧ポーチに入れた手鏡を覗き込む。

 

 引き攣ったような笑顔、深い隈。

 

 最初こそ化粧で誤魔化していたのに、誤魔化す余裕もなくなって……。

 

 この学園、この校舎には沢山の思い出がある。

 

 先輩たちが必死に残してくれた物。

 

 楽しかった思い出が頭の中で溢れてくる、でも私たちに思い出を守る力はない。

 

 いっその事、私たちみんなで転校して学園を廃校にしてしまおうか。

 

 そんな考えが頭の中をぐるぐると回る、そんな時だった。

 

 遠くからバリバリと音が聞こえてきた。

 

 あまり聞く機会が少ないけど、多分ヘリコプターかな?こんなへんぴな自治区に大層な物が飛ぶなんて珍しい。

 

 多少の気分転換になるかもしれない。

 

 生徒会室の締め切られたカーテンを開け、空を見上げる。私の行動に釣られて他の子たちも空を見上げた。

 

 

「こんな所にヘリコプターなんて珍しいですね、会長」

 

「そうだね、一体どこの物好きかな?」

 

 

 副会長のリナに返事をしながら、遠くに見えるヘリコプターを見つけた。

 

 数は3機で2機のヘリコプターが横並びで先行して、残りの1機が先行したヘリコプターを追いかける形だ。

 

 

「……あれは?」

 

「あれは攻撃ヘリだよ、先行して後ろの輸送ヘリを守ってるんだよ」

 

「企業?社章は?」

 

「うーん……社章をつけるとしたら側面だろうし、こっちを向いてるから見えないね……」

 

 

 後輩たち、言葉少なげなのがユーリ、物知り顔で喋ってる方がミオ。

 

 そのミオが双眼鏡を覗きながら、会話しているのを聞いていると、外が騒がしくなってきた。

 

 視線を落とすと奪われた校舎から、不良生徒がゾロゾロと出てきている。

 

 まさか不良生徒が雇った傭兵?……かと思われたが一部の生徒がロケットランチャーを取り出している。

 

 落とそうとしている?そうなると違うみたいだ。

 

 むしろ準備していたような用意周到さを感じる。

 

 私たちが気づかなかっただけで、校舎の窓から突き出る機関銃、屋上に展開する狙撃手、ロケット弾を載せた台車や空のトラック。

 

 ヘリコプターの積荷を奪うつもり?

 

 

「わわわ!?あのヘリ落とされちゃいますよ!なんとか知らせないと!」

 

「……伝える方法がない」

 

 

 ミオとユーリが焦っているけど、私も焦っている。

 

 リナの方をみると、目を閉じて何やら考えている様子だった。それも数秒ほどで目が開き私と目が合う。

 

 

「会長、発光信号覚えてますか?」

 

「任せて」

 

 

 専用の機材はないけど、今日は晴天。これ以上ない光があるから問題ないはず。

 

 化粧ポーチから手鏡を取り出して、光が反射しやすいように持ちながら、鏡面を手で覆う。

 

 覆った手を動かし、光の反射による規則性を作り出して信号を送った。

 

 

『進行方向ニ待伏セアリ、進路ヲ変更サレタシ』

 

「ちゃんと伝わってると良いけど……」

 

 

 不安を余所にヘリコプターは、進行をやめて空中で動きを止めた。

 

 伝わったのかな?

 

 途端に不安になり、もう一度同じ信号を送ると、攻撃ヘリコプターの1機が旋回して側面を向けて止まった。

 

 

「あれは……確かロストレストノット社だったっけ?」

 

「ロスト、レストノット……?」

 

 

 双眼鏡を覗くミオが自信なさげに呟いた、けれど聞きなれない会社名に聞き返してしまう。

 

 

「じ、実は、私もあんまり詳しくないんですけど……主に輸送警護をやってる新しい企業だとか。よく聞くのが厄介って話ですね」

 

 

 不良たちの間でも有名なんですって、と語るミオに顔も向けずに聞きながら、ヘリコプターへ視線を送り続ける。

 

 やがて側面の壁が上下に別れて開き、中が見える様になった。

 

 

「ごめん、ちょっと借りるね」

 

「は、はい」

 

 

 ミオに謝りつつ双眼鏡を借りる。

 

 双眼鏡を覗くとロボットかな、この辺りの自治区では見た事ないタイプのロボットだ。

 

 そのロボットが片膝立ちの姿勢で銃を構えていた。

 

 また同じ信号を送ると、ロボットの持つ銃が私に向けられる。

 

 あの距離では当たらない、頭では分かっていてもドキリとする。

 

 ロボットは私を認識したのか、銃を下ろしてヘリコプターの中へ向け、手を動かした。

 

 中から現れたのは戦闘服の大人。

 

 ただ頭だけは異質で目を引くそれは骨だ。でも人の骨じゃない、でも遠過ぎて分かりづらい、あれはなんだろう。

 

 そんな異質な大人は、双眼鏡を覗いて周囲を見てから最後に私たちの方を見た。

 

 ロボットに銃を向けられた時よりも、バクバクと心臓が跳ねる。

 

 まるで氷の張ったお風呂に漬けられたみたに。

 

 私は心を落ち着けるため、覗いていた双眼鏡を下ろし後輩へ返した。

 

 

「会長!発光信号です、返答だと思います!」

 

「分かった!」

 

 

 勇気を出して下がっていた視線をヘリコプターに戻すと、異質な大人の手元が規則的に光っているのが見えた。

 

 強力なフラッシュライトとかで代用してるのかも?

 

 

「『情報ニ感謝ス、現在地ヨリ動クナ。我、敵ヲ掃討ス。』って言ってる……掃討って、あの人数を?」

 

「不良達は用意周到ですが……」

 

「あの……攻撃ヘリ、なんだか大きい様な……」

 

 

 私たちの不安を他所に、攻撃ヘリコプターの2機が動き出し急速に近付いてくる。

 

 近付いてくる事で、その大きさに困惑する。

 

 あまり詳しくないけど、攻撃ヘリコプターってもっとスリムじゃなかったっけ?

 

 不良たちの狙撃銃と少し遅れて機関銃が発射され、あたりがうるさくなっていく。

 

 でもヘリコプターに当たるどころか、大きく弾が逸れていく。不良たちの練度が低くて、偏差が間に合っていない?

 

 2機の攻撃ヘリコプター、その鼻先に付いた機銃が屋上と機関銃の設置してある教室のそれぞれに向けられた。

 

 それに気付いた不良たちは慌てて逃げようとしている。

 

 

「き、機関砲です、あれ!」

 

「え?」

 

 

 逃走しようとした不良たちに向かって、規則正しい控えめな発射レートから打ち出された弾、いや砲弾は着弾と同時に炸裂し爆発音が響く。

 

 屋上の狙撃手は遮蔽物もなく、爆発を塞ぐ手立てはなかったようで銃声は聞こえなくなった。

 

 校舎から突き出た機関銃も、時間を置かずに無力化されたみたい。

 

 校庭に展開した不良たちは、いそいそとロケットランチャーを構え、ロケット弾が次々と打ち出される。

 

 けれど攻撃ヘリコプターは動き続けたままで、的を絞らせない機動をとっているようで、当たるようにはみえない。

 

 痺れを切らした何人かの不良がアサルトライフルやサブマシガンを撃つが、攻撃ヘリコプターはロケット弾の回避を優先し、その装甲で銃弾を弾いた。

 

 機関砲で薙ぎ倒されても諦めず、攻撃の手を辞めない不良たち。

 

 攻撃ヘリコプターも機関砲では埒があかない事を悟ったのか、射撃を止めず機首を下げ、翼下のたくさんの穴が空いた大きな筒を地面に向ける。

 

 機関砲より小さい空気の抜ける様な発射音、それは僅かな軌跡(白煙)を残して飛翔。

 

 間を置かず不良たちの足元まで到達し炸裂、機関砲より小さな発射音に反する様に機関砲より大きな爆発音を響かせた。

 

 さらに数発発射され、台車に載せていたロケット弾も爆風で巻き上げられ、そのまま地面に叩きつけられる。

 

 強い衝撃を受けた弾頭は誘爆し連鎖爆発を起こし、爆風は私たちの所まで届き部屋の中を揺らした。

 

 

「……、…………」

 

 

 声すら出ない、圧倒的な火力差。

 

 唖然としていると強い風と共に轟音を立て、攻撃ヘリコプターの1機が校庭の端に着陸しようとしていた。

 

 チャンスだと言うのに、不良たちからの攻撃はほとんどなかった。

 

 着陸した攻撃ヘリコプターの両側面の扉が開き、ロボットの兵士達が素早く飛び出している。

 

 片側から4人ずつの8人は、攻撃ヘリコプターを中心として円形に広がり、片膝立ちの姿勢で銃を構えて周囲を見張っていた。

 

 着陸かと思っていた攻撃ヘリコプターは、エンジンの唸りを挙げて急速に飛び上がっていく。

 

 1機目が移動すると即座に2機目が同じ場所に着陸、さっきと同じ様に同じ人数が飛び出してくる。

 

 そこにはあの異質な大人の姿もあった。

 

 2機目の攻撃ヘリコプターもすぐさま飛び立ち、立て直しつつあった不良たちへ機関砲を掃射して、高度を上げて攻撃の手を止めた。

 

 

「……あれは?」

 

「初めて見る戦い方ですね……」

 

 

 後輩たちが指を差すのは、4人で1列となって進む4組のロボットたち。

 

 先頭には全身が隠れるくらいの大きな盾とショットガンを構えたロボット、その後ろの3人は同じアサルトライフを構えている。

 

 不思議な戦い方だと思う。

 

 16人も居るなら全員がバラバラに動いて、被弾する人数を減らして囲んでしまった方がいい筈。

 

 1人が数十発受けるより、1人1人が受ける数を減らす方がいい。

 

 それに1、2発くらいなら痛いうちに入らないし。

 

 盾持ちのロボットを最前列にして進むロボットたち、その列に向けて今だに対抗する不良たちが銃撃を浴びせる。

 

 そんな銃撃を盾持ちのロボットが全て防ぎ、後ろの3人が盾から僅かに体を傾け射撃して、確実に不良たちを減らしている。

 

 

「……練度が高い、装備や兵器も粗悪品ではないですね」

 

「そう、だね」

 

 

 思わず、といった風に漏れたリナの呟きに同意する。

 

 それに比べて不良たちが使っていたロケットランチャー、あの弾頭は粗悪品だ。

 

 正規品だったなら発射されない限り、衝撃で爆発するなんて事はない。

 

 考えなくても分かる、あんな物はブラックマーケットで買い叩いてきたデッドコピー品だ。

 

 ロストレストノット社、新しいと言っていたけど……とてもそうは見えない。

 

 見た事ない戦術だけど、しっかりと訓練された動き。

 

 反撃を受けても怯まない前衛、反撃してきた相手を的確に処理する後衛。

 

 高い練度、ちょっとの反撃程度では小揺るぎもしない規律と士気、装備や兵器も恐らく正規品相当。

 

 厄介と言われる理由は、これら全てに裏打ちされた実力だ。

 

 校庭の不良たちは瞬く間に倒された。

 

 攻撃ヘリコプターからの射撃で、半数近くがやられていたとは言え数えれば30人近い。

 

 そんな彼女達は武器を取り上げてから並べられ、手を後ろで縛られた状態でうつ伏せに寝かされていた。

 

 不良たちには散々と苦しめられてきた。校舎を奪われた時の事を忘れたことはない。

 

 そんな彼女たちはどうやって知ったのか、ロストレストノット社の輸送ルートがこの学園を通る事を知った。

 

 ここまで念入りに準備をしたのにも関わらず、確かな実力差を持って企みは打ち砕かれ粉々にされた。

 

 私は胸がスッとした気分だった。

 

 更に嬉しい事に彼等は校舎への突入を開始した、彼らは私たちが出来なかった事をやってくれている。

 

 彼らの力を借りる形になるけど、このチャンスを逃す訳にはいかなかった。

 

 

「私は不良たちを叩き出すために、あの人たちに協力しようと思う。

私も皆んなも、荒行事は苦手だけど……もしまだ戦う気持ちがあるなら、私について来て欲しい!」

 

「当然、私も行きますよ。会長が行くんです、副会長が座して待つなど私の矜持が許しません」

 

「わ、わたしも行きます!」

 

「……うん!」

 

 

 ついて来てくれるみんなの言葉に涙が出そうになる、でもガマンだ。泣いている時間はない。

 

 彼らの作戦を支援、と言うほど私たちに力はないけど……今、銃を取らなきゃ後悔する。

 

 弾薬を入れたスクールバッグと愛銃を掴み部屋を出る。

 

 目指すのは不良たちと校舎内を巡って争う防衛線、机を並べて防壁にしただけの簡易な防衛線、何度も何度も後退して来た、悔しい場所。

 

 今度こそ前に進むんだ。

 

 

「みんな……行くよ!」

 

『はい!』

 

 

 私たちは防衛線に向けて走り出した。

 

 




ま〜た過去編書いてるよ……。
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