乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
突然であるが俺、セスナ・ハウンドロッドには歳の離れた双子の
その気になる年齢差は俺の六つ下であり、弟妹は現在九歳。年齢の近さで言えばお嬢様の方が近い。その双子はこんなパッとしない凡人な俺と本当に兄弟なのか? と疑問に思えてくるほど美少年・美少女であり、ハッキリと言わせてもらえば似ていなかった。
前世では
そして、そんな双子が今、部屋に突撃してきて、俺の胸に遠慮なく飛び込んできていた。
「……は?」
「おっと──」
いきなり部屋の扉を開けたのは驚いたが、飛び込んできた二つの小さな体を俺は難なく受け止める。
どちらかと言えば、俺の関心は双子に対してではなく。ぞんざいな扱いで酷使され続ける部屋の扉であった。……いや、本気で壊れないか心配だよ。
「帰ってきたんだな……セイラ、セイル」
「「うん!!」」
心配半分、呆れ半分でぐりぐりと腹に頭を押し付けてくる双子は嬉しそうに俺を見上げる。
「セナ!誰よそいつら!?」
お嬢様は急に現れた双子を見て困惑したご様子だ。
「弟と妹ですね」
「いや、あなた兄弟なんて──」
まぁ、年が近いとはいえ、これまで周囲の人間に興味関心が皆無であったお嬢様がこの二人の存在を認知していなくても不思議ではない。
──お目通りもまだだしな……。
いきなり「実は双子の弟妹がいました」とか言われても、お嬢様としては今まで屋敷で微塵も見かけたことのない二人の存在を疑問に思っても不思議ではない。
そもそも、意図的にお嬢様とこの双子は距離を取っていたし、屋敷で見かけなかった理由も……これにはまあ色々と理由がある。というのも、実際この双子──セイラとセイルは約一年間、この屋敷にいなかった。
その理由にはハウンドロッド一族の習わしと言うか、慣例と言うか、しきたりと言うか……まあそういうのが関係してくる。
「二人とも、よく無事に「山越え」から帰ってきたな」
「「うんッ!!」」
約一年ぶりに再会した弟妹たちはその幼さからは想像ができないほどに立派になって帰ってきた。
ご存じの通り、俺の一族はアロガンシア家に古くから仕える使用人一族である。そして、公爵家の御用人らに仕えるに俺達──使用人──には求められるものが数多くあった。
例えば、一通りの礼儀作法は勿論のこと、家事雑用にいざと言うときは外敵から仕える主を護らなければならない。なので、実際に屋敷に使用人として従事する前に、とある試験が行われ、これを乗り越えなければアロガンシアの使用人としては認められず、屋敷で働くことはできない。
その古くから一族に伝わる試練と言うのが今俺が言った……通称「山越え」である。
王国の北西、隣国との国境に聳える険しい山〈グランヒル〉の隣国側の麓を出発地点として、そこからゴールとなるこの屋敷に自力で帰ってくることであった。
お察しの通り、この試練はとんでもない。下手すれば普通に死ぬし、到底、まだ年端もいかない子供にやらせるには過酷すぎるその「山越え」を、目の前の無邪気な少年少女は今しがた終えてきたばかりなのである。
──うーん、末恐ろしい。
俺も実際に七歳の時にこの双子と同じように「山越え」をしたが、その時は本当に地獄であった。
試練の場である〈グランヒル〉には狂暴な魔獣が跳梁跋扈することで有名な魔の山であり、その標高の高さもあってほとんどの人が立ち入らないことで有名な山である。そこに、最低限のサバイバル道具と、死ぬ直前まで決して助けてくれない監視役の身内がいる状態で、全くのノーヒントで屋敷に帰ってこいと言うのだから鬼畜の所業である。
だが、今現在屋敷で従事しているすべての使用人がこの試練をクリアしていると言う事実に、俺は前世の知識を思い出したからこそ、この異常性に戦慄していた。
俺の時も本当にギリギリでの試練達成となり、飢えや骨折、精神発狂は当たり前。もはや思い出したくもない黒歴史であった。そんな地獄を幼くして生き抜き、見事生還して見せたこの二人は本当にすごい。
「……いや、本当にすごいよ。おめでとうセラ、セル」
「「ありがとう兄様ッ!!」」
改めて、我が家の異常性を再認識して、無茶ぶりとしか思えない試練を乗り越えた二人に最大の賛辞として、思いっきり頭をなでて褒めていると──
「ずるい!!」
双子の突然の乱入に思考停止して、完全に空気状態だったお嬢様が不満気な声を上げた。
「「???」」
これまた唐突な、何故か不機嫌な彼女の様子に双子は困惑。しかし、俺はすぐに我が主が不機嫌な理由に思い至る。
久方ぶりの家族の再会とは言え、主であり優先するべきお嬢様を蚊帳の外にして感動を喜び合うのは無礼であると。それがプライベート空間が守られるべき自室であろうと、そこに主がいるのならば言い訳にはなりえないのだと。
──ちょっとはしゃぎ過ぎたな……。
「よし、二人とも、一旦シャキッとしようか」
「「えーーー」」
「えーじゃありません。……アリサ様、大変なご無礼を──」
全てを察した俺は直ぐにべったりと甘えてくる双子の姿を正し、お嬢様に謝ろうとするも──
「ズルいわよ! 私だってまだセナにえらいえらいされたことないのに! 急に現れたかと思えば、アンタら二人はセナにいきなりだ、抱き着いて、しかも頭を撫でてもらえて……うーっ、ズルいズルい!!」
「はぁ……?」
どうやら、俺の考えは全くの見当違いであり、年相応に駄々を捏ね始めるお嬢様に放心する。
そんな俺とは正反対に、不思議そうにお嬢様を見つめる双子の言い分としては、
「「じゃあお嬢様も撫でてもらえばぁ?」」
なんともあっけらかんとしたものであり、純粋そのものであった。ともすれば、それは一種の煽り行為であり、無自覚であるからこそ猶の事、質が悪かった。
──違う、そうじゃない。お嬢様の言いたいことはそうじゃないぞ、二人とも。
あらぬ方向に舵を取り始めた場の流れに、俺は嫌な気配を覚える。
「なッ──!!?」
双子に正論(?)パンチをされたお嬢様は何故か「その手があったか!?」と言わんばかりにハッとして目を見開いている。
──違うはず……だよな?
目まぐるしく混沌へともつれ込む場の状況に、誰か説明をしてくれないかと本気で懇願する。
二人が「山越え」から帰ってきたことは分かった。それじゃあ、一緒にお目付け役として同行した一人はどうした? 本来、試練から帰ってきた後はその成果を報告するべく、執事長やアロガンシアの当主の元へと真っ先に行くはずなのだが……。
──もしかしなくてもこの二人、勝手にそれ抜け出してきてない?
そうして、俺が一つの仮説を頭の中で立て終わるのと同時に、もう酷使され過ぎて留め具が悲鳴を上げ始めた扉が、これまた勢いよく開け放たれ一人の執事が入ってくる。
「大事な報告の途中で何を勝手に抜け出しておるか、セラ、セル!!」
その執事は言葉通りに、この双子の試練を見届けた張本人であり、やはり俺の予想は合っていたらしい。
双子は部屋に入ってきた彼を見て、「やべ、バレた」みたいな顔をしていた。……うん、全く反省の色が見えないね。