乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
「今日もここで一緒に食べるけど……いいでしょう?」
元気ハツラツと、まるで引きこもり犯の住処に突撃する特殊部隊よろしく、扉を蹴飛ばす勢いで部屋に入ってきた白銀の少女。その手には昼食であろうサンドイッチを二人分抱えている。
勢いよく入ってきた割には、少女──アリサ・アロガンシアはどこか気恥ずかしそうに、いじらしく手をもじもじとさせながらこちらの様子を伺ってくる。
「……はい、もちろんでございます」
そんな主に対して、従者である俺の返答は勿論「イエス」しか許されない。今日も俺はお嬢様と一緒にランチタイムと洒落込む。
本来であるならば、この休養期間を使って色々と調べ物や今後の為の準備をしたかった俺が、なぜ今日までずっと部屋に引きこもっていたのか? その全ての理由が、目の前で嬉しそうに持ってきた昼食を広げるお嬢様であり、彼女は勉強の合間や鍛錬の合間の暇を見つけてはこうして俺の部屋に訪れて一緒に過ごすようになってしまった。
それはまるで、一度失いかけた大事なモノをもう二度となくさないようにと、常に大事に、眼を離すまいと持ち歩こうとする子供のようで──ハッキリと言ってしまえば、俺は彼女に監視されていた。
──流石に何とかしなければ……。
一つ、彼女の名誉の為にも補足させてもらうと、この監視という名の来訪も最初は控えめで可愛らしいモノであった。
一日に二回から三回、部屋の扉をそっと開いてこちらの様子を控えめに覗き見るお嬢様の姿には、確かに年相応な子供らしさを感じていた。だが、たった数日でその頻度は劇的に増えて、今では前述したとおり暇さえあれば俺の部屋に入り浸るようになってしまった。
……と言うのも、俺がたまたま湯浴みで部屋を離れているところにお嬢様が部屋を訪れ、一時的に誰もいなかった部屋を見て過剰なまでにパニックに陥ってしまったのだ。
『セナはどこ!?』『どこに行っちゃったの!?』『私を一人にしないって約束してくれたのに!?』『いやだいやだいやだいやだいやだ──』とは、その時の彼女の発言の一部である。これだけで彼女がどれだけヤバかったかご想像いただけるだろう。
そんなことがあってから、お嬢様はこうして俺の部屋に入り浸り、ちょっとでも部屋を離れようものなら必ずその後ろをついてくるようになってしまった。屋敷の外へ出ようものならどうなることか……想像もしたくない。そんな
──ほんと、どうしたもんかなぁ……。
安静にするにしても、これでは気も休まりはしない。なにせ、唯一のプライベート空間は皆無となり、この現状は既に
どうしてこんなことになったのか。いくら命を助けてもらった俺に恩を感じているとは言え、流石に度を越え過ぎだと思う。そして、そんな困惑する俺を更に困惑させたのはお嬢様の態度である。
「はいセナ、あーん──」
「お、お嬢様、お気遣いは大変うれしいのですが、一人で食べられますので……」
「ダメよ。セナはまだ安静にしてなきゃいけないんだから、私が食べさせてあげるわ。……それと、
「──失礼しました、アリサ様……」
本当に、どうしてこうなってしまったのかと。流石にいろいろと変わり過ぎじゃないかと。俺は思いの丈を今すぐにでも叫び出したかった。
甲斐甲斐しく世話を焼かれるわ、何故か名前呼びを強制されていざそれをいつもの癖で忘れてしまえば悲しそうに眉根を下げて拗ねるわ、気が付けばこちらの手をしれっとしかもがっちりと握っているわ……本当に、誰だこのヤンデレ味が日々増していくお嬢様は。
──……うん。怖い、重い、ヤバい。
たった数日でこの仕上がり具合なのだ。これが更に時間経過で磨きがかかっていけば、そのうち自分はひょんなことで刺されるのではないかと、そんな恐怖心を俺は覚え始めていた。これはちょっと彼女の将来が不安視されるぐらいだ。
──……いやある意味、将来有望なのか?
バカなことを言うもんじゃない。彼女に気に入られて、彼女の壊滅的な性格を更生させる為に奮闘してきた俺であったが、ここで一つの過ちに思い至る。
──ちょっと、やりすぎたかなぁ?
破滅の未来を回避する為とは言え、流石にこれまでの自分の言動は少し度を越え過ぎていたのかもしれない。
その結果、何故かこんなヤンデレが出来上がってしまっているわけで、彼女こそが俺のやり過ぎた過去を証明する揺るがない存在である。
──でも仕方ないじゃん! 俺だって必死だったんだ!!
一つ、言い訳をさせてもらえるのならば俺の言い分としては「不可抗力」であると。後々のことに気を回すほどの余裕なんてなかったと。まさか、アリサ・アロガンシアがこんなにチョr──簡単に絆されるとは思っていなかったのだ。
「だから俺は悪くない!」と言うわけではないが、こんなことになるなんて予想はできないよねって話だ。そもそも、そんな自意識過剰な思考で破滅の未来を回避できるかって話だよ。てか、
「それでねそれでね! 今日は新しく二重魔術の構築のやり方を学んだんだけれど──」
そう、だからやっぱり俺は悪くないのである。
だからと言って、お嬢様が悪いのかと言えばそれもまた別の話だ。ここまで彼女が俺に心を開いてくれているのは、今まで彼女が置かれていた境遇であったりを考えると強く言えないし、何より信頼してくれているからこそである。そんな彼女の気持ちを蔑ろにするのは、信頼されている身、従者的にはナンセンスな訳だよ。
『罪な男って奴だなぁ、ご主人殿~』
──茶化すなアホ悪魔。
この過剰にも思えるお嬢様のコミュニケーションは、言い換えれば彼女の性格の更生状況が好転しているとも言えた。
だから、俺としては彼女の対応を無下にもできないのだ。
──だからと言って、いつまでもここで半監禁状態なのも勘弁だ。
ならば、何とかしてこの状況を打開する必要があるのだが──今の俺には妙案が浮かばない。
何せ、お嬢様の生活や周囲への態度が軟化し始めていると言っても、これほど他人に心を開いているのは俺にだけであり、まだ他の人達とは少なからずの蟠りが残っている。それに、外出の許可を貰おうとすると、彼女は有無を言わさぬ勢いで話を逸らしてくるのである。
だから、ここでまだどこか遠慮のある他の使用人らに助けを求めても望み薄なのであった。
……そう、ここで求められる人材は、そこそこに遠慮がなくて、お嬢様相手にも物怖じもせず、良い意味で空気の読めない……言わば、周囲を簡単に巻き込めてしまうような無邪気な人物の助力が欲しい。
「例えば……」
「「帰ってきたよ!兄さま!!」」
そう、例えば、まだ遊びたい盛りの無邪気な双子の