乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第16話 モブ執事は調べる

 事後処理にそこまで時間はかからなかった。

 

 急に暴れ出した女中は、主である王子殿下とその許嫁である公爵令嬢を襲おうとしたが、無事に取り押さえられて、現在は意識が戻るまで王城の地下牢に監禁中らしい。そして、その女中と実際に対峙し取り押さえた俺は殿下や王城に常駐する近衛騎士──特に護衛騎士のアルヴィンから大変に感謝された。

 

 もちろん、女中の状態や手首に巻かれていた護符のことは報告済みであり、その一部を提出している。あとは、国の高名な学者や魔術師連中が今回の事件を調べて問題の真相に迫るだろう。今回の事件で王宮関係者──特に警備や防衛に注力している役人たちはかなりプライドを傷つけられ、どんな手段を使ってでも首謀者をとっ捕まえる勢いを見せていた。

 

 ──まぁ確かに、国の王子が命の危険に晒されたのだから、彼らも肝を冷やしたことだろう。

 

 今回の事件でもし、王子が呆気なく殺されていたら……想像しただけでもぞっとしない話だ。

 

 だからこそ、騎士たちからは大変に感謝された。騎士なんて、プライドばかり高くて腑抜けたやつらの集まりだと思っていたが存外、礼節はきちんと重んじるらしい。

 

 色々と疑問が残りはするが、たかが使用人風情が首を突っ込んでもいい顔はされないのでその場では軽い情報提供だけで撤収。当然のことながら、殿下とお嬢様の逢瀬は中止であり、俺たちはそそくさと屋敷に帰った。

 

「助けてくれてありがとう……よくやったわよ、セスナ。」

 

 とは、帰りの車内でお嬢様から賜ったお言葉であり、その素直な賛辞に一瞬幻聴かと自分の耳を疑ったくらいだ。

 

 しかも、何故かお嬢様は命を狙われたと言うのに上機嫌であり、珍しく帰りの車内では鼻歌なんか歌って笑みを湛えていた。命を狙われた恐怖と逢瀬の緊張の反動で遂に頭が逝かれたのかとも勘繰ったが──

 

「何見てるのよ。見世物じゃないわよ」

 

「……失礼しました」

 

 いつも通りの仏頂面で罵倒を飛ばしてきたので、どうやらその心配は勘違いらしい。

 

 そんなこんなで、お嬢様方の逢瀬は意外な幕引きとなり、俺としても予想外の連続だったわけだが……俺は俺で今回の件、あの場で手に入れた護符の破片で気になる点ができたので個人的に護符を調べてみることにした。

 

 ちょうど、こういった怪しげなモノを調べるのが得意で大好きな錬金術師の知り合いが俺にはいる。もともと、付き添いの次の日は休息日で、再生依頼の報酬として工房には出向こうと思っていたのだ。ならばついでに調べてもらおうと言う訳である。

 

 と言うわけで、休日返上でやってきたのは商業区画の奥の奥、人の寄り付かない寂れた錬金工房だ。

 

「ダリアさん、来ましたよー」

 

「おー!来たわねセスナ!この日をどれだけ待ち侘びたか……ささ、早く作業部屋に来なさい!!」

 

 建て付けの悪い店の扉を開けて声を掛ければ、奥から鈴を転がしたような女性の声が急かすように店内に響く。

 

「……了解です──」

 

 その全くご挨拶な店主の様子に呆れながらも、俺は言われた通りに店の奥──工房の主に許された者だけ立ち入ることのできる作業部屋へと赴く。

 

 こう聞くと、まるでこの部屋の入室を許されることが大変名誉なことに思えるが、それは全く違う。寧ろ不名誉、ここは俺を地獄へと誘う最後の関門であった。引き返すなら今のうちだが……ここで引き返せば地獄よりも酷い未来が待ち受けている(とある錬金術師談)らしいので、俺は大人しく部屋の中に入る。

 

「さあさあ! 今日も一緒に楽しく錬金術をしようねぇ! セスナ!!」

 

「ウス……」

 

 部屋に入った瞬間に俺を出迎えたのは気味の悪い異臭と謎の熱気……そして、「ぐへへ」と奇妙な笑い声を漏らしてこちらに近づいてくる女性だ。

 

 その異様な光景に頬は自然と引き攣り、やっぱりやめておけばよかったと後悔も湧き上がってくるが、それをグッと飲み下して俺は工房の主──ダリアに尋ねた。

 

「それで、今日は何を手伝えば……?」

 

「そうそう! 今日はねぇ、魔爆瓶を作ってほしいんだぁ!」

 

「いくつ?」

 

「軽く二百個!」

 

 真っ黒を通り越して、青くなり始めた目元のクマはもうしばらく寝ていないことの証。そんな何徹目かも定かではないダリアから放たれた本日の手伝いはやはり常軌を逸していた。

 

 相も変わらず、狂った手伝いの内容に俺は不満を隠しもせずにしかしてそそくさと自分に宛がわれた作業机へと向かう。

 

「何とかやってみますけど……流石にたった一日でその量は無理だと思うので期待しないでくださいよ?」

 

「大丈夫! セスナのセンスはピカイチだからこれくらいヨユーだよ。私が保証する!」

 

「黒輝の錬金術師様の言葉なら間違いないですねぇ~」

 

「そういうこと!」

 

 この工房に通い始めてから一カ月、色々と目の前の彼女の奇行や支離滅裂な手伝いをこなしてきたわけだが……今日はいつにも増して狂気具合がやばい。

 

 ──これは早急に寝かさなければ……。

 

「ちなみに、ダリアさん。今日で何徹目ですか?」

 

「えー? たぶん5……とか?」

 

「分かりました。言われた通りに作業はやっておくので今すぐ寝てください。下手すりゃ死にますよ」

 

「えーこれくらい大丈夫だけど……他でもない愛する愛弟子の言葉だ。ここはお言葉に甘えようかなぁ」

 

 立って話すのもようやくなダリアは「ふへへ」と何が嬉しいのか奇妙な笑い声を漏らしてこちらにしな垂れかかってくる。つまるところ、部屋まで運べと言うことらしい。

 

「何度も言いますが、俺は貴方の弟子になったつもりは無いですよ。あくまで手伝いです」

 

「そんな寂しいこと言わないでよぉ~。たった数回の手伝いでここまで錬金術を覚えるなんて才能の塊でしかないんだしさぁ、大人しく弟子になっとこうよぉ……」

 

「俺には行き過ぎた話ですよ、それは──そうだ、仮眠を取った後でいいのでこれを調べてもらえませんか?」

 

 ダリアを寝室に連れて行く道中。いつになく突っかかってくる魔女に、俺は話を逸らすようにして今回の目的でもある護符を取り出して見せる。すると彼女は目の色を変えて、護符に食いついてきた。

 

「……これは?」

 

「とある場所で手に入れました……詳しい話は仮眠を取った後でします。それで、お願いできますか?」

 

「──他でもない愛弟子の頼みだ。特別大サービスで今回は無料でオネーサンが調べてあげよう!」

 

 予想通り、まだ不気味な魔力の残滓を帯びた護符は彼女の興味関心を引き付けた。そうして、一気に研究者の好奇心に火が付いてしまったダリアは快く頼みを聞いてくれる。

 

 しかし──

 

「頼んでおいた身で言うのもなんですが……ちゃんと仮眠を取ってから、お願いしますね?」

 

「……もちろん、分かってるよ」

 

「はぁ……」

 

 何はともあれ、まずはしっかりと睡眠を取って欲しいというのが本音であった。

 

 

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