乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第3話 モブ執事は逆らえない

 その容姿はまだ齢12歳と幼いながらも美麗で可憐。新雪のように柔く白い肌と揺蕩う白銀の長髪はともすれば、天使か何かと見間違うのも不思議ではない。

 

 そんな美しい眼前の少女こそがこの世界の憎まれ役であり、破滅の未来へと向かっていることなど知らずに我が道を突き進む悪役令嬢──アリサ・アロガンシアであった。

 

「この私が直々にお見舞いに来てあげたわよ──駄犬」

 

「……は?」

 

 そんな予想外の来客に俺は思わず使用人としての顔を忘れて素っ頓狂な声を上げた。

 

 それはいち使用人として取るにしてはあまりにも不適切な反応であり──その反応が気に食わなかったのか、俺の仕えているお嬢様は一瞬不機嫌そうに唇を尖らせるとすぐに嫌味を言い始めた。

 

「あら、もしかしてまだ寝ぼけているの? 頭を打って挨拶の仕方も忘れたのかしら?」

 

 ──誰の所為だと思ってんだこのクソガキャァ……。

 

 病人(一応)の部屋に訪れてきてなお、主のその尊大な物言いに俺は内心毒づくが、表面上は取り繕って恭しくお辞儀をする。

 

「──失礼しました、アリサお嬢さま。貴方様のような高貴なお方がわざわざこんなみすぼらしい使用人の部屋までお越しくださるとは……! 不肖セスナ、感涙でございますッ!!」

 

「──ふん。薄っぺらくて陳腐な言葉ね。……それで? 調子はどうなの?」

 

 俺のオーバーでわざとらしいリアクションをお嬢様はつまらなさそうに睥睨して尋ねてくる。一応、彼女は彼女でちゃんと見舞いをしに来た体であるらしいと判断した俺は畏まって上っ面の言葉を並べた。

 

「ハイ! 大げさに包帯を頭に巻いていますが、見た目よりも体の方は大丈夫です。いつでもお嬢様の身を護れるように鍛えておりますゆえ、あの程度の怪我ではどうということはありません! なのでお嬢様の御心配にはおよび──」

 

「あらそうなの? そう宣う割には随分と優雅に療養なんてしているようだけれど?」

 

「……」

 

 従者の調子のいい様子を見て、お嬢様はやはり厭味ったらしく言葉を突き刺してくる。ほんとに、自分が今回の元凶であると言う自覚のないその傲慢な態度には流石の俺でも我慢の限界だ。

 

 ──本当に一発ぶん殴ってやろうかな、このクソ女……。

 

 前世の知識を取り戻して、常識的な判断材料を得た今の俺はもう主の行動すべてに盲目的になれるはずもない。悪事にはそれ相応の罰を、男女平等、今の俺は平気で悪意のある女子供を平気で成敗できる……はずもなく。

 

「い、いやぁ!本当は問題なく仕事はできると執事長に進言したのですが、大事を取って休めと言われまして~」

 

 ただ権力に媚びへつらって、己を取り繕い、これ以上の不平を買うまいとご機嫌取りをすることしかできない。

 

 まぁ、ここで欲望のままにこのお嬢様をぶん殴れば一発で俺の首は飛んでしまうからね。普通に破滅回避云々の前にゲームオーバーって言うね。ほんと、異世界とは言え本質的には前世とあまり変わらないと言うか……長いモノには巻かれろと言うか──何が言いたいかっていうと現実はクソってことだ。

 

 ものすごい葛藤(一秒)の末に取り繕った従者のカラ元気を見て、お嬢様は平然とこんなことを宣う。

 

「……そう──それじゃあ、今すぐにでも私の()()()を聞いてくれるってことよね?」

 

「うぇ!?」

 

 今の発言のどこをどう曲解すればそういう思考に行き着くのかは、たぶん今後絶対的に理解できるはずもない。

 

 加えて、いったい今の発言のどこら辺に彼女の逆鱗に触れる要素があったのか分からないが、とにかく眼前のお嬢様は唐突に不機嫌である。

 

 ──マジで女心と秋の空。

 

 まぁ、今バリバリ春なんだけど。思わぬ急展開に嫌な予感が全身に走り、思わず苦い表情を浮かべてしまうが、お嬢様はそんな従者の反応を歯牙にもかけずに言葉を続ける。

 

「ちょうど今日はグレイトフルボアの頬肉が食べたいと思っていたの。ほらあの豚、頬肉だけはすごく柔らかくて()()()()()()()()勝るとも劣らないじゃない? だから、ね? 今日は()()で我慢してあげるから、ちゃんと用意しておきなさいね?」

 

 

 詰まるところ、何が言いたいのかと言うかと昨日の続き。

 

 果たして、眼前の天使と見紛う少女から放たれたのは悪魔の宣告であり。療養中であろうが、主人の命令に一切の拒否権を持たない哀れな小間使いの使用人はこれに応じるしかないわけで……。

 

「──畏まりました、お嬢様……」

 

 ──このクソガキ、療養中の執事でも問答無用でこき使いやがって……!

 

 表情筋を引き締め、恭しくお辞儀をしながら眼前の悪魔に内心で毒を吐く。

 

 けれども、そんな反抗的な思いとは裏腹に、俺の身体は自然と外に出る準備を始める。それは一種の条件反射、職業病のようなものであったが、何よりもの理由は──

 

「それじゃあくれぐれもよろしくね、駄犬?」

 

 なまじ容姿端麗で、人格はともかくとして前世でも今世でも眼前の少女の容姿が直球ドストレートで好みであることが、何よりもの理由であった。やっぱり長いモノと美人には巻かれろってな……それは違うか。

 

 体は意思に反して喜ぶように動き出してしまう。

 

 ──クソ、マジで可愛すぎんだろこのクソガキ。

 

 やはり、俺は心の内で毒吐きながらも主人に見送られながら外へと出かけるのであった。

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