乙女ゲーのモブ執事に転生してしまったので、今日も俺はわがまま悪役令嬢の無理難題を華麗に攻略してご機嫌取りをする 作:EAT
王都レリニアムで一番の繁華街〈アウレリフ大通り〉は、昼夜問わず多くの人で賑わっている。
すれ違う人の種類も様々、冒険の道具類を調達しに来た冒険者や卸売りの業者、商談帰りの商人に、あとは王都一番の繁華街を観光に来た
その実、百貨店に屋台、露店、王都に古くから根城を構える魔道具店や鍛冶工房の老舗店……ここに来れば大抵のモノが揃うくらいには、この通りには色んな店が存在する。商業区画と比べれば、その賑わいは圧倒的であった。
そんな雑多な喧騒が渦巻く通りをすり抜けて、更に奥へ進むとクリーンで健全な表の繁華街とは反転するかのように、薄汚れた血と紫煙くゆるディープな路地裏通りが待ち構えている。
それこそが、暴力や賭博、殺傷沙汰が日常茶飯事の裏社会……王族や貴族が存在を黙認している闇市場〈アウレリス〉である。
前述したとおり、ここでは非合法な薬物の売買に賭博、暴力沙汰なんてのは日常茶飯事であり、酷いときではこのアウレリスを牛耳っている四つの
……正直、俺だって自分がこんな物騒な場所に、こうして呆気なく足を踏み入れるなんて夢にも思わなかった。だって、普通に怖いじゃん。
後、衛生的にも終わっているので疫病の心配もある。井戸水とか汚すぎて飲めたもんじゃない。一滴でも飲み込めば即腹を下すとか怖すぎる。百害あって一利なしなのだ。
一応、ゲームではこのアウレリスの存在はダリアのシナリオでしか描写がされず、その内容もかなりふんわりと曖昧なものとなっている。なので、実際の裏社会の
だがしかし、そんな状況でありながらも俺は目の前で広がる光景はハッキリと覚えていた。
「さぁ! 三年ぶりにこの季節がやってきたぜッ! テメェら、死ぬ準備はできてるかァ!?」
「「「うぉおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」
陰湿な空気を熱気で塗りつぶす
「最高だぜオーディエンスッ! その調子で狂ったように今日も盛り上げろ!!」
「イドルデちゃぁああああああああああああんッ!!」
「結婚してくれぇぇええええええええええええッ!!」
「俺がここでこさえた借金なんとかなりませんかぁああああッ!!?」
眼下に広がる殺風景な戦闘地帯に、堂々と仁王立ちした女性の声が響き、それに反射して嵐のような歓声が沸き上がる。
繁華街の表の顔であるアウレリフの喧騒にも勝るとも劣らない、大勢の人と喧騒がそこには満ち満ちていた。
「……」
何せ、これから俺は血生臭くて、物騒な殴り合いに興じなければいけないわけで──いや、別にそれ自体はどうでもよかった。だってダリアからのお願いを叶えるのは、俺にできる唯一の事なのだ。
──本当にゲームのまんまだな……。
今一度、自分が今立っている場所を思うと感慨深い。
地下闘技場〈ファイトナイト〉
それはアウレリスにひっそりと聳える草臥れた酒場、その地下に存在し、日夜多くの死闘と法外な裏賭博が繰り広げられいる無法地帯。
そこが、ダリアの百合ルートで一番最初に繰り広げられるシナリオのメインステージであった。
「今回の大会のメインスポンサーはななな、なんと! あの数年に一度のオークション「大博覧会」を運営する
「「「うぉおおおおおおおおおおおお」」」
ご丁寧な司会の女性の煽り文句に観客はこれまた劈くような雄たけびを上げる。
ここで、今回の彼女のお願いの本命である闇オークション「大博覧会」の参加権利を手に入れなければいけないわけで……つまり、俺に求められるのはこの大会の優勝と言うわけだ。
場のボルテージはまだメインの試合が始まってすらいないのに絶頂寸前だ。てかうるさい。耳がキンキンして不快だ。
「最高の
司会の女の合図で鉄格子で締め切られていた四方のゲートが開く。
そこから雪崩の如く、ハゲ、モヒカン、モヒカン、ハゲ……個性豊かな大会の参加者が戦闘地帯に入場する。次から次へと、整列していたのに順番など無視して、待機場から我先にと戦闘地帯に駆け込む大会参加者らを一瞥して、俺も今まさに血と汗の臭いが充満する脂ぎった鉄火場に身をやつそうとしていた。
「出番よ
「──イエス、マイ・マム……」
何故か、クソダサい仮面をつけて素性を隠しながら。
その様はまさに某パンツを被った変態仮面のような……というかもうほぼそれであった。これを身に着けている理由は、観客席の一番近い席で激励を送ってくる女性が全ての元凶であり、何故か悪趣味なマスクの着用を強制してきたファッションセンスが皆無な錬金術師殿であった。
彼女も何故か俺と色違いのマスクを堂々と身に着けており、その素顔は隠されているが爛々と興奮に輝く瞳は隠しきれない。
──これは、完全に楽しんでいるな……。
そんな彼女の機嫌は最高潮。俺は変な方向にスイッチが入ってしまった師匠に呆然としながら戦闘地帯へと赴く。
その最中で、自身の脳裏に過る
「なんなんだこの気の狂った展開は……!!」
そう、別に俺はこの大会に参加すること自体に何ら反論はない。そもそも、そんなこと言える立場でもないし、本当に、どうでもいいのだ。ではなぜ、この場にいる俺の心境は複雑かというと全てはその格好にあった。
だって、誰がこんな気の狂った変装をさせられると予想できるだろうか?
『くく……よく似合ってるよ、ご主人……』
「黙れクソ悪魔……」
殺気立つ周囲とは裏腹に俺の気分は盛り下がる一方であった。