乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第30話 モブ執事は考える

「ふう。何とか終わったな……」

 

 ひと悶着──男泣きして土下座を止めようとしない当主様を必死に止めるなどが──あって、何とかその場を収めることができた後に、俺はとりあえずあの日起きたことをできる限り報告した。

 

 森にて悪魔と遭遇したこと、その悪魔がお嬢様の魔術の才能を見抜き彼女の身を狙っていたこと、運よくその悪魔の撃退には成功したと言うこと。真実を全て、それこそダリアの全面協力や具体的にどうやって悪魔を退けたのかなどは子細に語ることはしなかったが、彼女の身に起きたことはなるべく隠さずに報告はできた。

 

「これで、また今回みたいなことがあっても対策は立てやすくなったな」

 

 リベスタス・アロガンシアは仕事一筋で家庭を疎かにするような人間だが、情に厚く仕事はできる男だ。だからこそ、使用人である俺の言葉を戯言とは思わずに、しっかりとその意味も含めて受け取ってくれた。

 

 その背景には、王城での一件も今回の話の信憑性を保証させていた。それに、娘が世界滅亡の片棒を担がれそうだったと知らされて、何も思わない親はいないだろう。今回の悪魔の件によって、リベスタス様はこの国に悪魔の影が本格的に動き出していると確信して、国王や教会に正式に報告、そこから具体的な対策と方針を立ててくれると約束してくれた。

 

 一時はどうなるかと思ったが、終わってみれば意外とあっさり。とんとん拍子で話が済んだような気がする。

 

「なんかどっと疲れたな……」

 

 だがそれでも慎重に言葉を選んで気疲れはした。

 

 大きく息を吐き、俺は自室のベッドに再び深く身体を預ける。

 

 報告が終わり、今は御覧の通り自室だ。身体はあの激闘をしたとは思えないほど元気とはいえ、流石に目覚めてすぐに仕事に戻れとはならなかった。父ラーゼンもそこまで鬼ではなく、数日の経過観察が設けられた。なので俺はしばらくの間、安静にしていることが確定したわけである。

 

「何も予定のない休暇は久しぶりだな」

 

 ここ最近はずっとお嬢様の側で仕事に従事するか、休みの日は基本的にダリアの錬金工房で手伝いをしていた。こうして、ゆっくりとベッドで休むのなんて実に一カ月ぶりだった。

 

 ついでに言うならば、先ほどまでべったりであったお嬢様はこの部屋にはいなかった。なんでも、話に聞くところによると彼女は俺が目覚めるこの一週間、座学や魔術の鍛錬などを休んでいたらしく。これには彼女の家庭教師である教師陣は危機感を覚えて、困り果てていたのだとか。

 

 勉強なんてのは少しサボったくらいで知識はなくならないかもしれないが、魔術は全く別である。日々の弛まぬ研鑽が魔力の練度や質、密度や感覚に直結する。詰まるところ、たった一週間で魔術の腕は錆び堕ちると言うことだ。なので、彼らの気持ちはお察しである。

 

 百歩譲って、この一週間は今回の件をお嬢様自身も整理するための休息期間と考えれば妥当な所ではあるが……。その実、彼女は悪魔に襲われたトラウマというよりも、とある使用人のことが心配で私生活に身が入らなかったらしい(アロガンシアの使用人一同談)。

 

 そんな話を聞かされて、俺はどんな顔をすればいいのか分からなかったし、驚きもした。何せ、今まで様々な我儘や傲慢な態度を取っていた彼女ではあるが、決して魔術の鍛錬をサボることなんて一度もなかったのだ。

 

 そうして俺が目覚めた今、彼女の心配ごとも払拭されて、普段通りに過ごすようにとリベスタス様に言い渡されて、話が終わった後に家庭教師であるアドヴィス先生に強制連行された訳だ。突然のことにお嬢様は大変ご立腹ではあったが、俺としてもいつまでも自分の世話をすると豪語する彼女に付きまとわれるのは、精神的に厳しかったので本当に助かった。

 

 それに──

 

「一人で考えたいこともあったしな……」

 

 例えば、いつの間にか赤色に変色しているこの右眼の事とか。

 

 色々なことが一気に起きすぎて全く気が付かなったが、何となく見た姿見に映った自分の姿には驚いた。何せ、本当に一目でわかるほど真っ赤な、ともすれば何かしらの病気なのでは心配になってくるほど右眼の色が変わっていたのだから。もちろん、カラコンなんておしゃれアイテムこの世界に存在しないし、前世ではコンタクトとか怖くてできないタイプの人間だったので、俺としてはこの変化に全く身に覚えがない。

 

 改めて言わせてもらうが、俺の右眼はもともとこんな厨二病みたいな色などしていなかった。それとお嬢様やリーヴェル姉さん、屋敷の誰もがこのことに言及してこなかったということが、気づくのが遅れた原因でもあった。

 

「なんでまたこんな変なことに……」

 

 明らかに似合ってない……不自然なその光景に困惑する。いや、理由なんてのは分かりきっていた。

 

 何せ、もともと俺はあの時に一度右眼を貫かれて失っているはずなのだ。そうして目が覚めたら身体の傷は疎か、右眼まで元通り。確実に、悪魔との戦闘の後に何か自身の身に何か起きたのだ。

 

「正直、よく覚えてないんだよな……」

 

 最後の方の記憶は曖昧だった。

 

 あの時はもうほぼ死に体だったし、意識も朦朧としていた。あの悪魔が象徴体を崩壊させて、それと同時に激痛が全身を駆け巡って、意識を失ったと言うことだけは覚えているのだが……それを抜きにしても、俺は何か大事なことを忘れているような気がした。

 

 ──何か、何かあったような……。

 

『ようやくひと段落ってところか──ご主人?』

 

 思考を巡らせ、この右眼の変色の原因を思い返そうとしていると、不意に脳に直接声が響き渡った。

 

「ッ!?」

 

 その突然のことに俺は驚き、反射的に視線を巡らせた。

 

 だが、部屋の中には自分一人。それに自分以外の気配や魔力の感覚は微塵もない。一瞬、聞き間違えかと思うが、それを否定するようにまた声が響く。

 

『おいおい、そんなに驚くことないだろ。それに、いくら探しても私は見つけられないさ』

 

 そして、俺はその酷く存在が曖昧で軽薄な声に聞き覚えがあった。

 

「お前、まさか──」

 

『おや、ようやく思い出したか。この私──〈次元界魔〉のディヴァーデンを半消滅させた人間とは思えないくらい腑抜けてしまって……()()()()()()()()()()()()()()()()()。しっかりしてくれたまえよ、ご主人殿?』

 

 忘れるはずもない。その脳内に直接響く気色の悪い声は今回の……お嬢様が破滅する全ての元凶であり、消滅したと思っていた悪魔だった。

 

「……は?」

 

 そして、気持ちが悪いほどに響く悪魔の言葉に、その意味を噛み砕いて、俺は素っ頓狂な声が出てしまう。

 

 まるでこれから隣人になる相手にするような気軽な挨拶はやはり鼻に付き、礼儀の全くない気軽な言葉に俺の思考は理解が追い付かない……いや、理解を拒んでいた。

 

 ちょっと待て、もろもろ説明を要求する。

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