乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第31話 モブ執事は右眼が疼く

「……どういうことだ」

 

『まぁまぁ、そんな怖い顔しないでくれよ。これも何かの縁だ、仲よくしよう』

 

「どの口が……」

 

 警戒心を一気に高め、姿の見えない悪魔を睨みつけるが対する奴は至ってふざけた様子だ。それに内心苛立ちながらも、悪魔──ディヴァーデンは仕方がないと言葉を紡ぐ。

 

『全く、しょうがないご主人殿だ。その様子だと、どうやら本当に最後の方は覚えていないらしい。……まぁ、当然と言えば当然なんだけれど──口で説明するのも面倒だから、直接見せるとしよう』

 

「──は?」

 

 軽薄な声が気持ち悪く響くのと同時に、脳裏には不自然にとある光景がフラッシュバックする。

 

 胸やら右眼を貫かれ死に体の小間使いが浅く呼吸をして、とある悪魔にぶらりと頭から持ち上げられ……ともすれば、悪魔はまるで手品のように右眼のあった穴からするりとその身体を入り込ませる。

 

 それは確かに俺が体験した過去の事象であり、鮮明に、まるで動画を再生するように駆け抜けた。

 

「ッ……!?」

 

 異様な感覚と頭を金槌で打ち抜かれたような衝撃に驚愕する。

 

 そして、その記憶を一瞬で見終われば、俺はどうしてこんな状況に陥っているのか、その理由を察し──いや、思い出す。

 

『どうやら、思い出したみたいだな。こうやって感覚や記憶を共有できるのは楽でいい』

 

 ディヴァーデンとの戦闘後、奴は象徴体が消滅する直前に、俺の身体へと寄生し、間一髪でその難を逃れた。更に言えば、この悪魔は完全に俺の身体を奪おうとしたが、どういう訳かそれには失敗して、こうして自我だけを俺の中に居座らせているのだと。

 

「マジかよ……」

 

 現状の理由が鮮明になったところで、だからと言って納得できるかと言えばそんなはずもない。寧ろ、俺の心境は複雑であり、さらに言えばこの状況に危機感を覚えていた。

 

 ──……これは、マズいのでは?

 

 なにせ、お嬢様を付け狙い、遠くない未来で世界破滅の共犯者にしようとしていた悪魔が自分の中にいると言うのは……それって、なんの解決にもなっていないのでは? 

 

 せっかく、命がけで悪魔を退け、一番の不安材料である破滅の元凶を退けられたと、しばらくはこの悪魔を気にせず他のやらなければいけないことに集中できると思っていたのに……この状況は逆に悪化してないか、と。

 

 この世界をどんな理由でかは知らんが破滅させようとしている元凶が、自分の中にいると言うのは予想外過ぎる。……いや、予想できるはずがないし、対策できるわけがない。だってまさか、苦肉の策でそこら辺に転がっているモブに憑り付くとか思わないじゃないですか。

 

「……何が目的だ」

 

 一通りの記憶を流し見て、俺は悪魔への質問を変えた。そんな質問を受けた悪魔の返答はどこかこの問答を楽しむようだ。

 

『今見せた通り、私は先の戦いで力のほとんどを失った。だからその力を再び蓄える為にご主人に仕方なく寄生したのだ。それに、大本命であるあの小娘の直ぐ側に入れるのは好都合だしな』

 

「……」

 

 念のため、分かりきっているがこの悪魔の思惑を尋ねてみると意外にもちゃんと答えが返ってきた。

 

 まぁこれも、どれだけ信じていいかはよう検討ではあるが、とりあえず言っていることは辻褄は合うし理にもかなっている。そして、的確過ぎる悪魔の判断に俺の表情は更に険しくなる。

 

 なるほど確かに、妥協した結果とは言え、この状況はやつにとっては一石二鳥だろう。具体的に、どれくらいの時間で奴が力を取り戻すのかは定かではないが、その間も本命の近くにいられると言うのはメリットでしかない。

 

「……すぅ────」

 

 いや、これは本当にダメな奴だ。ちょっとどころか、かなり都合が悪い。

 

 俺の目的は闇落ちしてお家ごと破滅するアリサ・アロガンシアの更生であり、その為に今自分の中に居座っている悪魔を瀕死になりながらも退けようとしたのだ。かなり部の悪い賭けに折角勝てたと思って、一番の問題を何とかできたと勘違いをして、しかも目が覚めてみればお嬢様の心境にも変化があったり、色々と良い状況になりつつあったと言うのにこれは……

 

「うん、マジでダメ──」

 

 なんで一番の破滅の元凶を自分の中で匿ってやらなければならんのだ。

 

 質が悪いことに、この悪魔は無断で人の中に居座ってきているという点だ。しかも一度入り込んだら俺の意思で退去させられないとか、それなんてバグだよ……マジでふざけんな。

 

「そういうことだから、さっさと出ていけ居候」

 

『ははっ。悪魔に取り憑かれてる人間の発言とは思えないな──』

 

 至って大真面目に、俺は中にいる悪魔に強制退去を命じるが、件の不法住居者はケラケラと笑ってこちらを小ばかにしてくる。なにわろてんねん。

 

 ふつふつと怒りのボルテージが上昇してくのを感じていると、続けられた悪魔の言葉に俺は冷水を頭の上からぶっかけられたような錯覚を覚えた。

 

『──やはり面白いなご主人は……流石、()()()()()()()()()()()

 

「ッ!! ……お前、なぜそのことを───!?」

 

 含みのあるディヴァーデンの発言に俺は目を剥き問いただす。

 

 その言葉には暗に俺の前世、俺しか知り得ない俺自身のことを奴が知っていることを意味する。

 

『何故も何も、別に不思議な事じゃないだろ? 何せ、ご主人殿は私を()()()()()()()()()

 

 困惑していると悪魔は悪意なくそう宣い。すんなりと疑問を解消するための種明かしをした。

 

『ご存じの通り、悪魔ってのは特殊な種族だ。その特殊な理由の一つに、他者の肉体に依存すると言うものがあり、私たち悪魔は拠り所として他者の実体を必要とする。けど、そう簡単に他人の身体を拠り所として奪い取ることはできなくてね。成功率を上げるために、支配しようとする他者の記憶を読み取るのが一番なんだ』

 

 種明かし……と言うには、悪魔の口から語られるのは前世(ゲーム)では描写されることのなかった……所謂、裏設定的な情報であった。

 

 そして、悪魔のその説明で俺は全てを察する。

 

『例に漏れず、私もご主人の身体を奪おうとした時に記憶を見せもらった。最初はその奇妙な生い立ちに驚いたし、それと同時に納得もしたよ。どうしてご主人がその若さであれほどの強さと胆力を持ち合わせ、剰えあそこまで私のことを知り尽くしていたのかとかね』

 

「ッ……」

 

 ──抜かった。まさか、悪魔の支配にそんな弊害があったとは……。

 

 ディヴァーデンの言葉を聞いて、俺は歯噛みする。

 

 それと同時に、どうして自分が悪魔に完全支配されなかったのかも理解した。詰まるところ──

 

『それにいくら深層心理を支配しようにも複雑に絡み合った二つの記憶と、記憶を共有していることで魂に常人ではありえないほどの重みと格があると来たもんだ。記憶を読み、肉体と精神の理解度を上げてなお、この第二魔帝の私の支配をも拒むとは思わなかった』

 

 転生者であるから自分は今こうして生きていられるのだと。

 

「クソ……!」

 

 何故か乗っ取りに失敗しているはずの悪魔は楽しそうで、逆に俺は真実がハッキリとすればするほどに苛立ちが増していく。

 

 ただでさえ悪魔が身体の中にいるだけで大問題なのに、加えて前世のことを知られているのは厄介だ。この知識は言わば高確率で発生する未来予知のようなものであり、この知識があればコイツは目的の為に悪用することだってできてしまう。それはとても都合の悪い話だ。

 

『安心しろ……と言ってもご主人は信じないのだろうが──私は別にこのことを言いふらすつも、ましてや悪用するつもりはない。それに、この状況はご主人としても好都合だと思うんだ』

 

「……どういうことだ?」

 

 意味ありげに言葉を紡いだ軽薄な声に俺は二つの意味で聞き返す。

 

 そうして、かの悪魔はまたもとんでもないことを宣った。

 

『この前の一件で、他の魔帝たちが一気にご主人とあの小娘に興味を持ち始めた。私もこの前は少し派手にやりすぎてな……しかも傍から見れば、私の魔力反応が消失したようなものだから、一気に同族たちが原因を探るために動き出しているらしい。「ディヴァーデンを殺した面白い奴は誰だ?」とな。たぶんそのうち、ご主人たちは奴らにその身を狙われるだろう』

 

「……は?」

 

 この世界にはディヴァーデンのような高位の悪魔があと六体存在する。それら全ては『ヘルデイズ』でも相当な強さと規格外(チート)ぶりを有しており、ハッキリ言わせてもらえばこの世界では関わっちゃいけいない類の連中だ。

 

 ──そんなバケモン集団に狙われてるって?

 

 どういった経緯でそうなったのか、イマイチ理屈は不明だが……目の前の悪魔の言はどうにも嘘ではないらしい。

 

 急な衝撃情報に絶望する最中、悪魔はマイペースに言葉を続けた。まるで、自己アピールをする就活生のように。

 

『そんな時に、頼れる悪魔の協力者がいたらいいとは思わないか? しかも私は確実にご主人殿の力になれる』

 

「……その根拠は?」

 

『知識では役立てることは少ないが、魔術の面なら私がいればご主人は私の権能の一部を扱うことができる。まぁ、それ相応の努力は必要だけどね。これからご主人たちは今回以上の危機に直面することが増えるだろう。なにせ、世界を滅ぼせる悪魔の帝たちが一斉に狙いを定めたんだ。そんなときに、私の力は大いに役立つと思うが?』

 

「協力する目的は、なんだ……? 魔帝はお前にとって同胞だろ──」

 

 都合の良すぎるディヴァーデンの言葉に俺は同じ質問をする。だが、悪魔の答えはやはり予期せぬものだった。

 

『ご主人に恩を売って警戒心を解いてもらうって言うのはあるな。ご主人を絆せば私の今後の目的達成にも近づける。……それに、勘違いをしているが別にあれは仲間じゃない。私としては他の魔帝らに小娘が横取りされるのは気に食わないんだ。一番最初に目を付けたのは私だしな。だから利害が一致しているわけさ』

 

「そんな言葉で──」

 

『あと、個人的に気になってしまったんだ。この世界で異常であり、不純物であるご主人が一体、この先どんな選択をして、どんな結末を迎えるのか……な』

 

 それは一冊の物語を読み耽る読者のような、純粋な好奇心からくる言葉に思えた。

 

『正直に言ってしまえば、その結末を見届けてからあの小娘の身体を奪ってもいいと思っている。悪魔の命は半永久的だ。時間は幾らでもあるし、その行く末を見届け終わる頃には力も取り戻せてるだろうしな』

 

「信じられないな」

 

『いいや。ご主人は信じられる──良く知っているはずだ』

 

 悪魔の言葉を拒むが、だがそれを姿も見えない軽薄な声が否定する。そして、その声の言う通り、俺は悪魔(奴ら)がどういう存在なのかを良く知っていた。

 

『──悪魔ってのは、自分の予想を遥かに超えた異常な存在に興味や関心を持つ、奇特な存在だってことをな』

 

 そう締めくくる悪魔は『それじゃあ喋りたいことも喋ったしちょっと休む』と言って、静かになり始める。

 

「……」

 

 その自分勝手なディヴァーデンの態度に俺は呆然とするしかない。……と言うか、情報量が過多すぎて、整理が追い付いていない。

 

 一つずつ、ゆっくりと問題を噛み砕く必要があった。幸いにも、俺にはその時間がある。

 

「とんでもない展開になってきた……」

 

 まるで他人事のように独り言ちる。

 

 名前もないモブキャラが作中の──それもラスボスキャラをその身体の内に宿すとか……ちょっと属性を盛り過ぎではないだろうか?

 

 そして、さっきディヴァーデンが言った通りここから彼女の運命は、原作(ゲーム)の時よりも更に困難を極めるものへと発展してしまうのだろう。

 

 ……まぁ、破滅確定だった悪役令嬢を真人間に更生させて、未来をぶっ壊そうとしている時点で今更な話ではあるだが──この時点で俺の知っている『ヘルデイズ』とは何もかもが変わり始めている。

 

 前世の知識を思い出して、破滅の未来が待ち受けていると気が付いた時からは想像もつかない現状に、けれど俺は許容量が限界を迎えた思考で、脈絡なくこんなことを思う。

 

「まさか、こんなことを言う日が来るとはな──」

 

 自分の姿が映る鏡を見て、やはり血で染め上げたような右眼に違和感を覚えてしまう。

 

 それと同時に──

 

「右眼が疼く」

 

 酷く、そんな感覚を覚えるのであった。

 

 まさか、異世界に転生してこんなコテコテの厨二病ワードを口にするとは夢にも思わなかった。

 

 

 

 ~第一章 閉幕~




 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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