乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする   作:EAT

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第37話 モブ執事はお礼参りする

「遅い! 私がどれだけ心配したと思っていたか、セナに分かる?」

 

 ひとしきり……本当に好き勝手に泣いて、これまでのストレスを発散したダリアに、今俺は説教されていた。

 

 依然として体にしがみつかれ、妙な息苦しさを覚えながらも流石にこれだけご立腹の状態で「離れてください」というわけにもいかない。

 

「それは……本当に申し訳ないです」

 

 それに彼女の言い分もご最も、俺としても悪い事をしたと思っているので、素直に謝る。

 

 しかし──

 

「あぁ、分からないわよね。だってこれだけ元気なのに、一向に私のところにきてくれないんだもの。どうせ、私の事なんて都合の良い女としか思ってないでしょ……!?」

 

 へそを曲げてしまったダリアは聞く耳を持ってくれない。

 

「いや、そんなことないですって……」

 

「ふんっ……!!」

 

 弁明してみるが状況はさして変わらず、ダリアはこちらを一瞥したかと思えば不機嫌そうにそっぽを向く。

 

「いや、マジですいませんでした……ちょっとどうしてもすぐに来れない理由がありまして──」

 

「どうせその「理由」って言うのも女なんでしょ!?」

 

「いや、違──くはないんですけれども……え?ちょっと待ってください。なんで俺はまるで浮気が発覚したクズ男みたいな責められ方をしてるんですか?」

 

「知らないっ!」

 

 なんだかどんどん厄介な方向に拗ね始めて、非常に……うん、面倒くさい。言葉を重ねれば重ねるほどに墓穴を掘っているような感じがする。

 

 あと、無闇矢鱈と抱きついてくる所為で、色々と柔らかいし、いい匂いするし、あとおっぱいデカいしで俺としてはそっちの方でも大問題であった。

 

 ──耐えろ、耐えるんだ……。

 

 俺だって前世の記憶を思い出して、それなりに精神年齢が落ち着いているとはいえ、今世は普通に思春期真っただ中の青少年なのだ。

 

 普通にこんな惜しげもなくべたべたぐりぐりされれば無視できませんよ。ええ、正直、怒られてる内容もちょっと突飛すぎて全然怒られてる感じがしない。

 

 ──あと、おっぱいがデカい。

 

 これが節度のない狼だったのならば、目の前の魔女は秒で食べられていることだろう。勿論、色々な意味で。

 

 だが、そこはこれまでの厳しい修練の賜物か、俺はそんなやましい気分をおくびにも出さずに彼女に謝罪を続ける。

 

「どうにか機嫌を直してくれませんか? ここに来るのが久しぶりになってしまったのは本当に申し訳なく思ってはいるのですが、本当に色々とあって大変だったんです……」

 

 そうして俺の誠意の謝罪を改めて聞いて、より一層、身体を貼り付けてくるダリアはまだ若干拗ねながらも言葉を紡いだ。

 

「──まぁ……色々あったというのはそうなんでしょうね。「男子、三日会わざれば刮目して見よ」とは言ったものだけれど、これは随分と、厄介なことになってるじゃないセナ」

 

「……わかります?」

 

「わかるわよ。私を誰だと思ってるの、セナの師匠よ?」

 

 どうやら、既にこの師匠には全てお見通しらしい。流石は、黒輝の錬金術師と言ったところか、こういう魔術や悪魔関連の話となると頼れる。

 

 ──もうちょっとちゃんとしてたらかっこよかったんだけどなぁ〜。

 

 現在の状況と彼女の体勢を一切合切無視すればの話であるが。

 

「結局、あの時は途中で魔力が尽きて、使い魔がだめになっちゃったし。すぐに助けに行こうとも思ったけれど、その時にはあなたの他の家族がもう森に出ていたし──途中で見捨てるようなことをしてしまってごめんなさい……」

 

 徐ろに、俺が意識を失った後に起きたことを補完してくれる。

 

 そんなダリアの言葉にはどこか、自分を責めるような、後悔をしてるような感情を孕んでいる。しかし俺にはダリアを責める気なんてさらさらなかった。

 

 ──そもそも、そんな大層なことなんてできるはずがない。

 

 彼女が非を感じる必要なんてないし、反省なんて以ての外だ。それをするべきは寧ろ俺の方なのだから。

 

「謝らないでください、()()。あなたの応急処置がなければ俺は本気で死んでいたかもしれないし本当に感謝しかありません。途中で投げ出したなんて思いませんし、寧ろ、俺なんかの勝手な我儘に付き合ってくれたお陰で、最悪の事態は免れました。本当に、ありがとうございます」

 

 俺は先ほどの拗ねた表情から一転して、俯きどこか影を差すダリアの表情を覗き込み、今回の件のお礼を言う。

 

「ぇ──」

 

 まさかお礼を言われると思っていなかったのか、ダリアは一瞬、ポカンと呆けた顔をすると、すぐに表情を茹蛸のように赤く染め上げた。

 

「えぇ……すきぃ……」

 

「え?」

 

「あ、いや何でもない……」

 

 何やら小声でぼそぼそと言うダリアの言葉が聞き取れずに、聞き返すと彼女は慌てたように頭を振る。

 

 かと思えば、彼女はわざとらしく話題を反らしてくる。

 

「そ、それで! 今日ここに来たのは、その身体に寄生してる汚物(悪魔)の件で間違いないかしら?」

 

 今までのダル絡みポンコツ魔女の姿はどこへやら、まだ熱を帯びながらも表情筋をしっかりと引き締めてダリアは尋ねてくる。そんな彼女の悪魔に対する辛辣な言葉に頷いた。

 

「あ、はい。俺だけだとこの悪魔をどうすることもできなさそうなので、こういったことに詳しい師匠の力を借りたくて……。それと、長い休みができたのでこの前のお礼も含めて何か師匠の手伝いができないかと」

 

「──てか、さりげなく師匠呼びになってるし、これってもうそういうことよね? もうこれは立派な両想いってことよね!?」

 

「師匠?」

 

 俺が訪ねてきた理由を聞いて、更に何故か悶え始める師匠(ダリア)。やはりどこか様子のおかしいダリアに首を傾げていると、不意に彼女は俺から離れて立ち上がった。

 

「な、何でもないわ! それじゃあさっそく、そのクソ悪魔の事を調べましょうか。さっさと私の大事な愛弟子の中から出て行ってもらいましょう。だって、そこは私だけの場所なんだから……」

 

「し、師匠……?」

 

 最後の方は声が小さすぎてよく聞こえなかったが、なんだかとんでもなく怨嗟の込められた雰囲気に俺は背筋にそこはかとない悪寒を感じる。

 

 そんな俺の反応を他所に、ダリアはこちらの手を引いて工房の方へと連れてかれていく。その後ろ姿は、先ほどの拗ねた様子から考えられないほど、異様に上機嫌である。

 

 ──えぇ……なんか怖い……。

 

 そんな彼女の後ろを姿に、俺はやはりどこか恐怖のようなものを覚える。

 

『甘すぎて吐きそ……』

 

 不意に脳裏を過る苦し気な、軽薄な悪魔の声はとりあえず無視した。

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